新しい後継ぎのかたち

「継ぐ」ことはワクワクすること。中小企業M&Aのパイオニアが、後継ぎ探しの「Batonz」を作った理由

後継ぎ不足によって黒字廃業をする企業が後を絶たない。でも悲壮感に浸っていたって何もはじまらない。誰かの後継ぎになることは、本当はもっとワクワクすることだから。経営者として仕事を思いっきり楽しめるチャンスなのだ。

深刻化する「後継ぎ不足」という問題

いま、日本の企業数が急激に減りはじめている。ピーク時におおむね500万社あった企業は約375万社にまで減少した。実に100万社以上がここ数年で、倒産ないしは廃業している計算になる。

企業の減少という見過ごせない事実の中でとりわけ問題視されているのが、「黒字廃業」の多さだ。景気の善し悪しとは一切関係なく、自主的に廃業する企業が後を立たない。そのトリガーとなっているのが「経営者の高齢化」と「後継ぎの不足」という2つの問題である。

「この先の10年間で社長の年齢が70歳を超える企業は、国内に約175万社あると言われています。これは全企業の45%を占めています。日本人男性の平均健康寿命が72歳、平均寿命が81歳という統計から考えれば、非常に多くの経営者が経営から退かなくてはいけないタイミングに来ている。しかし、次の後継者が決まっているという企業は全体の3分の1にも満たないと言われています」

そう語るのは、これまでに数多くの企業のM&Aに関わり、この4月からは新会社であるアンドビズ株式会社で代表取締役社長を務める大山敬義だ。

「後継ぎがいないということは、言い換えると『次の保証人がいない』ということなんです。つまり、金融機関からお金が借りられなくなるわけですから、経営が続けられなくなる。だから倒産とは違います。倒産する前に、やめられるうちにやめてしまおうと考えた結果、廃業を余儀なくされる。これが黒字廃業の実態です」

驚くべきことに、後継ぎ不足の問題を抱えている企業は、日本全国に127万社 もあると言われている。(2017年10月6日付 日本経済新聞)特に地方の状況は厳しく、東京では倒産と廃業の割合はおおよそ1対1だが、これが地方になると、廃業の割合が格段に高くなる。例えば宮崎県の場合、1社が倒産する間に、11社が廃業しているという。地方では働き口が減り続け、就職先も少ないから若い人が残らない。「地方が消えていく」という現象が起こりはじめているのだ。

「東京や大阪の大手企業は大丈夫かというと、たとえ今は安泰でも販売先や仕入先の企業が廃業すれば状況は変わってくる」と大山は言う。都心で働く人にとっても、黒字廃業の実態は人ごとではない。 

こうした黒字廃業増加の問題に対して一石を投じようと、大山は今年、新会社を立ち上げた。10月には事業承継を必要としている小規模企業に特化したインターネットマッチングサービスをスタート。これまで多くのM&Aの現場に立ち会ってきた大山は、自身も家業の事業承継の問題に直面し、継がないという選択をした経験を持つ。だからこそ後継者不足という課題に対し、人一倍強い思いを抱いている。大山流の後継ぎ論、そして新サービスに込められた情熱に迫った。

「継ぐ側」と「継がせる側」にあるギャップ

そもそも、後継ぎ不足の問題の根っこにあるのが、「家督相続」だと大山は言う。「私ぐらいの年代までは、長男であれば家業を継ぐというのが当たり前でした。でもいまの若い人にそんな感覚はありませんよね」

家督相続制度とは、旧民法で制定されていた「家長の身分と財産を一人が受け継ぐ相続制度」のことで、平たく言うなら「長男が家業を継ぐ」という前時代的な家制度だ。1947年の民法改正までは、長男が家長権を相続すれば、一緒に財産権も継承され、相続税を払う必要はないことが法律で決められていた。そのかわりに家を守り、家業を継ぎ、親を扶養し、お墓と仏壇を守る。

しかし、いまの相続の原則は「均等相続」である。家業を継ごうと継ぐまいと、財産は兄弟に均等に相続される。となると、もはや財産権の継承のために家や家業を守るという義務を果たさなくても財産はもらえるし、義務を履行しなければならない理由もないわけだ。

