ストーリー

音楽家たちの収益を絶やさないために。世界中のリスナーとの接触機会をつくる「origami Home Sessions」

新型コロナウイルスが音楽業界に与えた影響は決して小さくない。多くのライブハウスが営業自粛せざるを得ない状況で、音楽家は活動の場を失うこととなった。この危機になにができるのか......?腕利きミュージシャンを抱えるorigami PRODUCTIONSは、業界に還元できる方法を考え、即座に行動に移すことを選択した。

いま、音楽をはじめとするエンターテインメント業界は、かつてない危機を迎えていると言わざるを得ない。2月末に、全国的なスポーツや文化イベントの中止、延期または規模縮小などの対応を要請されて以来、多くのライブハウスは営業を自粛してきた。それはライブハウス自体の収益も当然ながら、そこで活動するミュージシャンたちの収益もストップしてしまうことを意味する。イベントをオンラインに代替したり、クラウドファンディングを実施したりと、さまざまな手を尽くしているものの厳しい状況は変わらず、だ。

そんな中、mabanua、Kan Sano、Shingo Suzukiといった、実力派のミュージシャンたちを擁するorigami PRODUCTIONSが、所属アーティストの楽曲を無償提供する「origami Home Sessions」を3月31日に始動した。

同プロジェクトは、ライヴができず収益が当面見込めないアーティストにインストトラックやアカペラのデータを無償提供するというもの。楽曲のパラデータ、ステムデータもダウンロード可能で、構成を変える、サンプリングする、ラップや歌を乗せる、楽器を足す、といった方法でコラボ楽曲を制作できるというものだ。制作した楽曲はネットにアップするだけでなく、CDやストリーミングで販売でき、収益は100%リリースしたアーティストに提供される。

また、origami PRODUCTIONS代表の対馬芳昭は、自己資金2,000万円を全て音楽シーンに寄付する「White Teeth Donatin」を4月3日にスタートさせた。誰でも笑えば白い歯(white teeth)が見えることから名付けられた。

音楽業界に20年以上身を置き、自身を育ててくれた業界への感謝と問題意識を同時に抱えていた対馬は、システムや意識も含め構造改革が必要だと考え、2年以上前から貯蓄や投資を積み重ねてきた。しかし、新型コロナウイルス感染拡大という想像を超える危機が突然やってきたことで、いまこそそのタイミングだと決断した。

「レーベル所属のアーティストに対してではなく、自分たちのいるフィールド(畑)を耕すこと。それはいずれ私たちレーベルにも帰ってくると思っています。」と語る対馬に、いまこの状況下における率直な思いを聞いた。なお、この取材は4月13日にオンラインで行った。

いま、恩返しをしなくてはならない

――origami Home Sessionsをスタートさせた経緯

いま、音楽業界はライブができないというのがいちばんの問題です。音楽にはいろんな収益のモデルがあるんですけど、ライブを収益の主軸にしているアーティストが数多くいます。ウチのチームは収益的な部分でいうと、ライブに加えて裏方仕事っていうんですかね、実はそこも大きいんです。プロデュース業やアーティストのバックでの演奏、映画やCMなどの映像に音をつけたりとか......実はいまも締め切りに迫られているくらい忙しかったりします。

だから、音楽業界とひと言にいっても状況が全然違うんですよね。とはいえ、全員なにかしら指針型コロナウイルスの影響は受けている。ウチはふだん、いろんなアーティストやレーベルにお世話になっているので、この状況でなにか恩返しができないかと思ったのが、origami Home Sessionsをスタートさせたきっかけなんです。

origami Home Sessionsは、origami PRODUCTIONSのアーティストによるインストトラックやアカペラのデータを使って、コラボ楽曲をネット上にアップするというものです。インストの上に歌を乗っけてもいいし、ラップをしてもいい。演奏家だったらセッションしてもいい。それを自分の楽曲としてリリースすることが可能で、収益は全てリリースしたアーティストに提供します。

