インタビュー

「人と組織を変えるプロ集団」は、自分たちの組織をどう成長させるのか

グロービスの法人部門は、現場のメンバーの個人的な問題意識や、本業の枠を越えた「これがやりたい」という思いに可能性を見いだしている。その思いから生まれた社内プロジェクトこそ、組織を変える力になるからだ。

前2回のインタビューで語られたように、グロービスのコンサルタントの仕事は、クライアント企業に戦略そのものを授けることではない。「人・組織の専門家」として、長期にわたって伴走することにより、戦略を自ら作り、実行できる人・組織へと、変わる手助けをすることだという。

では、そんな「人・組織の専門家」集団たる、グロービス法人部門それ自体の組織は、どのようなかたちで「変わる力」を内包しているのだろうか。

実は、彼ら自身も数年前に、人・組織に関する悩みを抱えたことがあった。目指すべき状態に組織の成長スピードが追い付かず、また短期的な仕事に時間が取られ、中長期を見据えた戦略が立てられていなかった。その結果、思うようにチャレンジ出来ず、ビジョンに共鳴していても退職してしまう若手社員が増えた。

各部門のリーダーたちは、この事態を重く受け止め、中長期視点に立った組織体制の在り方について真剣に議論をした。組織の成長の痛みから起こる課題と問題意識に基づいて、グロービス法人部門は2016年ごろから、ビジョンの策定や組織の再編などに取り組んでいるという。若手が早期に活躍できるプロジェクトを創出、教育・支援体制を強化し、組織文化醸成につながる施策や仕組みも導入した。またリーダー層は、マネジメント権限をミドル層へ移譲し、中長期戦略の立案と施策に注力できるようにした。そしていまなお、変わり続ける最中にあるという。

その際、グロービスには、特徴的なことが二つある。一つは、クライアント企業と向き合うことを本業とするコンサルタントは、本人の意志と希望があればマルチタスクで社内の戦略人事にも関わることができること。もう一つは、コンサルタントに限らず、現場社員の問題意識を端緒としたプロジェクトが立ちあがることを、「組織をより良くする力」と前向きに捉え、組織として奨励していること。

なぜ彼らがそういうやり方をしているのかというのが、今回の記事のテーマだ。このことが組織にとって、またそこで働く個人にとってどんな意味を持つのか。若手社員2人の話から、人・組織を変えるためのヒントを探る。

自分自身に矢印が返ってくる仕事

2017年10月に中途入社した末吉涼の仕事は、クライアント企業を相手にしたコンサルティング。次の経営人材の育成や組織開発を支援するという、グロービス法人部門の"ど真ん中"にいる。

だが、そんな末吉は、入社から半年が経過した2018年の4月ごろから、同僚の若手コンサルタント2人とともに、こうした本業の枠を超えて、「自社の組織をより良くすることにも関われないか」を議論するようになったという。

末吉が社内の戦略人事にも携わるようになったきっかけは、業務外の時間に「自分たちが属する組織をどうすればもっと良くできるか」について、同僚と語り合ったことだった。

「私たちは、各企業で将来経営を担うことが期待されているエース級の方々に対して『あなたは、自分の会社や事業をどうしたいか? それを実現するためにどんなリーダーを目指すのか? 』など、自身の考えや行動を深く見つめなおす問いと向き合う機会を提供しています。なぜなら組織を牽引するリーダーには、知識やスキルに加えて『これは絶対にやるべきだ』という強い信念を持つことが重要だと信じているからです。しかし、コンサルタントとして日々働く中で、次第に『自分自身はそうした問いに真剣に向き合えているのか』と考えるようになりました。クライアントに提供する場の価値を高めるためには、まず私自身の『実行者としての実感値』を高めることが重要ではないかと」

他方、自社の現状を見ると、若手社員が増え、組織のポートフォリオが急速に変わってきている。このままでは近い将来に立ちいかなくなるという、漠然とした危機感があった。末吉らはそこで、「だから組織を変えてくれ」と経営層に訴えるのではなく、「これこそ、自分たちが組織変革を実践するいい機会」と捉えたのだった。

もちろん、組織へのエンゲージメントをいかに高めるかという問題意識は経営層も共有するところだったから、若手社員からの提案は、まさに渡りに船として映った。こうして末吉らは、普段のコンサル業務と並行して、自社の戦略人事にも関わることになった。

並行してやるからこそ起こる「知の循環」

ひとくちに戦略人事といっても、やれること、やるべきことはたくさんある。その中で末吉は現在、「現場で働く若手コンサルタント」という立場を最大限に活かす観点から、「採用力強化」と「若手育成」の二つのプロジェクトに携わっている。

