不確実な未来を生きる言葉

「不安を認めて、心を少しでも楽にしていく」犬山紙子──特集:不確実な未来を生きる言葉

新型コロナウイルス感染症の影響によって、社会にどのような変化が起きるのか、この先の未来をどう捉え直していくのか。本特集「不確実な未来を生きる言葉」では、さまざまな分野の識者の思考を通して、「不確実な未来」について問う小さなきっかけをつくりたいと考えている。私たちは考え続けることでしか前に進めない、考え続けることが人間の根源的な力だと信じて。

新型コロナウイルスが猛威をふるい、世界に大きな影を落とした。日々状況が変化するなかで、さまざまな分野の識者がどのようなことを思考しているのか。本特集では、さまざまな意見を集積していくことで、なにかヒントとなるような小さなきっかけをつくっていきたい。

2020年3月に「すべての夫婦には問題があり、すべての問題には解決策がある」(扶桑社)を上梓した、コラムニストの犬山紙子に4つの質問を投げかけた。

※本記事は2020年4月28日にオンラインで取材を行いました

犬山紙子
仙台のファッションカルチャー誌の編集者を経て、家庭の事情で退職し上京。東京で6年間のニート生活を送ることに。そこで飲み歩くうちに出会った女友達の恋愛模様をイラストとエッセイで書き始めたところネット上で話題になり、マガジンハウスからブログ本を出版しデビュー。現在はTV、ラジオ、雑誌、Webなどで粛々と活動中。2017年1月に長女を出産。著書に『すべての夫婦には問題があり、すべての問題には解決策がある』他多数。

Q.コロナ禍による影響で社会や生活のなにが変わったか、またその変化をどのように捉えているか。

全ての人に不安がある状態なので、不安との付き合い方について、メンタルケアの知識が、このタイミングでアップデートされたらいいなと。

働き方に関しては、リモートワークが浸透したことで、これまでコストをかけすぎていた部分が浮き彫りになったと思います。直接会ったほうが良い案件と、この場合はリモートでも大丈夫だな、というのがすごく見えてきましたね。これまでは、現場感覚を持っている人がそう思っていたとしても、上の世代の人が理解していないとなかなか動かないじゃないですか。今回、上の世代の人たちも強制的にリモートワークせざるを環境になっているので、ここまでの状態になってやっと、働き方というのが変わっていくんだろうなと思っています。

私自身の働き方で言えば、より育児と仕事の両立の方法が問われています。いまは子供を保育園に預けられないので。でも地方の仕事がリモートになったりと移動時間が減ったので、前よりも本を読んだりするインプットの時間が増えています。もちろん不安はあるけれど、私はフリーランスが性に合っているので、人に会わないことのストレスの無さも感じています。仕事で人と話すことにはぜんぜんストレスを感じないのですが、人見知りというか、待ち時間や移動時間などの、仕事なのか仕事じゃないのか、なんとも言えない微妙な時間にどうして良いかわからないんです(笑)。

ただ、ここからが仕事、ここからがプライベートという、切り分けが以前とは違って難しいですね。パートナーである夫と仕事の時間の相談など、よりコミュニケーションを綿密に取らないと、こういう非常時にお互いが支え合う関係を築き上げない、このコロナが終わった後に、大事な家族との絆が壊れてしまう可能性もあるよな......と思います。

Q.いま自身の置かれている状況でやれることやすべきことはなにか。また、「すべき」という言葉が持っている重さをどのように考えるか。

いまやるべきことは、自分が不安を感じていることを認める、それが大事なんじゃないかなと。第一にメンタルケア、自分のメンタルはもちろん、パートナーのメンタルにも気を配れるようになっておくべきです。

「自分は強いから」と不安をつっぱねるのではなくて、自分がどんなことを不安に思っているかを一回認めてあげることをして、どうするかをパートナーや友人に傾聴してもらうことが必要だと思う。これはコロナの時だけじゃなく、仕事でも、プライベートでも、本当にピンチの時にまずやったほうが良い。自分の心を少しでも楽にする、軽くしていく作業が必要だと思います。

「〇〇すべき」という考え方は、要するに「〇〇していない」人のことを許せないとなってしまうものだと思っていて、あくまで主語を小さく考えていくほうがいい。臨時休校で仕事ができない保護者への助成措置が、フリーランスは会社員に比べて支給額が半額になるという話が出た時、「フリーランスは自分の好きなことやっているんだから、文句言っちゃダメだろ!」という、"べき論"をTwitterで見た時は地獄だなと思いました(笑)。「おれはこう思う」「私はこうする」だったらいいと思うんですけど、フリーランス全員に「そういう姿勢でいろよ」というのは、ものすごく違和感を感じるし、人の意志を無視することになるのでは......と思いながらインターネットを見ていましたね(笑)。

