来客には急須で日本茶

決めたい商談なら、ワインボトルに詰めた最高級の日本茶はいかが?

高級手摘み茶の水出し・非加熱濾過除菌という、お茶業界の常識を覆す製法で無名のブランドを世界に認めさせた起業家、吉本桂子。BNLお茶特集の最後は、お茶業界に新星のごとく現れた会社「ロイヤルブルーティージャパン」を取り上げる。

六本木ヒルズにほど近い、小さいが格調高い雰囲気の漂う、とあるサロン。入って正面の壁一面には、整然とワインボトルが並べられている。価格は3000円程度の手頃なものから、高いものでは60万円と幅広い。とはいえ、ワインの価格とすれば格段驚くようなものではないだろう。

ところが、このボトルの中身はどれもワインではない。スタッフの手によりグラスに注がれた黄金色の液体は、水出しされた日本茶だ。

高級感が漂う、黒を基調とした店内。購入するだけでなく、奥のカウンターではワイングラスで日本茶を楽しむこともできる。

2006年創立のロイヤルブルーティージャパンは、「高級手摘み茶」というまったく新しいジャンルを開拓したパイオニア。天皇・皇后両陛下が臨席した2010年5月の全国植樹祭のレセプションや、同年11月のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)でウエルカムドリンクとして採用されたり、高級飲食店や一流ホテル、国際線ファーストクラスのドリンクサービスとしても使用されたりと、唯一無二の地位を築いている。

また、サロンに購入に訪れるのは主にエグゼクティブクラスのビジネスパーソン。「絶対に失敗できない」商談用の贈答品としての需要も高いという。

ブティックでは、ボトルを購入するだけでなく、実際に飲むこともできる。スタッフの男性が「こちらが一番人気です」とグラスにお茶を注いでくれた。これまで見たことのない、鮮やかで濁りのない色に胸が高鳴る。

代表取締役社長の吉本桂子はもともとフリーのグラフィックデザイナーという異色の経歴を持つ。企業経営も日本茶の世界も完全に素人だった彼女になぜ、この短期間でいまのようなブランドを築くことができたのか。ロイヤルブルーティーはなぜ「絶対に失敗できない」場で選ばれるのだろうか。

その答えは、ありていに言ってしまえば「業界の常識を覆す手法でこだわり抜いた高品質」と「徹底したブランド戦略」ということになるのだが、成功の陰にあるのはどうやらそれだけではないようだ。吉本自身が「調和の哲学」と呼ぶ、ボトルに詰めた思いに迫った。

なぜ「絶対に失敗できない」場で選ばれるのか

最近では日本茶を扱うビジネスが増えてきているとはいえ、1本60万円のお茶というのは聞いたことがない。普段我々が飲む一般的なお茶とはどこが違うのか。もちろん口にしてみれば香りも後味も差は歴然なのだが、その違いは何に由来するものなのだろう。

吉本は、①素材、②摘み方、③抽出方法の3つに徹底してこだわることで、他にはない高品質を実現していると話す。

「まず、素材に関しては単一茶園、単一地域のものを使います。ようやく最近では日本茶の世界でもシングルオリジンという言葉が聞かれるようになりましたが、かつてはコーヒーなどと同様、ブレンドが基本でした。私たちが取引する農家は当然、栽培に適した土地の、なおかつこだわりと手間をかけて畑を管理しているところに限る。中でも最も質が良いとされる一番茶葉に限って使用しています」

白木箱に入ったボトルの高級茶は、お酒が苦手な相手や、その家族への贈呈品としても好まれ、多くのビジネスパーソンが店を訪れる。

茶葉は、手摘みの収穫にもこだわっている。数百本、数千本の茶木から葉を手摘みするには気の遠くなるような手間がかかる。一般に飲まれているお茶が安いのは、機械摘みにすることでコストを抑えているからだ。だが、吉本に言わせれば、機械摘みではお茶本来の味は引き出せない。「茶葉は本来デリケートなものであり、機械摘みによって傷つけば、そのぶん味も劣化してしまう」。できるだけ自然に近い味を出したければ、面倒でも手摘みを徹底するしかないという。

茶葉の抽出方法には水出しを選んだ。お湯で淹れれば早くても、吉本の採用した水出し法だと3日から7日はかかる。ここでもコストを考えれば非常識なやり方を選んでいることになるのだが、これも品質へのこだわりを追求したがため。カフェイン、カテキン、アミノ酸がお茶の3大成分と言われるが、水出しだと融点の高いカフェインは溶けにくい一方、融点の低いアミノ酸がよく溶出する。そのため、苦味を抑えつつ、うま味成分を効率よく抽出できるというわけだ。

と、ここまででも十分に非常識なやり方なのだが、吉本はさらなるタブーを冒している。一般に清涼飲料水をボトル詰めする際には加熱殺菌が基本だし、酸化防止のための添加物を入れる。その常識を破ったのだ。