物理的な仕事量は増え、当然、忙しさは増した。だが、普段のコンサル業務と、こうした自社の戦略人事のプロジェクトとは、まったく同じではないにしても、互いに深く関係している。本業で得た経験を直接、間接に活かすことができるから、「まったく新しい仕事が増えた感覚はない」と末吉は言う。

例えば、採用力強化の一環として取り組んでいることの一つに、「新たな採用ターゲット群の設定」がある。ターゲット設定には、アセスメントやヒアリングで得られた情報を用いて自社のコンサルティング業務の特性とさまざまな業界及び職種の特性を比較しながら「適性が高い人材が多くいそうな採用ターゲット群」をあぶり出す必要があるが、これは普段のコンサル業務で行っている「求められる人材像の特定」での経験を活かすことができる。

また逆にこうした社内のプロジェクトを通じて得た経験が、本業に活かされることもある。

例えば、末吉が取り組む若手社員を対象としたコンサルティングスキルを高めるプログラム。知識理解にとどまらず、実務で活用できるレベルに近づけるためには、通常業務から離れて演習を行うことに加え、参加者の上長や先輩社員といった関係者から適切に関与してもらえるように働きかけることも重要だ。普段のクライアント相手のコンサルティング業務では、関係者への働きかけの多くはクライアント企業の担当者が担うため、今回の社内プロジェクトに取り組んでいなければ経験できないことだった。

本業では自分が取り組む範囲外のことも、自社内のプロジェクトで経験を積むことができる。その経験が本業にも活かされるという。

「現場によって繁忙状況や上長とメンバーの関わり方は異なります。実際に取り組んでみて、参加者の上長や先輩社員にプログラム設計の意図を正しく理解して実行してもらうことが、プログラムを成功させる上でとても重要ということが再認識できました。こうした経験を基にお客さまと議論できることは、リアリティのある現場のプログラム設計につながっていると感じています」

このように、現場コンサルタントが自ら社内の戦略人事に携わることで、本業で得た知識を社内に還元し、また社内で得た知識を本業に活かすという、理想的な「知の循環」が起きている。さらに言えば、社内のプロジェクトに携わることは、働くモチベーションの向上にもつながっていると末吉は言う。

「普段のコンサルティング業務では、担当するクライアント企業の課題や担当案件によって、経験できる領域がある程度決まってしまう側面もあります。その点、社内のプロジェクトは、自分の問題意識を起点として、ゼロから自由にやれる。それがダイレクトに自分たちの働く環境をよくすることにもつながるので、やりがいをもって取り組むことができています」

「やるべき」より「やりたい」を大切にする会社

一方、2014年入社の塩谷佳未は、入社以来一貫して、コンサルタントの活動を支援する業務にあたってきた。現在、部門の中長期戦略に関するプロジェクトをリーダークラスと一緒に企画・実行していくチームにいる。そこで担っているプロジェクトの一つは、コンサルタントの生産性向上の一環として、社員一人ひとりがもっている暗黙知を形式知へと変え、組織全体にナレッジを流通させるというもの。コンサルタントの単純作業などによる負荷を低減し、クライアントの経営課題を解決することに集中できる環境を日々整えている。

だが、その塩谷もまた、本業以外の自主活動に携わっている。同僚と一緒に立ち上げた、女性のキャリア支援のための取り組みがそれだ。

「組織が大きく変わろうとしている以上、そこで働く個人も、自己定義をアップデートしていくことが求められていました。でも、バックオフィス業務が中心でお客さまと直接接することの少ない仕事をしていると、どのように自己定義を変えていけばいいかイメージしにくい部分があります。まして、人生100年時代に突入し、この先何十年にもわたって、自分が社会に対して価値を発揮できるポイントを見つけていかなければならない状況。そういうことに漠然とした不安を抱えている女性社員が周りに多くいたし、私もその一人でした」

塩谷は、コンサルタント一人ひとりが持つノウハウを組織全体で共有できるように、コンサルタントへインタビューを行い、記事を作っている。社内のメンバーは「この記事を読むことで、わからないことを誰に相談したら良いかがすぐわかる」と言い、課題解決のきっかけとして役立てているという。

塩谷は仲間の女性スタッフとともに、部署横断で集まった女性社員がキャリアについての考え方や、モヤモヤした思いそのものを共有する場をつくり、運営を始めた。部署を超えた集まりには、多様な価値観に接することでキャリアの新たな可能性に気づくこともあるのではないか、という期待を込めている。

