インタビュー

4.2億円の資金調達に、大型カンファレンス開催。いま大きな波を起こす「PR Table」のビジョンに迫る

本来、パブリック・リレーションズは規模の大小を問わず、すべての企業が行うべき営み。ただし、これまでは非常に限定的だった。「PR3.0」と銘打ち、その考え方をスケールさせていくことに挑むPR Tableに、いま多くの協力や支援が集まり始めている。

本日(11/26)、企業のストーリーに注目した新しいPRのかたちを提案する会社「PR Table」は、グリーベンチャーズ、UB Venturesをはじめとする計4社から、総額約3億4千万円の第三者割当増資を実施したことを発表した。また、11月末日を最終クローズ予定日として、約8千万円の追加の資金調達を進めているという。

社外取締役にも就任したグリーベンチャーズの堤達生は、次のようにコメントしている。

今という時代を表現する言葉として、"ストーリーの時代"と言うことが出来ると思います。人々はストーリーがあるものに感動し、行動する時代になってきています。PR Table社はこれまで、そんな時代感をうまくとらえて、企業の中に眠っている情報をストーリー化してコンテンツにするという新しいマーケットを切り開いています。そして常に次世代の表現手法を生み出すためチャレンジを続けて います。そんなパイオニア精神溢れるPR Table社を全力で支援していきたい思います。

──グリーベンチャーズ株式会社 代表取締役 堤 達生

さらにPR Tableは、明日(11/27)に虎ノ門ヒルズにて、1000人規模の大型イベント「PR3.0カンファレンス」を開催する。全19セッション、登壇者は50人以上にのぼる。創業3人衆のひとり、菅原弘暁は「カンファレンスを、PRをアップデートするための議論の場にしたい」と意気込みを語る。

PR Tableは2014年に大堀航、大堀海によって立ち上げられ、まもなく菅原が合流した。3人に共通する思いは、現在の狭い「PR」を抜け出し、パブリック・リレーションズという概念が本来持っているポテンシャルを開花させたいということだ。

今回の増資を今後どのように活用していこうと考えているのか。大型カンファレンス開催の真の狙いとは。気鋭のPRスタートアップの創業者たちが、いま考えていることを聞く。

モテる企業になるためのPR

──まず、3人で起業することになった経緯を教えてください。

大堀(航) 僕はもともとオズマピーアールという総合PR会社にいました。その後、レアジョブというオンライン英会話サービスを運営する事業会社に移るんですが、レアジョブが東証マザーズ上場を目指していたんですね。そこでPRが必要となりチームを立ち上げました。PRという立場から上場に携わる経験をする過程で「こういうサービスがあったらいいな」と思いつくことがあって、それが起業につながっています。

大堀(海) 同じくPR業界で働いていたんですが、僕はブティック型のエージェンシーでコンサルティングを行っていました。そのときに、コンサルビジネスではなく、みなさんにご利用いただけるようなサービスやプロダクトをつくりたいと思ったんです。

菅原 僕は大堀(航)から2年遅れてオズマピーアールに入社しました。そのころから大堀とは「PRはどうあるべきか」を熱く議論する仲で。博報堂のPR戦略局、事業会社と経験する中で、どんどんPRという仕事の面白さを実感していきました。一方で、ノウハウ的なことに終始する業界に物足りなさも感じていて。自然な流れで合流しました。

──「PR Table」というサイトを運営されています。これはどのようなサイトですか。

大堀(海) 一言で説明すると、「企業のブランディングに特化したCMS(コンテンツ管理システム)」です。ホームページをご覧いただくと、あたかもウェブメディアのようにさまざまなコンテンツがたくさん集まっています。一つひとつのコンテンツを「ストーリー」と呼んでいますが、文字通り、大小さまざまな企業さんが持っているストーリーを公開していただく場所なんです。

菅原 ただし、「PR Table」はメディアではありません。あくまでもCMSでありプラットフォーム。サービスの一環としてコンテンツ制作を代行することもありますが、あくまでもお手伝いです。じゃあコンテンツをつくる目的は何かというと、その企業さんの言葉で語っていただくことです。「あらゆる会社に表現力を。」が「PR Table」の製品哲学なので。

大堀(海) 企業さんが公開されるストーリーはさまざまです。創業時のエピソードを語る企業さんもあれば、5年後に実現したい事業の話をする企業さんもあります。そのような「中の人」の言葉は、プレスリリースや求人情報では出てこない情報です。テキストと写真を組み合わせてコンテンツ化することで、それを見た人から「この会社で働きたい」とか「事業内容をもっと知りたい」というようなアクションを引き出すことができる。

