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「ERPの民主化」がスタートアップの未来を変える。IPO事業部からはじまる、freeeの次なる挑戦

創業、上場準備、上場後など、企業のあらゆるフェーズに対応するため、進化し続けるクラウド会計freee。上場対応プランリリースから2年半、ミッションの改定、そしてIPO事業部の設立を経て、freeeはいま、中小企業に新たなバックオフィス改革をもたらそうとしている。

上場対応プランリリースから2年半。開発当時を振り返る

クラウド会計ソフトのfreeeが上場対応プランをリリースしたのは2017年3月。それから約2年半が経った2019年7月、freeeは成長企業のIPO(新規株式公開)準備をサポートする「IPO事業部」を立ち上げた。

いまでこそfreeeは数百社の上場・上場準備企業から利用され、「freeeでバックオフィスの効率化と内部統制を両立する」という新しいスタンダードが定着しつつある。しかし上場対応プランのリリース当時、クラウド会計ソフトを導入して上場した前例は日本国内にはなく、中規模以上の企業が利用するソフトとしての信用度はあまり高くなかった。そんな中、freeeが上場対応のエンタープライズプランをリリースするきっかけとなったのは、IPO準備を進めているベンチャー企業が、freeeの導入を決めたことだった。

IPO事業部部長の新村陸はこう説明する。

「当時から『単なる会計ソフトの提供にとどまらず、ビジネスの成長に貢献する』という思いはありましたが、まだふわっとした構想にとどまっていました。そんなときに、クラウド会計を利用して上場したいという強い意志を持ったお客さまが現れて、『freeeさんががんばってくれるなら一緒に上場したい』と言ってくれたんです。社内でプロジェクトを立ち上げて、その会社が上場するために必要な要件を洗い出し、足りない機能は開発しました」

上場対応の道のりは、想像以上に険しかった。上場を審査する立場にとって、前例がない「内部統制に対応したクラウド会計ソフト」を評価することは非常に難しいからだ。会計ソフトの機能を拡充するだけでなく、ステークホルダーへの地道な説明が重要だったと新村は振り返る。

「IPOに関連するステークホルダーは、その企業の財務状況をチェックして、ビジネスが伸びることを保証してあげなければならない役割ですから、慎重になるのは当然です。freeeがどういう仕組みになっていて、信頼性をどのように担保しているかということは、ぼくたちもかなり時間をかけて説明しました」

内部統制に対応した機能の開発やステークホルダーへの地道な説明の甲斐あり、クライアントは無事上場に成功。freeeは上場対応プランとして、内部統制・監査に対応した「エンタープライズプラン」をリリースした。

新村はfreeeが上場対応プランをリリースする前から、上場準備企業の担当者と関わる機会が多かった。いまでも企業の担当者たちから受ける刺激や学びは多く、今後もIPO事業部長という立場で上場準備企業に価値提供していきたいと力強く語る。

ここで一つの疑問が浮かび上がる。上場企業や上場準備企業のマーケットは、国内企業の中で決して多くの割合を占めているわけではない。そんな中で、freeeが「クラウド会計ソフトの上場対応」という前例のない挑戦に踏み切ったのはなぜだろうか。

そこには、freeeが誕生した背景や思想と強く結びつく理由があった。

「ERPの民主化」という思想から生まれたプロダクト

Googleで中小企業向けマーケティングチームを統括していた佐々木大輔が2012年7月に創業したfreee。最初のプロダクトをリリースしたのは2013年3月のことだった。「取引を作成すると自然と仕訳が生成される」という、それまでにない発想で設計された「クラウド会計ソフトfreee」は、クラウドと親和性の高いIT系企業や個人事業主から熱く支持され、翌年7月には利用者が10万事業所を突破した。現在は100万事業所を超えている。

freeeが誕生した背景には、日本の中小企業における生産性の低さがある。大企業向けには、大手ベンダーがERP(Enterprise Resource Planning、会計・生産・販売・購買・在庫・人事といった基幹業務を統合するシステム)ソリューションを開発している。従業員が1000人を超えるような企業では、バックオフィスへの大きな投資が可能であるためERPの導入が進んでおり、会計ソフトの域を脱して、全社最適のバックオフィスをつくることができる。

一方、中小企業はバックオフィスに投資する余裕がないため、ERPを導入できず、バックオフィスが非効率な状態が長く続いていた。この問題を解決するために誕生したのが、freeeだ。個人事業主や小規模事業者向けの領域から事業を開始したfreeeは、長らく停滞していた中小企業のバックオフィス向けに、クラウドERPの思想を用いたサービスを提供。このイノベーションを皮切りに、安価に使えるクラウドサービスがいくつも誕生した。

しかし、サービスの提供領域が個人事業主と小規模法人だけでは不十分だと新村は語る。企業が成長して従業員が100人を超える規模になると、適切なクラウドサービスがなくなってしまうからだ。

