コラム

「弱いつながり」の誤解と本質──社会ネットワーク研究の世界(前編)

弱いから有益なのではなく、つながっていない者同士をつなぐ「橋渡し」こそが本質である。Sansan株式会社のデータ化およびデータ活用組織、Data Strategy & Operation Center (DSOC) の研究員、前嶋直樹が解説。前編・中編・後編の3つの記事に分けてお届けする。

SNSが普及し、より多くの人と継続してコミュニケーションが取れるようになったことにより、1970年代に社会学の分野で提示されていた「弱いつながり」の価値に、最近あらためて注目が集まっている。

3月に開催した「人のつながりで、仕事に変化を起こすには」をテーマにしたBNLのトークセッションでも、いま本当にビジネスに役立つのは「弱いつながり」なのか、それとも「強いつながり」なのか、について議論が白熱した。

しかし、そもそも「弱いつながり」という考え方は、社会ネットワーク理論の研究から出てきたものである。そこでBNL編集部は、Eightの運営会社であるSansan株式会社のデータ化およびデータ活用組織、Data Strategy & Operation Center(DSOC)の研究員、前嶋直樹に寄稿をお願いした。

前嶋は大学院時代に社会ネットワーク理論を学び、現在、名刺交換の織りなすネットワークの価値を最大化するためのサービス開発に取り組んでいる。研究の世界では「弱いつながり」の価値について、どのような議論がなされているのか。ビジネスの世界では、まだあまり知られていない研究なども紹介しながら、論文に馴染みの薄いビジネスパーソンでも、理解しやすい言葉でまとめてもらった。前編・中編・後編の3つに分けてお届けする。まずは前編、「弱いつながりの強さ」の解説から始めよう。

Top Photo: "thread" by Dean Hochman (CC-BY)


「弱いつながりの強さ」とは

私たちは日々新しい人と出会ったり、過去に知り合った人と親睦を深めたりしています。そのつながりによって形成される「社会ネットワーク」の特徴は、人によって異なります。

どれほど多くの人と知り合っているか。どのような属性の人が多いか。どれくらい親密な関係性か。知り合い同士が知り合いである場合は多いか。これらの特徴によって、日頃あまり意識していなくても、人づてに流れてくる情報の性質は変わることがあります。

例えば、親密な人よりも、あまり頻繁には会わない知人からの方が、転職に役立つ情報を得られる確率が高いという研究結果があります。スタンフォード大学の社会学者マーク・グラノヴェッターが1973年に発表した論文「弱い紐帯の強さ(the strength of weak ties)」で紹介されたものです。社会ネットワーク研究で最も引用数の多い論文となり、ビジネスの世界にも大きなインパクトを与えました。

しかし、"弱いつながり"はちょっと有名になりすぎたとも言えるでしょう。45年前に発表された理論なので、のちの研究によってアップデートされている部分も多いのですが、後続の研究内容はビジネスパーソンのあいだではあまり知られていません。「微妙な知り合いをとにかく増やしておけばいい」などといった誤解も、たまに見受けられます。

この前編では、あらためてグラノヴェッターの「弱いつながり」論について解説し、その構造的な本質である「橋渡し」について説明します。次の中編では、グラノヴェッター以降に研究された「強いつながりの強さ」論を紹介し、「弱いつながり」との関連性について考えてみましょう。そして後編では、最新の研究が提示する「帯域幅」の理論を紹介し、個々の状況に適したビジネスネットワークの活用法について検討します。

ビジネスネットワークの活用法は、万人に適用できるたったひとつの正解があるわけではありません。業種や職種、個々人の社会ネットワークの特徴によっても最適解は異なります。ご自身のネットワークの特徴と照らし合わせながら、読み進めてみていただければと思います。

弱ければいいわけではない

まず前提として社会ネットワーク研究の世界では「情報は社会ネットワークを通して巡回(circulate)する」という考え方をします。下の図のように、AとCによって橋渡しされている2つの集団(クラスタ)を考えてみましょう。

