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要約『鎌倉資本主義』:GDP以外のモノサシで「幸せ度」を測る、新しい経済のかたち

単に利益を追求するだけの時代は終わりかけている。これからは何が人を幸せにするのか。そのヒントは、自然、文化、人のつながりなどの「お金ではない価値」にあるという。仕事も暮らしも面白く、楽しく。「幸せ度」が上がる新しい資本主義を考える。

「お金ではない価値」が人を豊かにする━━BNL編集部の選定理由

本当にGDPだけが豊かさの指標なのか。本書は、こんな問いからはじまる。著者自らが代表を勤める会社で上場を経験し、会社を成長に導いてきた中で生まれた問いだという。  

経済成長を重視しながらも、同時に、精神的な豊かさや幸福感を増やしていくことがこれからの社会に必要ではないか。

(中略)

定量化された指標を追い求めることで資本を増やすという、株式会社が得意とする仕組みを使って、個人の「幸せ度」にリンクする好循環をつくれたら、もっと面白くなりそうです。

本書Part1 資本主義が面白くなくなった? GDP以外にもモノサシを持とう

そこでいま目指しているのが、お金で測りにくい価値、例えば自然や文化、人のつながりなどをその地域独自の資本として、経済資本と一緒に増やしていく、新しい資本主義の形成だ。ここに精神的な「豊かさ」のヒントが隠されているという。

本書を読み進めると、GDPを増やすことにはつながらないが「なるほど、これなら毎日楽しく暮らせるに違いない」と読んでいるだけでワクワクするようなプロジェクトがたくさん紹介されている。

この新しい資本主義の形を取り入れると、いままで見落としていた価値を見つける作業が必ず発生するはずだ。その作業は、気づきだけでなく、新たなコミュニケーションを生み、出会いをつくり、その土地で働く人、暮らす人の幸せにつながっていく。本書の舞台は鎌倉だが、どの地域でも同じことが言えるだろう。東京も然りだ。

読み終えてまず、「精神的な豊かさにつながる価値はなにか」「そもそも私はいま豊かだろうか」と自分自身に問いかけた。これからどう働き、どう生きることが本当の「豊かさ」につながるのかを改めて考えさせられる。

週末は、鎌倉に足を運んでみたいと思う。東京でも豊かにいきいきと働くヒントが見つかるかもしれないから。

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要約者レビュー

本書は「面白法人カヤック」という一企業の活動を通じて、今後の資本主義社会を考えるものだ。キャッチーで派手なコンテンツに見えるが、彼らは本気だ。著者は大真面目に、徹底して「面白さ」を追求しながら、日本を変えようとしているのである。

経済的な利益ばかりを追求する資本主義が限界を迎えつつあることは、誰もが肌で感じているのではないだろうか。今後は企業も社会貢献や、個人の「幸せ度」を高めることにも取り組まなければならないだろう。だが経済的成長をあらわす指標とは異なり、「幸せ度」を表す明確な指標は存在しない。そこで本書では「鎌倉資本主義」という新しい資本主義のあり方を提唱している。

「鎌倉資本主義」は、地域の人と人とのつながりや、その地にある自然や文化などの環境を「地域資本」として定義し、新たな価値指標とするものだ。鎌倉資本主義では、今まで無視されてきた「数値化できない」ものを「価値=資本」として認め、増やしていくことを目標とする。そうすることによって従来の資本主義が抱える課題を解決できると著者はいう。

カヤックの活動の根底にあるのは「面白いことがしたい」という情熱である。「資本主義の限界」「新しい価値指標の創造」などというと堅苦しく感じられるが、シンプルに「みんなで面白いことがしたい」「どうやったら面白くなるだろう」と考え、活動しているのだ。何しろ「面白法人」である。そのシンプルさ、身軽さがテーマを身近に感じさせてくれる。構えずリラックスした気持ちで、経済や地方創生を考えられる一冊だ。


