EVENTS INFO

先読みしたコミュニケーションで「特別な体験」を顧客に提供。いま企業が取り組むべきパーソナライズのあり方とは?

デジタル領域のマーケティング活動で重要視される「パーソナライズ」。しかし、企業が施策として導入するときには必ず障壁が存在する。10月9日に開催された「Eight Business Solution Forum」は、いま企業が取り組むべきパーソナライズについて改めて考える2時間となった。

去る10月9日、Sansan株式会社のイベントスペースで初開催された「Eight Business Solution Forum」は、識者が実践によって得た「気づき」をシェアすることでビジネスにおける課題解決へのヒントを探るトークセッションだ。

今回、設定したテーマは「Personalized Experience」。登壇したのは、1年前より「Adobe Target」(ターゲティングによる表示の最適化、レコメンド機能を持つアドビ社の製品)を活用したパーソナライズに取り組む株式会社ジェーシービー・マーケティング部の大串昌博と、近年のデジタルマーケティングを牽引するアドビ システムズ 株式会社・プロダクトエバンジェリストの安西敬介。

デジタル領域におけるマーケティング活動として無視できないキーワードである「パーソナライズ」について、それぞれの視点からその手法のみならず、パーソナライズによる効果、AIなどの活用事例について語られた。

Sansan株式会社のイベントスペース「Garden」で初開催された「Eight Business Solution Forum」。デジタルトランスフォーメーションやデジタルマーケティングに関心のある、企業のマーケティング担当者などが集まった。

ファシリテーターを務めたのはBNL編集長・瀬尾陽。「顧客にどのようなメッセージを発信し、どのようなコンテンツを提供するのか。本質はその"企業らしさ"を届けるための施策、つまりパーソナライズはブランディングに近い活動だと感じています。テクノロジーとアイデア、そして"らしさ"の掛け合わせが顧客にとっての〈特別な体験〉を生み出す鍵かもしれない」と語った。

マスではなくセグメント化したコミュニケーションへの転換

Session1では、「クレジットカード事業における顧客体験管理」と題し、大串が最初の講師を務めた。

株式会社ジェーシービーは日本で生まれた唯一の国際カードブランドとして、加盟店事業、カード事業、ブランド事業、プロセシング事業という主に4つの事業を展開する。今回話題の中心となったのは、JCBカードの発行拡大を図るカード事業におけるパーソナライズの施策と効果について。「新規カード入会申込」と「カード利用促進」という2つのKPIにおいて、それぞれどんな施策を行っているのか。

「新規カード申込は、お客様の情報がないため、アノニマス(匿名)の訪問者をパーソナライズするのが難しい。その課題をどうすればクリアできるかと考え、昨年から取り組みを始めています」と大串は切り出した。

大串昌博
株式会社ジェーシービー マーケティング部 マーケティング戦略室。Sierからネット系ベンチャー企業を経て2006年にジェーシービーに入社。入社後はポイントモール立ち上げ・SNS開設などを手掛ける。またOki Dokiポイントの運営など従来型のマーケティングも経験。現在はマーケティング中長期戦略策定に携わる。

「従来は新規顧客と既存顧客の出し分けのみを実施していましたが、会社視点での売りたい商品の訴求のみを行ってきたため、離脱者が目立つという実情がありました。旅行好きの人には航空系の提携カードを配信したほうが圧倒的に訴求力はあるのに、そこまで握れていなかったのです」

そこで、従来活用していた解析ツール「Adobe Analytics」に加え、現在「Adobe Target」も活用したパーソナライズを実践している。「Adobe Analytics」で顧客を把握し、「Adobe Target」によるウェブサイトでのコミュニケーションをすることで、セグメントによる出し分けの実践を行う。ちなみにサイトの閲覧履歴が全くない人に対しては自動最適化による配信を行い、この部分にAIとマシンラーニングが顧客ニーズを予測する「Adobe Sensei」を活用した自動パーソナライゼーション機能を10月から適用。「今後、何か面白い結果が出るのでは」と大串はみている。

パーソナライズのメインどころともいえる「カード利用促進」における、顧客とのコミュニケーションについては、各部署がKPI達成のために行う企業視点のコンテンツを提供するのではなく、顧客ときちんとコミュニケーションを取るためのルールづけを議題に掲げ、1年前から実践している。それは従来のようなターゲティングなしのマスアプローチではない。例えば利用金額帯やカードの保有年数、利用業種割合など、最大50ほどのセグメントに顧客を分類し、それぞれに訴求すべきサービスや機能を洗い出す。年間を通じたサービスの提案を行うコミュニケーション方針に切り替えたという。