「日本の中小企業を牽引する存在であるベンチャー企業がテクノロジーの恩恵を受けられず、フェーズに合わせて都度業務フローや利用サービスをスクラップ&ビルドしなくてはならない状況はおかしい。会計と人事労務といったバックオフィスのコア領域はfreeeで完結し、足りない部分はAPIでつなげる。クラウドERPの思想で作られたfreeeを導入すれば、創業から上場まで一貫して効率的なバックオフィスを構築し続けられる、という状況を作る必要がありました」

2019年1月にリリースした「freeeアプリストア」は、freeeと連携するストア上にあるさまざまなクラウドツールとfreeeを、たった数クリックで簡単にデータ連携できるプラットフォーム。APIを生かして実現するクラウドERPの思想が強く表れている。

freeeは小規模・中小企業向けのドメインからビジネスを始めたので、小さいところから大きいところへと機能を拡大していったように報じられることが多い。しかし、発想は逆だと新村は語る。

「ぼくらがやっていることは、大企業が使っているようなERPを、クラウドの恩恵を用いて、中小企業向けに安く、ノンカスタマイズで使えるシステムとして提供することです。それによって、中小企業の生産性を向上させ、成長をサポートする。だから、『クラウド会計が進化した』のではなく、『ERPを民主化した』というイメージが近いかもしれません。」

テクノロジーの恩恵を受けるのが、大企業だけであってはならない。日本のビジネスを活性化し、イノベーションを加速させる中小企業にこそテクノロジーを浸透させる。それがfreeeの創業以来のポリシーなのだ。

ミッション改定が意味すること

freeeは創業以来、「スモールビジネスに携わるすべての人が創造的な活動にフォーカスできるよう」をミッションとしてきた。創業まもないころの新聞記事を見ると、freee代表 佐々木大輔は「絶対うまくいかないと言われていた」と語っている。バックオフィス改革はそれほど手つかずの分野だった。ところが、誰も挑戦していなかった分野で、自らのミッションを追究しているうちに、いつの間にか市場から受け入れられ、中小企業のバックオフィスにイノベーションを起こす存在として大きな期待を寄せられるようになった。

そして2018年7月、freeeは新たなミッションとして「スモールビジネスを、世界の主役に。」を掲げた。新村はミッション改定についてこう語る。

「スモールビジネスが創造的な活動にフォーカスできるように、時間を創出することに取り組んできたわけですが、たくさんのお客さまから声をいただく中で、事業の成長に貢献できていることがわかってきました。ミッションの枠を超えた価値が生まれ始めたのです。だとしたら、古いミッションのままでいいのだろうか、と」

冷静で丁寧な語り口の新村もミッションの話になると自然と熱が入る。ミッションに真っすぐ向きあい、実現に向けて一歩ずつ着実に進む様子がうかがえた。

時間の創出だけでなく、事業成長への貢献も見据えたミッションの改定。IPO事業部の立ち上げも、その流れとともにある。新村は、IPO事業部立ち上げについてこう語る。

「ぼくたちは、必ずしもIPOを推奨したいわけではありません。もちろん、外部資金を入れずに自分たちのペースでビジネスを育てていくことは良いと思いますし、イグジットの手段も多様化しています。でも急成長を目指す企業にとって、IPOはひとつの区切りではあるけれど、ゴールではないと思うんですね。ゴールではなく、中小企業が『世界の主役』になっていくためのスタート地点だと考えています」

スタートアップの資金調達が活況で、イノベーションで世の中を変えようとする企業が増える中、上場対応できるバックオフィスの構築もホットな分野になっている。新村は、上場後を見据えたバックオフィスを構築することが大切だと語る。

「中小企業のバックオフィスが本当に大変になるのは、上場後なんです。上場することだけを考えて会計ソフトを選んでしまうと、上場後に事前に想像できなかった業務に忙殺されて、『やっぱりスペックが足りなかった、会計ソフトを変えなきゃ』となってしまう。最近はこうしたタイミングでご相談を受け、freeeを導入していただくケースも増えていますが、それはもう、本当に大変なんですよ。ぼくたちは創業期から上場準備期、上場後まで、一貫して寄り添うことができるし、さまざまなナレッジを惜しみなく伝えることができる。バックオフィスこそ、上場後のことを考えて人員もツールも選ばなければいけないということを、広めていきたいです」

スモールビジネスが世界の主役になる革命点を創出する

創業から7年、freeeのプロダクトは急速な進歩を続け、現在年間300近くの機能がリリースされている。新村は、バックオフィスのあり方についてこう語る。

「会社が成長するほど、会計ソフトへのニーズは『決算が出せればいい』というものではなくなっていきます。自動化や効率化はもちろんのこと、会計データから出てくる分析やレポートの精度、リアルタイム性も求められているのです」

スモールビジネスのバックオフィス業務を効率化し、創造的な活動に専念できる環境をつくってきたfreee。創業から7年経ったいま、彼らが目指すのは、スモールビジネスが世界の主役になる革命点を創出することだ。

「freeeを使っていただくことでスモールビジネスが成長する。そしてfreeeは、日本の経済を引っ張り、世界を変える存在になっていく。そんな世界を実現できるように、価値を実感してもらえるプロダクトやサービスをこれからも提供していきたいと思っています」