企業のいま

今の日本企業に「健全な破壊者」が必要である理由━━友廣啓爾はなぜマーケティングエキスパートを目指したのか

複数の大手IT企業でマーケターとして手腕を発揮してきた友廣啓爾。そのキャリアは一見華やかにも見えるが、常に成果を求められる中で、精神的に追い込まれ、実際に解雇を経験したこともあるという。つらい経験をしてもなおマーケティングの本質を追求することにこだわり、壁を乗り越えてきた彼を突き動かした思いは何だったのだろうか。

2021年5月21日(金)~5月23日(日)にオンライン開催される「Climbers2021(クライマーズ)」は、様々な壁を乗り越えてきた各界トップランナーによる、人生の特別講義を提供するイベントだ。Climbers(=挑戦者)は、何を目指し、何を糧にいくつもの壁に挑戦し続けることができたのか。このイベントでは、特別講義を通じて、彼らを突き動かすマインドや感情を探り、進み続ける力を本質から思考する。

今回からの新たな試みとして、Day1では一般企業人による「乗り越える」エピソードを紹介する。

日本HP、SAPジャパン、日本マイクロソフトといった数々の外資系IT企業で、B to Bマーケティングを手がけ、現在は富士通のグローバルマーケティング本部において、マーケターとしての手腕を振るう友廣啓爾。彼は、マーケティングによって、企業のビジネスの形、そして組織のあり方を変えていくことに、現在進行形で挑んでいるClimberだ。

富士通での仕事を選んだ理由を尋ねると「これまでは、主に外資系企業の中でB to Bマーケティングの仕組みを作っていくことに携わってきたのですが、次は、自分がこれまで外資系企業で経験したことや、見てきたことを、何らかの形で日本企業に落とし込んでいくことができたら面白いなと思ったのです」と言う。

彼がこれまでに勤めてきた名だたる企業を見ると、多くの人は「マーケターとして順調なキャリアを歩んでいる」と思うかもしれない。しかし、ここまでの道のりは「決して平たんなものではなかった」と友廣は振り返る。社会の状況や組織の理不尽に翻弄されながらも、マーケティングのエキスパートとして彼が壁に挑み続ける背景には、何があったのだろうか。

子ども時代の経験から「逆境へ立ち向かう方法」を学んだ

友廣が生まれたのは1972年。日本は第2次ベビーブームであり、世代的には、いわゆる「団塊ジュニア」にあたる。さらに、大学卒業を待たずにバブル崩壊によって世の中の景気は急激に悪化。同世代の新卒があふれる中で、志望企業への就職もままならなかった就職氷河期世代でもある。

「新卒での就職活動は、マンガの編集者が第一志望でした。当時はまだ、ITやマーケティングに何の関心もありませんでしたね」

マンガ編集者を志したのには理由があった。友廣は、物心がつきはじめたころから、文字だけの本を読むのが極端に苦手な子どもだった。

子ども時代を振り返る友廣。

「長い文章を読んで意味を理解することが、どうしてもできなかったんです。もちろん、本を読んでの勉強なんてできない。親も困り果てていたのですが、あるとき、絵とセリフで構成されたマンガであれば、すぐに意味が分かることに気付きました。それからは、文字に慣れるためにも、ひたすらマンガを読むようになりましたね。次第に、マンガのようなコンテンツを作る仕事をしたいと思うようになっていました」

今になって、その頃の状況を振り返ると「ディスレクシア」の特長が多く見られる子どもだったと友廣は言う。ディスレクシアは「失読症」とも呼ばれ、知的能力や一般的な理解能力には問題がないにも関わらず、文字の読み書きに限って、極度の困難が生じる障害である。当時は社会的に、その疾患が広く認知されておらず、単なる勉強嫌いや怠けと受け取られてしまうなど、周囲の大人の目も厳しかった。

