コラム

「強いつながり」と「結束」の強み──社会ネットワーク研究の世界(中編)

最近「弱いつながり」が注目されているが「強いつながり」にだっていいところはある。それぞれの強みを理解してバランスを図ることが肝要である。Sansan株式会社のデータ化およびデータ活用組織、Data Strategy & Operation Center (DSOC) の研究員、前嶋直樹が解説する。

先日公開した前編に続いて、Eightの運営会社であるSansan株式会社のデータ化およびデータ活用組織、Data Strategy & Operation Center(DSOC)の研究員、前嶋直樹の寄稿記事、中編をお届けする。

前嶋は大学院時代に社会ネットワーク理論を学び、現在、名刺交換の織りなすネットワークの価値を最大化するためのサービス開発に取り組んでいる。ビジネスの世界では、まだあまり知られていない研究なども紹介しながら、論文に馴染みの薄いビジネスパーソンでも理解しやすい言葉でまとめてもらった。

前編では「弱いつながり」の構造的な本質は〈橋渡し〉的なネットワーク構造にあることを説明し、それを社会に実装するときに注意すべき点についても紹介した。今回の中編では、逆に「強いつながり」の強みに関する研究を紹介し、ネットワーク構造的には〈橋渡し〉に対する概念である〈結束〉の強みについて解説する。

Top Photo: "Flexible Pipe" by Curtis MacNewton (CC BY-NC-ND)


「強いつながり」の強み

前回紹介したグラノヴェッターの「弱いつながり」と対をなすように、「強いつながり」の重要性を主張し続けているのが、カーネギーメロン大学の社会学者デイヴィッド・クラックハートです。

クラックハートは、「強いつながりの強さ(the strength of strong ties)」という論考の中で、「情報利益」という点で弱いつながりの優位性を認めつつも、「フィロス(philos)的な関係性」が、組織内の重大な変化にとって必要不可欠であることを主張しています(Krackhardt 1992)。

フィロソフィーの語源であり、ギリシア語で「友人」を意味する言葉であるフィロスを用いた「フィロス的な関係性」とは、相互作用・愛情・長期間の持続性といった条件を満たすつながりを意味しています。これは科学的な分析を可能にするためにクラックハートが用いた定義ですが、いわゆる「親密な友人関係」と同じものを指していると考えて結構です。

クラックハートは、アメリカのとあるスタートアップ企業を研究対象としました。その企業ではかつて、産業別労働組合への加入を求める動きがありました。アメリカの労働法にもとづき社員による投票が行われたのですが、最終的には十分な投票数が集まらず、計画は失敗に終わりました。

フィールドワークを通して、クラックハートはその企業内で仕事の助言をよく求められる人のネットワークと、プライベートでも親しく付き合いのあるネットワークをそれぞれ可視化し、比較することで、その失敗の要因を解明します。

研究結果からクラックハートは、仕事関係のネットワークと友人関係のネットワークでは、キーマンは必ずしも一致しないことを明らかにしています。つまり、オフィスで助言を求められる人物と、プライベートで愛着をもたれる人物は、決して同じとは限らないのです。

投票が集まらなかった原因は、友人関係のネットワークにおいて非中心的な人たちが加入運動を率いていたためだとクラックハートは分析しています。組織を大きく変えるような意思決定には、仕事の力量が高く、社内で多くの助言を求められている人物に頼りがちですが、本当は多くの人と親密な信頼関係を結んでいる人をこそ巻き込むべきである。すなわち「フィロス的な関係性」が重要な役割を果たすというのです。

Photo: "physical-activity-120511-M-0000L-035" by MilitaryHealth (CC BY)

〈結束〉の強み

前編で「弱いつながり」理論の構造的本質は〈橋渡し〉にあるというロナルド・バートの研究を紹介しましたが、逆に「強いつながり」において発生しやすい構造である〈結束〉の強みについての研究にも注目してみましょう。

アメリカの社会学者ジェームズ・コールマンは、「人的資本の形成における社会関係資本」という論文の中で、ゆるやかで開放的なネットワークよりも、緊密で閉鎖的なネットワークの方が、個人の能力やスキル形成にとっては有益であることを示しています。閉鎖的なネットワークは、規範と効果的なペナルティを生み出すためです。コールマンが実際に挙げている2組の親子の例に沿って説明しましょう。

ジェームズ・コールマンによる親子ネットワークの研究事例。パターン2のように、親同士(AとD)がつながっている「世代間閉鎖性」のある親子ネットワークの方が、子供の教育にとって有益であることを主張しています。Image: BNL

上の図において、AとDは親を、BとCは子供を表しています。パターン1のネットワークでは、親同士はつながっていませんが、パターン2のネットワークでは親同士がつながっています。パターン2のように、親と子が双方とも別の親と子とつながっているような状態をコールマンは「世代間閉鎖性」と呼びました。

世代間閉鎖性のある親子ネットワークは、それがないネットワークと比べて、子供に対して効果的な制裁を下すことができます。なぜなら、親Aは自分の子供を教育するにあたって、親Dの助力が得られ、自分の子供の監視役としても機能するからです。

実際に、カトリック系の高校とそうでない高校では、前者のほうが生徒の中退率が低いという結果が定量的に確認されています(Coleman 1988)。これはカトリック系キリスト教徒の生徒が、教会など学校の外で大人のコミュニティに包摂されており、そこでさまざまな教育を受けることに起因している、とコールマンは主張します。

一般的に、閉鎖的なネットワークは互いに恩義を感じやすく、他者への期待が醸成され、信頼関係を育みます。開放的なネットワークに比べて、恩義や期待を裏切ったときのコストが互いに高くなるからです。

