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キュレーターの仕事は「宝探しと自慢」。ポジティブな未来を描く実験場で「問い」を提示し続ける

日本科学未来館のキュレーター、内田まほろは、自身の仕事を「"宝探し"と"自慢"」と表現する。科学と異分野をクロスさせた展示を企画するうえで軸となっているものとは?これからの時代を見据えながら場所としての存在意義をつくり出している、その思考に迫った。

※本記事は2019年12月に取材した内容を元に、2020年5月に編集を加えたものです

なにを届けるかよりも、誰に届けるか

──内田さんはキュレーターという仕事をどう捉えていますか。

自分なりのキュレーターの定義は「"宝探し"と"自慢"」です。宝物を探して、それがどれだけ素敵かということを人に自慢する仕事。キュレーターは「キュラトス(cutatus)」というラテン語が語源なんですが、英語の「care」、つまり「面倒をみる」とか「労わる」という意味も持っているんです。そういう意味では自慢するだけじゃなくて、モノや人物、さらに空間や時代といったいろんなものを宝として捉え、広く人に伝えていく仕事なのではないでしょうか。

2002年より日本科学未来館に勤務してきた内田。以来、科学と異分野をクロスさせたユニークな展示を企画してきた。

──展示テーマの設定といった「宝探し」の部分は、普段どのようにしているのでしょうか。

極端な話、なんでも展覧会になるんですよね。すべてのものには美があるし、つくられた背景やつくってきた人、歴史、そしてその先の未来があるので、展覧会化することは可能なんです。

重要なのは、宝物を自慢する相手は誰か?つまりどういうお客さんと対話したいかということです。日本科学未来館(以下、未来館)の客層は今でこそだいぶ広がっていますが、最初の頃は、科学好きな人だけしか来ない状況をどうにか変えたいと思っていました。だから、どんな宝物を扱いたいかということ以上に、「この層に科学的なものの見方を伝えたら、みんなもっと楽しくなるんじゃないか」みたいなことをすごく考えます。

たとえば、女性に来てほしいと思って『恋愛物語展』(2005年)を企画したり、建築やものづくりのおもしろさを広く知ってもらうために『メイキング・オブ・東京スカイツリー®』(2011年)を開催したり。いっぱいあるテーマ候補のなかから、なにをどこで出すかというジャッジは、お客さん主体だったりするかもしれないですね。

世界一の高さを誇る自立式電波塔の建設を可能とした、先端科学技術を紹介する『メイキング・オブ・東京スカイツリー®』

最近は、新聞社やテレビ局などの事業者さんの提案を受けて、一緒に作っていくというパターンも増えています。マンモスの冷凍標本を展示した「マンモス展」(2019年)は、提案いただいたものの、当館よりも自然史、生物史を扱う博物館のほうがふさわしいと思い、いったんは検討を見送りました。

でもその後、やはり未来館で新しいマンモス展ができないだろうかという検討がはじまりました。近畿大学がマンモス復活プロジェクトに取り組んでいるのを知っていたので、それも含めて紹介するといった思い切ったことができたら、未来館でやる意義が生まれると提案したんです。そのあと近畿大学の教授に会いに行って交渉し、無事に協力してもらったという流れです。

──2019年には新たな常設展示「計算機と自然、計算機の自然」を公開しましたね。

総合監修を務めていただいた落合陽一(メディアアーティスト/筑波大学准教授)さんは、彼が学生だったときからご縁があって。おもしろい活動をしていることはもちろん、中学生からずっと当館を利用してくれていますし、展示監修者としては特別に若いということもお誘いする理由の一つでしたね。これまで監修者には、どうしても館長の毛利衛と話せるレベルとして年配の方が並んでいましたので、それを変えたいと思ったんです。声をかけたのは、彼が今ほど、メディア的には有名ではなかった3年前。人という宝を探し出すのも、意識的に世間に先駆けて動き出すようにしています。

コンピューター(計算機)やそこで動作する人工知能が高度に発達した未来、人間の自然観や世界観がどう変わるのかを問いかける、落合陽一総合監修による常設展『計算機と自然、計算機の自然』。いけばな:辻雄貴(株式会社辻雄貴空間研究所) 撮影:西田香織

ポジティブな未来を描き、科学技術で実現する

──普段、情報というものにどう向き合っていますか?

いろんな情報が集まりやすい環境ですし、科学の専門家チームと情報交換することもありますが、わたしの仕事は科学のコンテンツをそのまま展示にすることではないんですね。館全体に関わるプロデューサーとして、「未来館をもっとおもしろくするには?」という視点で見ているっていうのはいつもあって。

──館名に「科学」と「未来」が並んでいるのが象徴的ですが、展示テーマを考えるときに、大事にしていることはなんでしょうか?