「ここまでこだわりにこだわり抜いて高品質な味を維持してきたのに、添加物を入れることで純度を落としたくはないし、加熱したらお茶の成分組織が破壊されてしまう」

そこで加熱も添加物の使用もしない道を模索し始めた。何人もの業界関係者から「正気ですか?」、つまり、採算度外視で商売になりますか? と言われたが、最終的に加熱せずに除菌する非加熱濾過除菌・無菌充填を採用。商品化にこぎつけた。

工場スタッフは決して多くなく、ラベル貼りや箱詰めも手仕事でこなすから生産量は限られる。「大量生産して儲けることよりも、お茶本来の味をどうやって届けるかに心血を注いだ結果です」と吉本は言う。

さらに、ロイヤルブルーティーの商品があらかじめ水出し抽出してボトル詰めしてあることには、もう一つ別の理由もある。

「ワインを最高の状態で味わうためにはソムリエの存在が不可欠ですよね。急須で淹れる従来のお茶の飲み方もそれは同じ。茶葉の量やお湯の温度によって味は変わってしまいます。高級なお茶だからといって、誰でも美味しく淹れられるとは限りません」

その点、あらかじめ完璧な状態のお茶をボトル詰めされたロイヤルブルーティーであれば、いつ、どこで、誰が注いでも味は変わらない。なおかつその味は、徹底して素材・製法にこだわり抜いた末に生まれた最高の味だ。つまり、失敗することがない。だからこそ「絶対に失敗できない」場で選ばれる。そういう理屈のようだ。  

お茶が場にもたらす「間」、間がもたらす「和」

創業前、フリーのグラフィックデザイナーとして活動していた吉本は、友人に誘われ、後に共同創業者となる佐藤節男(現・代表取締役会長)が経営するティーサロンを客として訪れた。手摘みの高級烏龍茶と食事のペアリングを提供するそのサロンで、吉本は生まれて初めて、お茶でもてなすことの意味、さらにはレストランの「レスト(=休息)」が意味するところを実感したのだという。

お茶が持つ本当の魅力を届けたい。溢れる情熱が、お茶や飲料業界の常識を覆すほどの大胆な行動へと吉本を導いた。

「その時佐藤に言われたのは『吉本さんにとっての食事はこれまで、単に栄養を取るためだけの、生きるためだけの食事だった。それがドリンクがあることによって、初めて人間的な食べ方になったんだよ』ということでした。言われてみればその通りで、高級茶というドリンクがそこにあるだけで、間を取りながら、おしゃべりしながら食事を楽しんでいる自分がいたんです」

吉本は酒が飲めない。ゆえにこれまで、酒飲みが酒飲み同士集まる場を楽しんでいる理由も、自分だけがそこで楽しめなかった理由も分からなかったのだが、それらすべてに合点が行く気がしたという。同時に新たな疑問も浮かんだ。「世界の人口の半分は宗教的な理由も含めてお酒が飲めないのに、なぜ食中にお茶を楽しむという文化がこれまで作られてこなかったのか」と。

「興味を持って調べていくと、いまあるお茶の様式や所作は意外と歴史が浅く、なおかつ権力者の一声で決められてきたものでしかないこと、お茶本来の味を引き出すこととは何の関係もないことが分かってきました。一方で、そのレストランを手伝う側に回り、高級茶をサーブする経験を積む中で、高級茶を楽しんでいる人はそんな所作なんて何も気にせず、ただ純粋にお茶を楽しみたいと思っていることも分かったんです」

ここへきて直感的に思い至ったのが、「ひょっとしたらデザインの力によって、お茶の未来は変えられるのではないか」ということだった。

当時の吉本は、グラフィックデザイナーとしての自分の先行きに不安を抱いていた。グラフィックデザインという狭い世界で厳しい競争を生き抜くよりも、より大きな意味で、デザインの力で物事を変えることに貢献できないかと考え、そのモチーフを探している時期でもあった。お茶はまさにそれに当てはまるように思えた。

こんな原体験を持つ吉本が、ロイヤルブルーティーを通じて何より表現したいと思っているのが「間」なのだという。

「料理のシーンでこれまで間を担っていたのは主にお酒でした。だから私のようにお酒を飲まない人にとっては、その間が悪い。例えば料理がサーブされるタイミング。お酒を飲んでいる人にとってはちょうどいいと思えるゆっくりとした料理の間隔でも、お酒を飲まない人からすればどうしても間が空いてしまう」

しかし、そうした場にお酒と同じように楽しめる高級茶があれば、その場にいる全員に同じ間ができる。そのことによって全体の調和が生まれる。

お酒を飲めないお客さんが多いのですか?と聞くと、「いえ、お酒が好きな人だからこそ好まれます」という。美味しいものや質の高いものを好む人は、日本茶でもお酒でも同様に楽しむようだ。

間を整えることで場に和を生み出す--。これこそが吉本がロイヤルブルーティーに込めた「調和の哲学」なのだという。「おそらく商談の場でも同じことが言えるでしょう」と吉本は続ける。

「お茶を飲みながら話を進めることで時間的な間が整うことがある。あるいは、空間的に二者の真ん中にお茶があると、それだけで話しやすくなったりすることもありますよね?」