互いが密につながったクラスタの内部では、それぞれ異なる情報が共有されています。クラスタYとの唯一のつながりであるAさんを介して、情報はXからYへ「橋渡し」されます。Image: BNL

クラスタXとクラスタYの中では、それぞれ異なる情報が巡回しています。AさんがクラスタXに属する人とクラスタYに属する人のあいだに橋をかけると、AさんにはクラスタX,Y両方の、互いに重なり合いが少ない情報が流れ込んできます。ゆえに、橋渡しを行う人は、自分の属しているクラスタの外から、貴重で有利な情報が得られるのです。

このような「橋渡し」の形成メカニズムを説明し、実証するために、グラノヴェッターは「つながりの弱さ」を持ち出しました。

「AはB,Cと知り合いだが、BとCは互いに知り合いではない」という関係性があると仮定します。これを社会ネットワーク理論では「非推移的(intransitive)」な「三者関係(triad)」と呼びます。クラスタ間の橋渡しには、この非推移的な三者関係が不可欠です。グラノヴェッターは、理論的には、「弱いつながり」が非推移的な三者関係を発生させるために大事だと主張しました。なぜでしょうか。下の図を用いて説明しましょう。

もしつながりが強ければ、BとCのあいだに新たなつながりが誘発される可能性が高まりますが、つながりが弱ければ、Aさんは橋渡し的な役割を担い続けることができます。Image: BNL

現実世界では、図の下段のような非推移的な三者関係は稀な現象です。一般的に共通の知人AをもつBとCがいたとき、AとB、AとCの関係性が親密なもの=強いつながりであれば、BとCもまた顔を合わせ、交流する機会が増えるため、BとCは知人になりやすい傾向があるからです。

ゆえにグラノヴェッターは、つながりが強いにも関わらず非推移的な関係を、「禁じられた三者関係(forbidden triad)」と名づけています。強いつながりの場合は、三者は互いにつながりやすくなり、橋渡しの構造にはなりにくいことを強調するためです。つまりグラノヴェッターは、橋渡し的な構造になる確率の高い条件として「弱いつながり」に注目したのです。

Photo: "IMG_2037N-2" by Patrice M Christian (CC BY-NC-ND)

本質は「橋渡し」にあり

グラノヴェッターは、〈弱い〉つながりの縁が、自分の知らない重要な情報を伝播させる〈強い〉一面を備えていると主張しました。実は彼がつながりの強度を前面に押し出した背景として、「弱い紐帯の強さ」の論文が書かれた当時、小集団内部の社会ネットワークが専ら研究対象になっており、大規模なネットワークの構造はあまり検討されていなかったという事情があります。当時、グラノヴェッターの理論の新しさは、「一本の弱いつながり」という「ミクロ」なものが、集団間の橋渡しという「マクロ」な社会構造を反映しているという点にあったのです。

現実的には、たとえ「弱いつながり」ではなくても、「橋渡し」的な機能を担うことはできます。例えば、同居しており、頻繁に顔を合わせる親子を想定してみましょう。父親が製造業で働いていて、子どもが保険業界で働いている場合、互いの属するクラスタはあまり重なることはないでしょう。でも同居していれば、互いのクラスタの情報が交わされることは多いはず。家族のような「強いつながり」であったとしても、「橋渡し」が機能することは十分に考えられるのです。

この点に着目したのがシカゴ大学ビジネススクールの社会学者、ロナルド・バートです。バートは、あるつながりが個人やクラスタのあいだを橋渡しするかどうかと、そのつながりが強いか弱いかどうかは、あくまで「相関事象」でしかないと指摘しました(Burt 1992)。つまり、弱いから有益なのではなく、つながっていない者同士をつなぐことこそが本質である、と主張したのです。

つながりにおける強度と構造の関係。発生確率が低いだけであって、強度が強い場合でも、橋渡し的な構造になる可能性はある(左下)。逆に弱い場合であっても、結束の構造になることはある(右上)。Image: BNL

