インタビュー

フランスで酒蔵設立を発表したWAKAZEは、世界でSAKEをどう造り、どう広めていくのか

クラフトビールやクラフトジンの製造法からアイデアを得て、発酵過程に副原料を加えることで注目を集めるSAKEベンチャー。毎年、新しい挑戦をしている彼らは、今年いよいよフランスに酒蔵を立ち上げ、現地の原材料で新たな「SAKE造り」に挑戦する。

「日本酒を世界酒にする」

このビジョンを掲げるSAKEベンチャー「WAKAZE」は、4年前に創業した当初から世界を見据えていた。単に日本で作って世界各国へ輸出したいという意味ではない。醸造責任者として酒造り全体を統括する今井翔也が、その思いを語った。

「ワインやビールは世界中で造られています。でも日本酒は日本だけ。それは造り手の問題なんじゃないか。世界中でSAKEが愛されて飲まれるようになるためには、世界中に酒蔵ができてSAKEが造られているのがゴールなんです」

ちなみにそのゴールへ向かうためには、これまでの日本酒・お酒の枠を飛び越えたものを造らなければ、という思いから「SAKE」という英語表記にこだわっているという。

SAKEのファントムブリュワリー

WAKAZEを創業後、今井はまず自分の実家である群馬の酒蔵「聖酒造」と組んで「委託醸造」という形から酒造りを始めた。

「委託」といっても、決して製造を丸投げするわけではない。コンセプトや商品設計に深くコミットし、新しい技術の開発に関しても自ら手を動かし、酒蔵側とすり合わせていく。

海外のクラフトビールの世界だと「ファントムブリュワリー」と呼ばれている仕組みに近いという。最初は自宅のガレージで、趣味レベルの「ガレージブリューイング」から始める。しかし、本格的な設備がないと限界があるので、やがて製造拠点を間借りして造るようになり、ファントムブリュワリーとなる。そこで商品開発に成功すると、ようやく自社醸造を始めることができるようになって「マイクロブリュワリー」となり、さらに成功すれば醸造所の規模を拡大していける。

そうした成長過程が海外のビール業界ではすでに確立されている。だから毎年新進気鋭のブリュワリーが注目を集め、さまざまな味のバリエーションが楽しめるようになり、消費量が増えて業界全体が発展している。

実家の酒蔵は兄が継ぐことが決まっていた。それならば、自分はもっと自由で新しい酒造りに挑戦してみたいと思うようになったという。

しかし日本酒には委託醸造の前例はほとんどなかった。今井の実家が酒蔵だったからこそ実現できたことだという。

「実家だったのでハードルが低かったんです。その中で経験を積むことができて、クラウドファンディングのプロジェクトを成功させたという実績もできました。海外輸出の経験までさせてもらいました」

実家での実績を携えて、WAKAZEはいよいよ法人化し、他に委託醸造をお願いできる酒蔵を探し求めた。現在の主力商品が造られているのは、山形にある二社の酒蔵と千葉の一社。特にいまも本社がある山形には強い思い入れがあるという。

「山形は米処・酒処で、食文化がとても豊かなんです。特に庄内・鶴岡は、ユネスコの食文化創造都市に日本で最初に指定された先進的なエリアでもあります」

日本酒には数年前から「GI(地理的表示)」の取り組みが進められている。いままでは「日本で造られているから日本酒」というくらいの曖昧な定義だった。それが最近では「日本のお米を使って日本で造られたお酒」に限定して、海外産と区別するようになっているという。

「なかでも一番先進的なのが山形なんです。将来的にフランスワインでいうところのブルゴーニュとか、ボルドーに匹敵するような位置づけにしていきたいということで、県を挙げて先進的な取り組みを推進しています。その懐で、WAKAZEも委託醸造という形で育ててもらえことになりました」

ただ決してすぐに良い縁に恵まれたわけではなかったという。

「最初はどこにお願いしても断られました。たまたま歴史的に多くの挑戦を重ねている酒蔵と出会えて、『やってもいいよ』と言ってくれたので始めることができたのです」

「その他の醸造酒」の発見

今井にとって、生まれた時からずっと酒造りは身近な存在だった。父親の後継ぎは長男が担うことになったため、三男である今井は違う形を模索し始めた。そして掲げた目標は大胆にも「フランスでSAKEを造る」というものだった。

なぜその目標にたどり着いたのか。それは国内の厳しい規制が大きな要因としてあった。日本酒は保守的な世界で、国は新規免許の発行に関して非常に厳しい条件を設けている。いま新規で清酒の免許を取得することは事実上不可能だと言われているほどである。そのため今井は修行が終わったら単身パリに行こうと決めていた。海の向こうならルールに縛られず、自由に酒造りができると考えたのだ。

しかし、その予定を延期することになったのは、ある条件を満たせば日本でも道が開けることに気づいたからだった。副原料を加えて発酵させるという製造法である。

今夏から立ち上げたパリの酒蔵では、現地で栽培されたお米と硬水を使うことになる。原料が変わるので、製造工程もいちから考え直さなければならない。

世界で流行りのクラフトビールやクラフトジンでは採用されていた手法だが、日本酒の世界ではまだほとんど誰もやったことがなかった。法律上の区分がどうなるかですら知る者はいなかったという。そこでWAKAZEは山形の工業試験場でプロトタイプを造り、国税庁にどのような区分になるか問い合わせてみた。

