コラム

「弱いつながり」よりも「広い帯域幅」が新情報をもたらす──社会ネットワーク研究の世界(後編)

「弱いつながり」の方が新情報が得られるという固定概念を覆す、世界最先端の社会ネットワーク研究を紹介する。「帯域幅」の仕組みを理解すれば、名刺交換した人との付き合い方まで変わってくるかもしれない。特に変化の激しい業界に身を置く人は必読だ。

最先端のキーワードは「帯域幅」

これまで、まず前編では「弱いつながり」と〈橋渡し〉のネットワーク構造の強みについて解説しました。

中編では逆に、「強いつながり」と〈結束〉のネットワーク構造の強みに関する研究を取り上げたうえで、ブロードウェイ・ミュージカルの社会ネットワークを分析した研究結果を紹介。〈橋渡し〉と〈結束〉のバランスが取れたネットワーク構造こそが、作品の成功に最もつながりやすい理由について確認しました。

後編では、組織の情報環境によって、最適な〈橋渡し〉と〈結束〉のバランスは変動することを提示した注目の理論を紹介します。2011年にマサチューセッツ工科大学の社会学者シナン・アラルとマーシャル・ファン・アリスティンによって発表された、「多様性-帯域幅のトレードオフ理論 (diversity-bandwidth tradeoff theory)」です。

従来の認識では、〈結束〉のネットワーク構造において、自分とつながっている人は、他の人ともつながっている確率が高く、冗長性が高まるため新情報は得られにくいとされていました。しかし、アラルらは、組織の情報環境によっては〈結束〉の方がむしろ、より多くの新情報が得られることを主張します(Aral and Van Alstyne 2011; Aral 2016)。

キーワードとなるのは、一定の時間に伝達される情報量を表す概念、「帯域幅」です。

Top Image: "Pipe Dreams 1" by Carol Von Canon (CC BY-NC-ND)


なぜ〈結束〉の方が「帯域幅」は広くなる?

アラルらは、アメリカ国内で14の拠点をもつ人材斡旋会社における、幹部クラスの従業員が交換したメールの内容を分析しました。着目したのは、従業員のあいだで流通する情報の相対的異質性と新規性です。

分析の結果、〈橋渡し〉に富んでいるほどネットワークの「多様性」は高まりますが、逆に〈結束〉に富んでいる方が「帯域幅」は広がることが確認されました。これが「多様性-帯域幅トレードオフ理論」と呼ばれる所以です。

ネットワーク構造と帯域幅の関係。帯域幅が十分に広ければ、情報5と情報6のように少し重複は発生するとしても、〈結束〉の構造の方が、伝わる新情報の総量は多くなることを示しています。Image: BNL

でも、そもそもなぜ〈結束〉のネットワーク構造の方が「帯域幅」は広くなるのでしょうか。アラルらは、過去の社会ネットワーク研究をいくつか参照して、この理論を導いています。

例えば、スタンフォード大学の経営学者モルテン・ハンセンは、「組織内で情報を伝播させるときには、たしかに『弱いつながり』は鍵を握る要素とはなるが、複雑な情報を伝達するには『強いつながり』が必要になる」ことを示唆しています(Hansen 1999)。「強いつながり」の方が、相互のコミュニケーションが活発になるため、複雑な知識を伝達しやすくなると主張します。

さらに、MITの経営学者レイ・リーガンスとトロント大学の社会学者ビル・マケビリーらは、知識の伝達においても〈結束〉のネットワーク構造の方が有利になることを実証しています。中編でも解説した通り、〈結束〉の構造は協調的な規範を育み、個人が時間・エネルギー・知識を相手と分かち合う意欲や動機を増やすためです(Reagans and McEvily 2003)。

あるいは、アメリカの社会心理学者、ダニエル・ウェグナーが提示した「交換記憶(transactive memory)」(Wegner 1987)も、帯域幅への影響を想定できます。交換記憶とは、メンバー間の過去のやり取りにもとづき、「誰がどのような知識をもっているか」について組織内で共有された記憶です。緊密なネットワークをもつ集団は交換記憶が濃いので、誰がどういう情報を欲しているか、あるいは誰にどのような情報について尋ねればいいかが容易に分かります。それだけ接触の数は増えて、帯域幅が広くなるのです。

ポイントは3つの情報環境

「多様性-帯域幅トレードオフ理論」では、新情報の流通という観点から最適なネットワーク構造を決めるのは、組織の情報環境のうち、「(メンバーが保有する)情報の重複度」「トピック空間」「リフレッシュレート」の3つであるとされています。

組織の情報環境と最適なネットワーク構造。組織によって異なる3つの情報環境の大小によって、〈結束〉か〈橋渡し〉か、重視すべきネットワーク構造のバランスが変動することを示しています。Image: BNL

