横石崇の「自己紹介2.1」

キャバクラ嬢のデジタルトランスフォーメーションから、大切なことを学んだ━━横石崇の「自己紹介2.1」Vol.2

デジタルトランスフォーメーションが実現すれば、コミュニケーションの形も当然変わる。しかし忘れてはいけないのは、時代が変わろうとも、生身のやり取りで信頼関係を築くことが大切である、ということだ。横石崇の連載、第二回。

昨年末の話だ。連れられて六本木にある高級キャバクラに行ってきた。小心者の僕は相変わらずどうやって愉しめばいいのかわからないので、隣の嬢を横目に空間観察をしていると、女の子たちが名刺を配っていないことに気がついた。以前までは名刺を配るのがお馴染みの光景だったはずだ。家族がいる手前、こういった場で名刺をもらってもどうしたものかと困っていたので有り難い。

そして、その名刺代わりになっていたのがインスタだ。自分のスマホでインスタ画面を見せながら話題を振り撒き、フォローをせがめば紳士たちがおいそれとフォローする。

こないだ地元にできたケーキ屋さんなんです。スーン、スーン(スクロール音)。

隣の紳士  へー!これ、どこにあるの。美味しそうだね。

 六本木にも美味しいケーキ屋さんあるんですよ。ほら。スーン、スーン(スクロール音)。

隣の紳士  いこう、いこう♡ ポチ(フォロー音)。

 スーン、スーン(スクロール音)。

だいたいこんな感じで二人の時間は流れていく。私が何者で、何が好きなのか(欲しいのか)は、もはや名刺ではなく、インスタを見てくれというわけだ。実に現代的で、効率もよく誠実な自己紹介かもしれない。

もはや夜の社交場であっても、デジタルトランスフォーメーション(DX)の大きな波に飲み込まれていく。しかし、DXが進んだとしても、彼女たちとやりとりをするのはハードルが高い。特に最初の挨拶なんかは、嬢に対して「お世話になります」では重々しいし、「こんにちは」というのものなんだかこそばゆい。かといって「おいっーーす!」「やっほー!」っていうノリも年甲斐がない。そんなことにモヤモヤしていたとき、ハッとさせられる話を聞いた。

日本マイクロソフトが社内コミュニケーションにまつわる調査をした結果、社内チャットでも、文頭に「お疲れさまです」をつける若手社員が多くいることがわかったらしい。

ここでは生産性や創造性の向上を目指す中で、形骸化された儀式的コミュニケーションの是非を問うているわけだが、そもそもなぜ社員たちは「お疲れさまです」という常套句をつけてしまうのか。

その理由は、普段のオフラインにおいて、しっかりとした人間関係や信頼関係が築けていないからではないかという指摘だった。なるほど。雑談であれ何であれ、普段の何気ないコミュニケーションが土台にあれば、儀式的作法は不用だ。そう、オフラインのコミュニケーションなくして、真のDXは望んではいけないのだ。

いろいろ回りくどかったが、何が言いたかったのかというと、世界中でDXが進めば、これまでの自己紹介や名刺交換などのコミュニケーション作法もあまり必要とされなくなるのかもしれない。しかし忘れてはいけないのは、結局のところ、信頼関係が築けるような生身のやり取りが大切であるということだ。それをおざなりにすると、会社の仲間でもキャバクラ嬢でも、コミュニケーションなんて上手くいくわけがないという話である。

更に言えば、このコラム自体は生身のキャバクラ嬢とステキな信頼関係を築けなかった僕の言い訳でもある。さぁ、六本木の美味しいケーキ屋さんを探すとしよう。

今日もあなたの自己紹介にトキメキがありますように。 ヴィヴィデヴァヴィディヴゥ!