後日伝えられた区分は「その他の醸造酒」。さっそく調べてみたところ、お米を濾さない製法により濃厚な味わいが人気の「どぶろく」も同じ区分に含まれていた。もし「その他の醸造酒」に限定するのであれば、新規免許取得に最低限必要な製造量も「清酒」区分の10分の1でよいなど、条件としても比較的厳しくないことが判明した。

「いきなりフランスに行かなくても、日本でまだできることはありそうだ」

今井は、酒造りに興味のある仲間を集めて創業したWAKAZEのメンバーと共に、まずは東京で酒造りに挑戦することを決意した。

WAKAZEのメンバーは皆、今井と同じ「日本酒を世界酒にする」という志を持ち、新商品の開発に取り組んでいる。

毎年、全く新しい挑戦を

WAKAZEが自らをSAKEベンチャーと呼んでいるのには訳がある。「日本酒を世界酒に」という大きなビジョンを掲げ、毎年、全く新しい挑戦をして、既存の酒蔵と比べて驚異的なスピードで成長していくことを目指しているからだ。

最初の2016年にはクラウドファンディングで約400万円の資金調達に成功し、初のフラッグシップ商品「ORBIA」を発売した。

翌年には「ボタニカルSAKE」の開発に挑戦した。ボタニカルとは植物由来の素材のこと。アメリカのクラフトビールやロンドンを中心に流行ったクラフトジンなど、当時世界的に地元の植物素材を使って造ることが流行していた。それと同じことが日本酒でも実現できないかということで、いままでは禁忌とされてきた副原料を入れて一緒に発酵させる製法に挑んだ。これもクラウドファンディングに成功し「FONIA(フォニア)」という人気商品が誕生した。

WAKAZEの人気商品「FONIA」と「ORBIA」。普段あまりお酒を飲まない人や、これまで日本酒に親しみのなかった人にも楽しんでもらえるような商品を目指しているという。

2018年には初めて自社醸造に挑戦した。三軒茶屋で「三軒茶屋醸造所」を開設し、そこに併設する飲食店「Whim SAKE & TAPAS」をオープン。このプロジェクトもクラウドファンディングに成功した。1月から構想を練り始め、同年7月にはもうお店をオープンしていた。まさに驚異的なスピードである。

そして今年は、いよいよ最初の目標であったフランス進出に向けて本格的に動き始めている。これほどのスピードで毎年挑戦を仕掛けている酒蔵は他に聞いたことがない。

2018年、三軒茶屋にオープンした「三軒茶屋醸造所」と、併設する飲食店「Whim SAKE & TAPAS」。
「三軒茶屋醸造所」では、醸造の様子を見学することができる。ここで商品開発に成功したものを、懇意にしている酒蔵で本格的に醸造する。

ワインの国フランスに挑む

だがそもそも、なぜフランスなのだろうか。ワインの国に乗り込めば多くの困難に直面することは、どんな素人の目にも明らかである。初の海外拠点としてはいささか無謀ではないだろうか。しかし今井は遥かに大きな志を抱いていた。

「日本酒が世界酒になるというゴールを考えた時に、そこから逆算していくと『ここでターニングポイントがあったよね』という瞬間が絶対にあるはずなんです。これが実現したことによって人々の意識が劇的に変わって、世界でSAKEが造れることにみんなが気づいたという瞬間です。だから旗揚げの場所はインパクトのあるところじゃないといけない。フランスはワインに誇りを持っているから排他的な面もきっとあるでしょう。でも食文化発信の国でもあります。革命の旗揚げをする場所として、これほどふさわしい場所は他にないんです」

原材料の米や水は現地で調達するため、酒蔵の立地は非常に重要な経営判断となる。最初はフランス南部の米処として有名な町カマルグに拠点を構える方向で検討を進めていたという。だがやがてフランスにおいては「そもそも日本酒とはなにか」を伝えることから始めるべきではないかと考えを改めた。パリ周縁部の「グレーターパリ」と呼ばれる領域に含まれる街に最初の拠点を設ける予定だという。

「ただ透明な液体がテーブルに運ばれてきたところで、それがお米を発酵させて上澄みのところだけをとった贅沢な飲み物なんだということは想像しづらい。実際に造り方の工程を見せながら、啓蒙の段階から丁寧に取り組める場所を探しました」

「Whim SAKE & TAPAS」の店内に描かれている、醸造の工程図。日本酒になじみのある人も、醸造の理解を深めることで、いままでとは違った日本酒の楽しみ方ができるかもしれない。

予定地の近くには世界最大の生鮮食品市場の一つであるランジス市場がある。いわばフランスの台所だ。またルイ13世が「この水を飲みたい」と言って、パリ中心部まで水路を造ったという水源も付近にあるという。

「まだ現地でどういうお酒を造るかとか、どういうストーリーを込めるかは決めていません。でもそこはフランスの中でも食の源流にあたるようなところです。食の流通という意味でも、水源という意味でも、フランスにおいて非常に大事なエリアでお酒を造ることになります。まずパリに届けて、やがてはフランス全土へと展開していく拠点として、ふさわしい場所になるはずだと期待しています」

米は日本酒用に栽培されたものは手に入らない。水も日本で主流の軟水ではなく硬水になる。研究開発は困難を極めるが、全く新しいSAKEが生まれるポテンシャルに満ち溢れていると捉えることもできる。規制に縛られた日本の枠から飛び出し、海外から日本酒の造り方・飲み方を変えていく、注目の挑戦になることは間違いない。