新しい後継ぎのかたち

伝統を守り、新時代を築き、年上の部下ともうまくやる。新参者にして最強の経営者、「後継ぎ」を大特集

いま、後継ぎたちの活躍が目覚ましい。斬新なアイデアと並外れた行動が会社を成長へと導いている。経営だけではない。先輩の後任や移住先ではじめる新しいビジネスなど、さまざまな場面でヒントになる後継ぎたちのストーリー。BNLは「後継ぎ」の企画をスタートする。

名前を知らないブランドの商品を「おっ、ちょっといいな」と思って手にとってみる。いいと思ったからには、そのブランドのことをもっと知りたくて、お店の人に聞いてみると、そこには予想以上に面白いストーリーが待っていたりする。

「もともとは老舗の繊維業者だったんですよ」。なるほど、だからこんなに手触りがいいのか。「この製品をつくる機械は、もうほとんど日本にはないんです」ということは、数に限りがあるんだな。

そんな奥行きを知ると、商品をもっと好きになる。

こうして「いいな」と思った商品が持つストーリーをいちいち調べるようになって、あることに気づいた。多くのブランドの裏側で、「後継ぎ」が大活躍しているのだ。

家業がなくなってしまうのを見過ごすわけにはいかないから、何か新しい手段で再生したい。そう考える後継ぎたちが、一度は外に就職したものの、実家に戻り、外の会社で身につけた知見や築いた人脈を活かして家業の立て直しに取り組んでいる。

家業を継ぐだけに限らない。消えゆく日本の伝統技術をどうしても文化として残したいから、血縁関係ではない自分が「後継者」になる、という決断をする人もいる。

自社ブランドを立ち上げたり、流通販路を開拓したり。その手段はさまざまだが、一つ共通している点がある。それは「自社独自の価値」を見つけて少しだけ新しいエッセンスを注ぎ、自らが発信源となって世の中に伝えているということ。

Photo: "マツナガ電化" by m-louis .®(CC BY-NC-ND 2.0)

読者の中にもファンがいるだろうか。300年の歴史を持つ麻織物の老舗、中川政七商店もまた、自社独自の価値を追求し続ける企業だ。そして、十三代として社長に就任した中川淳は、コンサルティング事業の開始、新ブランド「中川政七商店」を発表、合同展示会「大日本市」の開催など、新機軸を次々と打ち出し、いまやGINZA SIXや六本木ミッドタウンにも店舗を構えるほどまでに成長した。

今年は、十四代の新社長が就任した。創業300年の中で初めて、中川家以外の人が後を継ぐ。時代に合わせて適切な判断をするところも、企業存続のコツなのかもしれない。新社長はこれからどんな挑戦をしていくのだろう、中川政七商店のファンは楽しみだ。

しかし、優秀な後継ぎたちが活躍する企業がある一方で、全国的に見ると、実はいま大変な事態が起こっている。経営者の高齢化が進むと共に、後継ぎ不足が深刻化しているのだ。

ここ10年で、中小企業の休廃業や倒産が相次ぎ、日本の企業数は減少傾向にある。その中でも特に問題視されているのが、後継者不在による黒字廃業だ。実際の数字を見てみよう。

東京商工リサーチによると、ここ10年で休廃業した企業は約40%も増加しているという。 (出所)中小企業庁HP 「平成29年度(2017年度)の中小企業の動向」

(出所)中小企業庁HP 「平成28年度(2016年度)の中小企業の動向

休廃業・解散企業の経営者の年齢は2016年、60歳以上の企業が8割以上、10年前と比べると70~79歳、80歳以上の構成比が増え、80歳以上の経営者にいたっては2倍以上に増えている。

 2013年から2015年までの期間で休廃業・解散した企業84,091者のうち、廃業直前の売上高経常利益率が判明している企業6,405者について集計したデータをもとに休廃業前の利益率。(出所)中小企業庁HP 「平成28年度(2016年度)の中小企業の動向

廃業した企業の中で、利益率が0%以上の黒字状態だった企業は5割以上、半数超の企業が廃業前に黒字だ。

さらに中小企業庁は、現状を放置した場合、2025年までに650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われると警鐘を鳴らす。もはやすべてのビジネスパーソンにとって、他人ごとでは済まされない事態だ。

その事態を受けて、「だったらもっと簡単に後継ぎを探せる仕組みをつくろう」と立ち上がったのが日本M&Aセンターである。同社は今年、新会社の&Biz(アンドビズ)を設立し、後継ぎを探す小規模企業に特化したインターネットマッチングサイト「Batonz」(バトンズ)をスタートさせた。例えば町の飲食店でも、継ぎたい人と気軽に出会えるプラットフォームだ。「『企業を買いたい』という人に対しても、企業を選べる『楽しみ』を提供していきたい」と大山氏は語る。

Photo: "うどん天国" by m-louis .®(CC BY-NC-ND 2.0)

革新的な後継ぎたちが活躍している一方で、見過ごせない廃業の実態がある。しかし見方を変えれば、いろいろなことに挑戦できる時代でもあるわけだ。例えば「どこかの会社を継ぐ」ことだってできるかもしれない。もちろん簡単なことではないが、自身のスキルや個性と、先代が築き上げたビジネスがかけ合わされば、きっと新たな価値が生まれるだろう。

この時代を苦しいと嘆くか、それともチャンスと捉えてワクワクするか。BNLは、いまを楽しみながら着実にビジネスを成功へと導くさまざまな後継者たちを数週間に渡って特集する。彼らはきっと私たちに、ビジネスを面白くするヒントを与えてくれるはずだ。