変化するビジネスネットワークの形

つながりの構造と、つながることの価値を改めて考える━━変化するビジネスネットワークの形 Vol.2

社会ネットワーク研究から得られる知見をもとに、これからのビジネスネットワーク構築のヒントを探る連載。二回目は、BNLが2018年に公開した寄稿「ネットワーク研究の世界」の内容をおさらいし、つながることの価値について改めて考える。

前回、2020年1月から4月末までの名刺交換枚数のデータ※から、対面での出会いの数が変動していることがわかった。

※2020年1月から4月にかけて、名刺交換枚数は減少傾向にあったが、その後、5月の連休あたりから増え始めている。

こうした状況の中で私たちが取り組むべきネットワーク戦略を探っていくのが、この連載の目的だ。二回目の今回は、社会ネットワーク研究の世界に触れる。つながることにはどんな価値があるのかについて、「弱いつながり」と「強いつながり」の本質から、改めて理解したい。

以前BNLでは、Sansan株式会社のデータ統括部門、DSOC(Data Strategy & Operation Center)の研究員、前嶋直樹に、つながることの価値について解説した記事を寄稿してもらった。前嶋はDSOCでネットワーク理論を研究し、普段は名刺交換の織りなすネットワークの価値を最大化するためのサービス開発に取り組んでいる。本記事は、その寄稿を元に改めて編集したものである。

「弱いつながりの強さ」の本質

社会ネットワーク研究の世界では、つながりには「強いつながり」と「弱いつながり」がある。つながりの強弱は、時間、感情的な強さ、親密さなどで決まる。

弱いつながりの強さ」という言葉を聞いたことがある人も多いだろう。1973年、社会学者 マーク・グラノヴェッターは、論文で「よく会う親密な人よりも、あまり親しくはない知人からの方が、転職に役立つ情報を得られる確率が高い」という研究結果を紹介している。情報という面で利益をもたらすのは、親しい仲の「強いつながり」よりも、さほど親しさを感じない「弱いつながり」であるという主張だ。

この理論はのちの研究でアップデートされている部分も多いのだが、「弱いつながりの強さ」という印象的な言葉だけが一人歩きしてしまったのか、「微妙な知り合いをとにかく増やしておけば良い」という誤解も見受けられる。そこでまず、なぜ「弱いつながりは強い」のか、その理由から考えてみたい。

社会ネットワーク研究の世界には「情報は社会ネットワークを通して巡回(circulate)する」という考え方がある。そして、各クラスタ(集団)の中でも、それぞれ情報が巡回している。グラノヴェッターは「弱いつながり」が、2つのクラスタにおいて情報の「橋渡し」の役割を担っていることに注目した。

ビジネスの現場における「橋渡し」とはどういうことを意味するのか? 図と例を用いて説明してみよう。ITエンジニアのクラスタと、営業や商社マンなどのクラスタは、職能や活動が全く異なるため、それぞれのクラスタでは独自の情報が流れている。ITエンジニアのクラスタに属するAが、営業・商社マンのクラスタに属するCとつながると、これら二つのクラスタを「橋渡し」することになり、それぞれのクラスタから異なる情報が入ってくる。ゆえに、「橋渡し」を行う人は、自分の属しているクラスタの外から、貴重で有利な情報が得られる。

互いが密につながったクラスタの内部では、それぞれ異なる情報が共有される。Aは、B、Cとつながっているが、BとCはつながっていない。営業・商社マンのクラスタと唯一つながっているAを介して、情報はITエンジニアのクラスタから、営業・商社マンのクラスタへ「橋渡し」される。Image: BNL

この考え方を転職という場面に置き換えてみよう。親しい相手の方が転職を手助けするモチベーションが強いため、一見、「強いつながり」を持っている方が有利だと思われる。しかし「強いつながり」の相手は、同じようなクラスタにいる可能性が高く、流通している情報も似通っている。一方で、「弱いつながり」の相手は、異なる情報が流れるクラスタにいる可能性が高く、多様な情報をもたらしやすい。とりわけ「どこに職があるか」という情報が重要な転職に関しては「弱いつながり」の方が、情報を得るという意味では有利に働く。

グラノヴェッターは、これを「構造の意思に対する優位性」といった。相手が「いい情報を与えたい」と思っても、情報を持っていなければかなわない。逆に動機が強くなくても情報を持っていさえすれば転職を助けることができる。転職に有利な情報を得る面では、動機の強い相手がいることよりも、情報を運ぶネットワークの有無が重要であることを示している。

弱くないと「橋渡し」できないのか

ここでひとつの疑問が湧く。つながりが弱くないと「橋渡し」は成立しないのか。

「強いつながり」で結ばれている場合を考えてみる。「友達の友達は友達」というケースだ。AさんとBさんが親しく、AさんとCさんも親しい。するとBさんとCさんも知り合いになる可能性が高く、BさんとCさんのクラスタは結束してひとつのクラスタになりやすい。クラスタがひとつになれば「橋渡し」は成立しない。

