BNL Books

要約『予想どおりに不合理』━━締め切りギリギリ、無料に飛びつく。なぜ人は同じ行動を繰り返すのか 

私たちが下す判断は多くの場合「不合理」だ。もしその理由を理解し、自分の行動を予想できたら、本当にやりたかったことがもっと簡単にできるようになるかもしれない。

自分の行動に疑問を持ってみる━━BNL編集部の選定理由

この本は2010年に刊行されたベストセラーの文庫版だ。著者のダン・アリエリーは行動経済学研究の第一人者で、TEDでは大人気のプレゼンテーターである。

なぜいま選定したのかというと、この本から得られた気づきの中で、新生活に慣れてきた時季だからこそ意識したいものがあったからだ。

人間は過去のどこかで、何かを恣意(しい)的に決断し、その決断が自分の中に定着すると、その恣意を貫き通す特性があるという。著者はこう投げかける。

最初の決断が賢明だったと思いこんで、それを基盤に人生を築いているのだろうか。わたしたちはそんなふうにして職業や結婚相手や服装や髪型を選ぶものなのか。

(中略)人間というものが、最初に何も知らずにたまたまとった行動の総体でしかないとしたらどうだろう。

2章 需要と供給の誤謬より

もしそうだとしたら、とるべき行動が他にあるかもしれないし、物事の価値も正しく認識し直す必要があるかもしれない。そこで意識したいのが、この不合理な行動を改善する下記の方法だ。

(前略)習慣に疑問を持つところからはじめてみてはどうだろう。この習慣はどんなふうにはじまったのか。つぎにこの習慣からどれだけの満足を得られるか自問してみる。

(中略) 何をするにつけても、自分が繰り返ししている行動に疑問を持つよう訓練すべきだ。

2章 需要と供給の誤謬より

新生活にも慣れたいま、当たり前になりつつある行動や考え方の一つひとつは、実は自分にとって必ずしも最善ではないかもしれない。いまの習慣を見直し常に疑問を持つことは、あらゆるものの新たな価値を見出すきっかけになるだろう。

この本は、テーマごとに15の章から成り立っている。他にもさまざまな気づきが得られる一冊だから、すべて読むことをおすすめしたい。

⇒書籍の購入はこちら。(Amazon)


要約者レビュー

経済学という学問に触れたとき、「私たちは常に合理的である」ことを前提にしている点に関して、疑問を抱いたことはないだろうか。伝統的な経済学においては、たとえ不合理な選択をしたとしても、「市場原理の力」が働いて、合理的な選択に押し戻してくれるという。

とはいえ、われわれは個人レベルではあまりにも頻繁に不合理な判断をしていないだろうか。健康のためにダイエットをする、と心に決めたはずなのに目の前のいちごショートに手を伸ばしてしまう。テスト前早起きして勉強すると決心したはずなのに、睡魔に負けて二度寝をしてしまう。計画的に作業をこなすと決めたはずなのに、締め切りギリギリまで放置する。もっとも、人間はシステムではないので、当たり前と言えば当たり前の話ではあるのだが。

そんな疑問に答えるのは、本書「予想どおりに不合理」である。人はなぜわかっているのに同じ過ちを繰り返してしまうのか、不合理な選択をしてしまうのかを実験によって紐解いていく。そして、その特性を踏まえたうえで、実社会でどう生かすことができるのか、その実践的な手法を提供してくれるのだ。

本書は内容が濃く、とてもではないが要約でそのテーマのすべてを紹介することはできない。本書では15のテーマのうち、特に身近に感じられるものを二つ選択した。そのほかにも本書では、「性的興奮時に不合理な判断をするのはなぜか」や「価格が高い栄養ドリンクのほうが、効果が高いと感じてしまうのはなぜか」などを解説しているので、本紹介で内容に興味を持たれた方には、書籍の一読をお勧めしたい。