ある程度成長すると、自分が他の人たちと比べて、文章読解が苦手で時間がかかるということを客観的に認識できるようになっていた。それからは、自分なりに工夫をし、意識的に多くの本を読み続けるといった方法で、ハンディキャップを埋める努力をしてきたという。しかし結果として、第一志望であった出版社への就職はかなわなかった。

「受験でも就職でも、ライバルが多い世代だったことはありますが、同じ土俵で挑んでいてはライバルたちには勝てない。これからは自分の強みの伸ばし方を模索しなければいけないと考えるようになりました。これが、逆境に置かれてもなにかできることはないか、生き残るすべはないかと思考するようになった出発点だったと思います。」

ビジネスの仕組みを作るマーケティングに魅せられる

出版社への就職がかなわなかった友廣は、大手印刷会社に入社。しかし、希望していたクリエイティブ職には配属されず、2年ほどで転職する。転職先は、ベンチャーとして急成長を遂げていたあるIT系の出版社だった。そこでは、メイン事業である出版のほか、IT企業のセールスプロモーションや、外資系企業が日本に進出する際のマーケティング支援なども手がけていた。この出版社で友廣は、その後のキャリアをかける仕事となるマーケティングに出会う。

既にある枠組みの中で与えられた仕事をこなすのではなく、自分で仕事を作りながら成果を出すことを求められるベンチャー企業での仕事は、友廣の性格に合っていた。世界的にIT市場が急拡大した時期とも重なり、手がける仕事の規模も、成功で得られる成果も大きくなっていった。その中で、多くの企業のマーケティングを仕事として支援する経験を積むうち、徐々にマーケティングそのものに対して、面白さを感じるようになったという。

頭のなかでストーリーを描き、実行する。マーケティングの面白さに夢中になった。

「それまでは、クリエイティブな仕事というと、モノとしてのコンテンツを作ることだと思っていました。しかし、様々な企業を支援しているうちに、マーケティングも企業のビジネスの仕組みを作っていく、クリエイティブで魅力的な仕事だと思うようになりました。そこからだんだんと、この仕事を極めてみたいと思うようになりました」

その頃、インターネットをはじめとする新たなデジタル技術が広がり、その普及に合わせてマーケティングの姿も急速に変化をはじめた。当時はデジタルマーケティングの萌芽期でもあった。その変革を目の当たりにして、友廣にも心境の変化が生まれ始める。

「だんだんと、支援としての立場ではなく、事業会社の中で成果にも責任を持つ形で、自分で一からプランニングしてマーケティングにチャレンジしたいという気持ちが強くなってきました。そこで、8年勤めた出版社を辞め、外資のITベンダーにマーケターとして飛び込むことを決意します」

苦難の日々の中で貫いたマーケティングへの思い

ここから華々しいキャリアがスタートするかと思いきや、友廣にとっては本格的な苦難の日々が始まることになる。成果主義が徹底された外資系企業で、常に結果を出すことを求められ、時には実際に解雇されるといった処遇も受ける。

友廣が富士通へ入社したのは約1年前。グローバルマーケティング本部で、新たなビジネスの仕組みづくりに取り組んでいる。「今回は日本企業なので、外資系ほど英語を使わなくていいと思っていたのですが、部門名どおりのグローバルな組織なので、実際には、今までの会社の中で一番たくさん英語を使っています。あと、今までのどの会社よりも、たくさん働いていますね」と冗談めかして笑う。

キャリアを通じて培ってきたマーケティングへの強い思いは今も健在だ。

「立場的に、転職希望者の面談をする機会などもあるのですが『あなたは、これまでマーケティングについて、どんなことをしてきましたか?』という質問に、『1万件のリードに対してメールを配信していました』とか『数千人規模でのイベントを企画し、成功させました』といった答えを聞くと、少しがっかりしてしまいます。それらは小手先の手法の話でしかないんですね。マーケティングの本質は、企業のビジネスに資するために、どのような戦略をとるべきか、その戦略を実現するために、どのような仕組みが必要かを考えること。もし、そのために足りない要素があれば、上司を説得して会社を動かし、予算を取って、必要な組織を作るところまでやる。それが、本当の意味でのマーケティングの仕事だと思っています」

