企業のいま

右も左もわからない状況からの怒涛の日々の軌跡━━創業100周年を迎えた老舗企業のDXはこうして幕を開けた

個人のがんばりだけに頼るのではなく、もっと効率的に成果を上げる仕組みをつくれないか?会社をより良くしたい一心で書き上げた提案書が本社の目にとまり、DX推進グループに異動した。いきなり任されたのは新しいB to B専用ビジネスプラットフォームの構築、コロナ禍で一日も早く実装する必要がある。十分な知識や経験がないなか、名古屋の老舗企業、リンナイのDXに挑むひとりの企業人は、どのようにしてその壁を乗り越えたのだろうか?

2021年5月21日(金)~5月23日(日)にオンライン開催される「Climbers2021(クライマーズ)」は、様々な壁を乗り越えてきた各界トップランナーによる、人生の特別講義を提供するイベントだ。Climbers(=挑戦者)は、何を目指し、何を糧にいくつもの壁に挑戦し続けることができたのか。このイベントでは、特別講義を通じて、彼らを突き動かすマインドや感情を探り、進み続ける力を本質から思考する。

今回からの新たな試みとして、Day1では一般企業人による「乗り越える」エピソードを紹介する。登壇者の一人、 「老舗企業にデジタル改革を巻き起こす」加賀将之もまた、立ちはだかる壁に挑み続けるClimber(=挑戦者)だ。

もっと効率的に成果を上げるための仕組みを考え続けた

加賀は中学生の頃から教師になることを目指していた。しかし、就職活動時に選んだのは教師の道ではなく、一般企業への就職だった。企業選択の条件は、できるだけ生活に身近な商品を扱っていることだった。食品会社を中心として数社を受けたが、その中に日々の生活に欠かせない給湯機器や厨房機器を扱っているリンナイがあった。リンナイに対しては、熱機器など安全性が求められる商品を扱っているだけに「技術を重視する会社」というイメージを持っていた。

地元名古屋の老舗企業という点にも惹かれた加賀は、2010年にリンナイに入社し、経営企画部に配属された。その後、国内営業の管理部門に異動。国内営業部門の利益・費用・労務管理業務および社内システムの更新業務などを担当した後、2015年に九州支社に移り、利益・費用・労務管理、法人営業など幅広い業務に従事した。

九州支社在籍中の2018年、ふとした思いつきからデジタル技術を活用した 営業現場支援の企画書を書き上げ、本社営業本部へ提案した。

加賀は当時をふり返る。「私たちの業界は、これから市場が2倍、3倍と拡大していくような右肩上がりの業界ではありません。とはいえ、その中で売上も利益も拡大していかなくてはならない。より少ない人数、少ないコストで利益を拡大しようにも、人の力だけでは限界がある。単に人を減らすのではなく、もっと上手に効率化できないか?そのことは管理部門にいたころからずっと考えていました」

管理部門から営業部門に残業を減らしてくださいとお願いするだけでは、なかなか残業は減っていかない。加賀自身も営業を経験したことで、個人のがんばりだけではどうにもならないことを身に沁みて感じていたという。

「効率的に成果を上げるには、何らかのソリューションや仕組みが必要だと考えていました。当時、この業界には商品チラシを配布する文化が根強くありました。そこで、ただ配布して終わりではなく、チラシを元にデジタル技術を活用してお客様との接点をつくり、そこからコミュニケーションを図るという仕組みを思いつきました。当時の上長や九州支社長に話したところ、『全面的に応援する』と非常にポジティブに反応してもらったのは、非常にありがたかったですね」

本社に提案した内容がきっかけとなり、加賀は本社営業本部 営業部 DX推進グループに異動。入社10年目に、地元名古屋にもどる形になった。

課題だったビジネスユーザーへの情報提供

リンナイは1920年の創業以来、コンロ・炊飯器などの厨房機器、給湯器、ファンヒーター・ストーブなどの空調機器、温水暖房システムを使用した床暖房や浴室乾燥機など、人々の暮らしに貢献する多様な商品・サービスを提供している。効果的な販売促進、安全な施工・メンテナンスを実現する上で、ガス会社や建築会社など得意先に対する情報提供や情報連携は極めて重要だ。

1920年、一台の石油ガスコンロから始まったリンナイの歴史。100年経ったいまも変わらず、創業の精神を受け継ぎ、確かな技術で「熱と暮らし」を創造している。

従来はビジネスサポートサイト「Sup-Ri-net(サプリネット)」によって情報提供をおこなってきたが、情報をより利用しやすく、見やすく統合した新しいビジネスプラットフォームが強く求められていた。そこで、新しいB to B専用ビジネスプラットフォーム「Rinnai BiZ(リンナイビズ)」が構想され、創業100周年にあたる2020年12月公開を目指して構築が開始された。その実行責任者として白羽の矢が立ったのが、2020年4月にDX推進グループに異動したばかりの加賀だった。

新しいプラットフォームの構想は、リンナイ製品の最新情報をはじめ、買替・在庫検索、カタログ閲覧や施工情報などの業務支援サービス、ユーザーの体験記事や各種動画など販売強化につながる多様なコンテンツを提供する。目玉の一つは、スマートフォン向けに最適化されたインターフェイスの専用アプリを用意し、スマートフォンを利用して、いつでもどこからでも快適にコンテンツを閲覧できる点だ。

