企業のいま

勘や経験に頼らず、データ活用で歯科業界を変えたい ―― アナログな業界のDX変革に挑むひとりの企業人の挑戦

どんな個人や組織も過去の成功体験から自由でいることは難しい。勘と経験に頼る営業スタイルが時代に合わなくなっても、慣れ親しんだ従来のやり方を変えることは困難だ。そんな中、歯科業界DXに挑むひとりの企業人は、どのような思いと行動によって人々の意識を変え、データを根拠とした合理的な営業活動を浸透させつつあるのだろうか?

2021年5月21日(金)~5月23日(日)にオンライン開催される「Climbers2021(クライマーズ)」は、様々な壁を乗り越えてきた各界トップランナーによる、人生の特別講義を提供するイベントだ。Climbers(=挑戦者)は、何を目指し、何を糧にいくつもの壁に挑戦し続けることができたのか。このイベントでは、特別講義を通じて、彼らを突き動かすマインドや感情を探り、進み続ける力を本質から思考する。

今回からの新たな試みとして、Day1では一般企業人による「乗り越える」エピソードを紹介する。登壇者である「歯科業界の挑戦者」吉原大騎もまた、組織における様々な壁を全力で乗り越えてきたClimberの一人だ。

ずっと人を笑顔に、ハッピーにしたいと思ってきた

「小さいときから、ともかく人を笑わせることが好きでした。いつもどうすれば喜んでもらえるかを考えていました」と吉原は子供時代をふり返る。自分と関わる人々を少しでも笑顔に、ハッピーにしたい。その想いは、今も変わらないという。

高校では千葉県の木更津工業高等専門学校に入学。電気、機械、プログラミングなどを幅広く学び、勉強のかたわら柔道に打ち込み、柔道部の部長も務めた。

「当時、運動部には上級生と下級生の間に独特の慣習のようなものがあったのですが、部長になったとき自分の代でそうした慣習はすべて断ち切ろうと決意し、実際にやめさせました」従来のやりかたを疑い、変化を恐れない姿勢はこういったエピソードからも伺える。

高専卒業後は、岩手大学の工学部に進学。さらに大学院に進んで医療機器の研究を行った。

「研究者やSEになる道も考えたのですが、塾講師のアルバイトがすごく楽しくて、人と実際に接して話すような仕事もいいなと思っていました。もちろん医療機器や技術にも興味があったので、進路には迷っていました」

そんな折り、就職活動中の会社説明会で知ったのが成田デンタルだった。 同社は当時、千葉大学と協力して、歯にICチップを装着し個人認証を行うという実証実験を行っていた。 「この会社なら医療機器の研究など自分のやって来たことを活かしながら、様々な方々と深く関わることができると思いました。自分が生まれ育った千葉県で仕事ができることも魅力でした。これは"縁"だなと思い、入社を決めました」

歯科医師と歯科技工士をマッチングし、コーディネート

成田デンタルは歯科技工専門商社として、全国約6,200軒の歯科医院と全国約170社の提携歯科技工所をコーディネートし、一人ひとりの歯科医師と歯科技工士をマッチングする「成田リンクシステム」を構築している。 歯科医院から患者の歯型模型を回収し、最適な歯科技工所を選び技工物(入れ歯、差し歯、矯正装置など)を製作、完成したものを歯科医院に納品する。

成田デンタルが双方の間を取り持つことで、歯科医師は相性のいい歯科技工士と知り合うことができ、多様で高品質の技工物が手に入る。歯科技工士にとっては、営業することなく安定した仕事量を確保でき、製造に専念できるというメリットが生じる。

患者ひとりひとりに合った最適な技工物を提供する。

吉原は2007年の入社以来約6年間、歯科医院と歯科技工所をコーディネートする営業を担当した。

「営業を経験することで、現場のことを理解できたのが大きかったですね。実際に入れ歯や差し歯がどのようにつくられ、患者さんの口の中に入るのか?歯科医師や歯科技工士はどのような立場で、何を考えているのか?そういったことは実際に現場を体験しないとわかりません。自分は最終的に『患者さんを笑顔にする』ために仕事をしているんだと確認できたことは収穫でした。」

未経験でイチから自動化システムをつくり上げたことが転機に

だが、入社3年目の吉原に大きな試練が訪れる。成田デンタルへの入社理由の一つだった千葉大学との実証実験が終了してしまったのだ。

「私も実験に参加していました。歯にICチップを装着することで本人認証できるという技術は、大規模災害時における身元確認などにも有効で、今後大変期待できる技術だと考えていました。入社のきっかけにもなった出来事だったので大きな目標が突然目の前から消えてしまったようで、医療機器や医療技術に強い関心のあった自分が、このままこの会社にいていいのか真剣に悩みました」

当時の胸中を振り返る吉原。入社3年目の大きな決断だった。

迷い悩んだ上で出した結論は「まずはこの会社の中で、自分にしかできないことをやってみよう」というものだった。

当時、歯科技工物の納期を示す日程表の作成は手入力だったので、たびたび誤入力が生じていた。この作業を非常に非効率に感じていた吉原は、エクセルVBAを使ってイチからプログラムをつくりだした。

