メールマガジン登録フォーム

BNLの最新記事情報やイベント告知などをEメールでお届けします。
こちらの個人情報の取り扱いに同意して、「Subscribe」に進んでください。

BNL Arts

ビジネスにアートの文脈を。アートにもビジネスの文脈を。スープストック創業者・遠山正道の実践

「Soup Stock Tokyo」を立ち上げ、アートコレクターとしても知られる遠山は、近年、次々と新業態に挑戦している。プロデュースする店は作品からインスピレーションを受けることもあるという。最近は「アートの領域にビジネスの文脈を入れ込む」試みも行っている。

去る3月11日、東京・神田の3331 Arts Chiyodaで開かれたアートフェア「3331 ART FAIR 2018」のトークイベントに株式会社スマイルズ代表取締役社長、遠山正道が登壇した。テーマは「衣食住≒アート」。

遠山のアートとの関わり方は多面的だ。コレクターでアートラバー。自らの作品で個展を開いたこともある。事業家としては、現代アートと美食が融合したレストランの経営や、セレクトショップの空間デザインを現代美術家に委託するなど、アートの見識を生かしたビジネスを行っている。

「自分の領域の中にアートという文脈を入れ込んで、自分たちなりの個性をつくる。『スマイルズってこういう人』という顔立ちをつくりこんでいる感じです」。遠山が積み重ねてきた実践の一部を聞いていこう。

これまで購入した作品を一つひとつ画面に映しながら解説。アートフェアの会場ということで、特別に購入価格も明かしてくれた。

アートは雑誌のように考えるといい

トークは、遠山の個人コレクションおよびスマイルズでコレクションしている作品の紹介からスタートした。「アートを買ったことのある人いますか」と会場に問いかける。ほとんど手が上がらない。遠山は、アートとの付き合い方を雑誌になぞらえて話し始めた。

「雑誌にも、ハイファッション誌から読者投稿中心のサブカルチャー誌まであるじゃないですか。その中で買わない雑誌と買う雑誌があるでしょう? そして好きな雑誌には『今月イケてなくない?』とか『私だったらこういう写真を選ぶのに』など、自分も参加しているような気分になる。現代アートにもいろんなジャンルがあります。ちょうどヨーロッパから戻ってきたところなんですが、ポンピドゥ・センター・メスや、ルーブル美術館ランス別館に行ってきました。帰国して今日、この『3331 ART FAIR』を見ました。やっぱりテイストが全然違うんですね。わかりやすく言うと『Vogue Paris』とかつての『ビックリハウス』みたいな。どちらがいい、悪いではない。比べてもあまり意味がない」

遠山が言うのは「アート=高尚、難解」という先入観を捨てようということだろう。アートは幅広い。その中から自分の好みを見つけ出せばいい。

「『ビックリハウス』で好きだった投稿に『弦つきコンタクト』というのがあって。要するに、コンタクトをすぐになくしちゃうから弦をつけました、それメガネじゃんというナンセンスなアイデアなんですが、それが作品化されて『弦つきコンタクト』なんて展示されていたら、アートとして売れると思いません?」

遠山自身はモダニズムを感じさせるアートを好むと言う。最初に紹介されたコレクション作品は画家・菅井汲の版画。菅井汲は1919年生まれ、20世紀中盤から後半にかけて国際的に活躍した。さらに、Mr.(ミスター)、遠藤一郎、ホーリー・ファレル、名和晃平、石川直樹、三尾公三、武田鉄平、デイヴィッド・ホックニーらの作品が紹介された。

石川直樹のこの作品は、エベレスト頂上付近の過酷な環境で撮影された「奇跡の一枚」だという。

"和のスープストック"と位置づけ、2016年末に品川駅構内にオープンした「おだし東京」。シンプルなインテリアに石川直樹の作品が映える。

遠山は一つひとつ、作品への思いや購入したときのエピソードを語った。作風も活躍する世代も異なるが、何か共通項はあるのだろうか。遠山に聞いてみた。

「スマイルズはスープやネクタイやリサイクル、いろんな事業をやっているけれど、どこか『スマイルズらしさ』があると思うんです。例えばネクタイのブランド『giraffe』は前向きなメッセージでものづくりをしているので、髑髏マークのようなネガティブな表現はしないことにしています。コレクションも自然にそうなるのか、例えば恐怖のようなネガティブなテーマの作品はないですね」

アートからビジネスを発想する

アートからビジネスを発想することもあるという。例えば、スマイルズのコレクションとして写真家ライアン・マッギンレーの作品を購入した。マッギンレーはアメリカを代表する写真家だ。ニューヨークのユースカルチャーを撮った写真で注目され、2003年に25歳でホイットニー美術館で個展を開いた。遠山が持っている作品では、巨大な氷瀑の上を裸の人間が登っている。ちっぽけな人間が丸腰で氷の山に挑む姿は、自由で無謀で、ユーモラスだ。

