企業のいま

財務のプロから、ある日突然CEOに━━ WeWork Japan 佐々木一之は、逆境をどう乗り越えるのか

親会社のセンセーショナルなニュース、前CEOの辞任、コロナ禍での働き方の変化。逆境の中、果敢に挑戦を続ける WeWork Japan 佐々木一之が、CEO就任から一年、その思いを語る。

2020年11月23日(月)にオンライン開催される「Climbers 2020 (クライマーズ)」 では、様々な壁を乗り越えてきた各界のトップランナーが人生の特別講義を行う。Climber(= 挑戦者)は、何を目指し、何を糧にいくつもの壁に挑戦し続けることができたのか。このイベントでは、特別講義を通して、彼らを突き動かすマインドや感情を探り、進み続ける力を本質から思考する。

コミュニティ型ワークスペースを提供する WeWork Japan・最高経営責任者(CEO)の佐々木一之もまた、Climber(=挑戦者)の一人だ。

WeWork Japanといえば、2019年、親会社の米国 WeWork で起きた前CEO更迭、IPO申請の撤回など、そのブランドを揺るがすような出来事が話題を呼んだ。佐々木がWeWork Japan のCEOに就任したのは、その渦中の2019年10月のことだった。

翌年、2020年になると新型コロナウイルスの影響で、世界中の働き方が大きく変わる。リモートワークが普及し、オフィス自体の必要性が改めて問われるようになった。国内6都市30拠点以上でコミュニティ型ワークスペースを提供する WeWork Japan もまた、その前途に注目が集まっている。

実は、佐々木はCEOに就任して以来、メディアや外部イベントでの登壇も少なく、その人物像はまだあまり知られていない。しかし、混乱の中でのCEO就任から約一年、苦境を乗り越えようと猛進しているであろうことは、誰もが推測できるだろう。イベント当日は、いままさにClimbしている佐々木の、強い信念に触れることになりそうだ。

今回記事ではイベントに先んじて、佐々木という人物を少し紹介したい。

36歳でグローバルカンパニーの日本法人CFOへ

埼玉県で生まれた佐々木は、10歳のときに父親の仕事の関係で渡米、大学までをアメリカで過ごした。「とにかくよく遊ぶ子供だった」と佐々木は当時を振り返る。幼少期は勉強より遊びに夢中だった佐々木少年が、自分のスタイルを形成する上で一番影響を受けたのは、両親の存在だった。

両親に幼少期から言われ続けたことがある。「自分の人生は自分で決めて、責任を持ちなさい」。

人に進路を決められると、うまくいかなかった時に人のせいにしてしまう。自分で決めたのなら、失敗しても納得がいく。だから勉強しろとか成績がどうとかを、両親から言われたことは一度もない。習い事も進学も全部自分で決めた。就職を機に日本に帰国することを決めたときも、どこに就職するか、何をするかについてではなく、息子が「自分で決めたこと」をただ喜んでくれた。

就職してからは、財務畑一筋だ。2003年、新卒で、アメリカに本社を置くゼネラルエレクトリック(General Electric Company/以下GE)日本支社に入社した。GEを選んだ理由は、GE元CEOジャック・ウェルチの「自分の運命は自分でコントロールすべきだ。さもないと、誰かにコントロールされてしまう。(Control your own destiny or someone else will.)」という言葉に、両親の言葉、そして自分の人生が重なったから。

入社すると「CFOになり、経営に関わる」ことを目標に掲げた。そのために努力と経験を積んでいく。当時さまざまな業態とつながりがあったGEで、佐々木は原子力部門や素材のシリコン部門、金融、ヘルスケアなど、様々な業界の財務を経験した。

数年後、自らの希望でアメリカ本社に異動し、27歳で初めてチームのマネージメントを経験する。そこでアメリカ人、フランス人、中国人、ブラジル人......と、さまざまなバックグラウンドを持つ人材と働いたことで、多様性がチームのアウトプットの質を高めることを知った。この経験は後に、WeWork Japan の事業でも価値を発揮することになる。

ところで、進路を自由に選べた佐々木が、なぜ財務という仕事にこだわり続けたのか。

「大学で会計学・金融学を勉強して、会社の状態が数字で読み取れることがすごく面白いなと思いました。数字って会社のいたるところに散らばっていますが、ある時に、その点と点がつながる瞬間があるんです。これが起こるなら次はこうなる、とつながって、見えていなかったものが見えてくる。それがすごく楽しいんです。特にCFOというポジションは、会社の事業と数字を分析してインサイトを抽出し、それを元に会社の戦略を練ります。周りの部門のアクションも促して会社を前進させていく、すごくやりがいのある仕事だと思います」

