インタビュー

企業と行政、そして個を「シェア」でつなぐ。石山アンジュが見据える「日本型シェアリングエコノミー」のカタチ

「この3年間は準備期間だった」、そう語るのは内閣官房シェアリングエコノミー伝道師の石山アンジュだ。今年で4回目を迎える「SHARE SUMMIT 2019」では、その先を見据える「シェアリングエコノミーの未来」について語られることになりそうだ。

「所有」から「利用」へ。そんな言葉が耳目を集めるようになって久しい。実際に私たちの身の回りには、AirbnbやUberなどの世界的な企業をはじめ、日本国内ではメルカリなど、「シェアリングエコノミー」を前提としたサービスがこの数年で広く普及した。

一般社団法人シェアリングエコノミー協会と株式会社情報通信総合研究所が、共同で実施した「シェアリングエコノミー市場調査 2018年版」によると、2018年度のシェアリングエコノミー経済規模が過去最高となる1兆8,874億円を超えたことや、2030年度には11兆1,275億円と、約6倍の予測になることが分かっている。また、政府が定める「未来投資戦略」では3年連続重点施策として位置づけられていることからも、シェアリングエコノミーが注目を集めていることがわかるだろう。

シェアリングエコノミーへの期待感が醸成されてきたタイミングで、国内最⼤のシェアリングエコノミーの祭典「SHARE SUMMIT 2019(以下、シェアサミット)」も次の段階へ向かおうとしている。シェアサミットでは、共創と共助による新しい経済・社会「Co-Economy」を実現し、日本が直面する多くの課題を解決していくことを掲げている。過去3回は新しい産業として生まれてきたシェアリングサービスの可能性について議論することが主な目的で、言わば「啓蒙」のための期間だった。今回は、様々なセクターの登壇者と共に、大企業のシェアサービス参入事例や、シェア事業者との連携・取り組みなどの話を元に、これからの経済のあり方を考えていくものになる。

このシェアサミットを主催する、シェアリングエコノミー協会で事務局長を務める石山アンジュは、内閣官房シェアリングエコノミー伝道師として、シェアリングエコノミーを通じたライフスタイルのメディア発信だけでなく、ベンチャー企業と政府の官民パイプ役として、法律の規制緩和や政策推進などに従事してきた。

「シェアリングエコノミーはイノベーションの社会実装である一方、人と人とのつながりを取り戻していくマインドセットでもある」と石山は語る。シェアサミット開催を間近に控えた10月末に、石山アンジュが見据える、これからのシェアリングエコノミーの可能性について聞いた。

自然と育まれた「シェア」という価値観

──石山さんの中で、「シェア」という価値観はどのように育まれていったのでしょうか?

もともと父が二世帯住宅の1階でシェアハウスを運営していたんです。私は一人っ子なのですが、このような環境のもと、さまざまな人たちとのつながりの中で育ってきたので、血縁に限らず、周囲の人たちと色々なものをシェアしていくことで、より豊かで幸せな人生が送れるのではないかと漠然と思っていました。また、2011年に東日本大震災が起き、企業が提供するサービスがストップした時に、個人の弱さを痛感したことも大きな経験になりました。

社会人になってからは東京で一人暮らしを始めたのですが、隣に誰が住んでいるのかわからない状況がとても不安で孤独を感じるようになったり、企業に所属して働く中で、個人の幸せよりも組織の論理が優先されてしまう社会の構造に違和感を抱くようになったんですね。こうした経験の中で、個人が自由な意思のもとで色々なことを選択していける社会をつくるためにはどうすれば良いのか。そうしたことを考え始めるようになった頃にちょうど『シェア <共有>からビジネスを生みだす新戦略』(NHK出版)が出版され、自分が漠然と考えていたことが肯定された感覚がありました。

海外のシェアサービスを使ううちに、「シェア」の可能性をより実感するようになっていった。

──シェアリングエコノミーという新しいビジネスのあり方が注目され始めていた頃ですね。

はい。その頃から、私も海外に行く度に「Uber」や「Airbnb」などのサービスを利用するようになったのですが、例えばAirbnbに宿泊した際にホストと一緒にお酒を飲んだり、SNS上でつながって、帰国後彼らが日本に来る時は家に泊めてあげるということが起こるようになりました。こうしたシェアを通して生まれる新しいつながりを日本にも広めていきたいと思うようになりました。

──その頃から比べると、日本でも「シェア」という考えや「シェアリングエコノミー」はだいぶ浸透してきていますが、その間に石山さんはどんな活動をされてきたのですか?

