企業のいま

空港カウンターでスタッフを支援する「日本的AI」とは?━━知見と技術が高度に融合するアクセンチュアの提案力

「答えのない時代」において、企業の課題はますます複雑化している。コンサルティングファームに求められる役割も自ずと変化してきている。顕在化していない課題を、どのようにして価値あるカスタマーエクスペリエンスにつなげていくのか? JALとの共同プロジェクト「空港旅客サービス案内支援システム」から、同社の提案力と実行力の秘訣を紐解く。

かつてコンサルティングファームといえば、顧客の課題に対して業界分析などをもとにひとつの"正解"を示し、その実行を支援するのが主流であった。しかし時代は変わった。今のコンサルタントには、「取り組むべき課題は何か」という"問い"を探すところから顧客と協働し、顧客自身が主体的に進む方向を見つけることをサポートし、新しいソリューションを生み出してビジネスを変革するところまで寄り添うことが求められる。

2019年3月、まさにそのような協働の末にアクセンチュアと日本航空株式会社(以下、JAL)が生み出した「空港旅客サービス支援システム」が、成田空港と羽田空港の国際チェックインカウンターに試験導入された。

そのシステムは、乗客からの多岐に渡る問い合わせに対し、空港スタッフが発言した内容をAIが正確に解釈し、スタッフのタブレット端末に適切な情報を表示させるというもの。従来は紙の資料や他の情報端末で探す必要があった情報が瞬時にタブレットに表示される。これによって乗客を待たせる時間が短縮され、顧客満足度の向上だけでなく、スタッフの満足度向上にも寄与することが期待されている。

特にAIを活用するという点で、従来のシステム開発とは異なるプロセスが求められた本プロジェクトについて、長年にわたってJALを担当するコンサルタントのKei T.と、AIに関する専門家として関わったAIエンジニアのQifeng C.に聞いた。

※アクセンチュア株式会社の意向により、本記事では同社社員の氏名をイニシャルで表記します

コンサルティングと技術のスペシャリストがチームに

――JALのプロジェクトにおけるおふたりの役割を教えてください。

Kei T.(以下、T):私はアクセンチュアで航空業界のお客様や空港に関わる仕事に長く携わっていて、JALに関しては2013年から様々なプロジェクトに参加してきました。今はJALに関わるプロジェクト全体の責任者をしています。今回お話するAIの導入プロジェクトでは、プロジェクトマネージャーも兼任しました。常時10ほどのプロジェクトが動いていて、それぞれJAL側の担当部門が異なるので、部門を超えた横の連携が必要になることもあります。そこをうまく支援するのも私の役割です。

Qifeng C.(以下、C):私は2018年頃に今回のプロジェクトに入りました。その中で私はAIやデータ分析の技術を使ってお客様の課題を解決する役割を担っています。

Qifeng C.
アクセンチュア シニア・マネジャー。AI活用プラットフォーム"AI Hub"を中心としたChatbot、音声、画像などAIを活用するサービスの実現支援を行う。

――おふたりは異なる組織に属しているんですね。

T:そうです。アクセンチュアは「ストラテジーおよびコンサルティング」「インタラクティブ」「テクノロジー」「オペレーションズ」の4つの領域ごとに組織が分かれていますが、我々コンサルティングがお客様を理解し、お客様の課題を解決するために適切なスキルを持ったメンバーを組織横断で連れてきてチームを組成するんです。

ドラクエでいうと、コンサルタントは勇者みたいなものですよね。魔法も使えるし戦えるけれど、魔法使いには勝てない。AI領域のスペシャリストであるQifeng C.は、魔法使いです(笑)。彼らのような人材をうまく組み合わせてチームを作れるのがアクセンチュアの強みですし、それをうまくやるのがコンサルティング/ITサービス企業の役目です。

――強いチームを作るために、どういうことを意識されていますか。

T:ひとつには、良い人材を採用することです。実は、Qifeng C.を採用したのは僕でして(笑)。彼はもともとコンサルティングの部門に所属していたんですが、AIの方にものすごく強みがあったので途中で専門部署に移りました。そうしたら水を得た魚のように大活躍するようになり、今回のプロジェクトで再び彼と仕事をすることになったわけです。

ですから、良い人材を採用することと、その人材にいかに活躍してもらうかということがとても重要ですね。そのために、会社としては各自が働きやすい部門を見つけてもらうような支援もしていますし、個人的には、いろいろなイベントに顔を出して社内的なネットワークを作るようにしています。