本書の要点

── 要点1 ──
伝統的な経済学では、私たちはみんな合理的で最善の行動をとっていると予測する。しかし、実際の私たちは不合理なだけでなく、「予想どおりに不合理」だ。私たちはいつも同じように不合理に行動し、それは何度も繰り返される。

── 要点2 ──
私たちは無料!と聞くと合理的な判断ができなくなる。ゼロはまったく別の価格だ。2セントと1セントの違いは小さいが、1セントとゼロの違いは莫大だ。これを理解すれば、ビジネスに生かすことも十分にできる。

── 要点3 ──
人々に行動の道筋をあらかじめ決意表明する機会を与えることによって、先延ばしの問題を解決することができる。


要約

【必読ポイント】 はじめに

Photo: "Nurses!" by Jonathan Brennan(CC BY-NC-ND 2.0)

一度のけががいかに私を不合理へと導いたのか

よく言われるのだが、どうやら私は、人とはちがったふうに世界を見ているらしい。この本を通じての私の目標は、自分やまわりの人たちを動かしているものが何なのかを根本から見つめなおす手助けをすることだ。

ある18歳の金曜の午後のことだ。一瞬のうちにすべてが取り返しのつかないほど大きく変わってしまった。夜間に戦場を照らすためにかつて使われていたマグネシウム光が炸裂し、私は全身の70パーセントに3度のやけどを負った。それから3年の間、私は全身を包帯に覆われたまま病院で過ごした。事故の後、病院でさまざまな種類の痛みをたっぷりと経験した。社会から半分切り離されたように感じた。そのため、以前は自分にとって当たり前だった日々の行動を、第三者のように外から観察するようになった。

長期の退院ができるようになると、私はすぐにテルアビブ大学で学びはじめた。ハナン・フレンク教授の大脳生理学の授業が、研究というものに対する私の考えをすっかり変え、その後の人生をほとんど決めてしまった。私の仮説はまちがっていることが分かったが、そのことを実験によりしっかりと確認できた。興味のあることを確かめる手段と機会を科学が与えてくれることを知り、私は人間の行動を研究する道にはまっていった。

私は人が痛みをどのように経験するのかという問題に取り組んだ。私はやけど治療において、患者に苦痛の少ない包帯のはがし方を研究し看護師に提案した。何人かの看護師は私の提案通り処置するようになったが、大々的に変わることはなかった。私の提案を実践すると、看護師が痛みに絶叫する患者を前にする時間が長くなってしまうからだろう。

経験豊富な看護師が、患者にとっての現実を取り違えてしまうのだとしたら、ほかの人も同じように自分の行動の結果を取り違えたり、そのせいで、繰り返しの判断を誤ったりするのではないか。私は失敗を繰り返してしまう状況について研究しようと決めた。

私たちは不合理なだけでなく「予想どおりに不合理」だ

というわけで、私たちが皆どんなふうに不合理かを追求しようとしたのがこの本の目的だ。この問題を扱えるようにしてくれる学問は、「行動経済学」、あるいは「判断・意思決定科学」という。

私たちが完璧な理性を持っているという仮定が、経済学にはいりこんでいる。経済学では、まさにこの「合理性」と呼ばれる基本概念が経済論理や予測や提案の基盤になっているのだ。しかし、実を言うと私たちは合理性からは程遠い。もうひとつ、私の考えでは、私たちは不合理なだけでなく、「予想どおりに不合理」だ。つまり、不合理性はいつも同じように起こり、何度も繰り返される。伝統的な経済学では、私たちはみんな合理的なため、常に最善の行動をとっていると予測する。もし、まちがいを犯しても、「市場原理の力」が降りかかり、私たちを正しい合理的な道に押しもどすのだ。

本書でこれから見ていくように、私たちはふつうの経済理論が想定するより、はるかに合理性を欠いている。そのうえ、私たちの不合理な行動はデタラメでも無分別でもない。規則性があって、何度も繰り返してしまうため、予想もできる。だとすれば、伝統的な経済学を修正し、未検証の心理学という状態から抜け出すのが賢明ではないか。これこそまさしく行動経済学という新しい分野が目指すところだ。