海外のシェアリングサービスが日本に進出するためには、ビジネス環境の整備や利用者の保護などをしていく団体が必要だということになり、私もその立ち上げに関わりました。それがシェアリングエコノミー協会です。一方、人口減少によって、公共のサービスやインフラの維持が難しくなっていく中で、これらの課題がシェアリングサービスによって解決できるのではないか?という議論が活発になり、数年前からシェアリングエコノミーは国策としても推進されるようになりました。それを受けて、私は「シェアリングエコノミー伝道師」の任命を受け、各自治体などに向けてシェアリングエコノミー導入推進のサポートもしています。

──シェアリングエコノミーを推進していくためには、法律面などの規制緩和も必要になりますね。

そうですね。いわゆる業法と言われる法律は、企業が守るべきルールを定めたもので、近年誕生しているCtoC(個人間取引)のシェアサービスの対象は、そもそも企業ではなく個人なので、これまでの業法を参考にすることが難しいんです。一般的なルールづくりでは、リスクを排除していくことが基本ですが、責任の主体が企業ではなく個人にあるシェアリングエコノミーサービスにおいて、新しいルールをゼロベースでつくる必要があるので、大きな挑戦でもあります。

シェア消費から始めてみる

──日常の暮らしの中で、「シェア」に関する活動への参加の仕方がわからないと感じている人もいるはずです。そういう人が最初の一歩踏み出すためにはどうすれば良いのでしょう?

何もない状態から人とつながり、シェアを実践していくのはハードルが高いと感じる人もいると思いますが、そういう人でも、消費からシェアを始めることは比較的しやすいはずです。宿に泊まるとか、車を借りるという消費行動を、シェアサービスに切り替えてみることから始めてみるのはどうでしょうか。例えば、メルカリなどもシェア消費のひとつですが、いまでは多くの人たちが気軽に使っていますし、最近ではモノの売買だけではなく、メッセージのやり取りなども一緒にされることが多く、これはシェア消費から始まった新しい体験ですよね。

家族がバラバラで暮らし、町内会の加入率が下がり、フリーランスで働く人が増えるなど、時代の変化とともに地縁、血縁、所属組織というかつての人との接点が少なくなっています。そんな中、シェア消費から生まれる人のつながりというのは、社会的にも求められていると思っています。

宿に泊まるとか、車を借りる、まずはそうした消費行動を「シェア」に切り替えてみる。そこから人との新しいつながりの可能性が生まれる。

──一人ひとりがシェアの体験を積み重ねていくことで、新しいつながりが生まれるということですね。

もともと日本には、調味料の貸し借りをするようなご近所のコミュニティや人間関係があったのに、都市化が進むことでいまでは隣に誰が住んでいるのかもわからないような状況になっていますよね。だけど今の時代、何のラベルも貼られていないお醤油を隣の家から渡されたら、きっと身構えてしまう人が多いと思うんです。かつてはそんなことが普通に行われていたはずなのに、どんなメーカーで、安全基準をしっかり満たしているのかという、第三者が定めた指標を信じるような世の中になっています。本来、人とのつながりや信頼というのは相手に依存するものではなく、「自分自身が世の中をどう受け止めているのか?」という前提にある価値観に左右されるものだと思うんです。

──かつてあったような、ゆるやかな信頼関係が失われてしまったのはなぜだと思いますか?