大堀(航) 初めのころは「書いてくれませんか」とお願いしてもなかなか書いてもらえませんでした。「タダでもいいから書かせてください」と頼んでも、にべもなく断られたこともありました。

──確かに、私が広報だったら「ここに書くことで何のメリットが?」と考えてしまいそうです。

大堀(航) そうかもしれません。書いたからといってメディアに取り上げられることを約束するものでもありませんし。でも僕たちは、パブリック・リレーションズがほぼイコール、メディア・リレーションズであるような状況をこそ、変えていきたいと思っているんです。これまでは商品の認知度をいかに高めるかがPRの中心でした。だけどこれからは、人に選ばれる企業になることが重要になる。「モテる企業」になるというのかな。

菅原 僕らにとって大きな気付きになったのは、ある企業の方に「(広報ではなく)人事に営業してみろ」と言われたことでした。それで人事担当者に会いにいってみたら、書いてくれないどころか、ぜひ利用したいと言っていただけた。ちょうどそのころ、HR(ヒューマン・リソース)の分野ではダイレクト・リクルーティングやリファラル採用という考え方が登場して、企業が自らコンテンツを持つことが重要になると言われ始めたときだったんですね。そこに僕らのプロダクトが合致した。

──つまり「採用を強くするPR」ということですか。

大堀(海) そこが難しいのですが、必ずしもそうではありません。採用効率を上げるだけならHRテックでさまざまなサービスが開発されています。でも僕たちはやはりパブリック・リレーションズの視点を大事にしたい。それには、採用を強くするPRではなく、「会社のブランドを強くするPR」が必要だと考えています。

一般的に、社員のエンゲージメントを向上させるインターナル施策と、新たに人をとるための採用活動は、別々に行われています。しかし「PR Table」を導入することで一気通貫で行えるようになるんです。

菅原 企業活動が「商品市場」「資本市場」「労働市場」の3つの領域に分けられるとしたら、PRはこれまで主に「商品市場」の中で機能してきました。でも僕たちは、実際に事業を運営していく中で、「そこから飛び出すことがPRのアップデートになるんじゃないか」と考えるようになりました。

──飛び出した先が「労働市場」の領域だったということですね。今回の増資は、その領域をさらに強化していくためなのでしょうか。

大堀(海) 新たに調達した資金を何に使うかというと、一番はプロダクトの開発です。「PR Table」に動画投稿機能を加えるといった改善のほかに、効果測定機能の強化にも力を入れます。潜在的な採用候補者にコンテンツを見てもらうにはどうしたらいいか、見てくれた人をアクティブにするには次にどんなコンテンツを見せるのがいいか。さらに面談にきてもらって、内定を出すところまで、各段階にKPIを設けて、PDCAサイクルを回していく。

PR Tableのプロダクト進化の幅を表した図。企業の認知から入社後の活躍まで、コンテンツを軸に的確に効果測定まで可能な仕組みを整えていきたいという。

大堀(航) 入社したあともその人がどれだけ活躍したかまで紐付けられるようになると面白いデータになると思います。海外ではスコアを測定して分析するサービスが増えましたが、日本でも同様にエンプロイーやステークホルダーとの関係をスコアリングして可視化するようなソリューションは増えています。ただ、それで例えば「従業員のエンゲージメントが低い」ということがわかったとして、何をどうすればスコアが改善されるかのソリューションはまだないと思っているんです。福利厚生を充実させることだったり、社内イベントを開催することだったりという従来型のソリューションもありますが、僕は結局それらもすべてコンテンツだと思っていて。測定の部分はHRテックのプレイヤーと連携することはあり得ると思いますが、やはり僕らの強みはコンテンツをつくり続けてきたことにある。

大堀(海) 12月から5期目がスタートします。そこでしっかりとプロダクトをつくりきって、同時に僕たちの考えを伝えていきたいですね。

──「僕たちの考え」というのは?