一方で、つながりが弱いとこうした状況は起きにくく、「強いつながり」に比べ、クラスタとクラスタを「橋渡し」しやすくなる。

もしつながりが強ければ、BとCのあいだに新たなつながりが誘発される可能性が高まるが、つながりが弱ければ、Aは「橋渡し」的な役割を担い続けることができる。Image: BNL

しかし、次のような状況も考えられる。例えば、父親が製薬会社で働いていて、子供がIT業界で働いている場合。親と子は「強いつながり」だが、それぞれが別のクラスタに所属しているため、親と子の関係は「橋渡し」になり得るのだ。

「微妙な知り合い」が多ければいいわけではない

この考え方をさらに発展させ、「橋渡し」をするかどうかと、そのつながりが強いか弱いかは「相関事象」でしかないと指摘したのが、社会学者 ロナルド・バートだ。つながりが弱いから多様な情報が得られるわけではなく、つながっていないもの同士を「橋渡し」するから、多様な情報が得られる。

バートは、つながりが弱いことは重要ではなく、異なるクラスタ同士を「橋渡し」することが「弱いつながりの強さ」の本質だと主張した。このことから、微妙な知り合いをやみくもにつくることは、「弱いつながりの強さ」という観点からは、あまり意味がないことがわかるだろう。

つながりにおける強度と構造の関係。発生確率が低いだけであって、強度が強い場合でも、「橋渡し」的な構造になる可能性はある(左下)。逆に弱い場合であっても、結束の構造になることはある(右上)。Image: BNL

さらにバートは、「橋渡し」されている二者の間にある隙間を「構造的空隙」と名づけ、そこには、新しい情報を得られる「情報利益」や、つながっていない二者間を競争させることで漁夫の利を得られる「統制利益」など、さまざまな利益があると主張した。実証研究からも、構造的空隙を多く持っている人の方が、新しいアイデアを生み出しやすく、早く昇進しやすいということがわかっている。

「強いつながり」は、深く新しい情報が入ってきやすい

では、「強いつながり」には意味がないのだろうか。ここからは「強いつながり」の強みについても見ていきたい。「弱いつながりの強さ」の本質は「橋渡し」にあると紹介したが、それに対し、「強いつながり」において発生しやすい構造は「結束」である。

結束性に富んだネットワークは、コミュニケーションが活発になるため、より複雑で更新頻度の高い情報が流通しやすいという。また、お互いのことをよく知っているので、複雑な情報や専門性の高い情報を共有するモチベーションが高まる。

それに対し「弱いつながり」の間柄では、多様な情報はもたらされやすいが、その複雑性は低く、更新頻度も高くはない。相手がどういう情報を持っているのかもわからないことが多いため、情報共有に対するモチベーションも低い。

この考え方は「多様性-帯域幅トレードオフ理論」に基づいている。「帯域幅」とは、一定の時間に伝達される情報量を表す概念である。前述の通り、「橋渡し」に富んでいるほどネットワークの「多様性」は高まる。それに対し、「結束」が強くなると「帯域幅」が広がる。これが「多様性-帯域幅トレードオフ理論」と呼ばれる所以だ。この理論は、いくつかの研究結果を参照し、導き出されている。

例えば、スタンフォード大学の経営学者モルテン・ハンセンは、「強いつながり」の方が、相互のコミュニケーションが活発になるため、複雑な知識を伝達しやすくなることを示唆している。また、MITの経営学者レイ・リーガンスとトロント大学の社会学者ビル・マケビリーらは、協調的な規範を育み、個人が時間・エネルギー・知識を相手と分かち合う意欲や動機を増やしやすくすることを実証した。

さらに、アメリカの社会心理学者、ダニエル・ウェグナーが提唱した「交換記憶」も帯域幅への影響を想定できる。「交換記憶」とは、メンバー間の過去のやり取りにもとづき、「誰がどのような知識をもっているか」について組織内で共有された記憶のことだ。「交換記憶」が濃い緊密なネットワークでは、誰がどういう情報を欲しているか、誰にどのような情報について尋ねればよいかが容易に分かるため、接触の数が増え、帯域幅が広くなるということだ。

ネットワーク構造と帯域幅の関係。帯域幅が十分に広ければ、情報5と情報6のように少し重複は発生するとしても、〈結束〉の構造の方が、伝わる新情報の総量は多くなることを示している。Image: BNL

前述の通り、多様な情報を得るという面では「弱いつながり」が優位である。しかし、そもそも情報を与える側の人は、相手が「情報を与えるだけの信頼に足る人物かどうか」がわからないと、情報を与えない。こうしたことを加味すると、結局、転職には「弱いつながり」だけでなく「強いつながり」も重要であるということがわかる。