――プロジェクトスタート当社は、どういう広がりを想定していましたか。

特段、想定していたことはなかったのですが、希望としては各アーティストの収益につながってほしいという思いはありました。ただ、それはこちらでお手伝いできる限界もある。各アーティストがいい作品をつくり上げて、それをどこでリリースして、それがいくらになるのかは、それぞれの力になってきます。

いち早くBandcampを使って、楽曲を販売した人はけっこういますね。あそこは本当に一瞬でデータをアップできて、自分で値段を設定して販売できる。そういうカタチですぐに収益を生むカタチになっているのを見て、すごくいい動きだなと思いました。それを見つけるたびに内容がよかったら買うようにしています。

あとは、SpotifyとかApple Musicとかの聴き放題のサブスクリプションサービスがどう波及していくか、これからがすごく楽しみですね。

たとえば、Ed Sheeranの「Shape Of You」は、spotifyでもっとも再生された曲として記録されているんですけど、それは単純な一曲としてのカウントではなく、いろんなリミックスによるバージョン違いによるものなんです。spotifyやapple music上に、いろんなバージョンがあるっていうのは、それだけユーザーとの接触率が上がるんですよね。今回の「origami Home Sessions」も、同じ楽曲のバージョン違いがいくつもアップされることで、ヒットにつながる可能性があると思っています。

origami Home Sessionsに参加した、origami PRODUCTIONS所属のアーティスト。(左上から時計回り)、Kan Sano、Shingo Suzuki、Hiro-a-key、Michael Kaneko、mabanua、関口シンゴ。

いま、ウチのアーティストのリスナーの内訳は、国内が30%弱に対して、海外が70%を超えている状況です。この差は、サブスクリプションのシステムができてから顕著に現れました。だから、上手くウチのアーティストと紐付けるごとで、海外のリスナーにも届く可能性もあるんじゃないかなと。100万フォロワーぐらいの海外のプレイリストに入ると、ものすごい再生されるんですよね。もちろん、BGMとして流れているだけのこともあるので、アーティストとしてどこまで認知されているかの検証は難しいところではあるんですけど。

収益の面でいうと、サブスクリプションは長いスパンでお金になっていきやすい。ベーシックインカム的な金額が毎月固定で入ってくるので、ツールをいかに上手く使うかということで広がり方は全然変わりますね。

――そうしたツールの使い方にアーティストは自覚的なものでしょうか?

それは人によりますね。日本は小さな国と言われますけど、意外とマーケットが大きいんですね。いまはイギリスより大きくて、世界で2番目のマーケットなので。1番は当然アメリカなんですけど、CDが売上という意味では日本のほうが売れてるくらいなので、国内でヒットすればOKになってくるんです。ただ、いずれ人口が減っていく中で、世界で少しずつファンをつくっていき、その集合で成立させるという音楽のほうが、長い目で見たときにいいのではないかと思っています。

音楽業界の構造を変えるための準備をしてきた

――音楽関係者に向けたドネーション「White Teeth Donation」について

今回、自己資金2,000万円で「White Teeth Donation」を立ち上げたんですけど、この新型コロナウイルスの前からプランとしては考えていたんですね。単に寄付をするというよりは、音楽業界の構造を改革ができないか、そういうことにお金を使えないかと。

なぜ、そう考えていたかというと、日本の音楽業界って偏りがひどいんですね。かんたんにいうと、どこかにすべてが一点集中してしまう。アイドルとか子供向けの音楽があるのは全然いいと思うんですけど、売る側(レコード会社)も発信する側(メディア)も、「これしかない」みたいな極端な状態が何年か起きていました。ビジネスの仕方もそれに合わせている部分もあるので、いま売れているものに1点集中でお金をかけて、メディアからの情報も1点集中してしまう。

ぼくは音楽を専門に扱っている人間として、それはやっぱり問題だと思っていたんですね。ビジネスだけではなく、やっぱり文化としてもう少し伝えていかないと、結局最終的には飽きられてしまうんですよ。世界にはいろんな音楽はあり、そうした多様性を認めていけるような価値観をつくりたいと思っているんですね。そのために、小さな額ですけど資金をつくってきたのですが、そうこうしているうちにこうした事態が起こってしまいました。