お客様にとって最良の形で実現するために必要な決断

加賀がDX推進グループに異動し、新プロジェクトの責任者になったとき、コロナ拡大の影響もあり一刻も早い営業現場の支援策が求められていた。加賀にはこれまでプログラミングやサーバー設置を直接おこなった経験がなく、ITに関する専門知識も十分とは言えなかった。

「本当にできるのか、一瞬途方に暮れました。自分がわからない、できないなら、わかっている人、できる人に任せればいい。そこで様々なパートナー企業の方々にお会いして、お話を聞きました。最初のうちは相手の話す専門用語が理解できず、面談後にあわてて調べるということも多かったですね」

「右も左もわからず途方に暮れた」と、加賀は就任当時を振り返る。

そんな中で出会ったのが、アプリを開発・運用・分析するプラットフォーム「Yappli」を提供する株式会社ヤプリだった。ヤプリの担当者は、リンナイの長期的なデジタル戦略において何が重要か、その中で自社がどのような役割を果たすことができるのかということを、非常にわかりやすく説明し、沢山のアドバイスをくれた。

より信頼が深まった印象的なエピソードがある。当時は、同業他社があるコミュニケーションツールを利用し顧客コミュニケーションで先行していたため、社内では、どうなるか分からないスマートフォンアプリ開発をおこなわず、リンナイもそのツールを利用すればいいという意見があがった。 すぐにヤプリの担当者に相談したところ、どちらをやるべきかという二つの選択ではなく、「両方やるべきだ」という回答が返ってきた。

「デジタルリテラシーの高くないお客様、ライトなお客様には導入ハードルの低いコミュニケーションツールで、本格的に活用したいお客様にはスマートフォンアプリで利用していただくという二本柱でいく。それを社内で提案して、了承を得ることができました。その決断は正解だったと思っています」

自社アプリがお客様にとって最良の形で実現できる。加賀がずっとやりたかったことへの答えが見つかった瞬間だった。

デジタルを活用した「ハイブリッド営業」実現への第一歩

アプリの全体像を指示した後、初期開発はヤプリに一任した。「Yappli」はノーコード(プログ ラミング不要)でアプリを高速開発でき、直感的な操作で更新やプレビューが可能だ。そのため開発進捗がブラックボックス化することなく、終始安心感を持って見守ることができた。プロトタイプが2020年9月に上がり、11月に完成版が仕上がった。

「できあがったアプリを実際に自分のスマートフォンにダウンロードして、動いたときは本当に感動しました。みんなの協力でここまでで来たのだなと感慨深かった。以前営業を担当していたとき、外出先で必要な資料が入手できないという課題をたびたび感じていたので、ようやく解決できるなと思いました」

新しいプラットフォームは「Rinnai BiZ(リンナイビズ)」と名付けられ、 2020年12月10日に無事公開された。社内外から「いつでもどこからでも利用できる」「使いやすい」「便利になった」などの高評価とともに、機能改善の要望も多数寄せられているという。

「アプリを通して、ダイレクトにご意見やご要望をいただきますので、お客様との距離が縮まったと感じています。自分が取り組んだことをお客様に評価していただけることは、とても嬉しいですね」

だが、わずか半年で公開にこぎ着けるための苦労は並大抵ではなかったはずだ。

「時間はありませんでしたが、これまでお世話になった方たちの顔を思い浮かべて、『ここまでやりましたよ!』と胸を張って見せられるようベストを尽くしました。今回は社内でも社外でも、非常に人に恵まれたなと感じています」

今回の壁を乗り越える上で、何が最大のポイントだったのだろうか?

「自分にできないときは、できる人に任せられるようになったことですね。そして、任せることのできるパートナー企業をしっかりと見極められたこと。同じ方向を向いて一緒に進んでいけるパートナーを選択することは、非常に重要です」

加賀は「Rinnai BiZ(リンナイビズ)」の公開によって、リンナイは従来の人を中心とした「対面営業」から、デジタル技術を活用した「ハイブリッド営業」へシフトしていくための第一歩を踏み出せたと話す。今後はアプリのさらなる浸透を図るとともに、顧客を対象としたWebセミナーなど独自のコンテンツを増やしていきたい考えだ。

「今回のプロジェクトを通してあらためて感じたのは、DXはあくまで手段にすぎないということ。最終的に何を達成したいのか? そこをきちんと見据える重要性を再認識しました。私はデジタル技術を活用して新しい価値を生み出すことで、業界全体をいい方向に変えていけると信じています」

なにも分からない手探りの状況から、周りを巻き込み、確かな成果を残した。加賀は自らの前に立ちはだかるいくつもの壁をどのように乗り越えたのか?企業人として、そして挑戦者としての熱い思いに「Climbers2021(クライマーズ)」で触れたい。

「Climbers 2021 (クライマーズ)」
日時:2021年5月21日(金)~5月23日(日)
   ※5月31日(月)18:00までアーカイブ配信中
開催形式:オンライン配信
参加費用:無料
内容:ブレイクスルーを実現した30人による人生の特別講義
https://2021online.climbers-evt.com/