「家や仏壇を守るというのは古い考えです。<継ぐ側>はもう、『長男は家業を継ぐのが当たり前』という考えに縛られる必要はなくなりました。一方で<継がせる側>は、息子や娘以外の従業員や、外から連れてきた適任者に継がせることもできるはずなのに、それは絶対にしない。なぜなら、『家業』だからです。なぜ赤の他人に家業を渡さないといけないのか、という感覚がまだ残っているわけです。70年も前に廃止された家督相続にいまだに引っ張られている。この両者間のギャップが、いまの後継ぎ不足の問題に大きな影響を与えているのです」

日本には100年以上続く会社が2万社もあるという。これはまさに家督相続制であったが故のこと。歴史的に見ると悪い面ばかりでもないが、現代ではもう古い考え方で、後継者不足の大きな要因となっている。

町のラーメン屋が後継ぎ探しに2000万円払えるか?

こうした後継ぎ不足の問題を解消するべく誕生したのが、アンドビズ株式会社が運営するサービス「Batonz(バトンズ)」だ。小規模企業に特化し、事業承継を支援するインターネットマッチングサイト。このサービスを立ち上げるに至った思いを大山は自らの経験を踏まえて語る。

「私の実家は建設業を営んでいました。私は二人兄妹の長男なので、家業を継ぐか継がないかの選択を迫られましたが、継がないという選択をしました。だから実家は家業をたたむことになったんです。私は、自分自身が後を継がなかったことを振り返り『会社とは息子が後を継がなければ存続したらいけないのか?』という課題意識をずっと持ち続けていました」

しかし世の中を見渡せば、第三者が自然に後を継いでいる会社はたくさんある。

「過去の常識を壊さないと、この国の会社はなくなってしまう。同族が継がないといけない時代が終わったのであれば、他の誰かが後を継げるような仕組みをつくってあげるべきだ。そんなふうに考えるようになりました」

その仕組みの一つとして、他社による買収によって存続の道を探る「M&A」に期待が寄せられている。大山は日本M&Aセンターの立ち上げから関わり、これまで30年近くにわたり数多くの企業のM&Aに関わってきた。しかしだからこそ「これまでのM&Aではできないことがある」と言う。

壁に飾られた「道」の文字は、M&Aを果たした企業の「これから」を表しているという。隣の部屋には両社の友好を表す「和」の文字が飾られている。

従来のM&Aのやり方は、「売りたい」という企業があると、まず複数の専門家がその企業を徹底的に分析する。その後、ベストなマッチング先、つまり『最もシナジー効果が高そうな相手』を世界中の企業の中から100社ほど選び出し、1件1件交渉しながら最終的に1社に絞っていく。これには手間も時間も膨大にかかり、手数料は最低でも2000万円はかかるという。

「手間も時間も金額も膨大にかかるから、もちろん失敗はしにくい。ですが、例えば町の小さなラーメン屋さんが誰かに暖簾を継いでもらいたいと思ったときに、はたして同じやり方ができるのかというと、当然ですが従来のM&Aのやり方ではオーバースペックですよね」

M&Aと言うと、世間はソフトバンクが行うような、多額の金額が動く取引を想像しがちだが、小さな会社の売買は全く違う世界だという。

「世間がイメージするM&Aとは全く違う形で会社を売り買いする世界があることをもっと世に広め、事業を継ぐという意識を個人レベルで変えていく必要があると考えました。そうしなくては、いまの日本が抱える後継者不足の問題は、誰も解決できないんです」

「継ぎたい人」はどこかに必ずいる

小さな会社の売買は大企業のそれとは別物でも、マッチする相手を見つけるという意味では同じことだ。しかし、町のラーメン屋にとって最もシナジー効果が高い相手を見定めるのは難しい。それでも継ぎたいと思う相手は必ずどこかにいるはずだ。問題はどこにいるのか皆目見当がつかないこと。大山がインターネットでのマッチングという手法を選んだ理由はそこにある。

「インターネットなら、どこにいるかわからない人を探せますよね。『Batonz』のサイトでは、後継者を探している企業が一覧で見られるようになっています。公募で相手を募り、マッチングしていく。これは、どこかにいるかもしれないベストな相手を広く探す手段として、とても有効だと考えています」

日本M&Aセンター本社から見渡せる首都高と日本橋のビル群。大山はここから見えるような大きな企業を相手にM&Aコンサルタントとして長年働いた経験を活かし、小規模企業や個人事業主の事業承継の支援に情熱を注ぐ。

