不確実な未来を生きる言葉

「ずっと先の未来だと思ったことは、すでに起きているのかもしれない」石川俊祐──特集:不確実な未来を生きる言葉

新型コロナウイルス感染症の影響によって、社会にどのような変化が起きるのか、この先の未来をどう捉え直していくのか。本特集「不確実な未来を生きる言葉」では、さまざまな分野の識者の思考を通して、「不確実な未来」について問う小さなきっかけをつくりたいと考えている。私たちは考え続けることでしか前に進めない、考え続けることが人間の根源的な力だと信じて。

新型コロナウイルスが猛威をふるい、世界に大きな影を落とした。日々状況が変化するなかで、さまざまな分野の識者がどのようなことを思考しているのか。本特集では、さまざまな意見を集積していくことで、なにかヒントとなるような小さなきっかけをつくっていきたい。

デザインコンサルティングファーム「IDEO Tokyo」の立ちあげに従事し、デザイン思考やイノベーション創出の普及に努めてきた、株式会社KESIKIのPartner石川俊祐に4つの質問を投げかけた。

※本記事は2020年4月24日にオンラインで取材を行いました

石川俊祐
1977年生まれ。英Central Saint Martinsを卒業。Panasonicデザイン社、英PDDなどを経て、IDEO Tokyoの立ち上げに参画。Design Directorとしてイノベーション事業を多数手がける。BCG Digital VenturesにてHead of Designを務めたのち、2019年、KESIKI設立。多摩美術大学TCL特任准教授、CCC新規事業創出アドバイザー、D&ADやGOOD DESIGN AWARDの審査委員なども務める。Forbes Japan「世界を変えるデザイナー39」選出。著書に『HELLO,DESIGN 日本人とデザイン』。

Q.コロナ禍による影響で社会や生活のなにが変わったか、またその変化をどのように捉えているか。

自分の中で生まれはじめている問いとしては、「本当に必要なものってなんだろう」とか、「なんでこんなに仕事をがんばっていたんだっけ」とか(笑)。そういうそもそもの問いがすごく出てくるようになった。いい意味でも悪い意味でも。そういうことが、いろんな人たちに起きているといいなと、僕は勝手に思っているんですね。

このタイミングに来て、20年後に実現していたらいいなと思っていた未来の鍵となるよう事柄が、いまけっこう浮き彫りになった気がしているんです。僕ら(KESIKI)は「やさしい経済」というミッションを掲げていて、それはかんたんにいうと他者を思いやる経済の仕組みをつくることなんですね。効率をとことんまで追求したり、右肩上がりの成長を目指したり......経済の世界にいる人たちの多くは、こうしたことを当たり前だと信じてきました。でも、いろいろと遮断されてしまっているからこそ、その当たり前を考え直す人たちが増えているんじゃないでしょうか。本当に大切な人たちと、強い絆を維持していく。こうしたことの価値が見直されるんじゃないかと期待しているところもあります。

Q.いま自身の置かれている状況でやれることやすべきことはなにか。また、「すべき」という言葉が持っている重さをどのように考えるか。

この環境において、仕事だったり、生活だったり、それこそ夫婦での家事の分担だったり、ひとつひとつのことを再定義していかないとしんどいですよね。だからこそ、僕はクリエイティブマインドが必要だと感じている。夫婦の家事分担ひとつとっても、働く仕組みや制度を整え、社会通念を変えていかないと、なかなか解決できないこともあります。自分たちだけではどうにもならない大きな課題に対して、それを手助けするようなインスピレーションのソースがないから、取りまとめた場所が必要だなと思っています。

社会に対して何か貢献をしたいという人にとってはアクションにつながるような、解決策が欲しいけど見つけられない人にとってはきっかけとなるような、そういうインデックスのようなサイトを僕らはいまつくろうとしているところです。ライゾマティクスと我々で「Powerful Questions」というプロジェクトとして進めています。

ここでは完成した答えを与えるというよりは、みんなが自分の頭で考えるきっかけをつくることができたらいいですね。粒度の異なる問いに対して、地球レベル、国レベル、社会レベル、会社レベル、個人と、視座の高さを整えていこうと考えています。

いま、悲しいなと思っていることのひとつに、医療従事者が差別されるという話がありますよね。一体どうしてそういうことになってしまうんだろう......みたいな気持ちになります。例えばイギリスだと、一日のうち何時になったら、NHS(National Health Service、イギリスの国営医療サービス事業)の人たちに拍手を送る時間をつくっていたりする。それがベストなソリューションなのかわからないけど、前向きになにかを取り組むということに関して、アクションを起こせるような問いやきっかけが少ないんだろうなと思っていて。