Kei.T
アクセンチュア シニア・マネジャー。日本航空株式会社担当統括責任者。エンターテインメント業界での経験を皮切りにグローバルの各地域(北米、インドなど)でのコンサルティング実績を有す。 日本では航空(旅客・貨物)・自動車・エンターテイメント・小売業界のプロジェクトに従事。業務改革・ PMO/チェンジマネジメント・レベニューマネジメント・アナリティクスに強み。

複数のAIの組み合わせでできることを模索

――AI導入のプロジェクトは、どのような経緯で始まったのでしょうか。

T:JALは、2016年頃からIT部門を中心にAIの活用を検討されていました。ただ、AIを業務に使える状態にするのに、ものすごいコストと手間がかかってしまうという状況で、なかなか実用には至らず、閉塞感を抱えていらっしゃいました。

そんな時、たまたま弊社の「AI HUBプラットフォーム」をご紹介する機会がありました。

「AI HUBプラットフォーム」は、複数のAIエンジンを組み合わせて使うところに特徴があります。アクセンチュアは特定のAI製品を持っているわけではないので特定製品に縛られず、お客様のニーズに応じて最適なAIを組み合わせてソリューションを提供可能です。

取材が行われたアクセンチュア・イノベーション・ハブ東京は、各分野の専門家と設備が集まり、最適な機能とタレントを組み合わせ、構想から実現までを顧客と共に進めるための拠点だ。

例えば今回の取り組みでは、音声を聞いてそれをテキストに落とし、その中から必要なワードを拾い出し、それを検索するという形で、3つのAIを組み合わせています。これをひとつの製品でやろうとすると、音声認識は得意なんだけれど検索のところは弱いなど、性能に凸凹があるんですね。そうなると、全体の精度は弱いところに引っ張られてしまいますから、業務に利用できる状態になるまでAIを育成するのに大きなコストと時間がかかります。

我々の場合、それぞれの機能に対して最適なAIを組み合わせるので、育てる手間が大幅に減るんです。そのようなご説明をしたところ、「ぜひやってみたい」と。ただ、技術検証だけではビジネス課題の解決にはつながらないので、空港本部を巻き込み一緒にプロジェクトを始めることになりました。それが2018年の4月頃です。

――空港旅客サービス支援にAIを使うというのは、アクセンチュア側から提案したのですか。

T:いいえ。お客様側の空港本部としては困っていることがたくさんあって、プロジェクトの開始段階では、どの課題をAIで解決するかまでは決まっていませんでした。

そこで、まずは現場の方を巻き込み、一緒にワークショップをして空港でのペインポイントを顧客目線で挙げてもらいました。それをジャーニーマップに落とし込み、Qifeng C.からはそれぞれの課題に対してどういう打ち手があるのかということを説明しつつ、お客様と議論しました。その結果やりたいことがいくつかに絞られ、そのうちのひとつを今回のプロジェクトでお客様と一緒に形にしました。

――そういうやり方は、クライアントにとっても新鮮だったのでは。

T:はい。これまでのコンサルティング・アプローチは、ロジカルシンキング、つまり左脳で考えて理詰めで進めていくようなものが多かったのですが、AIを活用する場合は、実際の空港でAIがどこまでの精度を出せるのかも未知数なので、最初に計画を立ててそのとおりに進めるというわけにはいかないんですね。少しずつ開発してはうまくいくのかどうかを試し、うまく行かない点を直しながらさらに開発を進めるというアジャイル的なアプローチになります。また、今は存在しない新しいサービスを作るという観点からも、右脳と左脳をうまく組み合わせてアイデアを生み出していく必要があります。

当時、そのようなアプローチでプロジェクトを進めるための「Accenture FORM」という方法論ができたところだったので、それを使って進めていきました。

ロジカルシンキングとデザインシンキングを組み合わせたAccenture FORMを土台に、新規ビジネスや新製品・サービスの創出、組織・企業変革の支援を行っていく

顧客との協働が可能にするスピーディな開発と改善

――開発期間2週間で試験導入したということですが、かなり速いペースなのでは?