こうした関係性は、長期的な意思決定を支え、粘り強くプロジェクトを進めていく上で、会社組織にとっても有利に働く場合があります。ただし、閉鎖性が強すぎて、メンバーの主体性を奪ってしまう場合もあるので注意は必要です。

Photo: "Beach scales ..." by Tama Leaver (CC BY)

〈橋渡し〉と〈結束〉のバランス

前編からこれまで、弱いつながりにおいて発生確率の高い〈橋渡し〉的なネットワーク構造と、強いつながりにおいて発生確率の高い〈結束〉、それぞれの強みについてバートやコールマンの研究をもとに説明してきましたが、実際にビジネスの現場ではどちらをより重視すべきなのでしょうか。

近年の社会ネットワーク研究によると、〈橋渡し〉的なネットワークと〈結束〉的なネットワークは、どちらもバランスよく保つことが重要であることが明らかになってきています。

その代表格ともいえるノースウェスタン大学の社会学者ブライアン・ウッツィの研究を紹介しましょう。ウッツィは同僚のジャレット・スピロとともに、ブロードウェイの作曲家や演出家のネットワークと、経済的・芸術的な成功の関係性を分析し、どのようなときに最もパフォーマンスが高くなるかを研究しました(Uzzi and Spiro 2005)。

まず、ブロードウェイの製作者ネットワークの構造を可視化するために、特定のミュージカル作品における脚本家や作曲家などの製作チームの関係性を分析しました。もし過去に共同製作の経験があれば、製作者Aと製作者Bのあいだにつながりがあると見なす、というルールでネットワークを可視化していったのです。

次に、製作チーム内のネットワークに対して「スモールワールド指数」を算出しました。これは「クラスタリング係数」というものを「平均パス長」というもので割った値です。

「クラスタリング係数」とは、製作者同士がどれほどつながっているかを表す指標であり、チーム内のつながりの密度を表したものです。いつも同じようなメンバーで作っていれば、クラスタリング係数は高くなります。共同制作者間の結束を強さに関連するため、チームの結束力を表す数値であるともいえるでしょう。

「平均パス長」は、ネットワークの中で任意のペアのあいだの最短ステップ数の平均値を数値化したものです。ブロードウェイの業界の中で、各製作者がどれほど遠い位置にいるかを示しています。この値が大きいということは、画期的で斬新なコラボレーションが行われる可能性が高いことを意味しており、革新的なアイデアが作品に取り入れられることにつながります。つまり、チームの〈革新性〉を表す数値であるといえるでしょう。

ブロードウェイ・ミュージカルの製作者ネットワークの研究結果を表した図。程よく結束したチームであり、なおかつ遠い位置にいる人とも程よくつながっている場合に、作品として最も高い評価が得られる傾向を示している。Image: BNL

分析の結果、この「スモールワールド指数」が中庸であるときに、ミュージカル作品が最も芸術的かつ経済的な成功を収めやすいことが判明しました。つまり、〈革新性〉と〈結束力〉のどちらか一方だけが高くても、創造的な作品は生まれないということです。なぜなら、新しいアイデアは、質の高い作品を生むための重要な要素ではあるものの、うまく取り入れるためにはチーム内の相互的な信頼が必要となるからです。

〈仲介〉と〈閉鎖性〉のトレードオフ

実は前回の記事で紹介した「橋渡し」の重要性を主張したロナルド・バートは、のちに「〈仲介〉と〈閉鎖性〉のトレードオフ」についての研究を進めています。

社会ネットワークが〈仲介〉に偏っていると、チーム内での相互信頼や合意形成は不十分になってしまいます。いくら仲介されるものが多くても、メンバー間の見解がバラバラで、チームに新しい意見を取り込む余裕がなければ無駄に終わってしまいます。ただ逆に〈閉鎖性〉に偏っていると、情報や知識がタコツボ化してしまったり、外部からの意見を取り入れることが困難になったりするので、視野の狭い合意形成が行われてしまい、早合点による判断ミスが生まれやすくなります。

そこで優れた調整役となるのは、全体のネットワーク構造を俯瞰しながら行動する人物です。例えば、結束力の強い集団内部で拙速な合意形成が進んでいることを見て取り、うまく外部の人物とのつながりを作り、早熟な意思決定を防いだり、逆に、多様だがバラバラなメンバー間の結束を「強いつながり」の形成によって促進できたりすることが重要となります。バートは、さまざまな人が行き交う「共通の空間」を作ることで、〈仲介〉と〈閉鎖性〉のバランスを取ることを勧めています。

以上、中編では強いつながりと結束の強みについての研究を紹介し、〈橋渡し〉と〈結束〉、〈仲介〉と〈閉鎖性〉のバランスについて、信頼やリスクヘッジ、合意形成に注目して解説してきました。最終回の後編では、最先端の「帯域幅」理論を紹介し、「組織の情報環境」という観点から最適なネットワークの築き方についてのヒントを提供します。

参考文献

Burt, R. S., Bartkus, V. O., & Davis, J. H. (2009). Network duality of social capital. Social capital: Reaching out, reaching in, 39-65.

Coleman, J. (1988). Social Capital in the Creation of Human Capital. American Journal of Sociology, 94, 95-120.

Krackhardt, D. (1992). The Strength of Ties: The Importance of Phiros in Organizations. Networks and Organizations: Structure, Form, and, Action, 216-239.

Uzzi, B. (1996). The Sources and Consequences of Embeddedness for the Economic Performance of Organizations: The Network Effect. American Sociological Review, 61(4), 674-698.

Uzzi, B., & Spiro, J. (2005). Collaboration and creativity: The small world problem. American Journal of Sociology, 111(2), 447-504.