これは今回のコロナ禍の影響に限ったことではなくて、この国の人々は、はっと立ち止まって考える癖を身につけるきっかけが必要なんじゃないでしょうか。僕はそれをクリエイティブという枠組みに入れて考えていくべきだと思っています。

Q.社会的な分断が起きている状況で、つながりをどのようにつくるのか。

僕自身はそこにまだ答えがないんですけど、個人の自由と安全性みたいな話は、ある意味で危機にさらされていると感じます。個人的に危惧しているのが、自由に生きることの境界線みたいなものが危うくなり、この機会で監視社会みたいなものが進んでいく。そういうことになってほしくないという思いはすごくありますね。

あとは透明性をどう担保するか。具体的にいうとプロセスの可視化、物事がどう決まっていっているのか見えてこない。今回のマスク配布にしても、10万円の給付にしてもそうですが、どうやって決まったのかわからない、かつ誰にもそんなに刺さらないサービスが展開されている(笑)。その辺りの可視化がきちんとできたら、情報の偏りによる権力の維持みたいな不均衡もなくなっていくんじゃないかと思います。

僕個人のつながりという意味では、元々気持ちを入れてお付き合いすることを大事にしてきました。よく言われる信頼と信用みたいな話でいうと、信頼を構築できる人と仕事をしてこられた。ここ1~2ヶ月の仕事をふりかえってみても、コミュニケーションの質と量は明らかに両方とも上がっている。あと、Face To Faceと同じかそれ以上に、仕事を超えた本質的な話をするようになってきていますね。コロナ前から僕らが問い続けてきた、共感、共振みたいなことが、まさにこの状況で重要になってきていると感じます。

先日、ある企業のリーダーシップ研修をオンライン上で行ったんですけど、そこで3つのことを話しました。1つ目は「Powerful Question」。人を突き動かす理由をどう投げるか。2つ目が「Creative Feedback」。相手がハッとする、目からウロコじゃないんですけど、自分がやってきたことに対して、そういうやりかたもあるのかという別の視点から投げかける。

3つ目が「Story Telling」。これは日本にすごく足りていない。コンテクストや背景をストーリーとして伝えることを、きちんとやれている企業は少ない。先ほどの透明性の話ともつながりますが、「コレコレすることにしました、以上」みたいなコミュニケーションが多すぎる。単に「what」だけを言われても、根本的なストーリーを語らないことには伝わりません。それによってエンゲージメントや、モチベーションの高さが大きく変わってくる。よりよい方向に物事を動かしていくスキルやリーダーシップは、コロナ禍があってもなくても必要だと思っていました。

Q.いま、読み直したい本や、改めて観たい映画などがあれば教えてください。

本や映画ではないけど......雨の音や虫の声など、ただ自然の音を集めただけの「Nature Sound」というのがめちゃめちゃいいんです(笑)。普段から使っておけばよかったと思うくらいよく眠れます。いま、Zoomとかのオンライン会議ツールを頻繁に使って、テクノロジーを浴びすぎているじゃないですか?通勤していた時とはまた違う、頭の疲れ方をしているような気がしていて。仕事のはじまりと終わり、週のはじまりと終わり、そうした境界線がだんだん不明瞭になってきて、いままで問う必要のなかった問題が出てきている。なんだか不思議な感覚です。でも、けっこう慣れてくると大丈夫なのかもしれないですね。

在宅の生活が続き、家でごはんを食べるのはいいなと実感しています。一方、こうした状況だからこそ、外で誰かがつくってくれたご飯をたべることの尊さを感じたり、その先で様々な食材を生産してくれたり、それを届けてくれたりする人たちのことを想像するようになりました。

未来を創るのは、人々の想像力です。これからの世界では、一部のエクストリームな人たちの想像力が、現実になっていくかもしれません。『ニューロマンサー』で知られるSF作家のウィルアム・ギブスンは、世の中のほとんどの人には知られていないけれど、すでに起こっている未来の兆しを見つけ、小説にするそうです。僕たちがずっと先の未来だと思っていることは、実はすでに起きているかもしれません。いま、未来の兆しを捉えている人たちの考えを、どれだけ議論の爼上にのせられるか。それが、より良い未来を創るために重要ではないでしょうか。