横石崇の「自己紹介2.1」

若者がナンパ離れをした結果━━横石崇の「自己紹介2.1」Vol.3

いまやナンパでさえ、テクノロジーの力によって、効率的で快適な出会い方に変わりつつある。しかしそれによって人間的な感性が失われてしまっては本末転倒だ。横石崇の連載、第三回。

近頃、街を歩いていてもナンパしている人を見かけない。ナンパだけじゃなくて、いわゆる「モデルハント」と呼ばれる、ヘアモデルを探す美容師のナンパ行為も見かけなくなった。いわゆる若者のナンパ離れだ。

友人の美容師によれば、どうやら美容師とヘアモデルを結びつけるマッチングアプリに移行したらしい。覗いてみると、若手美容師たちがこぞって登録している。自分のスキルやメニューを御品書きにしてカットモデルを無料や格安で募っていた。「食べログ」のように★がついた評価欄もあるので、街角でナンパされるよりも信頼できて怖くない。実に現代的な出会いの方法である。

一方で、年配の美容師たちからしたら「街角に立って、モデルをハントして一人前のスタイリストになるもんじゃい!」と怒り心頭かもしれない。しかし、コスパの悪いモデルハントという仕事に精を出すぐらいなら、自分のスタイリングの腕を磨くための時間にあてたほうがよっぽど理に適っているのではないだろうか。テクノロジーの力によって、浮いた時間を本来使うべき時間に代替できるのだから。

そんなことを考えながら、こないだ髪を切りに行った時の話だ。いつものスタイリストがたまたま休みだったので、若いスタイリストが代わりに相手をしてくれた。僕としては自分のスタイリングの希望や悩みは言わずして、言葉の裏側にある思いを察してほしいわけだが、それがなかなか伝わらない。

若手「今日はどうしましょうか。ご要望ありますか」

 「うーん。そうだね。グランドメゾン東京みたいな感じでやってください」

若手「キムタクみたいな感じですね!じゃあ、カタログを持ってきたので、ここから近いものを選んでもらえますか?」

そうじゃない、そうじゃない。僕はキムタクになりたいわけでもなければ、なりたい髪型があるわけでもない。欲しい髪型が明確にあるのであれば、写真を持って駅前の千円カットに行っている。僕は「旅をしてでも食べる価値がある料理をつくりあげていく、あのチームの雰囲気を身にまといたい」と感じているからこそ、このオーダーなのである。自分は何が欲しいのか、似合っているのかなんて、わかっていることはほとんどないのだから。

SNSやマッチングアプリの普及で、突然の自己紹介や会話をするシーンは減ってきている。ナンパも死語となる日がくるかもしれない。だからこそ危機感がある。ナンパをしていたからといって、僕のような面倒な客を相手にする力が身につくわけではないだろうが、効率的で快適な出会い方がある一方で、人間的な感性や野性がトレードオフになっていることも知っておかないといけない。アルゴリズムやテクノロジーが時として、自分自身を、そして人間性をも奪ってしまうという話だ。

ということで、街角にナンパはなくなるかもしれないが、自己紹介で相手の心を掴めるような人間力を磨く場は、もっと増えてほしいと願う今日この頃である。

今日も、あなたの自己紹介にトキメキがありますように! ヴィヴィデヴァヴィディヴゥ!

追伸
若手美容師さんの腕が良かったせいか、ついついキムタク愛用のサングラスを買ってしまいました。