本書の要点

── 要点1 ──
国や企業はこれまでGDP(国内総生産)という単一の指標を追求してきたが、GDPでは測れない精神的な豊かさや幸福感を増やしていくことが重要になりつつある。

── 要点2 ──
経済資本に加え、これまで軽視されてきた「人と人とのつながり」と「自然や文化」を「資本」と考え、それを増やすことを目的とするのが「鎌倉資本主義」である。

── 要点3 ──
カヤックは、「まちの社員食堂」「まちの保育園」「まちの人事部」などといった取り組みを通じて鎌倉というまちを「応援」している。


要約

【必読ポイント!】従来の資本主義と鎌倉資本主義

Photo: "鎌倉大彿, 高徳院, 鎌倉, 日本, 鎌倉大仏, 長谷の大仏, こうとくいん, 鎌倉市, かまくら, Kamakura, Japan" by bryan...(CC BY-NC-ND 2.0)

「多様性」は「面白い」

著者が設立した「面白法人カヤック」(以下、カヤック)は、面白い社会をつくることを目指している。彼らにとって「面白い」とは、自分たちが楽しんでいること、そしてそこに「オリジナリティー」や「個」があることだ。全員が同じでは面白くない。したがって、カヤックでは「多様性」を「面白さ」ととらえている。

近年は、東京に似た地方都市が増えている。東京がいくらすばらしくても、日本中が東京のようになってしまっては面白くない。

カヤックが考える「面白い社会」とは、「多様性が認められる社会」「一人ひとりが輝く社会」「一社一社が特徴的である企業社会」「地域ごとに特徴がある地域社会」だ。カヤックが本社を置く鎌倉は都心から離れており、不便だ。だからこそ面白いと考えている。

東京を目指すのではなく、その地の個性を残したまま繁栄する――それがカヤックの考える「地方創生」である。そして地方創生への取り組みがすなわち、資本主義が抱える課題への取り組みに直結すると考えている。

限界を迎えた資本主義

資本主義は大きな課題を抱えている。それは、「地球環境汚染」と「富の格差の拡大」の二つだ。その背景には、企業や国がGDP(国内総生産)という単一の指標を追求してきたことがある。GDPは経済活動の状況と経済的な豊かさを測る指標として使われ、GDPが成長し続けることがよいことだと考えられてきた。

だが、本当にGDPだけが豊かさの指標になるのだろうか。職住近接のワークスタイルを実現したり、地産地消の食材を楽しんだり、コミュニティでつながりが生まれて、金銭の介在しないプロジェクトによって自分のまちをよくしたりといった活動は、GDPの増加にはつながらない。むしろ、電車などで長距離移動したり、輸入した食材を食べたりしたほうが輸送にお金が使われ、GDPが増加するしくみだ。だが職住近接のほうが疲れないし、地元産の食材のほうが安くて新鮮である。こうした矛盾が積み重なり、大きな問題になってしまっているのではないだろうか。

もちろん経済成長は必要だが、それだけを指標にしていては面白くない。精神的な豊かさや幸福感を増やしていくことこそ、重要になってきているのではないだろうか。

新たな価値基準「地域資本」

Photo: "Enoshima Electric Railway 300 Type Train at the Goryo-jinja Shrine ; 江ノ島電鉄300形電車(鎌倉御霊神社)" by Toshihiro Gamo(CC BY-NC-ND 2.0)

GDPに代わる指標を探し続けてたどり着いたのが、地域を中心とした新しい資本主義のかたち、「鎌倉資本主義」だ。

鎌倉資本主義では、「地域資本」という考え方をする。地域資本は、「地域経済資本」(財源や生産性)と「地域社会資本」(人のつながり)、そして「地域環境資本」(自然や文化)の三つの要素で構成される。この三つをバランスよく増やすことが人を幸せにするという考え方だ。

従来の資本主義とは異なり、鎌倉資本主義では、お金で測れない価値を考えていく。地域資本という新しい価値を測ることによって、より持続的な成長を目指す。そしてその結果、地域が多様に発展し、従来資本主義の2つの大きな課題の解決が導かれる。鎌倉資本主義が目指すのは「持続可能な資本主義」である。本書で紹介されるのは、この三つの資本を増やす方法と、それを測るための指標だ。