遠山が香港で買い付けたライアン・マッギンレーの作品が、新宿一丁目のバー「Toilet」に飾られている。「パスザバトン」の元店長が独立して立ち上げて、スマイルズが出資しているお店だ。

「セレクトリサイクルショップ『PASS THE BATON』の京都祇園店に『お茶と酒 たすき』という喫茶を併設しているんですが、そこのかき氷がとてもおいしいんです。もうすごいことになっているんですが、東京で展開することがあったら、ちっちゃなスペースにこのライアンの写真がポンと置いてあるような、そんなかき氷専門店をやりたいと思っているんです。内装は神宮を思わせるような白木のつくりで」

そんなかき氷やさんがあったら行ってみたい。そう思わせる仕掛けのひとつが遠山にとってはアートであり、「自分の領域にアートの文脈を入れ込む」ということなのだ。

アートにもビジネスの文脈を

一方で、「アートの領域にビジネスの文脈を入れ込む」ことも行っている。例えば、国内最大規模の芸術祭「瀬戸内国際芸術祭2016」に、スマイルズが作家として作品を出品した。タイトルは「檸檬ホテル」。香川県・豊島にある古民家を改装した、宿泊もできる体験型アート作品だ。スマイルズで働いていた社員が妻とともに豊島に移住、支配人としてホテルを切り盛りしている。

芸術祭の作品として出品された「檸檬ホテル」は、会期が終わったいまでも運営は続けられている。平日も数ヶ月先まで予約が入っていて、ビジネスとしても成功しているようだ。

こだわりのロゴは、Eightの初期のロゴも手がけた「Takram Design Engineering」が制作。

「20世紀が経済の時代だったとしたら、21世紀は文化や価値の時代だと思っています。だからスマイルズという会社はその『価値』とはなんなのかを探るために、作家側に回って4年前から芸術祭に出品しています」

檸檬ホテルは現在も営業している。宿泊は1日1組。レモンづくしの料理が提供され、翌朝、豊島レモンで染めた布の淡く黄色い光で目覚める。平日でも数カ月先まで予約が入っている。

「(事業の)サイズが小さければ小さいほど、リスクが少ないから思い切ったことができる。そうするとユニークなものになって、遠くからでもお客さんがわざわざ来てくれるようになる。そういう実感があるんですよ。『檸檬ホテル』の支配人の酒井啓介くんのようにそれぞれのプロジェクトに責任者がいますが、彼らも会社や組織の影に隠れていることができない。ゴミが落ちていたら自分で拾わなければ誰も拾ってくれないし、営業活動も資金繰りも自分でやらなければいけない。そういうことはリアルにあるわけです。むしろそれが力にもなる。仕事と人生が重なる。言われたことをこなすだけとは、仕事のあり方が本質的に違うわけです。変な言い方だけどビジネスが"人生化"して、言ってみればアーティストに近くなっている。逆に言えば、そこで生まれるひとりひとりの喜びを、会社は利用しない手はないと思うんです。個人にとっても会社にとってもしあわせなあり方を引き出すのは簡単ではないですが、アートがひとつの入り口である予感がするんですよ」

もうひとつの事例として「The Chain Museum」が紹介された。「小さくてユニークなミュージアムを、世界に差し込んでいく」プロジェクトだ。例えば美術館の裏導線、街の真ん中、風力発電の風車の突端など、一見アートとは関係ないさまざまな場所に作品を置く。サイトスペシフィックかつツーリズムと組み合わせたアート体験をプロデュースしようとしている。

ラファエル・ローゼンダールの作品「Haiku」 。The Chain MuseumのFacebookページで、下の句と講評が行われている。

「アート作品が大型化してきたりプロジェクト化してきたりすると、例えばつくったものは最後はゴミになるの? 誰が回収するの? その費用は誰が持つの? というような問題がついてくるわけです。そういうところはアーティストは不得意かもしれない。でもわれわれビジネスの側はプロジェクトなら毎日やっています。プロジェクト運営についてなら力を貸せることがたくさんある。アートとがっぷり四つに組めるようになる。だから、互いに持っているものを生かしながら次のシーンに行こうということなんですね」

遠山はあくまでも軸足をビジネスに置きつつ、一方的に利用するのでもなく、一方的に奉仕するのでもない、双方向的なアートとビジネスの関係をつくろうとしている。

「マルセル・デュシャン以降、現代アートはほぼイコール、コンセプチュアルアートを意味するようになった。それもあってもいいんですが、小難しいことは否めません。食をビジネスにしている私からするとやっぱり『美味(うま)い』という感動がないと、と思うんです。アートも、心が動くとかおもしろいとか、そういうものでありたい。さきほども言ったように『Vogue Paris』だけが偉いわけじゃなくて、文化はもっと幅広い。アートも、自分がつきあえるアートに出合っちゃえばいい。そこから広げていけばいいと思います」