これから読んでもらう事項は、長年にわたって仲間と行ってきた実験に基づいている。そして実験から得られた結果を一歩進めてべつの状況にあてはめ、生活や仕事にどうかかわるかを示した。人間性について新たに理解したところで、何か違ったやり方ができるだろうか。そこに本物の冒険が待っている。さぁ冒険に出発だ。


ゼロコストのコスト

Photo: "Christmas candy" by Asbjørn Floden(CC BY-NC-ND 2.0)

【実験】無料!の力をチョコレートで示す

普段コーヒーは飲まないし、コーヒーを入れる器具さえないのに、コーヒー豆の無料!クーポンに思わず飛び込んだ経験はないだろうか。ゼロは感情のホットボタン、引き金であり、不合理な興奮の源なのだ。

わたしはある実験でチョコレートの販売を行った。公共の建物にテーブルを出し、リンツのトリュフ(高級)とハーシーのキスチョコ(普通)を用意し、「おひとりさま、ひとつまで」と書いて販売した。お客が続々と集まってきて、どうなったか。トリュフを定価の半額15セント、キスチョコを1セントに設定したとき、73パーセントのお客はトリュフを手に取った。

ここでいよいよ、無料!の実験である。今度はトリュフを14セント、キスチョコを無料で提供した。つつましいキスチョコは一躍大人気になった。69パーセントのお客が、無料!のキスチョコを選び、格安でトリュフを手に入れる機会を棒に振ったのだ。

どちらのチョコも同じ金額だけ値下げした。ふたつの相対的な価格は変わっていないし、得られる満足度も変わっていない。伝統的な経済理論では、この値下げによって顧客の行動に変化はないはずだ。もし経済学者が通りかかったら、杖を振り回し、経済理論を擁護してお客はトリュフを選ぶはずだと言うに違いない。ところがお客は無料のキスチョコを手に取ったのだ。

無料!のほんとうの魅力

無料の何がこんなにも心をそそるのだろう。自分がほんとうに求めているものではなくても、無料!となると不合理にも飛びつきたくなるのはなぜなのか。

私の考える答えはこうだ。たいていの商取引には良い面と悪い面があるが、何かが無料になると、わたしたちは悪い面を忘れ去り、無料であることに感動して、提供されているものを実際よりずっと価値あるものと思ってしまう。なぜだろう。それは、人間が失うことを本質的に恐れるからではないかと思う。無料の本当の魅力は恐れと結びついている。無料のものを選べば、目に見えて何かを失う心配はない。だから、どちらにするかと言われれば、無料のほうを選ぶ。

無料!の力を生かす

Photo: "Amazon Kindle Unboxing" by Lan Pham(CC BY-NC-ND 2.0)

実際に無料が行動にどう影響するかを示す話をしよう。数年前、アマゾンが一定額以上の注文をすると無料配送になるサービスをはじめた。人によっては無料配送があまりに魅力的で2冊目の本を注文し、全体の売り上げが伸びた。ただ、一カ所、フランスだけは売り上げが全く伸びなかった。フランスの消費者は合理的なのか? それはない。フランス支社は送料無料ではなく1フランにしたのだ。たったの1フラン(20円程度)だ。これが大きな違いだった。その後、他国と同じように送料無料にしたところフランスでも同様に売り上げが拡大した。

私たちは無料の方に過剰に反応してしまうことが少なくない。また、ゼロの概念は時間にも当てはまる。入場無料の美術館は長蛇の列ができるにも関わらず混雑する。そのほか、ゼロの概念は食品購入にも影響を及ぼす。ペプシも1キロカロリーと表示するよりも「カロリーゼロ」と表記する方が売れるだろう。

