SMBC

「データは誰のものか」が問われる時代だからこそ。メガバンク「攻め」と「守り」のデータ活用

三井住友銀行に「データマネジメント部」が新設されて、もうすぐ3年になる。IT大手が次々と金融業に参入してくるなか、銀行のデータサイエンティストは、いまどんなことに取り組んでいるのか。また、「情報銀行」としてのイノベーションの可能性にも迫る。

情報が莫大な価値を生み出す時代。さまざまな企業が新市場を狙って多様なデータの収集に乗り出し、活用の仕方を模索している。

国内メガバンクの一角・三井住友銀行も例外ではない。2016年4月にデータマネジメント部を発足。新たにデータサイエンティストを採用しているほか、既存の銀行員が正しくデータを扱えるための教育にも力を入れていくという。

最近では個人データを収集・管理する「情報銀行」というビジネスの可能性をめぐる議論も活発になってきた。新たなプレイヤーも続々参入してくる一方で、GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)などのプラットフォーマーによる情報独占は世界的な課題にもなっている。

そんな時代において、三井住友銀行はどのような姿勢でデータと向き合っているのか。名だたるIT企業を相手にどこに勝機を見出しているのか。データマネジメント部・村松竜一に聞いた。

これまでお客様のお金をお預かりすることで培ってきた信頼をベースに、これからはデータをお預かりする可能性についても模索していきたいと語る。

銀行のデータ活用の現状

──データマネジメント部とはどういう部署で、その中で村松さんが担っている役割は?

データマネジメント部の中には、それぞれ役割の異なる三つのグループがあります。

まず、一番わかりやすいのは「情報活用グループ」です。SMBCグループには、われわれ銀行だけではなく、カードやリースなどのさまざまな会社があり、それぞれがお客さまのデータを持っています。「情報活用グループ」の役割は、こうしたグループ各社のもつデータを使って、新しいサービスやお客さまに対して提供できる新たな付加価値を考えること。個人的には、ここがデータマネジメント部の本丸だと思っています。

二つめは「経営情報グループ」。私たちの間では「科学的経営」と言っているんですが、要はデータドリブンの経営判断をするために、各部の業績などを一括して見られるようにデータを整備したり、ツールを作ったりしているのがこのグループです。

とまあ、ここまでの二つがSMBCのデータ活用の両輪なんですけど、私自身がいるのはこのいずれでもありません。私が所属しているのは三つめの「情報統括グループ」で、データマネジメント部全体のデータ戦略を練ったり、その後にくる社内の人材育成なども管轄しています。データを活用していくには、やはりそれができる人間を行内にいかに増やせるかがカギだと思っているので。

──データ活用はどの程度進んでいるのでしょうか?

ようやくデータ活用の準備が整ってきた段階というのが正直なところです。私が異動してきたのは部の発足から半年経った2016年10月のことなんですが、当時はまだまだその準備ができていませんでした。これは「大企業あるある」かもしれませんが、銀行は業務の範囲が幅広いため、業務ごとにデータが分かれていて使いづらい状況にありました。

また、グループ各社のもつデータというのも、ある日突然「使います」といって使えるようになるわけではありません。個人情報保護法が定めている共同利用という項目があり、1社ごとにそのための手続きを踏んでいく必要があります。

この1年ほどでビッグデータの基盤が完成し、行内に分散していたデータを一箇所に集約することができました。また、共同利用の枠組みを作ったことで、グループ各社のデータを扱えるようにもなり、新しいことに取り組める体制が整ったというわけです。

──では、データ活用の本格化はこれから?

本格化はこれからですが、すでに始めている取り組みもあります。例えば、お客さま企業の不動産に関する情報を整備・分析し、老朽化したホテルや旅館の建て替えニーズを推測することで、訪日旅行客の増加や東京オリンピックに備えたご提案につなげています。ただ、正直に申し上げると「まだまだ、これから」だと考えています。データを活用してお客さまに付加価値をご提供できる余地は多分にあり、失敗もして、経験を積み重ねながら、次の戦略を立てているところです。

──失敗というのは?