著者らは鎌倉から地域資本主義を発信すべく「鎌倉資本主義」という名称を使っているが、今後は鎌倉に限らず、さまざまな地域でその地域ごとの地域資本主義が発信されるようになることを願っている。


GDPではない価値基準

Photo: "Dice" by Allen Wong(CC BY-NC-ND 2.0)

「評価しない評価」サイコロ給

GDPが経済成長を測る指標であるように、会社は評価制度というモノサシを持っている。著者は、評価制度が社風をつくると考えている。

面白法人では「面白がる人」が高く評価される組織をつくっていきたいという思いがある。そこで採用されているのが「サイコロ給」だ。これは毎月「基本給×(サイコロの出目)%」が+αとして支給される仕組みだ。基本給が減ることはない。

人間が人間を評価する上で、完全に公平なモノサシは存在しない。それならば評価や運命を天に託そうというのがこの制度だ。もちろん仕事において評価は大切だが、社員には他人の評価を気にせずに働いてほしいという願いが込められている。

国や企業にもさまざまなモノサシがあるが、今後は既存の指標では測れない価値が重要になってくるだろう。その価値をどのような指標で評価するのかを考えていかなければならない。カヤックという、業績を追い求める民間企業が、自ら新たな指標を定めることに意味があると著者は考えている。

「何を」「誰と」「どこで」が幸福度を決める

仕事をするときには「何をするか」「誰とするか」「どこでするか」を決めることになる。そのうち、従来の資本主義で重視されてきたのは「何をするか」だけだ。しかし、企業の成長と個人の豊かさが必ずしもリンクしなくなってきた現在、「誰とするか」「どこでするか」も同様に存在感を増しているといえるだろう。

会社にとっての「何をするか」は、当然、経済活動すなわち「儲かること」だ。これにはさまざまな指標がある。一方「誰とするか」「どこでするか」には経営上の指標がない。株主や市場からチェックされることもない。だから二の次になりがちなのだろう。

カヤックは、これまで軽視されてきた「誰とするか」「どこでするか」にも目を向けるべきだと考えている。人の幸せ度を上げるには、これら三つの価値すべてを指標化し、企業がそれを追求することが必要だ。

「何をするか」を突き詰めると経営資本に、「誰とするか」は人とのつながりやコミュニティといった社会資本に、そして「どこでするか」は自分たちを取り巻く自然や文化といった環境資本を見直すことにつながる。社会資本や環境資本のような、かつては切り捨てられてきたものの価値を認め、指標化していく。それが長期的な豊かさにつながっていくはずだ。


キーワードは「地域コミュニティ」

Photo: "Ideas" by Krassy Can Do It(CC BY-NC-ND 2.0)

ブレストでジブンゴト化する

何ごとも「ジブンゴト」として取り組むと、人は本気になり、創造的にもなれる。そのトレーニングとして有効なのが、ブレインストーミング(ブレスト)だ。

カヤックのブレストでは「人のアイデアに乗っかる」「とにかく数を出す」の2つを大事にしている。「人のアイデアに乗っかる」とは、人の話を否定せず、それに付け足したり、発展させたりするということだ。「とにかく数を出す」ことは、失敗を恐れずにアイデアを出す土壌をつくる。

こうしたブレストは会社全体をポジティブに変える。互いに話をよく聞き、否定せずにたくさんアイデアを出していくので、チームワークがよくなる。さらに、課題に対するアイデアを考えるうちに、課題をジブンゴトとして捉えるようになっていく。そして何より楽しいというメリットもある。

地域をジブンゴト化する

経営者や社員が地域活動に参加するようになると、住むまちがジブンゴト化され、会社が地域に根付き始める。そうすると地域で働く人が増え、人とのつながりが増え、まちの経済も活性化される。

