企業のいま

宮田昇始の判断基準は楽しいかどうか。社会の非合理をハックする精神が、SmartHRを成長させ続ける

世の中の不条理と戦っていきたい━━そう語るのは、株式会社SmartHR代表取締役・CEOの宮田昇始だ。複雑で形骸化した人事労務の手続きの在り方を、テクノロジーを駆使して変えていこうと奮闘する宮田が見据える未来。

2020年11月23日(月)にオンライン開催される「Climbers 2020 (クライマーズ)」 では、様々な壁を乗り越えてきた各界のトップランナーが人生の特別講義を行う。Climber(= 挑戦者)は、何を目指し、何を糧にいくつもの壁に挑戦し続けることができたのか。特別講義を通して彼らを突き動かすマインドや感情を探ることで、進み続ける力を本質から思考することになるだろう。

本イベントの登壇者である、株式会社SmartHR代表取締役・CEOの宮田昇始は、そのキャリアを通して"Climb"し続けてきた経営者だ。

クラウド人事労務ソフト「SmartHR」は、業界シェアで1位を誇り、その登録企業数は3万社を超える。また、国内のみならず、米国からも支援を募り、累計資金調達額は82億円。投資家やベンチャーキャピタルからの信頼も厚い。まさに飛ぶ鳥落とす勢いで成長を遂げている同社だが、宮田自身の歩みは決して平坦ではなかった。まだ働き盛りの20代で大病を患い、命の危機に瀕したことも。また、同社の前身となる株式会社KUFUでは、事業の失敗を幾度も経験した。ここ数年は挑戦の連続だったことは想像に難くない。そんな考えを巡らせながら、宮田のClimberとしての一面を探ってみた。キーワードは「不条理との戦い」だ。

世の中の不条理と戦っていきたい

――まずは宮田さんの学生時代から教えてください。後に起業にいたるマインドはどのように形成されたのでしょうか。

昔から変わっていないのは、世の中の不条理と戦っていきたいという気持ちです。私の実家は熊本県の山奥にあるのですが、中学生になってからは中高一貫の進学校に通うことになったので、寮で生活していたんです。そこはルールがすごく厳しくて。中学生はテレビを観てはいけないとか、中学1年生はお風呂の椅子を使ってはいけないとか、朝起きたら急いで食堂に行ってマヨネーズを出さないといけないとか(笑)。いわゆる縦社会的な決まり事が多かったんですけど、どれもすごく理不尽じゃないですか。

ただ、そうしたルールの中で抜け穴を見つけて破るのが楽しかったんですよね。夜中になると電気を消されてしまうのでトイレの換気扇から電源を引っ張ってきたり、雨樋をつたって脱寮してみたり。そうやって何かしらの形で抗っていた気がします。

それで反発心を植え付けられたのか、「学歴・職歴なんてクソ食らえ!」と斜に構えるようになりました。「学歴に頼らずとも自分でできること証明してやる」と。

大学受験のときは友人から願書を何枚かもらって、その中から選んで送ってみたり、就職活動でも友人に企業を3社ほど選んでもらって面接を受けに行ったり。今から考えるとけっこうヤバいことをしていますよね......。結論から言うと、両方とも大失敗だったんですけど(笑)。

反骨精神をにじませながらも、語り口はいたって柔和な宮田。失敗談もあっけらかんと語る。

――それはどうしてですか?

