企業のいま

「自分たちが使いたいシステムを自分たちで作る」プログラム未経験の人事部が挑んだデジタル改革とは

大和ハウス工業 人事部 相川光一郎が理想として描いていたのは、「業務を一番よく知る現場の人間が、自分たちの使いたいシステムを自分たちの手で作っていける環境」の実現だった。ITの専門スキルを持たない人事部のメンバーを指揮し現場主導のデジタル業務改革を実現するために彼が選んだ方法とは?仲間を信じて取り組んだ企業人の挑戦を辿る。

2021年5月21日(金)~5月23日(日)にオンライン開催される「Climbers2021(クライマーズ)」は、様々な壁を乗り越えてきた各界トップランナーによる、人生の特別講義を提供するイベントだ。Climbers(=挑戦者)は、何を目指し、何を糧にいくつもの壁に挑戦し続けることができたのか。このイベントでは、特別講義を通じて、彼らを突き動かすマインドや感情を探り、進み続ける力を本質から思考する。

今回からの新たな試みとして、Day1では一般企業人による「乗り越える」エピソードを紹介する。

社会のあり方が目まぐるしく変わり続ける中で、企業が高い競争力を持ち続けるためには、そのスピードに追従して自らも変化していくことが求められる。しかし、この「変化」は、組織にとって必ずしも簡単なことではない。長い年月を経て築き上げられてきた組織であればあるほど変化が難しく、変えていくべきだと認識していても様々な障壁が邪魔をする。これは、ことの是非とは関係なく、組織の宿命と言っていい課題だ。

この課題に、前例にこだわらない姿勢で取り組み組織に変化を起こしたClimberが、相川光一郎である。

SEとしてのキャリアの中から見つけ出した「自分のやりたいこと」

1955年に創業し、65年以上にわたって日本人の「住環境」の充実に尽力してきた大和ハウス工業。相川は、その経営管理本部で人事部シェアードサービスセンターのセンター長を務める。

同社への入社は2008年。それまでは、システムインテグレーター(SIer)企業でシステムエンジニアとして、ユーザーが利用するシステムの構築に携わってきた。自分たちが関わったシステムが、新たなビジネスを生み出したり人々の生活に良い変化を生み出したりする。システムエンジニアという仕事に少なからずやりがいも感じていた。そんな相川に、ちょっとした心境の変化が訪れた。

「ユーザーがやりたいことを実現するためのシステム構築に多く関わるなかで、少しずつ、その『やりたいこと』を、自分で考えてみたいと思うようになってきたのです」

相川は、自らが「何をやりたいか」を考え出すユーザー側の立場になることで、システムによるビジネスや業務の変革を、より自分が思い描く理想的な姿に近づけたいと思うようになっていた。

そんな折り、ちょうどシステム構築のスキルを持った人財を求めていた大和ハウス工業と出会い、同社に転職を決める。入社後は、グループ会社で情報システムを担当。その1年半後、本社の情報システム部門に所属することになる。本社では、主に人事システムの構築とグループ会社への展開、運用に関わった。

現在、人事部シェアードサービスセンターでは、約30社に上るグループ企業の人事給与業務を一手に請け負っている。大和ハウスグループのさらなる発展を視野に入れた時、ITによる業務の標準化、効率化は必須だった。その実現にあたっては、情報システム部門だけでなく、現場業務により近いところにシステムを深く理解している人財がいたほうが効果的だ。

相川は、2016年、人事部シェアードサービスセンターに配属となる。

「会社で働く以上、社員一人ひとりが世界で一番働きがいがあり、誇りを持てる会社になることを目指したいですよね。働く人が誇れるような会社を作り上げていく上で、人財の採用や人が育つ風土や環境を作るための人事施策の立案や職場環境構築などを手がける人事部門の役割は非常に大きいと思います。一方で、やらなければならない業務は細かく多岐にわたっていて、それに手間をかけすぎてしまうと本来やるべき仕事に割けるリソースはどんどん減ってしまう。そうした問題をシステムの力で改善していくことをやってみたいと思っていました」

オンラインでおこなわれた取材。一言一言真摯に語る相川の姿が印象的だった。

「使いたいものを自分たちで作る」が変化に適応するための最善策

システムを利用した業務改善を検討するうえで、相川が最初におこなったのは部員に対してのヒアリングだった。優先的に着手すべき課題を洗い出していくなかで見えてきたのは「紙の書類が必須の業務が多く残っていること」、そして「現状のシステムは制約が多く、やりたいことがあっても、新たな開発に時間がかかってしまうこと」だった。

多くの企業では、システムは情報システム部門がSIerに頼んで作ってもらうもの、現場は与えられたシステムの使い方を覚えて仕事をするものという考え方が、まだ多勢を占めている。ユーザー側で要求を定義し、SIerが数カ月から大規模な場合には年単位での時間をかけてシステムを完成させるプロセスを辿る。

しかし、そうしたシステムの作り方は、変化のスピードが加速し続ける世の中の状況に合わないものになりつつある。完成するころには、ビジネス環境の変化によってユーザーがやりたいことも変わってしまっており、場合によってはせっかく作ったシステムが意味のないものになっていることさえある。

「自分自身、SIerのエンジニア、企業の情報システム部門、ユーザー部門とさまざまな立場を経験してきましたが、その中で『本当にユーザーが使いたいもの』をタイムリーに作り上げることの難しさを痛感していました。これを解決するためには、自分たちの使いたいものを自分たちの手で作ってしまえるような環境を作るべきなのではないか。それを実現するためにどうすればいいのかを考えるようになっていました」