"悲観論じゃない未来"、でしょうか。未来をポジティブに描くことは、人間だけに備わっている能力なのかな、と。それを、想いだけじゃなくて、ちゃんと実(じつ)を持って前に進められる力が科学とテクノロジーにはあると思うんです。たとえば地球温暖化のようなすごくヘビーな問題であっても、科学を用いれば少しは解いていける。ポジティブな捉え方で、いろんなものをみんなが理性的に受け入れながら未来をつくる。それが、未来館が提示すべき「科学×未来」だと思っています。

──展示に関わるメンバーには、どうやって企画イメージを伝えていますか?思い切ったテーマの企画も多いので気になるところです。

企画立案に協力してもらう研究者は、それこそノーベル賞を獲るような、世界的に著名な方ばかりです。そんな方たちとコミュニケーションをとる際には、「まず自由に考えてください」と伝えていますね。その中からなにを採用するかを判断する材料は、時間とお金です。その方が思い描いたことを充分に実現できないと判断した場合は却下することもあります。だって、本当にやりたいことのほうが絶対にすばらしいから。

もうひとつ大切にしているのは、お客さん目線です。たとえば科学系の専門家に書いてもらった文章が難しすぎたら、半分に削って、さらに半分にしてという作業を繰り返し、一般の人にも伝わるように変えていきます。「先生、ごめんなさい、わたしが理解できなければ、お客さんは絶対理解できませんよ」と。ただし、難解であってもそれが、とても大切なメッセージや研究、技術的な背景であったとしたら、徹底してどうやったら伝わるか、ぎりぎりのラインを考えます。その時もお客さんがどこまで許容してくれるだろうかと。

普段は絶対に交わらない人たちが同じチームにいることも、当館ならではの特徴です。物理学者と映像作家といった、異分野の人同士をつなぐ機会が時々やってくる。みなさん、人の話を解釈して自分のものにしたうえで、再び編集して表現する能力がすごく高いんですよね。だから、社会のために役に立とうとしているか、知を共有しようとしているか、そこの動機がちゃんと合いさえすれば、コラボレーションが起こってキラキラする瞬間が生まれるんです。

企画が成功するかしないかは、どういうチームが組めるかでほぼ決まると思っています。いかにその人たちに、興味をもって、テンションあげて参加してもらえるかが、結果を決めると言えると思います。ですので、実は、最初にオファーするときが一番緊張します。

答えを提示するのではなく、問い続けることが大切

──ユーザーに伝えるメッセージは変化してきましたか?

最初は先端科学を伝えるっていうことが目的だったんですが、2016年に常設展をリニューアルしたときに、もう"答え"を提示するのは違うんじゃないかと。今の時代、答えはネットで調べればわかる感覚がありますから、逆に、"問う"力がないといけないと考えました。ですから、展示の目的やメッセージを変えたんです。

未来館のスローガンは「科学がわかる、世界がかわる」。「問い」を見つけて、「考え」て、「アクション」する、"未来をつくる思考法"を提案している。

たとえばニュートリノの展示は、以前だったら「宇宙で一番小さな物質は素粒子です。素粒子とは......」みたいに解説、説明が中心だったと思うのですが、「自分が存在する一番元はなんでしょうか?」といった哲学的な問いにしてみる。メッセージを押しつけるのではなく、その人の心の中にちゃんと考えが湧いてくるようなアプローチを大切にしています。

スーパーカミオカンデの模型でニュートリノをとらえる様子を体感できる常設展『ニュートリノから探る宇宙』

──2016年だと、そういう考え方はまだ新しかったんではないでしょうか。

そうですね、今は世の中に増えてきた視点ですが、当時はあまり見られませんでした。そういう意味では、科学技術の発展と人間のメンタルはけっこう関係していると思っていて。答えってすぐ変わっちゃうんですよ、実は。

実用化されつつある量子コンピュータでは、確定しない情報、状態が前提です。人間の細胞も7年で入れ替わってしまうように、世界は、本当は常に変わり続けている。だけど近代の妄想として、科学はビシッとした不変の答えを見つけられると思われてきたわけです。

それがやっと今、そうじゃないよねとなってきていて。難しいことはAIが解いてくれるし、コンピュータは量子になるし、地球は安定した状態じゃない。そんな時代がきているから、答えを見つけるのではなく、問い続けないといけないんだと思います。

科学はグローバルでありローカルである

──展示内容が想定を超えた伝わり方をしたケースはありますか?

普段はあまりないことなんですが、「恋愛物語展」のとき、お客さんからけっこうお手紙をいただいたんです。「結婚しました」とか、「彼氏と別れたあとに展示を見て、すごくすっきりしました」とか。ひとつの展示が誰かの人生に強烈な影響を与えのかと、感慨深くなりました。

「恋愛」というものを、あえて科学的な立場からとらえ直した、『「恋愛物語展」 -どうして一人ではいられないの?』

奥さんに未来館でプロポーズをしたという元職員がいて、身内でもあるくらいだから、そういうことが意外にあるかもしれません。未来館っていう場所が、人生の転機のきっかけになり得ることもあるんではないかと思います。