結婚を機にアメリカ本社から異動し、日本でアジア諸国のファイナンスのヘッドとして活躍する。佐々木は「自分の成長曲線は2、3年で緩やかになる」という。2、3年経つと「今度はこれをやってみたい」というものが見えるから、自ら手を挙げて異動を申し出る。こうして「やってみたいこと」すべてに挑戦した結果、2016年、36歳という若さで当初登っていた山の頂上に到達した。

「大手グローバルカンパニーの日本法人CFOという、当初目指していた頂上にたどり着くことができました。それから2年間務め、頂上からの景色を十分に望むことができましたので、また新しい山に登ってみたくなった。それが WeWork Japan というスタートアップのCFOでした」

佐々木はこうも続ける。

「幸い私は、最初の山の頂上に到達したのが36歳で、まだ下山する気力と時間があったので次のチャレンジができました。でもスタートアップに入るという選択肢には、賞味期限があったと思います。もし20、30年後だったら、そんなオプションはなかったかもしれない。人生100年時代といわれますが、それは長いようで短い。だから、やりたいと思ったときにやる。ぼーっとしていたら、あっという間に終わってしまいますから」

目指していた場所に到達してみたら「もっと挑戦したい」という気持ちが芽生えた。だから、また新たな山を自ら見つけ、登ってみたくなった。

熱意を持って働く人がたった6%という日本の現実

2018年1月、WeWork Japan で働くことを決めた。理由は3つある。「ミッションへの共感」「自分自身の学び」、そして「日本の働き方を変えたいという思い」だ。

「ある日、ヘッドハンティングの連絡が来ました。恥ずかしながら、その時初めて WeWork を知りました。調べてみると、ミッションに『ただ生きるのではなく、生きがいを感じられる世界をつくる(To create a world where people work to make a life, not just a living)』と掲げられていた。 私も人生を楽しむために働いてきたので、すごく共感できました」

15年間大企業の仕事に携わった佐々木にとって、スタートアップの立ち上げ段階だったWeWork Japan は、何もかもが新鮮で魅力的だった。新たなチャレンジをしたい、新しいことを学び、成長したい、そう思った。

さらに佐々木のモチベーションを高めたのが、ずっと抱いていた「日本の働き方を変えたい」という思いに本気で取り組める環境だ。世界中をフィールドにビジネスを行ってきた佐々木は、日本人にはもっと活力が必要だと思っていた。朝の通勤電車の中での表情も、皆、なんだか暗い。日本はGDPが伸びず、生産性も世界と比べると低いといわれている。その現状を打破するためには「テクノロジーも大事だけれど、まずは人」と佐々木は言う。働く人が元気でなくてはいけない。

「ある統計によると、日本には熱意を持って働いている社員は、たった6%しかいないそうです。いったいどうすれば日本で働いている人を元気にできるのか。そう考えていたときにWeWork Japan に出会い、そのポテンシャルがあると確信しました」

WeWork は、全世界38ヶ国150都市840拠点(2020年6月時点)にコミュニティ型ワークスペースを展開している。そこには働きやすい空間だけでなく、業界業種や企業の壁を超えた多様なつながりから構成されるコミュニティもあり、アイデアやオープンイノベーションが生まれやすい環境が整っている。

「出会いは、人の価値観を変えるものだと思います。自社オフィスで毎日同じ人たちと会うだけでは、なかなか意識までは変えられない。業種や職種を越えて多様な人と出会うからこそ、『こういう生き方や考え方があるんだ』と気づきが生まれたり、共感できる仲間と新しいアイデアを生み出せたりして、仕事や人生をもっと楽しめると思うんです」

こう熱く語る佐々木だが、実は、WeWork Japan に入社した当初、大手企業での経験とスタートアップの現実とのギャップに戸惑い続けた。当時の WeWork はまだ、日本上陸直後。オフィスらしいオフィスもなく、WeWork Japan 前CEOが住むマンションの一室で働いた。あらゆる仕組みやリソースが足りておらず、すべて自らの手でやらなければならない。久しぶりに自らエクセルを叩き、資料をパワーポイントにまとめ、請求書や給与の支払いも全てこなした。

大手グローバルカンパニーの日本法人CFOまで登りつめた人物が、こうした広範囲にわたる作業を自らの手で行うことに抵抗はなかったのかと聞いてみる。

「実際入社してみて、ここまで自らやらなくてはいけないのか、と思うこともありましたが、『私がやらないと誰がやるんだ!』と、逆にすごく燃えました。前職と比べるとスピードが桁違いに早く、どんどん前に進まないといけないし、決断する回数も多い。しびれましたね(笑)」

周りの人からは「スタートアップに行くんですか?」と驚かれた。しかしこの時の佐々木にとって大事なのは、会社の規模やポジションではなく、自身が掲げた「日本の働く人を元気にする」というミッションの実現だった。

CFOでもCEOでも、目指す先はブレない

WeWork JapanのCFOとして入社した佐々木は、マネージングディレクターとして、WeWork Japan のオペレーションの統括を行うポジションを経て、2019年10月、CEOに就任する。それはあまりに突然のことだった。

