来客には急須で日本茶

来客用の会議室に置きたいBNL好みの急須は、宇治の茶陶・朝日焼とデザインスタジオ・Sferaの共作

玉露の名産地・宇治で、150年以上に渡って煎茶器を作ってきた茶陶「朝日焼」が、京都とミラノにデザインスタジオを構える「Sfera」と共に作った急須を紹介。オフィスで来客へのおもてなしにお薦めしたい。

お茶特集のための資料として読んでいた雑誌に、この急須が紹介されていた。

取っ手の付いていないシンプルな構造。色は急須にしては珍しいブラック。きっとこのデザインなら、会社の会議室でも映えるに違いない。そう思って購入した。

以後3ヶ月間、会社で使ってみた感想は、日本茶特集の案内記事に書いた通りである。

制作したのは、京都・宇治の茶陶「朝日焼」。ただデザインは、京都とミラノに拠点を構えるデザインスタジオ「Sfera(スフェラ)」が手がけている。

なぜ伝統工芸が外部のデザイナーと組んだのか。どのようなこだわりが込められているのか。その答えを求めて、朝日焼のお店と工房を訪ねた。

宇治川の側道を歩いていくと、これが「朝日焼 shop & gallery」だとすぐにわかる、ひときわ存在感のある建物が視界に入ってくる。

入り口の看板には英語の表記も。時期によっては8割のお客様が外国人という日もあるそうだ。

瓦の屋根には、風情のある「朝日焼」の看板が。昔から家にあったものをはめてみたら、ちょうどいい大きさだったという。

店舗の内装に合わせてSferaがデザインしたお盆の上には、看板コレクションである「河濱清器」の茶器と、京都・開化堂の茶筒が並べられている。

「亭主茶」の慣わし

ひと通り店内と茶器の撮影が終わると、2年前に襲名した「朝日焼十六世 松林豊斎」の弟であり、朝日焼のブランドマネージャーを務める松林俊幸さんが、自らお茶を淹れてくれた。

もともと千利休の時代から、主人が自ら淹れることが当たり前の文化がお茶の世界にはある。もし仮に千利休の茶席に呼ばれたとして、利休以外の人が淹れる、なんてことはあり得ないわけだ。こだわりの茶器で主人が自ら淹れる。その茶道の文化は煎茶にも継承されていて、特に京都の朝日焼ユーザーのあいだでは浸透している。

オフィスでもお茶汲みを部下に任せるのではなく、日本茶は最高のおもてなしの道具だと考え、朝日焼のようなこだわりの茶器を揃えて、自ら淹れることをお勧めしたい。

最大の特長は「穴」

朝日焼の最大の特長は、注ぎ口に向けて空けられた直径約1.5mm、150個以上の茶漉しの穴である。

一般的な急須は、注ぎ口に近い上部にしか穴が空いていないものが多いが、朝日焼の場合は下の方まで空いているため、急須の底にたまりやすいお茶もすべて出し切ることができる。

もしかすると個人の作家なら、一点により多くの時間をかけて作ることで制作可能かもしれないが、量産を基本とする工房の仕事で、これほど高い精度の穴を作れるところは他にない、と松林俊幸さんは語る。

「宇治の茶葉は、いわゆる浅蒸しのものが多いため、ゆっくりと茶葉が開いていきます。低い温度でじっくり時間をかけてお茶を浸出し、それを茶碗に最後の一滴まですべて出し切ることが大事なので、このように小さな穴が多く必要になります。穴だけでなく、これほどまでに手間をかけて作る急須は、宇治のような高級茶の産地でない限り、なかなか生まれ得なかったでしょう」

工房で作るコレクション「河濱清器」

旧来の朝日焼の急須は150年以上の歴史があるが、工房で作るコレクション「河濱清器」は、先代の時に始めたものだ。

「世の中で急須があまり使われなくなった。もっと急須を普及させるためには、工房でも作るべきではないかと考えたのです。それで父の代の時に、工房の職人たちが作る煎茶器のコレクションとして、『河濱清器』を発売しました」

工房にお邪魔してみると、職人さんが、ろくろの上で「河濱清器しぼり出し」を作っている最中だった。

「しぼり出し」とは、茶漉しの穴の代わりに茶葉自体がフィルターとなってお茶を注ぐことができる急須である。

茶葉によってお茶の出やすさは変わってくる。そこで淹れるスピードをコントロールできるように、蓋はピタッと閉まるのでなく、少し動かすことのできる余裕をみて制作されている。

急須と比べるとシンプルな作りなので、より手頃な価格で購入できるのも魅力だ。

Sferaのこだわりは「蓋のつまみ」

先々代も先代も、さまざまな形の器に挑戦してきたが、急須だけはほとんど形を変えずに作ってきた。ほぼ理想的な型に仕上がっていて、なかなか形を変えられるものではなかったからだ。そんななか朝日焼の工房は、デザインスタジオ「Sfera」と組んで、新しい形の急須を作ることに挑戦した。あらためて、その急須を観察してみよう。

商品名は「宝瓶 atmosphere 黒釉」。定価は3万2400円。セットの茶碗も数点購入すれば4万円を超える。ただ、それだけの価値はある。

旧来の「河濱清器」と並べてみると、注ぎ口の形まで違うことが確認できる。

「特にSferaさんが着目したのは、蓋のつまみの部分です。持ち上げやすいという機能よりも、お茶を淹れる時に抑えやすいことの方を優先してデザインしています。Sferaさんの作品の特徴でもあるラインの柔らかさも、とても綺麗に出ています。旧来のものと比べると、場所を選ばず、より現代の生活にも溶け込みやすい急須に仕上がりました」

最後に朝日焼の工房として、今後どういったことに挑みたいかと訊いてみた。

「煎茶器を作り始めた八代長兵衛の頃は、6色のカラーバリエーションを一式として作っていました。現在は工房で作る『河濱清器』は青磁色のみに限定しています。お茶に合う色が青磁ということで一色のみの展開です。一番最近のコレクションのSferaの茶器は色数を少し増やしましたが、スタンダードなコレクションでもカラーバリエーションを増やしていきたいですね」

もともと「河濱清器」という名前は、朝日焼の工房の門柱に掲げられていた名前だった。「濱」は「近くで」という意味で、「川の近くで清い器を作りたい」というスローガンのような意味合いが含まれているという。

さらに、中国茶の影響を受けた小さな急須や、平急須など、茶葉に合わせて使い分けることもできる、より専門的な形の急須にも挑戦してみたいという。

「平急須は、茶葉に触れる面積が広いので、一煎目はよりおいしくお茶が出せます。ただ茶葉が動きやすいので、二煎目、三煎目では、えぐ味が出やすくなってしまいます。でも例えば茎茶なら、煎を重ねるというよりは一煎目のウエイトが大きいので平急須が向いています。茶葉と急須の相性をもっと専門的に極めていきたいので、急須の形の種類は増やしたいと考えています」

ちなみに平急須は、本特集で取材したブレケル・オスカルや「茶茶の間」の和多田善も愛用している。彼らはシングルオリジンの茶葉には、平急須が最適だと勧めていた。

今後の朝日焼のさらなる進化に期待したい。

お店の奥には、茶盌も並べられていて、さらにお店の奥に行くと茶室がある。ここでは毎月、朝日焼の茶器を使ったお茶のワークショップ「急須の手習い」が催されるほか、不定期でトークイベントや音楽会なども行われている。