「お客様を理解するという意味でペルソナを設定するのはもちろん、設定したら誰に、何を、いつ、どんな風にコミュニケーションするのかを具体的にします。その定義をした上でカスタマージャーニーマップを作成し、年間コミュニケーション計画に基づいてPDCAを回していくようにしました」

さらには、初期会員向けに入会のお礼やポイントの仕組みなどシナリオを区切ってメールをオンボードでセグメントし、カードの利用があった顧客にはカード利用者向けのフォローを、利用がなかった顧客に対しては違った角度から利用を促すアプローチをした。その結果、お礼メールの開封率が70%、会員専用サイトへのログイン率が43%アップしたという。

年間コミュニケーション計画に従って実績を積み上げていくことが重要だと語る大串。部門横断型の施策となるために、これまでの営業手法とパーソナライズの両輪で考えていくことで、社内にカルチャーとして浸透させていったという。

「従来のメール施策対象者と今回実施したシナリオ対象者で、エンゲージメントの差異を比較したところ、キャンペーン登録率と入会後半年のカード利用額がともに10%、アプリのログイン率が15%上がりました。このように、きちんとセグメントしてオンボードでシナリオを組み、お客様とコミュニケーションをとれば、自然とコンバーションは上がります。当然といえば当然ですが、実際に結果が出たことで一気に舵を切り、社内を説得しながら進めているところです」

顧客に「特別な体験」を提供するために企業が考えるべきポイント

Session2では、「最高の顧客体験を届けるためのパーソナライズドコミュニケーション」をテーマに安西が講師を務めた。

安西はまずパーソナライズによる効果を提示することで、参加者の興味を引きつけた。『ハーバード・ビジネス・レビュー』に掲載された情報によると、パーソナライズがヒットした場合、獲得コストを50%削減、売上が15%向上、マーケティングによる支出効率を最大30%向上させることができるという。

安西敬介
アドビ システムズ 株式会社 アドビカスタマーソリューションズ統括本部 プロダクトエバンジェリスト。2001年から国内大手航空会社にてウェブ解析やデジタルマーケティングを担当後、2008年にオムニチュア入社。2009年、アドビのオムニチュア買収によりアドビシステムズへ。エンドユーザーとしての経験を生かし、解析・パーソナライゼーション・デジタルマーケティングCoEなどのコンサルティングを実施。2017年3月よりプロダクトエバンジェリストを務める。

安西によるとパーソナライズでやるべきことは2つ。「関係性の高いコンテンツの提示」と「効率性を向上させる」ことだ。これらをうまく組み合わせていくことが鍵だという。

「正しい人(Right Person)に、正しいタイミング(Right Timing)で、正しいコンテンツ(Right Contents)を、正しいチャネル(Right Channel)で提供することを、僕らは"4R"と呼んでいます。この4R実現のためにはお客様のコンテクストやニーズを知り、正しいオファーを提供していく必要がありますが、皆さんがビジネスの視点でパーソナライズをしていく時には、何を考えていけばいいのでしょうか」

ここから安西は、企業が行うべきパーソナライズの実現に向けた4つの要素を展開した。

1つ目が「顧客データの利用」。データを統合・活用できるようにすることで顧客のコンテクストを理解し、最適なコミュニケーションにつなげていくのだが、「顧客属性」「登録された関心事」「ウェブの閲覧状況」「キャンペーンの反応」というカテゴリの中で、顧客属性に基づいたパーソナライズの比重が最も高い。しかし安西は、「属性よりも顧客の行動で出し分けた方が効果的かつ簡単」だと指摘する。つまり、「ウェブの閲覧行動」をパーソナライズに取り入れない手はない。

2つ目は「最適なコンテンツ」。PC、スマートフォン、アプリ、IoTといった多様なデバイスに合わせて適切なコンテンツを提供するためには、どれにおいてもきちんとパーソナライズできる環境をつくる必要がある。そこでアドビシステムズが力を入れるのがアプリだ。「Adobe Target」を利用することでアプリ内でのパーソナライズが可能になり、アプリ修正の際も、アプリストアへの申請という時間のかかる作業を省くことができるため、素早いPDCAの実現につながる。

3つ目が「最適な体験の提供」。ある一定のルールをベースにしたセグメントの場合、それまでの知見がベースになるためバイアスがかかってしまうケースがあるが、「今後はこうした部分を〈Adobe Sensei〉のテクノロジーを使って支えていきたい」と安西は言う。「Adobe Sensei」を使ったパーソナライズを実施した際に何が効果的であったかをレポーティングすることで、パーソナライズに重要な属性情報を知ることが可能に。