というわけで、あなたは1フランの手数料のままで、現状を維持することもできるし、何かを無料で提供して、人々の殺到をおこすこともできる。なんと強力な概念だろう。値段ゼロは単なる値引きではない。ゼロはまったくべつの価格だ。2セントと1セントの違いは小さいが、1セントとゼロの違いは莫大だ。

もしあなたが商売をしていて、この点を理解しているなら、たいしたことができる。お客を大勢集めたい? 何かを無料!にしよう。商品をもっと売りたい? 買い物の一部を無料にしよう。


先延ばしの問題と自制心

Photo: "be smart" by Froschmann(CC BY-NC-ND 2.0)

先延ばしとの戦い

なぜ私たちは給料の一部を貯金することができないのだろう。なぜ新しい買い物を我慢できないのだろう。なぜ古きよき自制心を働かせることができないのであろう。定年後のために貯蓄しようと誓いを立てるが、そのお金を旅行に使ってしまう。ダイエットしようと心に誓うが、デザートの誘惑に身をゆだねてしまう。私たちは先延ばしとの戦いにこうもしょっちゅう破れてしまうのだ。

お金を貯めようと誓う時、私たちは冷静な状態になる。しかし、そのあと熱い感情の溶岩流が押し寄せてくる。貯金すると誓った矢先に、どうしても欲しい新しい車や靴が目に入る。チョコレートケーキをひと切れ食べて、明日から本気で始めることにする。目先の満足のために長期目標をあきらめてしまうこと、それが先延ばしだ。

【実験】レポートの締め切り

Photo: "Sleepy" by Kevin Zollman(CC BY-NC-ND 2.0)

私は、この問題の原因を探ることで、人類共通のこの弱点を解決する方法を示せるかもしれないと思い、ある実験を行った。今回のモルモットは、わたしの消費者行動のクラスを受講する素晴らしい学生たちだ。

私は三つのクラスに対して、学期内に三つのレポートを出すように指示した。そして提出時期をクラスごとに、①初日に自分で時期を決める(遅れるとペナルティー)、②最後の講義まで、③第4週、第8週、第12週の3パターンに分けた。

それでは①、②、③、どのクラスの成績が良かったか。②のクラスはもっとも成績が悪かった。そして①のクラスは中間の成績だった。この結果から何がわかるか。第一に、学生はたしかに先延ばしすること。第二に、自由を厳しく制限するのが先延ばしに一番効果があることだ。

だが、最大の新発見は、学生に締め切りをあらかじめ決意表明できるようにすると、いい成績を取る手助けになるということだ。大抵の学生は自分の先延ばしの問題を理解しており、機会を与えればその問題に取り組む行動を起こし、それなりに成績向上を果たすのだ。①が③より劣っていた原因は、①のクラスの一部に②と同じように最後に締め切りを集中させる学生がいて、彼らがクラスの成績を下げていたのが分かった。

決意表明で、なりたい自分になる

いくら効果があるとはいえ、がみがみと命令するのがふさわしくなかったり、好ましくなかったりする場合がある。よい妥協案はないだろうか。最善の策は、人々に望ましい行動の道筋をあらかじめ決意表明する機会を与えることではないかと思う。

私たちは、目先の満足と後々の満足にかかわる自制心の問題を抱えている。それは間違いない。しかし、私たちが直面するどの問題にも潜在的な自制の仕組みがある。給与から貯金できないなら、会社の自動積み立てを利用する。ひとりで運動できないのなら友人と一緒に運動する約束を取り付けてもいい。このように事前に決意表明するためのツールは存在し、自分がなりたい自分になるのを助けてくれる場合がある。

ダンアリエリーによるTEDのプレゼンテーション。


一読のすすめ

注:本書はすべて実験に基づいて人の不合理性を明らかにし、それに対処するための具体的な方法が記されている。挙げられている事例はどれもビジネスの現場で感じられる不合理として身に覚えのあるものばかりであり、ぜひ本書で取り扱っている15の研究テーマ全てに触れていただきたい。