異なる思惑を持った二者が一つの方向に向かうには、その場に調和がなければならない。そのために必要なのが時間、そして空間のデザインであるということ。お茶はそのための重要な役割を果たし得ると吉本は考えている。

業界の調和が持続的なビジネスを可能にする

ところで、ロイヤルブルーティーは創業当初から日本茶を扱うことを念頭に置いていたわけではない。ロイヤルブルーティーという社名通り、もともとは高級青茶、つまりは手摘み烏龍茶を主力商品とする構想だった。日本茶との出会いは偶然だったと言っていい。

水出し抽出の適切な方法を学ぶために研修会に参加した、その開催場所がたまたま日本有数のお茶どころである静岡だった。そこで知り合った関係者から様々な話を聞き、業界の実情を知れば知るほど、「このビジネスはむしろ日本茶でこそ取り組まなければならないのではないか」と思うようになったのだという。

「確かにペットボトルのお茶は売れています。でも、だからお茶農家が潤っているかと言えば、そうではない。コスト重視のメーカーがお茶農家から買うのは二番茶、三番茶の安い茶葉。農家が安い茶葉を売って生計を立てるには大量生産をする以外に道がありません。一方、ペットボトルのお茶が普及すれば急須でお茶を淹れる習慣が減り、高級な一番茶はむしろ売れなくなる。結果、赤字分は国からの補助金でなんとか補填しているというのがお茶農家さんの現状なのです」

ブティックの隣には、専用の茶室を完備。畳の上で正座し、ワイングラスで日本茶を飲む。これもまた、全く新しいスタイルだ。

ロイヤルブルーティーが高級茶にこだわるのはそこに理由がある。吉本は提携するお茶農家に「ピラミッドの頂点を狙おう」と呼びかけるのだという。

吉本のいうお茶業界のピラミッドは三層からなる。一番下に位置するのがペットボトルなどの「大衆茶」。真ん中に来るのが急須で淹れる「中級茶」。そして頂点に位置するのが「最高級茶(手摘み茶)」だ。

先ほどの吉本の話をこのピラミッドに当てはめるなら、これまでは最高級茶に当たるものが不在(あるにはあったが、表に出ていなかった。それには歴史的経緯があるという)で、中級と大衆の二層だった。それがペットボトルの普及により中級が廃れかけ、大衆茶一辺倒になりかけているのが現状ということになる。それでは大量生産できるプレーヤーだけが勝って、お茶農家は儲からない。業界は廃れ、いずれはお茶を飲むという文化そのものがなくなってしまうだろうというのが吉本の抱いた危機意識だった。

だからロイヤルブルーティーは、「最高級茶(手摘み茶)」という空席を狙うことで儲けを独占しようとしているわけではない。むしろそこが埋まって初めて、業界のピラミッド全体が伸びると考えている。つまり、ここでも吉本の頭の中にあるのは「調和」だ。

「いいお茶を飲むことがステータスとして見られるような文化や、お金が儲かるビジネスモデルがちゃんと成り立つという先例を作る。そうすればきっと、若い人がお茶を飲むようになったり、追随するプレーヤーが現れたりということが起こるはず。「最高級茶(手摘み茶)」がちゃんと存在することで、そうやって中級茶や大衆茶にも好影響を及ぼすことができると考えているんです」

逆もまたしかり、だ。大衆茶が広く普及すれば、中には「より美味しいお茶、もっと高いお茶ってどんな味なんだろう?」と考える消費者だって現れるだろう。だからこれは、どちらのビジネスが正しい・正しくないという話ではないし、既得権益を破壊しようという話でもない。作りたいのは業界全体の循環なのだと吉本は強調する。

「もちろん、ここまでの道のりは順風満帆だったわけではありません。むしろうまくいかないことの連続ですよ。特に2011年の震災後は日本茶の風評被害で茶葉を捨てざるを得ず、売り上げが半分に。お茶農家さん共々かなり苦しみました。でも、そこで耐えた甲斐あって、いまや茶飲料を含む日本茶業界は全体で1兆円規模の市場になりました。世界的には今後5年は125%の成長が続く市場とも言われます。だからこれは、限られたパイを奪い合うのではなく、みんなで成長していける可能性のあるビジネスだと思っているんです」

生産者に正しくお金が行き渡り、製造者もお金を得られ、消費者もそれを適正価格で買える。その結果、お茶業界も復活する━━。江戸時代に近江商人が説いたという、売り手よし・買い手よし・世間よしの「三方よし」の精神を体現することこそが企業理念「和醸良茶」であり、これこそが調和の哲学なのだと吉本は説く。

生き馬の目を抜く現代のビジネスの世界で三方よしだなんて、綺麗事だと思うだろうか。和の国の、それも日本茶の企業がそれを世界に発信しようとしているところに、ちょっとしたロマンを感じるのだが。

大通りを挟んで、六本木ヒルズのほぼ正面に位置するブティックは、格調高い雰囲気を醸し出している。しかし中に入ると、スタッフの方が気さくに声をかけてくれ、作法を気にせず純粋に日本茶を楽しむことができる。