世界最先端のテクノロジーニュースまとめ

AIが仕事を奪ったとき、私たちはより人間的な仕事ができる──世界最先端のテクノロジーニュースまとめ

世界最古のテクノロジーメディア『MIT Technology Review』とBNLの共同企画。日本版の編集部がBNL読者のビジネスパーソンのために、毎月、特に注目度の高いニュースについて、その背景を含めて分かりやすく解説。初回は、AIが私たちの仕事へ及ぼす変化について取り上げる。

『MIT Technology Review』は世界最古のテクノロジーメディアである。1899年の創刊当初は、マサチューセッツ工科大学(MIT)の卒業生に読者を限定した雑誌で、論文誌に近く発行部数も少なかった。だが1998年に誌面をリニューアルしてからは、研究者だけでなくビジネスの世界にも読者層を広げていった。先進テクノロジーが経営の方向性を変えていく時代に、世界中で支持を得て現在は日本を含めて147カ国に展開している。

これまでビジネスネットワークについて探究してきたBNL編集部は、ビジネスの進化の可能性を探るうえで、テクノロジーニュースも紹介したいと考え、日本版のMITテクノロジーレビュー編集部にコンタクトをとった。BNLで紹介するうえでの課題は、普段テクノロジーニュースを読み慣れていないビジネスパーソンにも理解しやすい内容にすること。そこで、MITテクノロジーレビュー編集部が、毎月いま注目のテーマを取り上げ、ニュースの文脈を整理して紹介してくれることになった。

初回のテーマは、「人工知能(AI)と私たちの仕事」。この要約を読んでおけば、次に誰かと名刺交換したときにも、話題に事欠くことはないだろう。

Top Photo: "Happy Birthday Charles Darwin!" by Marcus Böckmann (CC BY-NC-ND 2.0)


AI診断機で医師の仕事が不要に

4月11日、アメリカの医療関係者のあいだに衝撃が走った。米国食品医薬品局(FDA)が、糖尿病網膜症という眼の病気を自動検出するソフトウェアを認可したからだ。

医療における画像診断自体はもはやめずらしくはない。注釈付きの放射線画像のデータセットで訓練したニューラルネットワークを使い、異常が疑われる箇所を指摘するソフトウェアは、日本でもすでに一部医療機関で使われている。

だが、こうしたソフトウェアはあくまでも医師の仕事を〈支援〉するものであり、最終的な意思決定である〈診断〉は医師が担うものだった。一方、今回認可されたソフトウェアは特定の病気が対象とはいえ、医師が確認しなくても診断を下す点で画期的だ。いわば、「AI医師」が人間の医師に置き換わってしまったのだ。

ということは、いずれ技術が進歩すれば、健康診断のような仕事はすべてAI医師が担い、人間の医師のやることはなくってしまうのだろうか?

コンピューターは人間よりも正確だ。診断の精度は確実に向上し、診断ミスが減ってコストも下がる。長い目で見れば医療費の抑制にもつながるとなれば、消費者にとっての利益は大きい。だが、医師のように専門性が高く、高度な判断が必要とされる職業においてもAIが活躍するようになるなら、私たちの仕事はどうなってしまうのだろうか?

専門性の高い仕事も自動化の例外にならず

医師の仕事だけではない。「AIが仕事を奪う」類のニュースは、ここ数年の「AIバブル」ですっかり耳慣れたものになった。たとえば、弁護士の仕事を肩代わりするサービスを展開するのが、米スタートアップの「ドゥノットペイ(DoNotPay)」だ。

駐車違反への異議申し立ての手続きを自動化するツールからスタートした同社は、その後、情報漏えい事故に対する少額訴訟を支援するツールを作り、訴訟を自動的に起こせるようにしている。現在目指しているのは「離婚手続きの自動化」だという。

メディアの仕事も自動化が進んでいる。上場企業が発表した決算を基に要約を作成する日経新聞の「完全自動決算サマリー」は有名だが、ロイターが開発したAI記者「ロイター・トレーサー」はもっと過激だ。

ツイッター上で話題になったニュースを抽出し、自社がまだ記事にしていなければ自動的に要約の作成と見出し付けまでをこなす。重要度をアルゴリズムで重み付けし、ソースにデマやフェイクニュースが入り込まないよう対策もしている。医師や弁護士の仕事と同様、かつて高学歴エリートの有力な就職先だった新聞社や通信社といったメディアの仕事でさえも、自動化の波に飲み込まれようとしているのだ。

AIは仕事を奪うのではなく「変える」

だが、こうしたニュースをもとに「ロボットやAIが仕事を奪う」と単純に捉えてしまうのはいかにも早計だ。たとえば、経済協力開発機構(OECD)が3月18日に発表したレポートでは、高い確率で自動化される仕事は13%と予測している。「仕事がなくなる」と散々脅かされている状況からすると、驚くほど低い数字だ。

では、なぜロボットやAIが登場しても仕事がなくならないのか。それは結局のところ、現在AIと呼ばれているコンピュータープログラムやロボットが担うのが「作業」でしかないからだ。たとえば、FDAが認可した画像診断ソフトは単独で診断ができるとはいえ、それで患者の病気が治せるわけではない。個々の患者の症状の詳細を判断し、治療方針を立て、患者に適切に説明し、治療の経過を見て計画を修正していくのは、結局のところ医師の仕事なのだ。

先のAI弁護士にしても、要は日本でいうところの「過払い金請求」のような定型的な仕事を自動化するものだ。定型的な仕事とは「作業」であり、作業とは私たちが文字通り「機械的に」こなしている仕事だ。だったら機械に置き換えてしまうことがよほど自然で健全だろう。電卓を叩いてペンで伝票を埋めていた仕事が表計算ソフトに置き換わったように、現在AIと呼ばれているものの大半は、本質的には面倒で煩雑な仕事を助けてくれるツールでしかない。

オバマ政権で経済諮問委員会のメンバーを務めた経済学者のジェイ・シャンボーは、MITテクノロジーレビューのインタビューに「『ロボットが我々の仕事を奪っている』というディストピア的な見方の代わりに、余暇の時間を増やして労働時間を減らすという考え方があってもよいはずです」と述べている。

日本流に言えば「働き方改革」という陳腐な言葉になってしまうのだろうが、実は米国でも「働きすぎ」が問題となっており、シャンボーの発言はツールを使って生産性を上げ、「人間的」な仕事に集中すべきとの考えを示したものだ。

私たちはすでに、コンピューターやインターネットで仕事のやり方が大きく変わることを経験している。ラッダイト運動で機械を打ち壊した労働者のように、未知の道具の出現を恐れる必要はない。ロドニー・ブルックス(MITコンピューター科学・AI研究所前所長)がいうように、「間違った予言のせいで、人々は起こりえないことを恐れている」だけなのかもしれないのだ。