その後の理想的な展開は、地域の住人がその会社の株主になることだ。企業が地域にコミットするほど地域の価値は上がり、株主に還元できるようになる。経済資本と社会資本、環境資本の増大に向けて努力することが、企業、株主、地域にとっての利益となる。この「三方良し」の生態系を構築することができれば、地域資本は加速度的に増大していくだろう。

鎌倉資本主義の活動

Photo: "金魚鉢" by Fukuda Yasuo(CC BY-NC-ND 2.0)

まちを応援する活動

カヤックでは、地域ならではのコミュニティの強さや面白さを資本とし、地域の豊かさとして再定義するための活動を行っている。そのなかで出てきたキーワードが「まちを応援する」だ。まちを応援することで、地域に根差した資本主義が実現すると考えている。

その活動の一環として、2018年4月には「まちの社員食堂」がオープンした。これは鎌倉で働く人が、朝食・昼食・夕食を気軽にとれる食堂である(注:現在は昼食・夕食のみ)。鎌倉市内で働く人なら誰でも利用でき、会員企業の従業員は割引を受けることができる。

もともとは、カヤックの社員向けの福利厚生として社員食堂の開設を検討していたという。だが従来の社員食堂は閉じていて面白くない。そこで「まちの社員食堂」というかたちであれば、その不満が解消できるのではないかと考えたのだ。

また通常の社員食堂では、同じようなメニューが続き、飽きてしまう。そこで地元の飲食店や料理人に週替わりで調理してもらうことにした。飲食店や料理人にとっては負担だが、「鎌倉で働く人を応援したいから」とほとんどのお店が快諾してくれるという。この取り組みは食材の地産地消という面でも注目されている。

まちの社員食堂には、会社や組織の垣根を越えて多くの人が集まり、人と人とのつながりを増やすコミュニティスペースとして機能している。そこでの出会いが、新たな取り組みを生むこともある。こうしたコミュニティが、まちをさらに面白くすることにつながっていくのだ。

「まちの保育園」という企業主導型保育事業もある。建物の1階が保育園、2階がシェアオフィスになっており、子供を預けながら同じ建物の中で働くことができる。親同士の子育てコミュニティをつくる場にもなり、地域の社会資本を充実させる役割を担っている。

「鎌倉に就労する」という選択肢

鎌倉には、リタイアして移住してきた富裕層が多く、市民税と固定資産税による収入は潤沢にあった。だが今後人口が減っていけば、まちの税収も減ってしまう。だから鎌倉に働ける場を用意して若い世代に移住してもらい、まちの活力を維持しなければならない。そこで生まれたのが「まちの人事部」という取り組みだ。

「まちの人事部」では、鎌倉に拠点を置く企業の人事部長たちが中心となり、合同採用説明会、合同研修、リタイア人材のデータベース化などを行っている。鎌倉で働きたい人の応援をするばかりでなく、人事の悩みを持つ企業同士のつながりをつくり、勉強会や情報交換の場を提供するという役割も担っている。

働き方が多様化している時代においては、1社に就労するのではなく「鎌倉に就労する」という発想もできる。鎌倉全体で人材を共有できれば、優秀な人材を地域に根付かせ、地域活性化につなげることもできるはずだ。


一読のすすめ

本書を手に取ったらぜひカバーを外してみてもらいたい。美しい鎌倉の景色が広がっており、それだけで本書の主張する「地域固有の価値」が実感できるだろう。

要約は「地域資本」や「鎌倉資本主義」というコンセプトと、それが実際のまちづくりの活動の中でどのようにあらわれているかを中心にまとめた。本書では、要約で紹介しきれなかったカヤックの考え方や、「まちの映画館」などの具体的な活動例がさらに豊富に紹介されている。

また本書では、テクノロジーを使ったまちづくりの例についても触れられており、今後の社会を考えるヒントになるかもしれない。従来の経済のあり方になんとなく違和感を抱いている人や、地域活性化のアイデアを求める人はぜひ手に取ってほしい。