「当時、エクセルVBAを使った経験がなく、営業の合間の時間をぬって作業を行ったので大変でした。しかし、自分にある程度負荷をかけないと何事も達成できないと考え、集中して取り組みました」

完成した日程表プログラムを所長会議で発表したところ、参加者一同から「おおーっ」という反応が返ってきた。アナログな歯科業界、それまでプログラムを自分たちでつくる文化が社内にはなかったので、「本当にきみがつくったのか?」と驚きの声で迎えられた。「やった!」と思いました。自分にはこういうことができるんだと初めて社内に示すことができた。

「あれが大きな転機になりました」 吉原がつくったこの日程表は現在もバージョンアップが加えられ、業務の正確性と効率の向上に貢献し続けている。翌年、吉原は本社総務部のシステム担当に異動することになった。

勘や経験ではなく、データを根拠とした合理的な営業へ

成田デンタルの課題の一つが、営業に関するデータの共有と活用だった。特に年間220万レコードを超える納品書データをうまく解析することができれば、従来の勘や経験に頼った営業から、データを根拠としたより効率的な営業スタイルへの変革が可能になる。社長はそうしたデータの重要性を理解しており、一部のデータを抜き出しエクセルを使って解析しようとしていたが、データ量が膨大なためうまくいかなかった。

やりたいことは明確なのに、実行にうつす手段が分からない。そんなとき出会ったのがウイングアーク1stのBIツール「MotionBoard」だった。営業活動に役立つ幅広いデータをまとめて可視化し、直感的に把握・理解できるツールで、全国に営業所がある成田デンタルにとって地図と連動してデータを表示できることは大きなメリットだった。

「2015年に導入を開始し、私がその使いこなしや社内に浸透させる役割を担うことになりました。このシステム、ひいては社内に蓄積されていたデータを活用するように社長からトップダウンで言い続けてもらいましたが、やはり昔からの『足で稼ぐ』営業スタイルも根強く、一朝一夕に浸透させることはできませんでした」

新しいツールの浸透に時間がかかるのは、企業が抱える永遠の課題だ。粘り強く、社内にデータの重要性を説いて回った。

しかし、粘り強く浸透を図るうちに、少しずつ潮目が変化していった。現場の営業担当者だけでなく、管理職や営業所長も含めてみんなでデータを見て、次に取るべき行動を考えるようになってきた。最も重要なのはお客様のニーズであり、ニーズを的確に把握することで、強いところを伸ばし、弱いところを補う合理的な施策を実践できるようになる。吉原は2020年6月より営業推進部マーケティング担当も兼任するようになった。

「社内のマインドが変化したことで、自分もデータを見て考える時間がとれるようになったことが大きいですね。直感ではなく、データに基づいたより効率的な営業活動が社内に根づきつつあると感じています」

人とつながり、話し合うことを確かな結果につなげたい

吉原は自分を突き動かす原動力を、子供時代から変らない「みんなを喜ばせ、笑顔にしたいという思い」だと話す。 みんなの中には社内の仲間、歯科医師や歯科技工士など社外の関係者の方々、そして歯科医院の患者が含まれている。みんなをハッピーにするために、自分はどんな行動を選択し、どんな未来を実現すべきなのか?日々、社内のDX、歯科業界におけるDXについて思いを馳せている。

自ら見つけた大きな野望。吉原にとっては、「だれかの笑顔」が前を向き挑戦し続ける原動力だ。

吉原は、社外の人間とデータ活用に関する情報交換をおこなえるユーザーコミュニティのリーダーを務めているが、他社のメンバーの悩みを聞いたり、情報を共有したり、課題解決のヒントを与え合うことで、得ること学ぶことはとても多いと話す。

「社内でも社外でもそうですが、結局一人では何もできません。ですから少しでも仲間を増やしていきたい。社内での勉強会や研修も数多く開催して、データを使いこなすための理解を深めていきたいですね。みんなで同じ土俵の上に立って議論し、行動することで『効率的に動けるようになったね』『売上げが伸びたね』という結果につなげたい。また、ユーザーコミュニティの社内版のようなものもつくって、若手社員が自分の考えを全社に提案できるような場を生み出せたらと考えています」

アナログな文化が根強い組織の中で、「歯科業界DX」という未知の頂に挑み、社員の意識と行動を変容させるためには、越えなくてはならないいくつもの壁があった。吉原はその壁をどのように乗り越えたのか?そしてその先にどんなビジョンを描いているのか?「Climbers2021(クライマーズ)」でじっくりと聞きたい。

「Climbers 2021 (クライマーズ)」
日時:2021年5月21日(金)~5月23日(日)
開催形式:オンライン配信
参加費用:無料
内容:ブレイクスルーを実現した30人による人生の特別講義
https://2021online.climbers-evt.com/