ブランドのつくり方

どこにでもある米屋さんは、いかにしてブランドを確立したのか。6日間で学べる長田敏希の特別講座

BNLでは今日から6日間、ブランドコンサルタントの長田敏希による連載「ブランドのつくり方」をスタートする。業績を伸ばすブランドはどのようにつくられるのか。ブランドの立ち上げや自社サービスのブランディングを考えていたら、この大型連休を利用して学んでみよう。

はじめまして。ブランド戦略とデザイン戦略を総合的にサポートする会社「ビスポーク」の代表、長田敏希と申します。私はブランドコンサルタントとして、日本全国にあるさまざまな企業のブランディングをお手伝いしています。

長田敏希 プロフィール
長田敏希

株式会社ビスポーク代表取締役 CEO/東京農業大学 非常勤講師 地域ブランド戦略領域/一般社団法人フードサルベージ代表理事/ブランドコンサルタント・クリエイティブディレクター
クライアントとの丁寧なヒアリング(対話)を重視しながら、組織の理念作成からBI(ブランド・アイデンティティ)開発、内外に向けたクリエイティブ開発まで、クライアントが対面している状況、市場環境を加味し、企業に合わせた隅々までフィットするコンサルティングを提供。世界三大広告賞のカンヌライオンズ、The One Showをはじめ、D&AD、NY ADC、iF デザイン賞、グッドデザイン賞、毎日広告デザイン賞など国内外の受賞多数。テレビ朝日「お願いランキング!嫉妬に身を焦がすBAR」出演

ブランディングの認識は意外と曖昧

最近、受注生産だけで経営を保ってきた企業が自社のブランドを立ち上げて業績を伸ばしたり、家業を立て直したりするケースが増えています。

それもあってか、よく「ブランディングで売り上げがガツンと上がりますよね?」とか「ブランディングは、ロゴやホームページを変えることですよね?」と聞かれることがあります。間違ってはいないのですが、ブランディングを行ってもすぐに売り上げアップにつながらないことだってありますし、ビジュアルをよくしたりインパクトを持たせたりすることだけがブランディングではありません。

ブランドコンサルタントの仕事をしていると、このようにブランディングに対する認識が人それぞれ違うことに気づかされます。そこで今回は、私がブランディングを行った、東京・原宿にある「三代目 小池精米店」の事例をもとに、ブランドづくりの基本をご紹介します。

「三代目 小池精米店」は、いまでこそ新米の季節になると、代表の小池理雄さんが数多くのメディアに出演されていますが、以前は正直に言って"どこにでもある米屋さん"でした。

今日から6回にわたり、小池精米店がブランドを確立したフローをご紹介します。Step1からStep4までが、「ブランドをゼロから構築する」作業、そしてStep5とStep6は、「ブランドコンセプトのコミュニケーション設計をする」作業です。

最初から順に実践していただいても良いですし、まだ取り掛かっていないところから始めてみるのも良いと思います。新しいブランドをつくりたいと思っている方や、リブランディングを考えている方は、ぜひ参考にしてみてください。

Step1:「想い」の掘り下げ

ときどき、マーケティングとブランディングを同じように考えてしまうケースが見られますが、この二つは、大切にするべき視点が異なります。マーケティングでは顧客のニーズや競合の動向を捉える視点が重要ですよね。しかしブランディングでは、顧客や競合を気にしすぎると自社の本質的な特徴を反映した商品・サービスが提供できなくなり、自社の良さや魅力を見失ってしまう可能性があります。

例えば、既に数十年と歴史を築いていた菓子屋が「消費期限をもっと伸ばしてほしい」という流通の要望に流され、添加物を多用した商品を展開したら、自社がこれまで大切にしてきた理念はないがしろになります。その結果、競合他社の商品に埋もれてしまうのです。

顧客視点はもちろん重要です。しかしブランディングは「企業の想い」と「企業に対する顧客のイメージ」を一致させる戦略です。だからブランドの構築は、なぜこの事業を始めたのか、なぜこの商品を出したいのかといった「そもそもの想い」を起点にすることが大切だと考えます。

小池精米店さんとのお仕事でも、最初に行ったのは小池さんと対話を重ね「小池さんの想い」を掘り下げることでした。

売り上げより「なぜやるのか」が大切

最初に、小池さんには業界の常識やこれまでのやり方などの既成概念を外してもらいました。それがあると、ありきたりな言葉ばかりが出てきて、本質が見えないからです。

そして小池さんが思い描く理想の社会を、植物などのモチーフに例えてイラストで表現してみるといった内容のワークショップを繰り返しました。

この作業によって、「ビジョン(思い描く理想の社会)」「ミッション(担う使命・役割)」「バリュー(社会に与える・良い影響・良い作用)」につながる本質が引き出されます。

小池さんの場合は、「日本の農業と日本の食生活を応援したい」をビジョンに、「生産者と生活者の架け橋になる」をミッションに掲げました。そして、それらを達成するために小池さんが持っている知見や人脈をどのように活用し、社会に役立たせるかを「バリュー(提供価値)」としました。

情報が整理されていない場合や、抽象度の高い言葉を用いると、顧客に伝わりづらくなってしまい、ブランド戦略はうまく機能しません。「想い」や事業の目的を具体的な言葉にして可視化することは、とても大事な作業なのです。

Step1はここまで。Step2では、この「ビジョン」「ミッション」「バリュー」をもとに、自社の強みを探ります。