企業のいま

地道に、諦めず。それこそがDX実現の秘訣。 日立が進める「データの民主化」、3年間に及ぶ挑戦の軌跡

ITの専門家まかせではなく、個々のメンバーがデータを活用し、より適切な行動がとれる組織を実現する。この「データの民主化」実現への思いが、日本を代表する巨大企業グループにおけるデータ活用を大きく変えようとしている。

2021年5月21日(金)~5月23日(日)にオンライン開催される「Climbers2021(クライマーズ)」は、様々な壁を乗り越えてきた各界トップランナーによる、人生の特別講義を提供するイベントだ。Climbers(=挑戦者)は、何を目指し、何を糧にいくつもの壁に挑戦し続けることができたのか。このイベントでは、特別講義を通じて、彼らを突き動かすマインドや感情を探り、進み続ける力を本質から思考する。

今回からの新たな試みとして、Day1では一般企業人による「乗り越える」エピソードを紹介する。登壇者の近藤正勝も、巨大企業グループにおける「データの民主化」という壁に挑んだClimberだ。

わずか3名での手探りの挑戦が始まった

近藤は、子どもの頃から好奇心が強かった。未知のものに出会うとすごくワクワクする。幼少期より10歳上の兄のパソコンに興味をかき立てられ、勝手に触ると怒られるので兄の外出中にこっそり操作していた。

誰もが知っている会社でものづくりに携わりたいと思い、日立製作所に入社。幅広い分野の仕事があること、プログラムやコンピュータ関連の仕事ができることも魅力だった。入社後、パソコン関連の事業所のIT部門に配属。その後、別の事業所のIT部門を経て、2017年4月に新しくできたデジタルイノベーション部へと異動した。

デジタルイノベーション部の目的は、新しいIT技術を活用して様々な変革を起こすこと。DX推進の役割を担っているが、2017年当時としては、世間の動きに先行した部署だった。部署の人数は総勢10名、近藤のチームは3名でのスタートとなる。発足したての部署のため、成果や収益の柱が求められていた。

近藤のチームは、まず実績をつくるため、建設機械を扱うグループ会社の営業データ分析という案件に取り掛かった。社内に蓄積された膨大なデータをもとに、現場の営業担当者のニーズや重要視しているポイントを探り、データから解る情報をすり合わせ、紆余曲折を経て1年かけて「購入意欲の高い顧客リスト」を生成するAIの予測モデルを作成した。このモデルがつくるリストはグループ会社の全国28支店で活用され、結果的にグループ会社の社内表彰で社長賞を獲得するほどの成果をあげた。

また、この案件と並行して始めたのが、「誰もがデータを簡単に活用することのできるプラットフォーム」の構築だった。

「社内の他部門から私たちIT部門にデータの集計や分析を依頼されるたびに、その部門の人たち自身で実施したほうが、もっとスピーディーに欲しい結果が手に入るのにと思っていました。ITの専門知識やスキルのない人でもデータを扱えるようになれば、自分たちで全体の状況を俯瞰し、より客観的で適切な行動を取れるようになる。そうした『データの民主化』を実現したいと考えました」と近藤はふり返る。

他人や他部署に頼らなくても、自分たちにとって必要なデータ活用が素早く適切におこなえるようになる。個々のメンバーがデータに基づいて自律的に考え、自ら進化する組織へと変わっていくことができる。それに加えて、この「データ活用プラットフォーム」を社内やグループ会社に提供することで、安定的な収益が得られるという目論見もあった。

プラットフォーム構築を進めたカギは「社内営業」

「データ活用プラットフォーム」構築のための具体的な活動としては、実現のためのツールを評価・選定し、社内のプライベートクラウドでそれらのツールを運用する環境を整備。さらにその活用を推進することだった。2017年夏頃から多数のツールの検証をおこない、導入すべきツールを絞り込んだ。最重要視したのは「誰でも簡単に使えるもの」であること。

情報収集に使える時間が限られているなか、近藤の大きな助けとなったのが、ストックマークが提供するナレッジシェア推進サービス「Anews」だった。「Anews」は自然言語処理を活用し、日々生じる膨大な情報やニュースから、自分の閲覧傾向・嗜好に合わせたものだけを選び、届けてくれるサービスだ。

「それまでは自分でネットから情報を収集していましたが、Anewsを使い始めてからは、欲しい記事を自動的にピックアップしてくれるので非常に助かりました。また、トレンドの変化をキャッチアップするために一生懸命セミナーに参加していましたが、欲しい情報が即座に集められるようになってからはそれも不要になり、メンバーへの情報共有も随分と楽になりました」と近藤は話す。