わたしが担当した球体ディスプレイの「ジオ・コスモス」は、科学の知識に関係なく、自分の内面を開いたり、普段とは違う時間軸でなにかを考える瞬間を提供できていると思います。以前、修学旅行で来たちょっとだるそうな中学生の男の子たちが、ジオ・コスモスの下のソファに5人くらいで固まって寝っ転がり、ゲームをしながら過ごしていたんです。ただ、それだけなんだけど、きっと、彼らはその時間を忘れないと思った。展示を通して得られる知識というよりは、ここでの体験や時間が人の本質的なところに語りかける、そんなことができている気がしました。

──今後、未来館をどのようにつくり続けていきたいですか? 見据えているものについて教えてください。

わたしはすごく空間を大事にしていますが、テクノロジーの面からすると、空間は本当に必要なのかが問われている時代です。そして、音も含めて360°空間を記録できる時代でもある。これまでは平面でしか捉えられなかったから、みんな我慢して平面で理解していたわけじゃないですよね。紙とか、モニターとか、スクリーンとか。でもわたしたちは、本当は生活を立体的に理解している。それが手軽にアーカイブできる時代が、もうすぐくると思うんです。この先、それを意識してミュージアム業界に関わっていきたいと考えています。

ミュージアムはいろんなものを何百年にもわたって記録しておく、つまり数百年後の人類に向けて、なにをとっておくか決めるところです。そこに個人的な興味があるので、コレクションをもたない未来館でもそういう活動を先駆けてできたらと思っています。

──取り巻く時代とともに、館としての存在意義も変わってきたのですね。

そうですね。未来館はオープンから20年近くが経って、みなさんがおもしろいところだと感じてくれていると思っているので、次段階としてさまざまな地域の科学館にも興味があります。規模は小さいかもしれませんが未来館のように、一流の知やクリエイティブの世界を用いて、知的好奇心をかっこよく見せられたら。"自分の未来を考える"ことが、日本全体にもっと広がったほうがいいなと思うんです。

あともうひとつ。日本は、特に自然観やテクノロジー観がすごくユニークなので、ここ数年、海外で話をしたりするときに、日本の文化や哲学を意識しています。具体的には、八百万の神的な考え方、食事のときに「いただきます」「ごちそうさま」と言う話とか。人間は自然の一部であって、様々なものとつながっている、それを感謝して生きているような感覚や、暮らし方。それはもしかしたら、今世界が抱えているいろんな問題に少し貢献できる思想や美意識ではないかと思っています。当然、その美意識は、科学や技術の面にも関係しているはずです。せっかく日本にある科学館ですから、オリパラなどとも連動して、普段のアクティビティにももう少し意識していきたいです。科学はグローバルであり、ローカルなものでもある。それをしっかり示して、未来館を一段高みに上げられたらいいですね。

内田が担当した、有機ELパネルを使った球体ディスプレイの「ジオ・コスモス」は未来館のシンボル的な存在。1000万画素を超える高解像度で、宇宙に輝く地球の姿をリアルに映し出す。「宇宙から見た輝く地球の姿を多くの人と共有したい」という館長毛利衛の思いから生まれた。

ポジティブな未来の実験場として、アフターコロナに想うこと

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、取材時(2019年12月)から社会は大きく変化した。科学未来館も2月28日以来、休館を余儀なくされている。これから未来館はどのような情報発信と提案をしていくのか、内田に改めてうかがった。

昨年のインタビューでは、未来館ではポジティブな未来を描きたいとお話しましたが、コロナが変える世界に対して、ポジティブであるべきだと思います。感染症自体は歴史上何度もあったもので、うれしいことではないけれど、人類の未来にとって悲観的な事象ではないと思います。わたしたちの生活の仕方、都市の在り方、経済の在り方、医療システムの在り方などを見直す、更新する必要があるだけです。苦労は伴うけれど、ポジティブな未来を描けると思うし、特に、工学系、情報系の研究者の方たちは、なんだか生き生きしている気がしています。情報化、都市集中問題、もしかしたら環境問題までも解決し得るのではないかと、期待しています。

日本の文化や哲学、美意識の話もしましたが、このコロナ禍でそのことを毎日考えています。対策の良し悪しには賛否両論ありますが、現時点では大国の中で日本の被害は不思議なほど少ない。わたしは、これは偶然とかまぐれではないと思うんです。自然に対するリスペクト、災害に対する考え方、知性、文化力がこの結果につながっていると思っていて、しばらくしてファクトが出てきたら、考察してみたいと思っています。

最後に現在ですが、6月3日の再開館が決定し、「risk≠0」(リスクはゼロではない、だから)というスローガンのもと、新しいルール作りも含めて館内で検討を進めてきました。また、わたしの部署は、東京オリンピック・パラリンピックも延期になったことで、向こう3年分くらいの企画の組み換えをしていて、なかなかしびれる状況が続いています。

わたしたち未来館は、空間を主用な活動としていますので、今後のコミュニケーションの在り方、空間の在り方、ミュージアムの在り方、体験展示の在り方、対話ベースのアクティビティの在り方など、考えなくてはならないことが満載です。再開館後に、走りながら気づくことが多くあると思いますし、考えるための企画を仕込んでいます。あくまでポジティブな未来の実験場として、変化を楽しみながら、お客様をお迎えしたいと思っています。