本当の意味で「現場が使えるツール」を求めて

相川は、その環境を実現する方法を模索した。カギとなるのは「プログラミングのスキルを持たない社員でも使いこなせるITツール」の導入だと考えた。

近年、現場の業務を効率化するためのツールとして「RPA(Robotic Process Automation)」が注目されている。RPAでは、作業者がコンピュータ上でおこなう操作や作業手順をプログラム化し、ソフトウェアであるロボットに代行させることで、業務の自動化や標準化を進めていく。相川も、早い時期から国内ベンダーが開発した著名なRPAツールを導入し、人事部員自らが現場レベルでの業務改善を推進しようと試みた。しかし、結果的にこのプロジェクト で相川は挫折を味わうこととなる。

「RPAツールの多くは、エンドユーザーレベルで簡単に使いこなせて、現場での業務改善を推進できることを謳っていました。我々も研修なども実施しながらそうした状況を作っていこうとしたのですが、結果として、現場に根付く段階に至りませんでした。いくら『簡単にできる』と言ったところで、プログラミングもやったことがない人にとっては難しかった。必要なのは、まったくの初心者でも現場の業務に対する理解さえあれば使いこなせるようなツールだったのです」

相川はその後も情報収集を続け、自分たちの使いたいシステムを自分たちの手で作り上げられるツールを探し求めた。また、この経験から自身のマネジメントスタイルを大きく変えた。それまでおこなっていた相川自身が中心に立ち指揮を執るスタイルから、メンバーの自主性に任せるスタイルに大きく舵を切り、それぞれが力を最大限発揮することでより多くの業務改善を目指す形に踏み切ったのだ。

この変化が大きな契機となり、人事部メンバーそれぞれが積極的に業務改善に取り組むようになってきたころ、相川に運命的な出会いが訪れた。2019年秋、ドリーム・アーツが提供するWebデータベース「SmartDB」との出会いである。

SmartDBは業務のデジタル化を実現するプラットフォームで、過去に利用したツールと同様「簡単に作れる」を謳っていたが、これまでの経験から相川は当初懸念を抱いていた。しかし、そんな不安を吹き飛ばす印象的な出来事があった。実際にSmartDBに初めて触れたチームメンバーが、非常に楽しそうな顔をしていたことだと言う。

「本契約をおこなう前に、実際にツールに触ったメンバーから感想を聞いたところ、非常にポジティブなフィードバックがありました。単に『使いやすそう』というイメージだけではなく、その段階で、実際に自分たちでいくつかのアプリケーションも作れていました。なにより、みんなが本当に楽しそうにやっていたんですよね。これならば、今度こそうまくいくのではないかという感触がありました」

2020年9月、同社は本格的に人事業務のシステム化プロジェクトに着手した。

周囲のモチベーションに火をつけて大きな変化を巻き起こす

開始から約半年が経過した今、プロジェクトに対する相川の評価は「十分に『成功』と言っていい」というものだ。

2021年1月末には、人事部のメンバーがSmartDBで作ったアプリケーションの運用がスタート。それ以降は、相川自身が直接プロジェクトで指揮を執る機会は減ったが、2カ月後の3月末時点で、既に10以上の業務がシステム化されているという。

「今は、人事部の10名ほどが中心になって、業務の標準化とシステム化を進めています。自分たちに必要なアプリケーションが、すぐに目に見える形で表示され、動く。そして、業務改善に役立っていることを実感できるという部分に大きな達成感を感じているようです」

このプロジェクトは、コロナ禍、オフィス出社を前提とした旧来の業務の変革が求められるなかで進められてきた。人事部は、自分たちの関わる採用や職場環境の構築といった業務を環境に合わせて最適化するという強い目的意識とスピード感を持ってシステム化に取り組んできた。その結果、相川がイメージしていた「ユーザーが自分たちの使いたいものを、自分たちの手で作っていける環境」が、既に実現しつつある。

相川は、「例えば、これまで毎年4月には800人近くの新入社員から集めた団体保険の加入同意書を、すべて紙にプリントアウトして、1枚ずつ印鑑を押すという作業をやっていました。今回のプロジェクトで作ったSmartDBのアプリケーションのおかげで、今年からそれが必要なくなったのが、私個人としては、何よりもありがたいです」と笑う。

現場には「自分たちでシステムを作り、思うように業務を改善していって良いのだ」という意識も芽生え始めているという。相川が、これまで思い描きながらもさまざまな理由で実現できずにいた「現場主導のデジタル業務改革」が、今まさに軌道に乗り、本格的に走り出そうとしている。

ここに至るまでの相川の思いや、数カ月間でこの環境を作り上げた具体的な方法については、5月21日(金)の「Climbers 2021」において語られる。

相川の座右の銘は、「能力の差は5倍、意識の差は100倍」である。どうすればチームのモチベーションを高め能力を最大限発揮できるのか、常に思考を巡らせている。

組織の変化には、大きなエネルギーがいる。相川ひとりの力では、その変化は起こせなかったかもしれない。しかし、相川は周囲のモチベーションに火を着けることで、個々の思いの爆発を誘い、変革につながる膨大なエネルギーを生みだした。その手法と、導火線となった相川の熱い思いを学ぼう。

「Climbers 2021 (クライマーズ)」
日時:2021年5月21日(金)~5月23日(日)
   ※5月31日(月)18:00までアーカイブ配信中
開催形式:オンライン配信
参加費用:無料
内容:ブレイクスルーを実現した30人による人生の特別講義
https://2021online.climbers-evt.com/