しかし、ツール選定は順調に進んだものの、実現には大きな課題があった。新設部門のため予算が限られているのである。そこで、近藤がとった策が「社内でスポンサーを募ること」である。各ツールの検証結果や特徴、収集した関連トレンドやニュースなどをわかりやすくまとめ関係各所に配信し、興味を持ってくれた部署から予算を募るという社内の営業活動を始めた。

営業部門のニーズを探るために熱心にコミュニケーションを図った。過去の経験が、いずれ今の仕事に活きてくる。

「先に始めた営業データ分析の日々で培った経験が無ければ思いつかなかったことですね。IT部門の経験だけでは、うまくできなかったと思います。営業部門と密に接した経験があったからこそ、プロのスキルを間近で見て得たものが大きかったのだと思います」

追求した使いやすさは大きく花開いた

こうして、2019年3月までにデータ分析を目的とした機械学習の自動化プラットフォーム、BIツール、ユーザー自身による手軽なデータ加工を実現するデータ・プレパレーションツール、データを蓄積するDWH(データウェアハウス)が導入され、データ活用環境の構築も一通り完了し、このプラットフォームは「Visual Analytics Platform」と名付けられた。

社内にプラットフォームをリリースした当初は、活用できるか不安視する声も挙がったという。

「初めのうちは及び腰の人が多かったのですが、操作方法をレクチャーするとすぐに使ってもらえるようになり、『データの集計も分析も意外と簡単にできるね』という反応が返ってくるようになりました。誰でも簡単に使えることを基準に構築したので、この反応は手ごたえを感じましたね。従来IT部門に依頼していた手間を削減でき、より現場の感覚を反映したデータの可視化・分析がおこなえることから、『自分たちでやった方がいい』という社内意識の変化が生じています。現在は、IT部門がサポートに入りつつ、実際のデータ活用は各部門にお任せするというスタンスで進めています」

「Visual Analytics Platform」は様々な部門で活用され、今では社内の情報の可視化と共有を実現している。また、従来は手作業で膨大な時間をかけExcelなどで集計していた作業を自動化し、時間や手間などを大幅に削減し、浮いたリソースをより生産的でクリエイティブな作業に振り替えることを可能にする。さらに、DWHやBIツール、データ・プレパレーションツールを包括的に提供することで、ユーザー自身が、本プラットフォーム上でデータを蓄積・可視化するシステムを構築することが可能となり、データの民主化だけでなく、開発の民主化も並行して進んでいる。

近藤が2017年から取り組んだ試みが、大きく花開いた形だ。

「諦めたらそこで終わり」 強い意志が結果をもたらした

「Visual Analytics Platform」は、社内だけでなく、グループ各社から活用したいという問い合わせが多数寄せられており、現在、日立グループ内でのべ30,000ユーザーが利用し、安定した収益を生み出しはじめている。

「2017年に種を蒔き、2019年に芽が出て、2020年から花が咲き始めました。ITの専門家まかせではなく、一般ユーザーが自らデータを活用する『データの民主化』への流れはもう止まらないでしょう。ただ、我々のチームのリソースは限られているので、組織横断的にBIの活用を支援するBICC(Business Intelligence Competency Center)とデータ分析の支援や代行をおこなうACE(Analytics Center of Excellence)を活動の中心に据え、引き続き『データの民主化』を加速していきます」と今後の構想を語った。

近藤を動かす原動力とは何なのだろうか?

「自分は飽きっぽいのですが、やり始めた以上はやり遂げたいという気持ちが強くあります。また、諦めたらそこで終わりだと思っています。自分は昔から人から指示された通りに仕事をするのが嫌いで、常に別のやり方を考え、いかに楽しんでやるかを大事にしてきました。人は楽しむことで、より高いパフォーマンスを発揮できるのではないでしょうか。なにか困難にぶつかっても、諦めずに時間をかけて頑張れば、いつか報われる時が来ると信じています」

「あきらめたらそこで試合終了ですよ」有名漫画のこのセリフに何度も励まされた。

近藤の「Climbers2021(クライマーズ)」での講演タイトルは「石の上にも3年、DXにも3年」である。諦めずに地道な努力を続け、日立グループという日本を代表する巨大組織に「データの民主化」という風穴を開けた。近藤の挑戦の日々を、ぜひ本人の口から聞きたい。

「Climbers 2021 (クライマーズ)」
日時:2021年5月21日(金)~5月23日(日)
   ※5月31日(月)18:00までアーカイブ配信中
開催形式:オンライン配信
参加費用:無料
内容:ブレイクスルーを実現した30人による人生の特別講義
https://2021online.climbers-evt.com/