いま、音楽で生活できなくなってしまう人たちを助けないと、そもそもの「構造を変える」という目的が達成されなくなってしまう。国がアーティストの救済をしないと明言した以上、じゃあ自分たちでやるしかないな、と。

結論としては、僕のまわりの素晴らしい音楽家の活動が止まってしまうことを防ぎたい。だから、音楽をやっていれば誰でも寄付しますというものではないんです。新人のアーティストからもいっぱい連絡は来ているし、感情としてはむしろそっちを重視したいんですけど、今回の意図はそういうことではない。

ここではっきり言っておきたいのは、誰もたかっているわけではないんですよ。こんなことが起きなければ、誰も僕のお金を1円も渡す必要なかったはずです。これはもう緊急事態だから行動に出てるだけの話なんです。

――見通せない状況をどう乗り越えていくのか。

ウチはいま14期目に入っているんですけど、一度も事業計画なんか立てたことないんです(笑)。ふつうは年間の事業計画があって、この時期にはこれぐらいの売上を想定して......ということをすると思うんです。僕も元々ビクターにいたので、それはすごく理解できるのですが、ウチは小規模でやっているからこそ、むしろそこの真逆をいったほうがいいなと。「今なにができるんだろう」を繰り返してきた結果、ここまで続いてきたという自負があります。

2007〜2008年あたりにJAZZY HIPHOPと呼ばれるものが流行った時期がありました。ウチのアーティストが、そこのムーブメントに親和性があったので、そこのファンに向けて最初は売り出していたんですね。あえて、アーティスト写真とかを見せず何人なのかもわからないような状態で。そうした一連のブームみたいなもの去った時に、実は演奏家でしたというところを打ち出して、一気に主戦場をフェスカルチャーにシフトしていったんですね。そこで今度はフェスまわりの人に興味を持ってもらい裾野が広がりました。その後はアイドル全盛みたいなものが何年か続いたときは、今度はプロデューサーとして腕を磨いていこうと、裏方に潜ったりした時期もありましたし。

先を見越したところでわからないので、「これをやろう」と決めることにあまり意味を感じていなくて。時代に合わせてなにができるのか、僕らができることと時代の接点を探すようにしています。ウチのアーティストに実力があるからというのが大前提なんですけど。

だから、いまはアフターコロナ的なことは一切考えていなくて。これが一年続くならこういうやり方をしよう、あるいは2年続くのか3年続くのか、はたまた明日終わるのか、それによって舵を切るようなスタイルですね。

――最後に、音楽業界になにか新しい兆しのようなものはありますか?

今回の新型コロナウイルスに関係ないところでいうと、オリジナリティのある表現をしている新人アーティストがピックアップされるようになってきた。それはすごくいいことだなと思っていて。一時期は、アイドル系JPOPの3グループだけでTOP20が全て埋まるみたいな状況があったじゃないですか。そこから考えると、いいバンドがチャートに入ってきるし、フリースタイルからHIPHOPも盛り上がってきている、新しいカルチャーが日本でも根付いていきそうな兆しは感じています。

こういう状況下で改めて感じたのは、音楽でお腹を満たすことはできないし、医療関係者のように病気を治すこともできない、だけど食事と医療だけでなくて精神面もすごく大事なんだということ。みんなが家にいなくてはならないという特殊な状況で、いろんな音楽家がみんなの精神を少しでもいい方向に持っていこうとする努力がすごく見えるので、そこは音楽の仕事をしていて誇らしいなと思っています。

Gotch - Stay Inside feat. mabanua - MV

インタビュー取材後に、「origami Home Sessions」は着実に広がりを見せている。そのひとつとして、Gotch(後藤正文 of ASIAN KUNG-FU GENERAITON)が origami Home Sessions に賛同し新曲をリリースした。Gotchのソロプロジェクトに参加しているmabanua、ライブサポートをしている Shingo Suzuki の楽曲をそれぞれ使用し制作。OTOTOYのチャリティー配信「SAVE OUR SPACE」で販売している。さらに、その売り上げをWhite Teeth Donationに寄付するとのことだ。