「ある朝、普段通りに出社したら、WeWork Japan 前CEOが辞任したと聞かされて、ものすごく驚きました」

同日に、WeWork Japan の親会社である米国 WeWork とソフトバンクから「WeWork Japan のCEOをやってくれないか」と打診がある。佐々木はその場で承諾した。急転直下の展開だが迷いはなかったのかと聞くと佐々木は笑顔でこう答えた。

「IPOの取り下げなど、混乱している中でのことでしたが、即決しました。『日本で働く人を元気にする』という私自身のミッションを突き詰めることには変わりませんから。CEOとしてなら、より幅広く社会にインパクトを与えることができるかもしれないと思いました。それに『私がやらなきゃ誰がやるんだ』という気持ちもありました」

立場は変われども、佐々木の目指す先にブレはない。

ただそうは言っても「新米CEO」の前に立ちはだかる課題は決して少なくないはずだ。これまで順調に道を歩んできた佐々木の仕事人生において、こうした時期のCEO就任はさすがに「壁」と感じざるを得ないのでは? という問いに、佐々木は素直にこう答える。

「引き継ぎも全くない状態でのスタートです。30分刻みで会議が入り続け、その中で会社の運命を決めるような決断を次から次へとする。最初は本当に苦労しました。会社自体が混乱する中、メディアでもいろいろな記事が出て、従業員も自信を失くしかけているようでしたし、取引先からも心配される状況ですから、もう大変で。とにかく必死で、会社を前に進めることだけを考えて取り組んできました」

重大な意思決定は最終的には自分でする。その方法はさまざまだが、佐々木は「数字とロジックで選択肢を7割狭めて、残りの3割をアートで決める」という。「これは危ない」というものを数字やロジックで排除できるのは、紛れもなくCFOの経験が役に立っている。ただしそこからの絞り込みは、佐々木曰く「アートの域」だ。「メンバー様のためになるか」、「社員、会社、そして社会のためになるか」、そして佐々木自身のミッションに基づき「日本人の働き方のためになるか」と考えながら定性的な判断をする。

「解がないものを数字だけで突き詰めることはできないし、逆にアートだけでも無理。決断で大切にしているのは、そのコンビネーションです」

「何をするか」よりも「なぜ働くのか」「なぜここにいるのか」を理解することが大切だと佐々木は言う。佐々木にとってミッションはいつも、挑戦し続ける原動力になっている。

CEOとしての決断においてはこれまでの経験が活きている。では、リーダーシップにおいてはどんなことを意識しているのだろうか。

「数字とロジックで物事を判断する財務部門で経験を積んできた私が言うのもおかしな話ですが、常にポジティブであることを意識しています。成功をイメージし、周りに対してポジティブに接する。ポジティブでいさえすれば、必ず何かが起きると信じています」

新型コロナウイルスの影響で、リモートワークの普及が早まった。こうした流れの中でときどき耳にする「オフィス不要論」。しかし佐々木はポジティブだ。

「オフィスの役割は変わってきていると思います。自分の席に座って作業をするだけの場所ではなくなりつつある。これからのオフィスは、人と話し、コラボレーションをして、新しいものを生み出す、そんな場所になるのではないでしょうか」

1つの高い山から下り、新たな別の高みを目指す。その頂きが見えてくるのはこれからだ。佐々木が突如CEOに就任し、立ちはだかる「壁」を乗り越えようとしているこの話は、多くの読者の方々が気になるところだろう。

グローバルで培った財務の視点を今後の WeWork Japan の経営にどう応用し、起死回生を図るのか。そして、自らのミッションをどう実現していくのか。イベント当日、佐々木自身の話をじっくり聞きたい。



WeWork Japan 2.0始動。月額39,000円(税抜)で国内30拠点以上使い放題の新プラン「All Access」開始

WeWork Japan 合同会社は、ニューノーマル時代のより自由な働き方を見据え、働く人々の柔軟性かつ生産性の向上を支援する事業を展開していくため、WeWork Japan 2.0として始動する。その第1弾として、12月1日より、国内30拠点以上の共用エリアが1人あたり月額39,000円(42,900円/税込)で使い放題となる新プラン「All Access(オールアクセス)」を開始。

テレワークやサテライトオフィスを中心としたこれからの新しい働き方のニーズに応える、ニューノーマル時代に適したプランだ。従業員にとってはより自由な働き方と快適な仕事環境が実現でき、企業にとっては従業員の生産性向上とオフィス費用の削減が可能となる。




Climbers 2020 (クライマーズ)
日時:2020年11月23日(月・祝)10:00〜19:00(予定)
開催形式:オンライン配信
参加費用:3500円(税込)
内容:Brave LIVE〜ビジネスマインドが奮い立つ人生の特別講義〜