インタビュー

なぜ、テレワークを導入しても生産性が上がらないのか

時間にも場所にもとらわれずに働くことで、高い価値を生み出す。テレワークはこうした柔軟な働き方を実現させるためのものだ。しかし導入してもうまくいかない企業が多い。その理由は、テレワークに対する「誤解」があるからだという。

「テレワーク=CSR」ではない

2019年4月26日(金)、東京都による「ワークスタイル変革コンサルティング事業」が開始された。都内の中堅・中小企業へテレワークにおける課題解決の支援を行う事業だ。

なぜ「テレワーク」なのか。日本テレワーク協会主席研究員として本事業に関わる中本英樹はこう述べる。

「『テレワーク=在宅勤務』と思われがちですが、テレワークとは本来、時間や場所にとらわれない柔軟な働き方をしましょうという考え方なのです」

「テレワーク」という言葉が生まれたのは1970年代のアメリカ。テレコンピューティングやインターネット技術が開発されつつあった時代に、「仕事における時間と場所からの解放」を志すものだった。

「産業革命以降、人々は工場に集まって働くようになりました。工場が集積し、ビルが集積するところに人が通う。いま私たちはそれを当たり前と思っていますが、長いスパンで考えてみれば、歴史のある一時期にそういう働き方をたまたま選択しているだけだとも言えるのです。働くとは本来、個人個人の営みです。さまざまな事情で"9時5時"のワークスタイルからはみ出してしまう人々にも働く機会を与える。それがテレワークの本質だと思っています」

テレワークの本質的な価値は、自宅で働けるようになること、ではない。東京都が行うコンサルティング事業では、まずテレワークの本質的な価値を伝えることからはじめているという。

日本でもICTの普及にともないテレワークを導入する企業は増えたが、2017年度の東京都の調査では、導入率は約20%にとどまる。それはなぜか。

「私は『テレワークとは何か』が理解されていないからだと考えています」

中本によれば、テレワークに対するいちばんの大きな誤解は、CSR的な取り組みだと考えられていることだ。

「これまでは"育児や介護で出勤できない人のための在宅勤務制度"という捉え方をされてきました。だから利用するほうも後ろめたさを感じてきましたし、企業側も制度を整えることが目的になっていました。しかし肝心なのは、業務そのものを見直して、生産性の高いやり方に変えていくことなのです」

テレワークに関するセミナーで中本が実際に使っている資料。企業の制度を変える前に、まず業務そのものを見直すことが肝心だという。

制度ではなく、業務そのものをどう変えるか

近年では在宅勤務だけでなく、モバイルワークや、サテライトオフィスやコワーキングスペースを利用する働き方を導入する企業も出てきている。それらの総称がテレワークだが、生産性とテレワークの関係について中本はこう話す。

「多くの企業の方に『中本さん、テレワークを入れればうちは生産性が上がりますよね』と聞かれます。そのとき私は必ずこう尋ねます。『御社はいま、どのように生産性を測っていますか』と。日本の企業はだいたいにおいてホワイトカラーの生産性を測っていません。本人まかせで指標がないので、『時間外の勤務を減らせばいい』ということになります」

数字上は一見生産性が上がったように見える。しかしそれは本質的ではないという。

「目先の効率ではなく、いかに中長期的に価値の高いアウトプットを引き出すか。そのために業務そのものをどう変えていくか。現場レベルではなく経営課題として戦略的に取り組む意思を持ち続けられるかどうか。それが、テレワークが成功するかどうかの鍵になるのです」

このような知見をベースに、各企業の実情に合わせたテレワーク導入支援を行うのが、ワークスタイル変革コンサルティングだ。ワークスタイル変革コンサルタントとして活動する成瀬岳人はこう話す。

より多くの人がもっと柔軟に自由に働くことのできる世界を目指すという志を持つ者同士、中本と成瀬は協力し合いながら企業にさまざまな提案をし続けている。

「実際にコンサルティングで経営者の方にお会いすると、時代の変化の中で『何か変えなければ生き残れない』という危機感を必ずお持ちになっています。どのような施策に落とし込まれるかは企業によってさまざまですが、彼らが抱える課題を整理していくと、テレワークという視点を取り入れることで解決できることは少なくありません」

中小企業の場合、テレワークの導入を検討し始めるきっかけはシンプルなことが多いという。

「典型的なのは、『いまこの人にやめてもらっては困る』という人がやめそうだ、といったことですね。例えば購買を一手に引き受けていた女性社員が結婚を機に遠方へ引っ越してしまうとか。『ではまずは彼女に会社に残ってもらうことを考えましょう』といったかたちでコンサルティングが始まります」

テレワークは、クラウドサービスなどを使えば技術的には難しくない。しかし、その女性社員にとっての悩みは、別のところにある。

「何がネックかというと、『〇〇さんがいつも紙で伝票を回してくる』といったことだったりするんです。それこそ業務フローを少し改善すれば解決できますよね。そして、その女性は仕事を続けることができます。ひとつの会社で長く働いている人ほど『いままでこうしてきたから』という思い込みに縛られがちです。ヒアリングを重ねることでどこにボトルネックがあるかを発見し、過去の制約から解放することがコンサルタントの役割だと思っています」

経営者が考える現場の問題と、実際に現場で働く人の悩みはずれていることが多いという。だからこそ成瀬は現場の声を聞くことを大切にしている。

テレワークは柔軟な働き方をするためのツール

実際に企業にコンサルティングを行う成瀬は「中本さんもおっしゃっていましたが、『テレワーク=在宅勤務』という先入観を持たれている人は少なくありません」と言う。

「例えば、日報をクラウドを使ってリアルタイムで共有するとか、店舗管理をタブレットデバイスなどを利用してリモートで行えるようにするといったことは、広義の"テレワーク"と言えると思うんです。結局必要なことは、労働参加率の向上と生産性の向上です。テレワークはそのためのツールなんです」

テレワークの本質を理解する段階から、テレワークを「できる」状態にするまでのフローをまとめたもの。

それを受けて中本は、「テレワークを導入する目的には、それらに加えてもう一つ、事業継続性がある」と語る。

「残念ながら日本は災害の多い国です。発災時にも事業活動を継続することができるかどうか。また災害対策だけでなく、来年東京2020オリンピック・パラリンピックが開催されますが、来日観光客などで通勤時の交通の大混雑が予想されます。そのときにスムーズに業務が行えるかどうか。その鍵になるのもやはりテレワークなのです」

ワークスタイル変革コンサルティング事業では、定期的に無料セミナーを開催している。そこでは東京都が行っている助成金制度等も紹介されるという。「テレワークを始めてみたいけど、どう始めたらいいかわからない」「うちの会社には必要ない」と思っている企業担当者や経営者にこそ、気付きの多い内容になるはずだ。ぜひ参加してみてはいかがだろうか。


ワークスタイル変革コンサルティングとは

概要
都内企業等のテレワーク導入を推進するため、専門のコンサルタントが訪問し、課題解決などの支援を行う。

対象
都内で事業を営む、社員数999名以下の企業

方法
都内事業所に最大5回訪問(約2時間/回)

コンサルタント
テレワーク導入・定着の専門コンサルタント

費用
無料