本当にいろいろですけど、例えばデータをかき集めてAIに投入して分析してみました。でも、出てきた結果は案外普通のことを言ってるよね、というようなものですね。あるいは、よくご利用いただいているお客さまの傾向を分析して「新しくこういうお客さまにアプローチしたらうまくいくんじゃないか」というリストを作ったりもするんですが、それを使って販売促進するのは各営業店なので、その営業店の方針に合わず、せっかく作ったリストもなかなか有効活用してもらえない、とか。

ただ、そうした失敗、あるいは小さくても成功体験を積み重ねることで、データ分析の知見は貯まるし、「ああ、データ分析の結果ってこんな風に使えるんだ」と思ってもらえる機会を多く作っていけば、現場の意識も変わっていくんじゃないかと思うんです。そうしたら今度は現場の方から「もっとこういうことをやってほしい」という提案があったりという好循環も生まれてくるのではないかと。

幸か不幸か、いまは世の中の変化のスピードが急激に上がっていて、そういう世間の動きに後押しされるようにして、社内の空気もこちらが想定していた以上の速度で変わってきていると感じます。

三井住友銀行は、顧客の膨大なデータを保有している。当然それらを新しいビジネスに活用するハードルは高いが、これほど膨大な量と豊富な種類を扱っている会社は他になかなかない。

メガバンクならではの強みとは?

──データサイエンスはいまやあらゆる企業が力を入れています。銀行ならではの強みはどこにありますか。

お預かりしているお客さまのデータの量、多彩さ、そして精度だと思っています。

私自身が金融グループのデータ利活用に将来性があると思っている理由も、第一にはやはり膨大なデータの量にあります。グループ会社を合わせると、個人のお客さまで4000万口座くらい、法人のお客さまでもだいたい120万社くらいとのお取引があります。おそらくこれからIoTなども進んで、メーカーさんなどもいろいろなデータを集めていくことになると思いますが、これだけの個人あるいは会社に紐づいたデータを持った存在というのはやはり珍しいと言えるのではないでしょうか。

そして、ただ多いというだけではなくて、その種類も豊富です。個人のお客さまであれば、例えば住所とか氏名、電話番号といった属性情報に始まり、どんな投資商品を購入されて、それがいまどういう状況になっているか。私たちは、お客さまからお預かりしているこれらのデータを責任を持って安全に管理しており、こうしたデータのバラエティの豊富さも大きな強みだと思います。

さらに言えば、個人的にはそうしたデータの精度の高さも誇れると思っています。例えば個人のお客さまの属性情報は、口座開設の際に各店の窓口で受け取った依頼書に従って入力するわけですが、やはり銀行員には真面目で几帳面な人が多いですし、お金のことですから絶対に間違えられないということもあり、本当に正確に入力しています。また、それらのデータ全般をわれわれの部署でさらに整備しているので、精度の高さは保証できます。

データサイエンティストの方々はこれからどんどん価値が上がっていくでしょうし、国内外問わず流動化していくでしょう。そういう人たちとお話しした時によくおっしゃるのは、勤め先を選ぶ上で、その企業が何をやっているのかという魅力はもちろんあるけれども、そこにどれだけ自分の扱えるデータがあって、どれくらい扱いやすい環境にあるのかが大事だということ。そういう意味では、われわれの環境というのは一つの魅力として映るのではないかなという気がします。

──いま世の中では「情報銀行」ということが言われ始めていて、そこには既存の金融機関に限らず、いろいろな業種からの参入が予想されます。どう差別化しますか?

私自身、銀行一筋のキャリアで染まっている部分がありますから、もしかしたらこれは甘い考え方なのかもしれないですが、仮にグーグルとかアップルとかアマゾンとか参入してきたとしても、われわれには歴史があり、金融機関としてお客さまと築いてきた信頼関係というのは、そう簡単には揺らがないものだと思っています。

GAFAと呼ばれる企業がデータを独占しているという問題意識から、今年5月にはEUで一般データ保護規則(GDPR)という規制ができて、データは基本的には個人のものであり、企業が勝手に扱っていいものではないという考え方が広まってきています。当然ですが、この流れは今後、日本にも広がっていくでしょう。

そんな中、「情報銀行」が成立するかどうかのカギは、データが本当に安全に扱われるのかという不安の払拭と、不安を上回るだけのメリットをどれだけ提供できるかの両面にあると思っています。その意味では、まずは前者の面で、銀行が過去培ってきた信用力というものが活きてくると思っています。

──いわゆる「守り」の面で銀行が強いのはわかります。一方でいまおっしゃったようなメリットを示すことを「攻め」だとすると、銀行にIT企業に伍するほどの発想力がありますか?

