ととのう職場、自然体のキャリア

緊急事態のときに従うのはルール? それとも行動指針? ──連載:ととのう職場、自然体のキャリア VOL.20

ビジネスにおいて、予測不可能な緊急事態や大きな変化が起こったとき。「ルール」に従うことよりも大切なのは、一人ひとりが自分で決断し、最適な行動をとること。「行動指針」は、その判断のヒントになるだろう。羽渕彰博の連載、第二十回。

緊急事態のとき、皆さんが所属する組織は、ルールに従いますか? それとも行動指針に従いますか?

ここで言う行動指針とは、会社としてあるべき言動を一言にまとめたものです。例えば、私が関わった企業の中で好きな行動指針を挙げるとすると、「おもろいアイデアで、未来の定番を創ろう」とか「思ってるだけじゃ伝わらない」とか。会社によってはコアバリューやクレドとも呼ばれています。

言葉にすると短文ですが、どこの企業も時間をかけて作りあげています。作るのも大変ですが、「行動指針」を社員全体に浸透していくのはもっと大変です。短文がゆえに、いかようにも解釈されてしまうし、何よりなかなか浸透しません。

「行動指針」は、平常時の仕事ではそこまで必要を感じない方が多いからです。例えば資料を10部1時間後までに印刷してくださいという作業があったとします。わざわざ「行動指針」に立ち返らなくても目的は達成できますよね。納品物や納期、作業プロセスがある程度決まっているような、確実性の高い仕事では、「行動指針」に立ち戻る必要はありません。では、「行動指針」はどういう場面に必要なのでしょうか。そもそもなぜ会社や経営陣は「行動指針」を定義するのでしょうか。

必要になるのは、不確実な状況で行動しなければならないときです。「行動指針」に立ち戻ることで、決断や行動のヒントが得られます。例えば、コロナウイルスの影響で予定していたイベントを急遽キャンセルせざるを得ず、顧客からクレームが来て怒られるとします。パニックになってしまいますよね。ルールに載ってないことを決めなければいけないとき、社員によって意見がバラバラだとなかなか決まりません。そんなときに行動指針が、自分で判断をするヒントになります。

もちろん、ルールに従っている方が成果が出しやすいこともあります。しかし、その状態に慣れてしまうと、いつのまにかルールがないと行動ができなくなります。緊急事態が起きても、上司が新しい指示を提示しないと動けなかったり、自分は悪くないと責任の押しつけあいが始まったり。ルールに最適化しすぎると、緊急事態に対処できない、脆い組織になってしまうかもしれません。

そしてさらなる問題は、緊急事態が終息したときに、再び問題が起きないようにと、また新たなルールを増やしがちだということ。管理業務が増え、社員の自由度は下がるばかりです。ルール通りに動かなければいけない仕事が増えれば、顧客に価値を生み出すことの優先順位は下がる。実際、何事もルールに従って考えることが良しとされる環境では、新しい価値を生み出そうとすることが評価されにくい傾向にあります。

何かあるのが当然としてこれを解決しようとする組織は変化に対応できる。変化に対応することを主眼とするから、ルールは最小限になる。ルールは機動力を下げると>知っているからである。柔軟かつ機動性をもって解決しなければならない。問題を解決する能力は長けていく。ただし、これだけで終われば同じ問題が何度も起こることへの解決にはならない。両方の力をバランスよくもつことが重要である。

『その島のひとたちは、ひとの話をきかない━━精神科医、「自殺希少地域」を行く』森川すいめい著

経営陣がなぜ行動指針を大切にするかというと、経営陣の仕事のほとんどが不確実な仕事だからです。緊急事態やトラブルが起きたときに判断して片付ける仕事。社会の変化に合わせて新しい事業を考える仕事。

緊急事態のときは未来が予測できないので、一瞬一瞬の決断や行動をどうするか考えざるを得ません。そのときに助けてくれるのが「行動指針」です。社員が行動指針に基づいて自律的に行動できるようになれば、最小限のルールで、変化に適応しやすい組織が生まれます。

コロナウイルスの件が少し落ち着いたら、自分たちの組織はどうあるべきか、タイワしてみるのはいかがでしょうか。緊急事態のときに従うのはルール? それとも行動指針?

執筆者・羽渕彰博のプロフィール
羽渕彰博

reborn株式会社代表取締役CEO

1986年大阪府生まれ。2008年パソナキャリア入社。転職者のキャリア支援業務、自社の新卒採用業務、新規事業立ち上げに従事しつつ、アイデアを短時間で具現化する「アイデアソン・ハッカソン」のファシリテーターとしても活躍。2016年4月に独立し、リレーションシップデザインを軸とする株式会社オムスビを設立し、組織変革したい企業様向けの組織コンサルティングサービス「reborn」を提供。2020年、株式会社オムスビをreborn株式会社に変更。