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CAREER STORIES

銀行だって、もっとクリエイティブになれる──現金大国・日本への挑戦

いまメガバンクの中で、三井住友銀行のリテールIT戦略部ほど果敢にイノベーションに取り組んでいる部署はほかにないだろう。3年前に少数の銀行員だけで始めたチームも、多様なバックグラウンドを持つ人を集め、その規模を拡大。「デジタル化」「キャッシュレス化」という壮大なミッションに取り組むべく、銀行の堅苦しいイメージを刷新し、採用の幅を広げ、さらにクリエイティブなチームをつくろうとしている。

上はパーカー、下はジーンズというラフな服装。フロアのどこででもMacBookを持ち寄って、新しい企画案について上司も部下もなくフラットに意見をぶつけ合う。そんなITスタートアップのような働き方をしている、およそらしくない"銀行員"たちがいるという。

三井住友銀行リテールIT戦略部は、同行のリテールビジネスのデジタル化を一手に担う部署だ。2015年4月の発足以来、「ユーザー目線のサービスの実現」を合言葉に、インターネットバンキングのスマホ最適化や、デジタルマーケティングを推進してきた。

当初は少数の銀行員でスタートしたが、徐々にその規模を拡大。メンバーには、Web制作やUI/UXデザインの専門家も含まれているという。お堅いイメージの銀行にいま、何が起きているのか。彼らはその先にどんな未来を描いているのか。発足以来のリーダーである、江藤敏宏に聞いた。

本社ビル内にあるカフェスペースで取材した。この場所で同僚と雑談しているうちに、面白い企画が生まれることもあるという。

どこでもMacBookを持ち寄って"企画会議"

──リテールIT戦略部の発足の経緯から教えてください。

当部の前身である組織が発足したのは2015年4月。当時リテール向けサービスは一部の富裕層を対象にしたものが中心で、会社員や学生といったユーザー層にももっと広げていきたいという課題意識がありました。ご存知のように一般の人が銀行を訪れる機会は減ってきている一方で、スマホの普及率は8割を超えて誰もが持っていると言える状況です。こういったユーザー層との接点をつくるには、これまでのリアル店舗に加えて、デジタルというチャネルをもっといろいろと活用するのがいいだろうということになりました。これが出発点です。

──銀行というとどうしても硬いイメージが伴います。正直に言って、新しいチャレンジができる仕事という印象はあまりない。ところがこの部署はそうではないと聞きました。

面接などでよく聞かれるのは、「銀行はひとつの物事を決めるのに何人の承認を得なければならないのか」という質問です。一般的に銀行に対してそういうイメージがあるのは承知しています。でも、当部に限ってはそれが当てはまらないんですよね。フラットな組織になっていて、普段の何気ない会話から本当に企画が実現したりします。担当者が直接役員に説明しに行く機会も多いです。

服装も自由で、上はパーカー、下はジーンズというスタートアップの社員のような姿で働いている人もいます。執務室のレイアウトもごちゃごちゃにしていて、ロッカーひとつ挟んだ隣の部署は相変わらず整然と机が並んだレイアウトだから、合わせて眺めてみるとなんとも不思議な光景になっているんですよ。

──そうした、いい意味で銀行のイメージを覆す仕事の仕方をしているのはなぜですか?

先ほど、ユーザーとの接点を作るためにデジタル戦略が必要だったと言いましたが、ただ単にデジタルというチャネルを用いれば使ってもらえるかといえば、当然そうではありません。本当に使われるためには、それがユーザー目線のサービスであることが不可欠です。

ところが、これまでの銀行にはユーザー目線の自由で柔軟な発想が決定的に足りなかったんです。銀行員を卑下するわけではないですが、どうしても銀行という箱の中で発想してしまうところがありました。もちろん、服装を変えれば自由で柔軟な発想ができるというものでもないとは思いますが、銀行員がアプリやサービスを作るとなると、真面目さが邪魔して、エクセルの中に文字がいっぱい、みたいなものができてしまう。そこを変える必要がありました。

転職の動機として、生活に変化をもたらすことのできるユーザー数の規模が大きいのも、魅力として挙げる人は多いという。

エクセル・シンキングからデザイン・シンキングへ

──発足してまず何から手をつけたのですか?

お恥ずかしながら、当時の当行のインターネットバンキングというのは、スマホ最適化さえもできていない、かなりのビハインドからのスタートでした。そのため発足してまず手をつけたのは、3000ページくらいあるWebサイトの全面刷新。それと並行して、インターネットバンキングの取引画面の改定、スマホ最適化を進めました。

とはいえ、発足当時は全員が生粋の銀行員。最初の1年は試行錯誤が続きました。その過程には、ゲームアプリを出してみて大コケするという、いまとなっては良い思い出、といった類のものもありました。

──潮目が変わったのはいつ頃ですか?