学歴は関係ないと思いつつも、ちゃんと目的を持って大学に行くことで得られる繋がりってけっこう大きいんですよ。それを社会人になってから痛感することが多くて。職歴に関しても、20代中頃にめちゃくちゃ後悔しました。なんで適当に会社を選んでしまったんだろうと。

ただ良かったのは、IT業界に身を置いたことでした。僕は2007年新卒の代なんですけど、内定をもらった会社でインターンとして働かせてもらうまでインターネットに触れる機会が全然なくて。むしろ、敬遠していた面がありました。でも、経験を積んでいく中で面白さや可能性を知ることができて、インターネットで一生食っていくぞと思うようになったんです。

そのタイミングで「ハント症候群」という難病を患い、数ヶ月間働けなかった期間に人生を見つめ直し、今の会社で働くよりも好きなことをやりたいと考えて2013年に起業しました。

SmartHRというホームランをどこまで遠くに飛ばせるか

――SmartHRという会社としての挑戦、そして宮田さん個人としての挑戦、それぞれどのように考えていますか。

SmartHRというサービスをつくったときは、50名未満のIT企業がコアターゲットになると思っていました。でも、サービスをはじめて1年半ほどで1,000名を超える会社に使ってもらえるようになって、その1年後には10,000名を超える会社、そして今年は数十万名規模の会社にも導入されました。業種もどんどん広がっていて、これまでは飲食とか小売チェーンが多かったんですけど、最近は一部上場企業や大学、病院、金融機関でも利用していただいています。

それでも、日本全体の労働人口で考えたら導入率はまだ1%程度なので、これを5年以内に15%ぐらいにまで伸ばしたいと考えています。そのためには、ソフトウェア的にも、サポート体制的にも、大きなジャンプが必要なので、メンバー全員で挑戦している最中です。

近年は、一般企業だけでなく、大学、病院、金融機関などにもSmartHRの利用が広がる。それでも、日本全体の労働人口で考えたら導入率はまだ1%程度、向こう5年で大きなジャンプアップを目論む。

私個人としても、このSmartHRという会社をどれだけ大きくできるかに挑戦しています。ただ、その大変さも痛感していて......。これは私の周りの経営者の間でホットな話題になっているのですが、一度掲げた目標を達成したときに、身の振り方をどうするのかを考えることが多くなっています。すべてをやり切ってから、より高い別次元の目標を掲げて動き出すのってすごく難しいんですよね。あるシーズンに好成績をあげたスポーツ選手が、翌シーズンには成績を出せないことってよくあるんですけど、ある種の燃え尽き症候群に陥ってしまうんだろうなと。

起業した頃は「1億円くらいで事業を売却できたらラッキーだね」みたいな話をしていたんです。でも、事業が大きくなるにつれて、視座も高くなっていて。2017年頃は「"強くてニューゲーム(*)"が早くしたい」とよく言っていました。というのも、SmartHRというサービスを立ち上げるまでの2年くらいは不可逆的な失敗の連続で、ものすごい数のピボットを経験しているんです。だから、ある程度ノウハウがある状態で起業したら、もっと簡単に成功できる気がしていて。野球でたとえるなら、ツーベースヒットが打てたので、次の事業で早くスリーベースヒットを打ちたいと思っていました。ところがその後も、自分たちが想像している以上にSmartHRの事業は伸びています。

(*)コンピュータゲームのシステムのひとつ。進行中またはクリア後の状態で最初からゲームを開始することができる機能

たまたま選んだ市場が良くて、すごく能力のある人たちがすごく良いタイミングで入社してくれて、みんなでつくったプロダクトがたくさんの人に使われるようになった。こんなにいろんな条件が一気に揃うことってほぼないと思うんですよね。だから今は、SmartHRというホームランをどこまで遠くに飛ばせるのかに注力したいと考えています。

「一度掲げた目標を達成したときに、次の目標に向けてモチベーションを上げるのは難しいんですよね......」と語りつつも、SmartHRというホームランをどこまで遠くに飛ばせるか━━という挑戦に気持ちは向かっている。

――宮田さんが考えるホームランとは?