資本主義というのは、もともとはみんなの共有物だったものに境界線を引いて所有者を決め、そこから生まれる競争の原理によって経済を発展させてきたという歴史があります。そして、製品やサービスを提供する企業の影響力が大きくなり、人口が都市に集中していく中で、相手の顔がどんどん見えなくなり、社会に不安を抱くようになったのだと思います。私はいま東京と大分の2拠点生活をしているのですが、どちらも周りにいる人たちの顔が見えているから「お互いさま」の意識が働くし、地域の治安も守られているように感じます。

今年フィジーに行って、ホームステイさせてもらったのですが、フィジーにはもともとシェアの文化が根づいていて、所有という概念がないんです。そういう文化を肌で感じ、最後にお世話になったそこのお父さんに「信頼とは何か?」と投げかけたら、「信頼とは自分を信じることだから、他人を疑うという概念がない」と言われたんです。ここまでいくと悟りレベルですが(笑)、シェアを前提とした信頼があるからこそ、フィジーは世界幸福度ランキングで何度もトップになっているんだなと感じました。

人が直接見える関係性があることで「お互い様」の意識が働く。そこに自分の責任やリテラシーが生まれるからこそ、地域やコミュニティが健全に形成されるのではないか。

幸せな未来をつないでいくために

──「シェア」は、国連が定めた「SDGs(持続可能な開発目標)」と紐づけて語られることも多いですが、この目標に示されている2030年まで約10年です。石山さんは、より良い未来を実現するにはどんな視点を持つことが大切だと思いますか?

例えば、近年空き家の活用は大きなテーマになっていますよね。持続可能な未来を実現するためには、こうした遊休資産に新たな価値を与えていく。社会全体を俯瞰した時に足りていないものを補っていくような視点を持つことが、ビジネスにおいても、暮らしにおいても重要だと感じます。

──11月11日に開催される「SHARE SUMMIT 2019」も、そうした未来について考える一日になりそうですね。

シェアサミットは今年で4回目を迎えますが、過去3年間は新しい産業として生まれてきたシェアリングサービスの可能性について議論することが主な目的でした。その間に、消費傾向が「所有」から「利用」へと変わり、SDGsをはじめとした、持続可能なあり方が求められるようになり、日本を支えてきた大企業もシェアリングエコノミー市場に参入してくるような状況になりました。そうした中で迎える、今回のシェアサミットのテーマは「Co-Economy」。

過去最大規模で開催となる「SHARE SUMMIT 2019」。様々なセクターの登壇者と共に、大企業のシェアサービス参入事例や、シェア事業者との連携・取り組みなどの話を元に、これからの経済のあり方を考えていく。
https://sharesummit2019.com/

欧米では、テック企業が既存のビジネスや市場を崩壊させるようなことも少なくないですが、それに対して日本では新旧の企業、行政、個人が手を取り合って日本型のシェアリングエコノミーの形を考え、社会のさまざまな課題を解決できる産業をつくっていこうというのが、「Co-Economy」の考え方です。そのため、今回は各セッションのスピーカーに、企業、行政、個人などそれぞれのセクターに入ってもらうようにしています。

──来場者には、どんなことを持ち帰ってほしいですか?

今回は、各セクターのアセットや責任を持ち寄り、日本社会の未来について議論するだけでなく、「これから一緒にこういうことをしていこう」という宣言する場にしたいと考えています。オーディエンスの方たちには、未来に向けたさまざまなコラボレーションのスタートを見届けていただきたいですし、シェアを通じて日本の未来を考えていくためのヒントを持ち帰ってもらえたら良いですね。

各セクターのキーマンが集まって、「Co-Economy」の未来が語られる機会はいままでなかった。そういう意味では、集大成的な形となる今回のシェアサミットは未来に向けたスタート地点となるだろう。

シェアリングエコノミーは、消費としての手段だけではありません。「シェア」という思想や価値観は、日本の未来にとって重要かつ、今後それらをどうとらえていくのかということが、私たちの幸せにもつながっていくはずだと信じています。