おっしゃる通り、われわれ単体ではできないことがこれから数多く出てくるでしょう。やはり限界はあると思います。ただ、仮に「情報銀行」をやっていくとなった時にも、必ずしもそのすべてをわれわれ自身で担う必要はないと思っています。具体的な議論はまだこれからですが、例えばわれわれがお預かりしたデータを、お客さまに対してしっかりとしたメリットを出せるような事業者に責任を持って渡す、そういう役割もあるだろう、と。

そうなった際にもやはり、銀行のこれまでの蓄積は活きてくるのではないでしょうか。繰り返し申し上げているように、銀行には大企業からベンチャーまで、さまざまな法人のお客さまとのお付き合いがあります。そういうところからくる「目利き力」のようなものを活用して、データをうまく使ってくれそうな事業者さんをわれわれが見繕うことで、お客さまにメリットを提示する。そういう将来像はあるだろうと思っています。

いまや、あらゆる部署からデータに関する問い合わせがくる状態。経営会議役員からの期待も高いという。

データ活用のための人材育成の考え方

──人材の育成についてはどんなお考えをお持ちですか?

求められるスキルや能力は役割によって違ってくると思っています。いまはそこをきちっと整理しながら、研修体系を整えているところです。

例えばビジネスの企画をするような本部のスタッフが、銀行にはいま5000人ほどいるのですが、こうした人たちについては、さすがに統計的な専門知識までは求めないにしても、きちっとデータを読み解き、データを用いて仮説検証し、説明できるデータリテラシーは全員に身につけてほしいと思っています。要はそうすることで、これまでは上に立つ人のひと声で物事が決まっていたり、あるいは個人の経験や勘に頼っていたりしていたところ、もっとロジカルに説明していきましょう、データの裏付けで力を得ましょうということですね。

一方、そこから先のデータサイエンティストの区分については、データサイエンティスト協会が定める能力区分の「見習い」あるは「独り立ち」相当の能力まで求めることになるでしょう。本格的にデータ分析をやるからには、やはりこのレベルを目指してほしいと思っています。

データサイエンティスト協会はデータサイエンティストに必要な能力をデータサイエンス力、データエンジニアリング力、ビジネス力の三つであると定義しています。データサイエンス力というのは統計的な分析力。データエンジニアリング力はデータベースを構築し、そこから必要なデータを抽出する技術力。ビジネス力はそうして分析したものをビジネスにつなげる力を指します。

このうち、金融機関として一番欠けていて困るのは、やはりビジネス力だと個人的には思っています。それがないと、そもそもお客さまに対していい商品や付加価値を提供することはできないので。

われわれがいまやろうとしているのは、この三つの能力を行内の誰がどの程度もっているのかを判別する仕掛けを作ること。けれども結果はやる前からある程度見えていて、ここまで銀行員としてやってきた人であれば、おそらくビジネス力についてはそれなりのものを備えているだろう、と。だから問題は残りの二つですよね。そこは提携している外部の大学の社会人講座を活用したり、開発パートナーである日本総合研究所の力も借りたりして伸ばしていく必要があると思っています。

残念ながら、この三つすべてを高レベルで備えている人はほとんどいないでしょう。だから現実には、一人ひとりが最低限必要なレベルで三つを備えつつも、ビジネスが得意な人、データエンジニアリングが得意な人、データサイエンスが得意な人が集まって、チームとして取り組んでいくことになるのだろうと思います。そのために、まずは「この人は何が得意なの?」ということがわからなければ始まらないので、手始めにいまはその仕掛けを作っているということです。

──一方で専門職の採用にも力を入れていると伺いました。新たに加わる人にはどんなことを望みますか?

正直な話、私自身はデータサイエンティストでもなんでもない文系の人間なので、データ分析というものを軽く考えていたところがあったんです。銀行には膨大なデータがある。それを使ったら何か面白いことができるんでしょ?というくらいの感覚で。でも、実際にはデータ分析ってそんなに甘いものじゃない。トライアンドエラーの繰り返しなんですよね。

日々データサイエンティストのみなさんが頑張っているのを見ていて、そのことがだいぶわかってきました。でも、それも「体半分くらいわかってきた」って感じなんですよね。残りの半分では、まだどうにかできるんじゃないかと思っている自分がいます。

繰り返しになりますが、金融機関がもつデータは膨大です。でも、データはあっただけでは価値につながらない。きっとデータ自体も「もっと自分を活かしてほしい」と思っているんじゃないかなって。そういう、いまはまだ眠っているデータに焦点を当てて、そのデータが持つ力を解き放ってくれる。そんな人に来てほしいと思っています。

特別連載:三井住友銀行の新しい取り組みと働き方