少し前まではユニコーン企業になることがホームランだったんですけど、最近はもっとできるかもしれないと考えるようになりました。数年前だったら「無理じゃない?」と思っていたことが、最近は「できるかもしれない!」という感覚になっていて。高尾山を登っていると思ったら、いつの間にか富士山を登っていて、次はもしかしたらエベレストに挑むかもしれない。これまでは、エベレストに登ることは選択肢にも入っていなかったけれど、今だったらうまく登れる気がする......そういう感覚なのかもしれません。

――宮田さんは「楽しいかどうか」を大切にされている印象があります。それこそ、理不尽なものやレガシーなシステムは「楽しくないもの」。だからこそ、それを変えていきたい気持ちが強いのかなと。

そうですね。楽しいか、面白いか。それが判断基準になっている面はあると思います。みんなと目標に向かって進めていることが楽しいんですよね。だから、そこまで挑戦というものを意識していないというか。

おかしな話なんですけど、たまに会社のことを学校と呼んでしまうことがあって(笑)。この前もCFOの玉木(諒)に「玉木さん、明日は学校来ます?」と聞いてしまって、ツッコミを入れられてしまったんですけど、それくらい会社のことを学校だと思っている節があるんです。

挑戦はみんなで楽しむためのアトラクション。みんなでワイワイやれる場所をつくり続けることが、宮田自身の挑戦でもある。

――どうして会社を学校だと思うことがあるのでしょうか?

小学生とか中学生の頃、同級生とうまく馴染めなかったことが影響しているのかな......。実家が建設業を営んでいたんですけど、すごい田舎だったので周りにそういう家庭はなく、それを理由に私のことを特別扱いすることが多かったんです。それで「自分を正しく見てほしい」という思いが強くありました。そうした背景があり、親友になる友達はなかなかできないし、中学生の頃は上級生からもいじめられたし、小中時代は楽しかった思い出がほとんどない。だから、その反動で会社のことを学校のように考えているんだと思います。社内の部活もすごい数がありますし。

採用面接で会社の様子を聞かれるときも「文化祭の2週間前くらいにバイト入れてもギリギリ怒られないくらいの空気感」とか「緩めな部活とガチめなサークルの間くらい」ってよく言うんですよね。みんなで楽しくワイワイがやりたいし、挑戦はみんなで楽しむためのアトラクションくらいの感覚で働いているかもしれません。

社会の非合理をなくすために、旧態依然の価値観をハックする

――最後に、SmartHRが見据える未来について教えてください。

社会保険や労働保険の手続きって年間1.6億回ほどあるのですが、そのほとんどがいまだに手書きや郵送で行われているんですよ。その電子化率は約15%と言われていて、税務や登記の電子化率と比較すると4倍以上の差がある。言葉を選ばずに言えば、すごく遅れているんですよね。そういう形骸化した手続きの在り方を、テクノロジーを駆使して変えていきたいと思っています。

――「社会の非合理を、ハックする。」をミッションに掲げているのも、そうした理由があるからなんですね。

自分自身が社会の非合理をなくしていきたいと本気で考えているので、そういう思いを持った人たちが集まってきやすい場所にしたかったんです。加えて、SmartHRはソフトウェアの会社なので、エンジニアに刺さるメッセージがいいなって。

ハックというと「クラッキング」みたいな悪いイメージを連想することが多いと思うんですけど、本来は「うまいことやる」という意味の言葉なんですよね。だから、業界を牛耳ってやるみたいなことは全然考えてなくて。軋轢も生みたくないですし。むしろ、これまで業界を支えてきた社労士の先生や行政と共存しながら、次の時代を模索していきたいと思っています。

実際、行政の担当者がヒアリングに来てくださることもあるのですが、彼らが使いにくいところがあればどんどん変えていきたい。そうした積み重ねが、旧態依然とした価値観を変える端緒になるはずなので。

旧態依然とした価値観を変える。ルールの中で抜け穴を見つけることに面白さを見出していた中高生の頃と、一貫してそのマインドは変わっていない。

「Climbers 2020 (クライマーズ)」
日時:2020年11月23日(月・祝)10:00〜19:00(予定)
開催形式:オンライン配信
参加費用:3500円(税込)
内容:Brave LIVE〜ビジネスマインドが奮い立つ人生の特別講義〜
https://2020online.climbers-evt.com