T:デジタル系のプロジェクトはいかに早く価値を刈り取っていくかが重要です。そのため、ワークショップで取り組む課題を決めた後、2週間ほどでプロトタイプを開発できたのは大きな成果でした。それはQifeng C.のような技術者がいないとできないことです。

――Qifeng C.さんたちが持っている強みは、どのようなところにあるとお考えですか。

C:いろいろなプロジェクトを経験して技術力を高めているということもありますが、それ以上に重要なのが、そもそも何を作るべきなのか、プロトタイプで何を検証するのか、というところの理解力だと思います。ワークショップの段階からコンサルタントだけではなく、AIに詳しいエンジニアのチームが参加することの意味が、そこにあるんです。

よくあるプロジェクトでは、顧客と直接やりとりして提案する営業側と開発側がはっきり分かれていて、お互いの情報伝達がうまくいかないんですね。我々は一緒にワークショップに参加することで、ユーザーの細かいニーズやニュアンスがわかります。開発期間は2週間だとしても、その前からだんだん「こういうものを作るんだな」ということが見えてきます。そして、ただプロトタイプを作るのではなく、何を試してもらうのか、試したユーザーのフィードバックに基づいてどう直せばいいのか、ということが理解できるんです。

T:お客様は自分たちの業務のことを一番よくわかっており、我々は他社の事例やテクノロジーのことをわかっている。そこをつなげるのがコンサルティングの仕事なのですが、Qifeng C.のようなエンジニアがお客様の仕事を理解した上で、こういう機能があったら便利ですよね、といったことを提案し、素早く形にできるのが我々の付加価値だと思っています。

――クライアントだけでは気づかなかったようなソリューションとしては、どのようなものがありましたか?

T:実は、最初のワークショップで出てきた要望をもとに作った機能は、実際に空港のカウンターに持って行ってみるとあまり使われなかったんです。「じゃあ、カウンターにいてよく尋ねられるのはどういうことですか?」と聞いてみると、飛行機内の座席の情報だと。「いつも紙のシートマップを出して説明しています」ということなので、「それなら、シートマップをタブレットで見せられるようにしましょう」と提案しました。

そのタブレットについても、それまではスタッフが閲覧することしか考えていませんでした。でも、タブレットが置いてあると、乗客の方に「それは何?」と聞かれることが多いという話が出てきて、「お客さんと一緒に見て、コミュニケーションするツールにしてみては?」というアイデアにつながりました。

現場でプロトタイプを使いながら話し合うことで、新しい使い方や目的が見えてきます。それをクイックに開発し、また使ってもらう、というサイクルでサービスが進化していきました

開発前から一緒にワークショップを行なうことで「こういうものを作るんだな」という全体像が見えてくる。つまり「プロトタイプで何を検証するのか」の理解力が重要だと言える。

「失敗」を「大きな失敗」にしないために

――プロジェクトを進める中で、クライアントとはどうやって進捗状況を共有されていたのでしょうか。

T:大規模なシステム開発プロジェクトでやるような進捗管理は一切しないと、始めに宣言しました。「そこにかける工数があったら、モノを作る方にかけます」と。進捗については、頻繁に作ったものを見てもらうことで理解していただくということになります。とにかく、先方に足繁く通いました。

――そこは、アナログに泥臭くやっていくことが大事なのでしょうか。

T:そうですね。デジタルのプロジェクトほど、お客さんの熱量やシンパシーがすごく大事なんです。お客様のモチベーションを下げない、飽きさせない工夫が必要ですね。

C:業務の現場である空港にもよく行きましたね。プロトタイプを使ってうまくいかないところを聞いて、その場で直したこともあります。

カウンターでお客さまがなにを求めているのか、現地でチェックして改良を重ねた。「一時期は毎日空港に出勤していました(笑)」と当時を語る。

――現場に行くことによって得られた気づきがありましたか。

C:スタッフの音声を収録するのに、最初は指向性のあるスマートスピーカーをカウンターに置くことにしていたんです。かなりスペックの高いものなので、デザイン段階ではそれで問題なく音声を録れると思っていました。でも現場に行ってみると、スタッフの方は会話をしながらかなり動くんですね。カウンターから出てお客さんを迎えに行くとか......。そうなると、指向性があることで逆に音声を録りづらくなりますから、イヤホンマイクに切り替えてシステムの調整をすることになりました。

――AIを使うプロジェクトは、最初に計画を立ててその通りに進めるようなことはできない。うまくいかないこともある前提でやっていくものだというお話がありました。その点をクライアントにも理解してもらうにはどうしたら良いのでしょうか。

T:デジタル系のプロジェクトをやるときは、PoC(Proof of Concept:概念実証)はもちろん大事なのですが、それと並行して将来像を描くことが大事です。

PoC病というのがあって(笑)、PoCだけで成否を判断すると、目の前の小さな課題が解決されるだけで終わってしまうんですよね。そうならないためには、将来的にどういう姿になりたくて、そのためにこのPoCをやるんだ、という位置づけをきちんと示していくことです。