4つ目は、「パーソナライズの検証」。セグメントを細分化していけばパーソナライズの効果は出るが、その分運用コストも嵩むため、パーソナライズの効果を可視化して運用とのバランスを考える必要がある。パーソナライズを行った場合と行っていない場合でABテストを行い、3ヵ月や1年続けた場合に売上がいくらになるか。こうした効果検証をしていくことが大事なポイントとなる。

「最適な相手に(Right Person)、最適なタイミングで(Right Timing)、最適な内容を(Right Content)、最適なチャネルで(Right Channel)」の4つ「R」から、企業が行うべきパーソナライズの実現について説明した。

パーソナライズの現状とこれからのあり方

大串、安西、BNL瀬尾の3者によるパネルディスカッションでは、まず「パーソナライズに取り組む時の障壁や課題、またそれをクリアしていく時のヒントは?」という瀬尾の問いに、両者は次のように答えた。

「部署ごとにKPIをもっているので、顧客とのコミュニケーションを変えていくにあたり社内を説得するのが一番の課題でした。ただ結果が出れば賛同する部署も出てきたので、時間はかかりますが、地道に成果を見せることで理解してくれる仲間を増やしていくしかないなと」(大串)

やはり「社内の説得が一番の課題」と語る大串。「小さく実績を積んでいき、それを関係者が理解できるように可視化していくことも社内調整のテクニック」。

「まさに、社内の説得が全て。その上で成功事例をなるべく金額に紐づける。例えばABテストをした場合、このくらいの積み上げで、金額に換算するとこのくらい、というのをきちんと社内に見せていくことが重要かと思います」(安西)

また、「パーソナライズ=個人情報を取得していると問題視された場合に、どう社内で説明されていますか?」との瀬尾からの質問に大串は、「嘘をつかないし騙さない。素直にこういう形でやっていると伝えることが一番重要と感じます。法令にかかるのでテクニカルに誤魔化そうとすると後々大変です。ただ、今後どのように法令が変わってくるか読みきれないので、難しい部分ではありますね」

安西は国内外の法令の違いついてこう言った。「一番厳しい法令がGDPR(EU一般データ保護規則)なので、これに準拠するのが一つのポイントかと思います。現在個人情報に最も厳しいのがEU、比較的緩いのがUS、その中間が日本。一番厳しい法令の内容を理解しておくと、日本での許容範囲を整理しやすくなります」

Session1とSession2の内容をさらに深掘りしていく。パーソナライズを実践する企業側の視点と、それをサポートしていく側の視点、それぞれが感じる課題感と、「パーソナライズの未来」の展望について語られた。

「Adobe Sensei」を利用した機能の導入を開始した大串から、安西にAIを使ったパーソナライズを社内に浸透させる具体的な方法について問いかけた。

「まず、Adobe SenseiのAIはいくつかフォーカスしている部分があります。その一つとして見えない何かを見つけ出すことにフォーカスしています。これは先ほどのバイアスの話もそうですし、分析する際もこれまでに人が気付かなかったインサイトを〈Adobe Sensei〉に見つけてもらう。例えば操作に1週間かかるものを分析してもらえば、マーケターの作業効率がアップします。ただ私が関わっているお客様ですと、これまで積み上げてきたパーソナライズがあった上で、次のステップとして〈Adobe Sensei〉を使ったパーソナライズを考えられるケースが多いですね」と安西。

最後は瀬尾から両者に「パーソナライズの未来」についての問いがあった。

Sansan株式会社 Eight事業部 BNL編集長 瀬尾陽

「パーソナライズの取り組みを始めて1年足らずですが、1年タームでPDCAを回すという施策を2〜3年続けてみて、継続できればこの取り組みは成功だと思うんです。まずは今の取り組みを継続できるよう社内に根付かせるのが近い将来においてのパーソナライズの目標です」(大串)

「いまは顧客のその場の行動に基づいてパーソナライズするのが現状ですが、それが予測型というか、少し先読みしてコミュニケーションできるようになると思います。それからフィジカルなデジタルデータもとれるようになってきているので、オンラインでのコミュニケーションを垣根なくパーソナライズできるようになるかなと。さらには"お客様の体験"を考えた時、例えば航空会社だと飛行機に付随する宿泊や観光情報までを含めたカスタマージャーニーを描いた上で、どうコミュニケーションできるかが肝になってきます。自社だけでなく他社と一緒にパーソナライズ体験をつくることが技術的に可能になってきているので、今後はもう一つのステージとして広がっていくのではないでしょうか」(安西)

各登壇者のセッションでは、来場者がメモだけでなくスライドを撮影する姿が多く見られた。

会場では、来場者がパネルトークに真剣に耳を傾ける一方で、時にPCやノートに熱心にメモを取る姿が印象的だった。これからパーソナライズを実施したいと考える企業の担当者にとって、大きなヒントが得られる機会になったのではないだろうか。