Q.社会的な分断が起きている状況で、つながりをどのようにつくるのか。

大切にしている親しい友人とは、自分が不安に思っていることをLINEで開示するようにしていて、普段からお互いがSOSを出し合えるような関係をつくっておく。「いつでも困ったときに連絡してね」と言っても、なかなかSOSを出せるものではないんですよ。自分が困った時、相手が困ったときに助け合える関係を築いていたいので、そういうこと積極的にするようにしてきたんですね。

一方で、SNSのタイムラインで子育てに悩んでいる人の言葉が目に入ってくる。「子どもにYouTubeずっと見せてしまった」「自分はダメな親だ」とか書いているわけですよ。そういうのを見ると、いま私が悩みをヒアリングしておくことで、根本的な解決にはならないかも知れないけど、誰かに共有できることで孤独な気持ちがぐっと楽になる。

Twitterで「保育園・幼稚園がおやすみ。親が休み時間を確保する小技教えてください」アンケートを取ったりしているのは、色んな人に聞いてシェアできたらいいなと思って。最初は「ああ〜私も休みたい!教えて!」って私利私欲からですが(笑)。でも、同じようなことで悩んでいる、小さい子どもと暮らしている親御さんの顔が浮かぶ。自分に分不相応な数の方がフォローしてくださっているので、そこへの還元みたいなことはやっていかなきゃいけないと思っていて、一緒に楽になれたらいいなという感じですね。

やっぱり、You Tubeを子供に見せることへの罪悪感がある親御さんは多いですよね。この親が追い詰められている非常時に、この1〜2か月You Tubeを見せることにそこまでなにか問題があるのかなと思うんですね。問題点があるとしたら、コミュニケーションを取らなくなってしまうことと、エルサゲートと言われている不適切な動画を見せてしまうこと。これって、You Tubeを見せながらでも改善できると言えばできるんですよ。リビングのTVとつなぐのもひとつの手だし。動画を見ながらコミュニケーションを取るのもいいし、自分で視聴を終わりにする練習をするのも良い。付き合い方で毒にはなるけど、「You Tube=悪」という、罪悪感を非常時に感じさせすぎるのはいかがかなと。子供が側にいて、かわいいいし、楽しいけれど、ずっと子供の遊びにつき合っている訳にはいかないし、一人の時間を確保することも大事なこと。本当に草の根ですけど、親が抱える罪悪感をつんで行ければなと思っている。

Q.いま、読み直したい本や、改めて観たい映画などがあれば教えてください。

最近だと、「経済政策で人は死ぬか?: 公衆衛生学から見た不況対策」(草思社、2014年)ですね。大不況のときに政府がとった経済対策として、よく例に挙がるのはルーズベルト大統領がとったニューディール政策。家賃保証、食費保証、医療への投資......そういったことをしっかりやった州とやらなかった州で面白いくらい結果が分かれている。緊急時に緊縮をしてしまうと、その後の自殺率や、子供の死亡率が高くなって、経済が悪化することがデータで出ている。いま、国がやろうとしている経済政策について、いい政策なのか冷静に見ていかなければならない。国や時代は違えど、めちゃくちゃわかりやすかったです。

きっと別のことを考えたいからなんでしょうけど、個人的には勉強が捗っているんですよ。停滞している状況だと感じている人が多いと思うけれど、ちょっとでも知識を得ている感覚がすごい気持ちいいというか、精神衛生上とても良いですね。

経済学だけではなくて、いま必要だなと感じるのはメンタルケアの情報ですね。家族のコミュニケーションが増える時だからこそ、家族の不安を丁寧に汲み取って、自分の不安も汲み取ってもらって、お互いコミュニケーションし合うという土壌をつくるためにも、そういう知識を持つことが大切。

あと、自著になるんですが「すべての夫婦には問題があり、すべての問題には解決策がある」(扶桑社、2020年)がマジでおすすめです(笑)。まさにコロナ禍において、家事や育児の悩みもそうですし、夫婦関係をどう話し合っていけばいいか、どう夫婦でメンタルケアするのか、3年かけて取材して書いたので是非読んでほしいです!