出会いを変える手みやげ

「とりあえず行列スイーツ」の前に、あの人だけの逸品を考えよう━━BNLで手みやげの特集がはじまる

礼儀だから、好印象だからという理由だけで、渡す行為が目的の手みやげなんてつまらない。相手が喜ぶに違いない特別な一品を、時間をかけて探すからこそ価値がうまれる。BNLは、訪ねる側のおもてなし「手みやげ」を特集する。

昨年、日本茶を特集したことがきっかけで、編集長が来客に急須でお茶を淹れるようになった。

お客さんは「なんだか落ち着く」などと喜んでくれて、ペットボトルのミネラルウォーターを出していたときよりも話が弾んでいるようだ。

お茶を淹れるというほんの少しの手間だが、そのおもてなしが出会いを変える力は、思いの外大きい。

そこでふと、逆に自分が人を訪ねるときのことを考えた。訪ねる側でも、迎えてくれる相手におもてなしができたら、出会いはもっと豊かになるかもしれない。そこでBNLは、訪ねる側のおもてなし「手みやげ」の特集をはじめることにした。

そもそも「みやげ」は、日本固有の文化だという。海外に「みやげ」の文化はなく、ビジネスの相手に贈り物をすることも少ない。

なぜ日本では「みやげ」の文化が生まれたのか。

<前略>ミヤゲの語源については、いくとおりかの説がある。そのひとつが、「宮笥(みやけ)」説。神社に参るときに持ってゆく笥、つまり、神饌(しんせん)を入れる器の意。あるいは、神社から授かるしるし、と解釈することもできよう。もうひとつが「屯倉(みやけ)」説。大和朝廷の直轄領の稲米の倉の意であるが、それが転じて地方の産物を都に運ぶことに通じる、とする。

<中略>

そこには神仏や貴人に対する「献上品」や「もてなし」の意が色濃く潜在している。
それが伝搬したところで、「手みやげ」となる。

━━『おみやげ 贈答と旅の日本文化』 まえがき 神崎宣武著 (青弓社) 

神社からはじまった日本ならではの「みやげ」の文化は、どのようにして現在まで受け継がれてきたのか。その歴史を文化人類学や民俗学の観点から紐解く。

手みやげの定番品についてもルーツを紹介する予定だ。例えばきびだんごや鳥サブレは、いつからその土地の名物となり、全国に広まっていったのか。そこには歴史的な出来事や鉄道の発展が大きくかかわっているという。実際に手みやげとして定番品を持っていくときは、小話として添えるとアイスブレイクにも良さそうだ。

Photo: "犬山 桃太郎公園" by Daisuke K(CC BY-NC-ND 2.0)

ところで、日本には「つまらないものですが」と言って手みやげを渡す文化がある。最近では失礼にあたるから使うべきではないという意見もあるが、この「つまらないもの」について、日本道徳の価値を世界に広げた、新渡戸稲造の『武士道』ではこんな風に記されている。

他でもない、アメリカで贈物をする時には、受け取る人に向かってその品物を褒めそやすが、日本ではこれを軽んじ賤しめる。アメリカ人の底意はこうである、「これは善い贈物です。善いものでなければ、私はあえてこれを君に贈りません。善きもの以外の物を君に贈るのは侮辱ですから」。これに反し日本人の論理はこうである、「君は善い方です、いかなる善き物も君には適(ふさ)わしくありません。君の足下(そくか)にいかなる物を置いても、私の好意の記(しるし)として以外にはそれを受取たまわないでしょう。この品物をば、物自身の価値の故にでなく、記として受取ってください。最善の贈物でも、それをば君に適わしきほどに善いと呼ぶことは、君の価値に対する侮辱であります」。この2つの思想を対照すれば、窮極の思想は同一である。 <中略> アメリカ人は贈物の物質について言い、日本人は贈物を差しだす精神について言うのである。

━━『武士道』 第6章 礼 新渡戸稲造著 矢内原忠雄訳 (岩波文庫)

「つまらないもの」は、相手が喜ぶ姿を想像しながら心を込めて探した特別な一品だからこそ成り立つ言葉だったわけだ。もちろん受け取る側も、その意味と価値を理解していたのだろう。

いつでもどこでも手みやげが買えるいま、相手が本当に気に入るものを選べているだろうか。Webで「ビジネス」「手みやげ」と検索してヒットしたものを理由もなく選んだり、行列のできる店のスイーツに頼ったりしていないだろうか。

相手がきっと好きに違いない一品を丁寧に考えはじめると、手みやげの常識としてタブーと言われてきたものも選択肢に入ってくる。例えば、羊羹などの切る必要があるお菓子はビジネスの手みやげとしてふさわしくないといわれている。しかし最近ではキッチンのあるオフィスも多いから、もし相手が餡子に目がない人なら、常識的にはタブーでも、その人にとってはうれしい一品だ。

Photo: "wagashi-kisetu(225)" by hinata0328(CC BY-NC-ND 2.0)

迎える側と訪ねる側。両者がお互いを思い合えば、その出会いはもっと豊かになる。イノベーションが生まれるきっかけにだってなるかもしれない。これからはじまる特集では、手みやげが出会いにもたらす価値を再発見したいと考えている。もちろん、最新の手みやげ事情にも触れていく。

一回目の明日は、BNLが厳選したおすすめの手みやげを紹介する。Eightのオフィスからも近い、表参道にある革新的なスイーツの店だ。思いの籠もった手みやげ探しにぜひ役立ててほしい。