・情報の重複度
情報の重複度とは、それぞれのメンバーが保有する情報のあいだに、どれほどの重複があるかを示します。グラノヴェッターの「弱いつながりの強さ」、および後続の研究では、「もしクラスタが異なれば、流れている情報も異なる」という大前提がありました。しかし、それをアラルらは覆し、「異なるクラスタ間でも同様の情報が共有されている状況だってあり得る」と主張します。そのような状況下では、情報量の限られる〈橋渡し〉のネットワークよりも、帯域幅の広い〈結束〉のネットワークの方が、新情報は得やすいのです。

・トピック空間
トピック空間とは、つながりのあいだを流れる情報の種類のことを指します。例えば、「人事」と「経理」の話題が含まれるメールよりも、「人事」と「ペット」と「近隣のお薦めの飲食店」の話題が含まれるメールのほうが、トピック空間は増大します。一度に伝えるトピック空間が大きい場合、帯域幅の広い〈結束〉の方が、総量としての情報の重複は減り、より価値のある情報を入手できることが想定されます。

・リフレッシュレート
従来のネットワーク理論では、情報を静的なものとして捉えており、変化することはあまり考慮されていませんでした。しかし、アラルらは「リフレッシュレート」という概念を使い、価値を生む情報が変化する期間が短いほど、帯域幅の広いネットワークの方が有利に働くことを主張しています。つまり、情報の変化が激しい環境では、〈結束〉の方がより多くの新情報を入手できるということです。

以上、3つの情報環境の特徴を整理すると、ネットワークの構造によって得られやすい情報の性質が異なることも説明できます。

〈橋渡し〉に富んだネットワークの方が、シンプルな(トピック空間の小さい)情報や、変化のスピードが遅い(リフレッシュレートが低い)情報を得るには有利です。逆に〈結束〉の方が、複雑な(トピック空間の大きい)情報や、変化のスピードが速い(リフレッシュレートが高い)情報は得やすいということです。

ここでアラルらは、面白い問いかけをしています。

「情報の乱気流が集団の異質性を増加させるならば、多様なネットワーク構造は重要であり続けるだろう。 しかし、そうではなく、かつ社会がより大きな情報の乱気流に向かって動くならば、仲介者のポジションは、密な集団のリーダーよりも有用性が低くなる可能性がある」(Aral and van Alystine 2011 p.149)

つまり、アラルらは組織の情報環境によって、〈橋渡し〉と〈結束〉の最適なバランスは変動することを主張しているのですが、特にこれからの時代は、より多くの人にとって、帯域幅の広い〈結束〉に富んだネットワークの重要性が増してくるのではないかと問いかけているのです。

比較的有益な情報を交換できそうな相手を見つけたら、積極的にコミュニケーションをとることで帯域幅の広い人間関係をつくるべきであり、また、そうした人間関係をつくりやすい〈結束〉に富んだネットワークに積極的に参加したり、自ら構築していくことが求められるとも解釈できるのではないでしょうか。

Photo: "..." by Tore Bustad (CC BY-NC-ND)

社会ネットワーク研究の今後

現在でも、社会ネットワーク研究の世界では、日進月歩で新たな知見が積み上げられています。ここで紹介した最先端の理論も、「情報」という面での優位性を主張するものでしかなく、人と人のつながりから創造される、それ以外の側面(愛情や友情、信頼といったもの)については、まだ十分に分かっていることは多くありません。そもそも、人間関係とは通信回線のような無機質な線ではなく、血の通ったつながりです。先々の利益を見越して、打算的にネットワークを構築することだけが「正しい」ネットワークのあり方というわけではない、という見方もできるでしょう。

最後になりますが、一つひとつの出会いは、それ自体が幸運の賜物であり、人の力でコントロールするのは難しい部分もあるでしょう。しかし、それを奇跡の名のもとで目を背けることなく、「科学」の力によって仕組みを解明しようと、世界中の研究者が知恵を絞ってきた歴史があるのです。

日常の何気ない名刺取り込みの中で、今回紹介したような社会ネットワーク研究の世界に思いを馳せていただければ嬉しいです。

参考文献

Aral, S., & Van Alstyne, M. (2011). The Diversity-Bandwidth Trade-off. American Journal of Sociology, 117(1), 90-171.

Aral, S. (2016). The future of weak ties. American Journal of Sociology, 121(6), 1931-1939.

Hansen, M. (1999). The Search-Transfer Problem: The Role of Weak Ties in Sharing Knowledge across Organization Subunits. Administrative Science Quarterly, 44(1), 82-111.

Reagans, R., & McEvily, B. (2003). Network Structure and Knowledge Transfer: The Effects of Cohesion and Range. Administrative Science Quarterly, 48(2), 240-267.

Wegner, D. M. (1987). Transactive memory: A contemporary analysis of the group mind. In Theories of group behavior (pp. 185-208). Springer, New York, NY.