菅原 僕たちの会社は「ポスト2020の日本社会にハートのある技術をインストールする」をミッションとして掲げています。ちょっと青臭いんですが、労働集約的で属人的なサービスではなく、誰もが利用できるテクノロジー(技術)として実現することが重要だと思っている。なぜなら、いまふたりが言ったような機能も、テクノロジーとして提供しないと、結局高いお金を払ってPR会社に依頼することになってしまうから。それだとPRはいつまでたっても「金持ちの買い物」のままです。

パブリック・リレーションズは本来、規模の大小を問わずすべての企業が行うべき営みです。日本には数多くの中小企業がありますが、けっこうみんな、自分の会社のことをしゃべれないんですよね。不思議に思って一度どうして自分の会社のことを話せないのか聞いたことがあるんですが、そうしたら、「聞かれたことがないんです」って。近所の人すらその会社が何をやっているのか知らない。それでは地域社会との関係構築は望めません。僕たちはプロダクトに落とし込むことで、そういった中小企業にも利用してもらいたいと思っているんです。普段の業務の中で生じるちょっとした変化や、自社製品に対する社員の思いといったことが広報資産になります。僕たちが伝えたいのは「ニュースがなくても広報はできるよ」ということ。中小企業のストーリーがどんどん発信されていくほうが、日本の社会全体が元気になると思っています。

パブリック・リレーションズという考え方をスケールさせていく

──「PR3.0カンファレンス」を開催されますが、なぜいまカンファレンスを開催しようと考えたのでしょうか。

菅原 僕たちは創業する前から「PR Tableブログ」というブログを運営していて、そこでPRについて話していたんです。というのは、PRって情報の非対称性が激しい業界なんですね。所属しているPR会社のブランドやリソースを使えばたいしたことない人でもそこそこやっていけてしまう。それが肌に合わなくて(笑)。ブログに書くことで勝手に知見をオープンソース化していたんです。起業もその延長線上にあったので、もともと「PRについて議論する」という文化がありました。

昨年ぐらいからあらためてパブリック・リレーションズを啓蒙するだけでなく、時代にフィットするかたちでみんなに実践してもらうにはどうしたらいいだろうかと考え始めた。そこで思ったのは、これまでを否定するのではなく、認めた上でアップデートしなければいけないということです。

──「PR2.0」ではなく「PR3.0」としたのはなぜでしょう。

菅原 PRは一度アップデートしているんです。「新商品が発売されました」というパブリシティを獲得することが1.0だとしたら、2.0はメディアだけでなくキャンペーンを展開したり、口コミやブログ、SNSなども取り入れてその商品に対するポジティブな空気をつくっていく。統合型マーケティング・コミュニケーションと呼ばれる手法です。いまも有効なやり方だと思いますが、あくまでも「商品市場」の中での話なんですね。パブリック・リレーションズの本来の意味に立ち返れば、PRパーソンは「商品市場」「資本市場」「労働市場」の各領域で横断的に活躍できるはずなんです。

じゃあどうすれば2.0から3.0へアップデートできるのか。僕たちは「企業と個の新しい関係構築」という仮説を立てています。パブリック・リレーションズは「企業と社会との関係を構築すること」と言われていますが、「社会」から一歩踏み込んで、「個」との関係をとらえていくべきではないかと。

サイボウズの青野(慶久)さんがおっしゃる「100人100通りの働き方」もそうだし、SNSの普及で企業アカウントが活発に発信していることもそうだと思いますが、「企業と個の関係」の解像度が上がっている。僕たちはそれを「パーソナル・リレーションズ」と呼んでいますが、現実がそうなっているのにPRがその関係構築に目が向いていないのはおかしいのではないか。PRのアップデートのためには「パーソナル・リレーションズ」の要素が加わることが大事なのでは。そう考えているんです。

ただ、僕らも正解を持っているわけではありません。みんなで考えたいし、業界で活躍されている方々のご意見を聞きたい、議論したい。それがカンファレンスを開催する最大の理由です。プログラムも、経営、HR、IR、コンテンツ・クリエイティブ、メディア・リレーションズ、パブリック・アフェアズなど、パブリック・リレーションズの活動と言われる領域をすべて取りそろえることを目指しました。おかげさまで多くの登壇者の方にご賛同いただいてたくさんのセッションを用意することができたので、時間が重なるものもあるのですが、より多くの方に、いま自分に必要なものを聞いていただければと思っています。

大堀(航) スタートアップとして4年やってきて、PRを取り巻く環境が変わってきたなと実感することがあります。それは、ベンチャーキャピタルなどのビジネスサイドの人たちがPRの市場に可能性を見いだし始めているということです。PRを「企業がステークホルダーと関係を構築する営み」という視点で見直してみると、ほぼすべてなんです。カンファレンスを通じてその意味を多くの人に知ってもらえたら嬉しい。パブリック・リレーションズという考え方をスケールさせていくことが、僕らが本当にやりたいことなんです。