いまだ多くの日本企業では、マーケターが「イベント担当」や「リードの名簿作成係」と捉えられがちだ。その傾向に対し、友廣は「マーケティングが、企業にとってレベニューエンジンを作っていく仕事であるということを、もっと理解してもらいたい」と懸念を示す。

企業、個人、双方のなかでマーケティングという職への理解を深めたいと話す。

しかし、組織の変革には大きなエネルギーが必要になる。同僚、上司、時には経営層までを巻き込みながら、既存の仕組みや意識を変えていくという取り組みは、時に強い抵抗や反発を生む。現状を変えていきたいマーケターにとって、現在も急速に進化を続けているデジタルマーケティングツールは、大きな味方になるという。友廣は、その一部として、ユーザベースが開発する経済情報プラットフォーム「SPEEDA」や、B to Bマーケティングプラットフォーム「FORCAS」を活用しているそうだ。

「今、デジタルマーケティングのためのツールは市場に多く出ていますが、そのほとんどは、基本的に『マーケティング部が使うもの』だと見られています。例えばセールス部門の人たちからすると、自分たちには関係ないものだと思われがちです。SPEEDAやFORCASを試してみて素晴らしいと感じたのは、ツールが提示する情報が、セールスの担当者にも、すぐに価値があるものだと分かってもらえる点でした。彼ら自身も、日々の営業活動の中で何となく感じている暗黙知のようなものを、きちんと可視化してくれます。そこからさらに、これまで気付かなかったような新たな知見も生まれます。少し、センスのある担当者であれば『これをセールスでも使いたい』と言ってくる。こうしたツールを共有できると、マーケティングとセールスの距離が縮まりますし、新しい仕組みや組織を作っていく上での障害も減らせるのではないかと期待しています」

組織の変革に必要な「健全な破壊者」へのエール

「若い頃から、周囲に『生き急いでいる』と言われることは多かったですね。自分でも、少しのんびりしたいとは思ってはいるのですが、それでも常に前に進んでいないと落ち着かない。止まっていると、足もとが崩れていくような気がして、不安になってしまうのです」と言う友廣。しかし、そうして苦しみながらも前に進み、築いてきたキャリアは、マーケティングのエキスパートとして、企業の中で新たな仕組みを作り上げていくために有効な武器のひとつになっている。

友廣は自らについて、組織を変える「健全な破壊者」でありたいとする。そして、その「健全な破壊者」としての資質は、今後労働者人口が減り、これまで以上にデジタルを活用した生産性の向上や価値の創出が求められる日本において、多くのビジネスマンに求められるものになるのではないかという。

「均質な労働力が安定して供給されることを前提に発展してきた日本企業の終身雇用制度は既に破綻してしまいました。働く側にとっても、これまでと同じ枠組みの中で、与えられた仕事だけをこなすという働き方は大きなリスクになるでしょう。そうした組織や仕事のあり方を変えていかなければ、企業は将来的に生き残れません。これからの組織には、変化を求める声を上げ、自ら実行する『健全な破壊者』が必要です。自分としては、これまでの経験を通じて、そうした人間であり続けたいと思うし、これからそうなりたいと望む人を、全力で応援したいと思うのです」

強い意志で様々な壁を乗り越えてきた。その経験を今度は誰かのために役立てたい。

困難な状況にあっても、チャレンジを成功させるカギは「最終的には、そのプロジェクトをやりきろうとする強い意思なのではないかと思います」と友廣は言った。彼が、マーケターとして直面した数々の困難を、どのような意思と行動で乗り越えることができたのか。「Climbers」の講演で知ってほしい。

「Climbers 2021 (クライマーズ)」
日時:2021年5月21日(金)~5月23日(日)
   ※5月31日(月)18:00までアーカイブ配信中
開催形式:オンライン配信
参加費用:無料
内容:ブレイクスルーを実現した30人による人生の特別講義
https://2021online.climbers-evt.com/