もう1つポイントがある。マッチングさせた後にどう成功させるか、その部分にまで徹底的にこだわっている点だ。

「実は、Batonzのビジネスモデルのヒントになったのが、6年前のアメリカ視察で見た現地のマッチングサイトです。そこで驚いたのが、サイト上に『売りたい』という会社が4万社も載っていたことでした。どのような会社なのかを見てみると、小さなビジネスばかりなんです。そこでは、ビジネスブローカーという法律のプロが介在することで企業間のマッチングを確実なものにしていました。日本でも同じような仕組みを作れないものかと考えた末、最初に行ったのが、ビジネスブローカー的な役割の人材を育てることでした」

そこで作ったのが「M&Aエキスパート」という資格である。現在、その資格を持つ人は、全国に2万人強まで増えている。彼らの間を結ぶ横のつながりもつくった。エキスパート同士で案件が流通する仕組みだ。彼らが法律の専門家として「売る側」「買う側」の双方に対し、失敗が起こらないようにケアをする。

さらに、大山はM&Aセンター時代に培った人脈を生かし、地方の銀行や、会計士・弁護士などのプロフェッショナルもネットワーク化した。これで、事業承継を進める際に必要な専門知識を必要に応じてシームレスに提供できる仕組みが整った。

「単なるマッチングだけなら、IT企業ならどこでもできるでしょう。でも、彼らには安心や安全を担保することまでは、おそらくできません。M&Aをやったことがない人に、その後にどんな問題が起こるかなんて絶対にわからないからです。でも、私たちにはそれらのノウハウが全てあります。そして、小さな企業、小さなビジネスの事業承継にとってはマッチング後のサポートが肝心だということにわれわれは気付いているからこそ、その部分のケアには特に力を入れているのです。マッチングして終わり、ではないのです」

今年4月に「アンドビズ」としてプレローンチされてから8月までの5カ月間で会員数は1万人を超え、すでに136件の成約が実現している。現在は500件程度の情報の掲載に留まっているが、5年後には随時1万件の情報が見られるサイトを目指しているという。

事業承継はもっとワクワクするもの

前述の通り、いまの日本には後継ぎがいない企業が127万社もある。そんな時代に「Batonz」が果たすべき役割について、大山は大きなビジョンを語る。

「今の事業承継にはどこか悲壮感があります。確かにそういう現実もあるけれど、裏を返せば、跡継ぎのいない会社を誰でも継ぐことができるとも捉えられますよね。そんなマーケットができれば、面白いと思うんです。目の前に127万社の在庫があるということです。その中からどれを選んでもいいなんて、ものすごく楽しそうじゃないですか? ワクワクしますよね」

「『企業を買いたい』という人に対しても、どれを選んでもいいんだという『楽しみ』を提供していきたい」と語る大山。

一度買ったら、次は売る側にもなれる。いろいろな働き方が議論されるなか、そうやって小さな会社の売買まで誰もが便利に選べる時代がきたら、もっと面白い世界になるはずだと大山は真剣に考えている。

「興味をもった企業が地方の会社だったとしても、別に生涯そこに身を置いて働く必要はないと思うんです。1、2年やって東京に戻りたいと思ったら、また売ったらいい。かたちとしては企業の売り買いですが、『私はこっちをやるから、次はこっちをお願い』といった感じで、『経営のバトンタッチ』と考えれば、大層なことではないんです」

初めてだけどやってみたい、そんな人にも安心して使ってもらえるサービスを作ることで、新しい事業承継のあり方を広めていきたいと大山は言う。後継ぎ不足で困る企業を減らし、同時にチャレンジできる楽しさを提供していく。それが実現したとき、この国はもっと面白い国になるはずだと。

10月1日に新たにオープンした「Batonz」のサイトを覗いてみた。なるほど、全国各地、さまざまな会社が掲載されている。「この土地でこの店の経営を継ぐなら、どんな風にしようかな」「この会社だったら、こんなことができるかも」なんて、思わず考えてワクワクする。

10月1日にオープンした「Batonz」のサイト。「憧れの飲食店」「300万円で事業を買う」などさまざまなカテゴリーから興味のある会社の情報を見ることができる。

決死の覚悟で家業を継ぐことが正しい事業承継の形という古い考えは、いまの時代には不必要だ。時代に合った事業承継の形があること、それは、仕事はもとより人生をより謳歌する手段でもあることを「Batonz」が気付かせてくれる。