2016年4月にリリースすることになるスマホアプリを作った際、外部からデザイナーやコンサルタントといったような人たちに来てもらい、初めてデザイン・シンキング的なことをやったんです。カスタマージャーニーマップを作って全面的にUIを見直すというところからやりました。

私自身、デザイナーの人と一緒に仕事をするのは初めての経験だったので、手書きでワイヤーをひゅひゅっと書いたり、MacBookを持ってきてババっと試作してみたりする彼らの仕事ぶりにはカルチャーショックを受けましたよ。でも、そうしたステップを経て出てきた成果物をみて、徐々にみんなが「こういうやり方をすれば、こういうものができるのか」ということを理解していったんです。

──その結果として、働き方や組織文化も徐々に変わっていった、と。

そうです。初めは業務委託で来てもらっていたのが、こんなに成果が出るなら出向で来てもらおうか、さらには中途で採用もしてみようか、とどんどん広がっていきました。その結果、生粋の銀行員もいれば、SIerやIT企業出身者、Webディレクターやマーケター、UI/UXデザイナーなどが集う場になっています。

やはり、多様なバックグラウンドをもつ彼らのような人がいることが、自由で柔軟な発想を生む上では大きいと感じています。というのも、外の企業では当たり前に行われていることが、まだまだ銀行では当たり前ではないことがありますから。もちろん、われわれ銀行員にしかない知見が彼らの発想を刺激するというケースもあります。多様な人間の「出会い」が新しい発想につながっているというのは、経験を通して実感しているところです。

昨年GINZA SIXにオープンしたフラッグシップ店舗では、ペーパーレス窓口ができた。この形態をさらに全国に発展させていく挑戦にも、いま江藤の部署は取り組んでいる。

リアル店舗のUXだってアップデートすべき

──いま最も力を入れているのはどんなことですか?

これまで通りに新しいものを作ったり改善したりということは継続的に行っていくんですが、今後はただ作ったではなく、それがより使われるようにしなければならないと思っています。インターネットバンキングが登場しておおよそ20年近くになりますが、当行に口座を持っていただいている2000万人を超えるお客様のうち、インターネットバンキングの契約のある人の割合というのはまだまだ小さい。アクティブな人となるとさらに少ないので、ここにアプローチしていかなければならないと思っています。

──そのための施策は?

スマホアプリのリリースがひと段落ついて、一昨年から力を入れているのがデジタルマーケティングです。それまでも当行の各種SNSアカウントというのはあるにはあったんですが、機能しているとはいえない状況でした。

そこでこれを他部署から引き取ってSNSの運営などを手がけるようになりました。具体的には、例えばLINEのアカウントには「友達」が1000万人以上いたので、これを活かさない手はないと考え、チャットで手軽に残高照会や入出金明細が見られる機能を用意しました。

──ほかにも考えている施策がありますか?

もちろんデジタルは重要なんですが、一方でわれわれ銀行の強みの一つは、全国に400店舗以上ある有人チャネルにあると思っています。銀行の店舗のUXは、まず番号札を取って、記帳台で書類に記入し、呼ばれたら窓口へ行き、というもので長らく変わっていません。これを、もっといろいろと手を加えてみて、面白くできないかなと思っています。

いまではかなりの取引はスマホでやろうと思えばできるわけですが、それができるユーザーばかりではないだろうとも思っています。そういう人に対しては、例えば番号札をとる機械の横にいる行員が、iPadを持って対応する。やっていることはスマホでやっていることと変わらなくても、お客様によってはこのような形で寄り添う必要があるかもしれない。すでに一部店舗ではそういう試みを始めています。そうやってチャネルミックスで対応できるのが、われわれの武器の一つだと思っています。

現金大国・日本をキャッシュレスに、という壮大な挑戦

──「デジタル」が普及した先に江藤さんはどんな未来を見据えていますか?

デジタル化とキャッシュレスはセットだと思っているんです。先ほど申しましたように、残高照会と入出金明細の閲覧は、すでにLINEで可能になっています。一方でペイメントサービスはまだ十分でないかもしれませんが、グループ会社にはデビットカードやクレジットカードがある。これらを組み合わせれば、普段使いに限ればまったくお金を引き出さない体験というものが出来上がるんです。

世の中では「情報銀行」的なことがすでに言われていますが、このように全てがデジタルになれば、そのデータからお客様の行動がわかり、生活スタイルがわかるようになる。そうすればより細かなセグメントをしたマーケティングができるようになるし、きめ細かなサービスも可能になる。新たなビジネスの可能性だってひらけてくると思っています。

──日本は長らく現金大国と言われてきましたが、そういう未来が本当にやってきますか?

自分にそれができるのかはわかりませんが、メガバンクだからこそできることはあると思っていますし、チャレンジしなければならないところだと思っているんです。なので、こういうことを面白いと思える人には、ぜひ入ってもらって力を貸してほしいですね。

いまどんな仕事をしているかとか、過去に何をやってきたかはあまり重要ではありません。例えば、「世の中から現金をなくしてやろう」というような志を持っていて、そういう難しいチャレンジをこそ面白いと思えるメンタリティを持った人に入ってほしいと思います。

──江藤さんご自身は、入行した当時からそのような未来を想像していたんですか?

もちろんそんなことはありません(笑)。私が入行した時に思っていたのは、お金というものは経済の血液であり、その血液を企業に供給することで産業を育てるのが銀行だということ。要は、視線が法人の方を向いていたんですね。おそらく、いま銀行に入ろうという人の多くも、そこは変わっていないのではないでしょうか。

それが不思議なことに、いま私がやっている仕事はリテールだし、デジタル。まったく想像していない仕事に就いているわけです。でもそれは役割の違いであって、持ち場持ち場でできることは山ほどあると思っています。

いまの仕事は面白いと感じていますよ。なにせ、まだ実現できていないこと、に挑戦していくわけですからね。