それと、最近の経営者の方は「失敗は大事だ。どんどん失敗していこう!」とおっしゃるのですが、実際に目の前で大きな失敗をすると、やはりがっかりされることもあります。それは仕方ないことです。

ですから、大きな失敗をしないことは大事です。アクセンチュアでは「ガードレール」と言いますが、転んでも大丈夫な範囲をきちんと設定して、その中で転ぶのがポイントですね。そして転んだ後は、可及的速やかにリカバリーして「この失敗からこういうことを学んで、こういう成果が出ました」ということをクイックに見せる。失敗したこと以上の学びをすぐに見せることによって、小さな失敗を過去のものにし、成功に向かって進んでいるという状態にするんです。

C:小さくてもいいから最初に成功を見せることも大事ですね。そうすると、ある程度安心してもらえて、チャレンジできる範囲が広がります。自由度が広がることで、発想も広がり、面白いものが作れるようになるんです。

尖った個人のネットワークが組織の力に

――今回のプロジェクトは、同業他社と比べても先端的なものなのでしょうか。

T:ありそうでなかったソリューションだと思います。というのも、AIを使ったシステムというのは、例えばチャットボットのようにAIだけで完結するものが多いのです。欧米の会社であればそれでも良いかもしれませんが、日本の航空会社というのはサービスレベルがとても高いので、AIだけで顧客サービスを済ませようとするのはとても難しいです。

今回は、AIが人をサポートし、より高いレベルのおもてなしやサービスを提供できるようにするものですから、とても日本的なAIの使い方だと言えるでしょう。そういう意味で非常にユニークで、ほかの航空会社にもあまりない取り組みだったと思います。

――クライアントの反応はいかがでしたか。

T:これまでは、ご案内するのに紙の資料が必要であったり、その資料もいろいろなところに散らばっていたりして、スタッフの経験や知識によって対応の品質に差が生まれていたそうです。それが、誰でも必要なときに必要な情報を手にすることができてお客様をお待たせする時間も短くなり、応対の品質が総じて上がったと伺っています。

スタッフの方からも、「こういうものが手元にあると心に余裕ができて、接客することが楽しくなった」というような声をいただきました。

C:IT部門のリーダーにも、すごく感謝されましたし、特に印象的だったのは、最初にプロトタイプをもって空港に行ったとき、カウンターでそれを使ってみたスタッフの方が「泣きそうなくらい嬉しい」と言ってくれたことです。

T:ワークショップにも参加していて、一緒に作ってきたものがカタチになった、それを実際に現場で使うことができて、お客さんにも「すごいね」と言ってもらえたのがすごく嬉しかったようですね。「アクセンチュアが作ったシステム」ではなく、「自分たちが作ったもの」だと捉えてくれたのが、私たちもすごく嬉しかったですね。

「アクセンチュアが作ったシステム」ではなく、「自分たちが作ったもの」と感じられること。これからのコンサルティングあるべき姿のひとつではないだろうか。

――最後に、アクセンチュアだから提供できる価値、そしてここで働くことの醍醐味はなんだと思われますか。

T:自分にないものをもっている尖った人がたくさんいることですね。そういう人たちをうまくまとめてチームにすることで、他にはない価値を提供できると思っています。

今は答えのない時代ですから、昔のようにベストプラクティスを持ってきて適用するということには、あまり価値がなくなっているんですよね。そうすると、「答えがなにか」ということではなく、自社はどうしたいのか、意思をもつということが大事なんです。日本の企業はその部分が少し弱いことが多いので、僕らの方で「こんなことができるんですよ」ということを見せながら、チームで一緒に作り上げていくことができるのがアクセンチュアなんです。

C:変化が激しくて答えがないという時代には、やりながら決めていくことが重要ですよね。リスクを取らないと遅れをとるだけです。いかに効率よくリスクをとって、効率よく失敗し、そこから学ぶことができるか、ということだと思うんです。

その点、アクセンチュアは失敗できる雰囲気があるのが良いですね。個々のプロセスでの失敗があまり問題視されず、そこから何を学ぶかというところが重視されています。

「答えがなにか」ではなく、自分たちはどうしたいのか、その問いが企業側には求められる。そこの軸があることで、チームで一緒に作り上げるアクセンチュアが提供していく価値が発揮される。

また、いろいろな技術や知見を持った人たちがいて、社内ネットワークが強固なのも良いところです。僕は中途入社をしたのですが、入って間もないときでも必要な情報を持っている人を探すことができ、コンタクトを取れば親切に教えてもらえました。逆に、AIの技術に対してアドバイスを求められることもよくあります。それぞれが持っている技術や知見をうまく融合できていると感じます。