バートは、つながっていない者同士にある穴を「構造的空隙(structural holes)」と名づけ、この空隙(くうげき)を活用することで得られる「情報利益」や、空隙を保ったまま互いにつながりのない二者を操作することで得られる「統制利益」など、さまざまな利益が得られることを主張しました。

個人がつないでいる構造的空隙の量を、バートは「拘束度」として数量化可能な形で定式化しました(Burt 1992)。グラノヴェッターの理論を拡張したものですが、ここではつながりの〈強度〉の側面は捨象され、〈構造〉の重要性が強調されています。

構造的空隙の理論にもとづいた実証研究は枚挙に暇がありません。例えば、構造的空隙を多くもっている社員ほど早期に昇進しやすかったり(Burt 1992)、革新的なアイデアを生み出しやすいことが分かっています(Burt 2004)。そればかりか、イタリア・ルネサンス期のメディチ家の栄華が、経済的なつながりと伝統的貴族のつながりを仲介する構造的空隙の賜物であると主張するユニークな研究も存在しています(Padgett and Ansell 1993)。

Photo: "Bridge and reflection" by shakakahnevan (CC BY-NC-ND)

ただ「橋渡し」ばかりではうまくいかない

橋渡し的なつながりは、いいことずくめにも見えますが、実は落とし穴があることも指摘されています。

オランダ・ユトレヒト大学の社会学者、ヴィンセント・ブスケンスらの研究グループが、興味深いシミュレーションを行っています(Buskens and van de Rijt 2008)。「誰もが構造的空隙を求めて橋渡し的なつながりを形成したら、全体のネットワークはどうなるのか?」という問いに答えるものです。

シミュレーションの手続きはこうです。まずランダムに個人を選びます。ランダムに選ばれた個人は、他の全ての個人との関係性について、それを維持するか、削除するか、もしつながりがない場合は、新しくつながりを築くか判断します。Aさんとはつながったほうがいいか、それともよくないか、Bさんとはつながったほうがいいか、それともよくないか......こうした判断を他のすべての個人に対して行っていきます。最終的に均衡状態になったときに、どのようなネットワークが発生するのでしょうか。

結果、一番多く発生したネットワークの形は、「完全2部ネットワーク」と呼ばれるものでした。仮に全ての人が2つのグループに分かれたとき、グループ内にはつながりは発生していないが、グループ間には可能な数だけ多くのつながりが発生している、という状態です。個人と個人のあいだの距離は非常に近い(最長でも2ステップ)にも関わらず、結束的なつながりが一切存在しないという奇妙なネットワーク構造です。誰かの構造的空隙を減らさない限り、ほかの誰かの構造的空隙が増えない、という状況です。

全ての人が仲介者の役割になると、「つながっていない人同士を仲介する」というメリットが消失します。つまり、橋渡しのつながりばかりで満たされると、逆に橋渡しの意味がなくなってしまうのです。現実社会ではありえない状況ですが、全員が橋渡し的な役割を担う必要はないことが、このようにして証明されます。

以上、前編では「弱いつながり」の構造的な本質は、「橋渡し」的なつながりにあることを説明するとともに、それを社会に実装するときに注意すべき点についても紹介しました。次の中編では、逆に「強いつながり」の研究を紹介し、構造的には「橋渡し」に対する概念である「結束」の強みについて解説します。

参考文献

Burt, R. S. (1992). Structural holes: the social structure of competition. Harvard University Press.

Burt, R. S. (2004). Structural holes and good ideas. American journal of sociology, 110(2), 349-399.

Buskens, V., & Van de Rijt, A. (2008). Dynamics of networks if everyone strives for structural holes. American Journal of Sociology, 114(2), 371-407.

Granovetter, M. (1973). The Strength of Weak Ties. American Journal of Sociology, 78(6), 1360-1380.

Granovetter, M. (1983). The Strength of Weak Ties: A Network Theory Revisited. Sociological Theory, 1, 201-233.

Padgett, J. F., & Ansell, C. K. (1993). Robust Action and the Rise of the Medici, 1400-1434. American journal of sociology, 98(6), 1259-1319.