「このように、個人の問題意識が起点となってプロジェクトが立ち上がるケースは多い。こんな仕組みがあるといいかも、とか、ここはもっとこうあるべきでは? といった現場からの提案に対して、積極的に耳を傾ける組織です。2016年に組織体制が改変され、現場への権限委譲が進んだ結果、こうしたかたちでプロジェクト化する動きが一層増えたのは事実ですが、個人の問題意識を大切にする姿勢自体は、昔から変わらないグロービスの組織文化だと思います」

塩谷が前職で携わっていたのは、あらかじめ定型化された業務を滞りなく進めることに重きが置かれる仕事だった。それに対してグロービスでの仕事は、定型で与えられるものは少なく、どんな立場でも新たな提案や自分なりの意見を述べることが推奨される。だから、縁あって グロービスに転職したあとしばらくは、あまりの文化の違いに戸惑いがあったという。

2017年に現在籍を置く中長期戦略推進室に異動になると、その戸惑いは一層増した。同室は、中長期的な視点に立って新規事業開発や組織課題解決を推進していくために新設された部署。取り組む事例には前例がないものが多く、定型業務はおろか、塩谷に対する明確な役割も定まっていなかった。プロジェクトの目的や性質に合わせて、役割や期待値を自己定義しなければならない環境に、塩谷は正直、戸惑った。

「意識が変わったのは、上司のひとことがきっかけでした。ある時、自分が本当に価値を発揮できているかどうか、どうやって価値を発揮していいのかがわからず自信がないと、上司に相談したことがありました。そうしたら、その上司はひとこと、『塩谷さんはなにをしている時が楽しいの?』と聞いてくれたんです。私はその時、ハッとさせられました。ああ、この会社は『しなければならない』ことを大切にするのではなくて、一人ひとりの『したい』を大切にする会社なんだ、って。そのことに改めて気づいてから、仕事への向き合い方が変わり、働くことがより楽しくなっていきました」

なにをしているときが楽しいか。この問いが塩谷の意識を変えた。自分の「したい」を軸に仕事を考えるようになってから、以前よりも仕事に対して主体的に取り組めるようになったという。

すべての人の合意を待っていては、ことを成すことはできない

人・組織を変えるには、とても時間がかかる。だから、その必要性は感じていても、どうしてもいまあるビジネスを回すことが優先されて、後回しにされてしまう。こうした問題に頭を悩ませている組織は少なくないはずだ。

グロービスの、個人の問題意識を大切にするやり方は、この悩みを解決する重要なヒントをくれる。末吉は自身の経験をもとに、次のように話す。

「普段のお客さまに向けた仕事をしていて思うのは、人・組織に関わる変革を伴う中長期的な取り組みの中で、全員の合意を得られた上で実行されるケースなんてほとんどないのではないか、ということです。こういうものは、誰になにを言われようと『自分はこれをやるべき』と思ったひと握りの人が自ら実行し、それが成果として表れはじめた時に初めて、周りからも『自分も課題に感じていた。やってよかった』と言われる、そういうものなんじゃないかと思います」

グロービス のメンバーとして働く条件の一つに「成長意欲があること」があげられる。その「成長」とは、目の前の仕事をこなして成果を出すことはもちろん、常に問題意識を持ち、自ら率先して解決しようと行動できることでもあるという。

だから末吉は、クライアント企業の担当者と向き合う際、「会社としてやるべきと考えることはなにか?」という質問とともに、「あなた自身がやりたいことはなんですか?」と必ず聞くようにしているという。担当者自身の「この会社や事業をこうしたい」という想いを理解することが実行を支援する人間として重要なことだと、末吉は考えている。

同じことは当然ながら、社内の変革に取り組む場合にも言えるということだ。だからグロービスは、現場の声に耳を傾けることに重きを置く。塩谷は言う。

「部門長の西のインタビューでも、我々がお客さまの可能性を信じて日々の業務に取り組んでいることが語られていますが、当社代表の堀も『可能性を信じる』という言葉を大切にしています。これはお客さまに対してだけではなくて、グロービス社員一人ひとりの可能性を信じるというところにも通じているのではないでしょうか。その思想が根底にあるからこそ、成長機会や挑戦の場を積極的に支援し、個々の能力を引き出そうとする組織になっているのだと思っています」


グロービスは、以下の職種の採用をおこなっています。

職種名:経営人材・組織変革プロフェッショナル

概要:アカウント責任者として、クライアント企業の経営課題分析から人材育成・組織開発におけるカスタマイズソリューションの設計・提案、ソリューションのデリバリまで一気通貫で行う。「経営×人事」の交わる戦略的人事(経営課題に直結する人材育成・組織開発領域)のプロフェッショナルとなり、経営者や人事部のパートナーとして、企業の変革に関わる。