組織においても、重要な役割を果たす

ここまでは個人にとっての「強いつながり」の価値について解説してきたが、組織の中のネットワークにおいても、大きなメリットがある。

社会学者のジェームズ・コールマンは、結束的なつながりが豊富な集団の中では、相互監視がよく機能し、恩義や期待を裏切った時のサンクション(罰)を行使しやすくなるため、信頼関係が醸成されやすいと主張している。

また、社会学者 デイヴィッド・クラックハートは、組織内の重大な変化において「フィロス的な関係性」が必要不可欠だと主張した。「フィロス的な関係性」とは、相互作用・愛・長期間の持続性という条件を満たした関係性のことをいう。「仲の良い友達同士」のようなものだ。

会社の組織の中には、ビジネス上のフォーマルなネットワークと、友人関係のようなインフォーマルなネットワークがある。クラックハートは、組織の中で重要な意思決定がなされようとしているときは、多くの人とインフォーマルな信頼関係を結んでいる人の働きがないとうまくいかないと主張した。普段ビジネス上で相談役になる人が、組織の大きな意思決定でも頼られるかというと、そうとは限らず、「フィロス的な関係性」を多く持つ人こそが重要な役割を果たすという。

「橋渡し」と「結束」のバランス

「橋渡し」と「結束」、「弱いつながり」と「強いつながり」について見てきたが、実際どちらを重視すると良いのか。人の性格にはそれぞれ特性があるため、個人が橋渡し的な関係と結束的な関係の両方を同じぐらい持ち合わせることは、そもそも難しい。ここでは組織全体のネットワーク形成における「橋渡し」と「結束」のバランスについて考えてみたい。

ブロードウェイミュージカルの製作チームのネットワークに関する研究がある。そこでは、チーム内で「橋渡し」と「結束」のバランスが取れているチームほど、よりクリエティブな作品がつくれていたことがわかった。チーム内のパフォーマンスを上げるには、外からいろいろな情報や新しいアイデアを持ってくる人と、それを具体化するためにチームの結束を強める人のバランスが取れていると、チームの活動は円滑に進む。

「橋渡し」に偏った、信頼や合意形成が不十分なチームでは、異なる意見を取り込む余裕がなく、新しい情報を取り入れても無駄になる。逆に「結束」に偏れば、情報や知識はタコツボ化したり、外部の意見を取り入れにくくなったりするので、視野の狭い合意形成が行われ、早合点による判断ミスも起こりやすくなる。

そこで「橋渡し」と「結束」のどちらに偏ることもなく、バランスを保つため必要なのが、全体のネットワーク構造を俯瞰しながら行動する調整役だ。例えば、結束力の強い集団内部で拙速な合意形成が進んでいれば、外部の人物とのつながりを作り、早熟な意思決定を防いだり、逆に、多様なメンバーだが関係性がバラバラなら「強いつながり」の形成することが重要になる。こうした調整役の働きによって、仲介と閉鎖性のバランスを取れているチームはより発展する。

また、外からもたらされる情報を内部に伝えるときは、そのままの言葉で伝えると、齟齬が生まれる可能性がある。外部から情報を取り入れるときは、内部で使われている共通言語なようなものに言い換えることが大切だ。その翻訳作業をできる人が「橋渡し」の役割を担うと、より良いだろう。

結束的なつながりを多く持つ業種は?

最後に、業種単位のネットワークについて触れたい。2019年、DSOCでは、結束度の高さを業種毎に比較する研究(名刺交換ネットワークのつくる企業間ネットワークの業種間での異質性)を行った。その結果、メディアやIT産業、マーケティング、調査、ファイナンスなどの業種は、結束的なつながりを多く持つことがわかった。

逆に結束的なつながりが少ないのは、建設業やインフラ、製造業、運輸、倉庫業など。この結果は、結束度が高い産業は、知識集約型サービス産業(ナレッジインテンシブビジネスサービス)、つまり複雑でかつ更新頻度が高いような情報を生産したり、流通させたりする産業であることを示している。

結束度が高い業種は、いま以上に密につながるよりも、橋渡し的なつながりを増やす方が、多くの情報を得られる可能性がある。例えばIT業界なら、これまで関連性がなかった他業種と新しいビジネスに取り組むと良いかもしれない。逆に製造業なら企業間での情報ネットワークをつくってみるのも良いだろう。その産業のベースラインが、「橋渡し」と「結束」のどちらに寄っているのかによって、ネットワーキング戦略は変わってくる。


今回は、「橋渡し」と「結束」、「弱いつながり」と「強いつながり」を軸にしたネットワーク研究の世界から、つながることの価値について解説した。

次回は、一度出来たつながりを、保ち続ける方法を探る。特に昨今は、オンラインファーストの出会いも多い。簡単につながることができる一方で、保ち続けることが難しいという側面もあるだろう。オンラインでもオフラインでも同じようにできる、つながりのメンテナンスについて考える。