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人のつながりで、仕事に変化を起こすには?

3月16日に都内で開催された「Sansan Innovation Project」。ゲストに、LinkedIn新代表の村上臣、昨年日本に上陸したKickstarter代表の児玉太郎、アドビのコミュニティマネジャー武井史織を迎え、EightからはBNL編集長の丸山裕貴が登壇。Forbes JAPAN九法崇雄による進行のもと、表題について語り合った。

「To give people the power to share and make the world more open and connected」から、「To give people the power to build community and bring the world closer together」へ。フェイスブックが昨年6月、同社のミッションを変更したことは大きな話題を呼んだ。

CEOのマーク・ザッカーバーグはそれまで、人々につながるためのツールを提供すれば世界はおのずと良くなっていくものと考えていたが、社会はいまだ分断されており、世界をより良いものにするためには単につなげるだけでは不十分で、そのつながりを強める努力が必要だと確信したのだという。だからフェイスブックは、コミュニティづくりの支援にこれまで以上に力を入れていく。同社のミッション変更には、こうした意図が込められているとされる。

そのような〈強いつながり〉の必要性が叫ばれる一方で、ビジネスにおける〈弱いつながり〉の価値の大きさというのは、BNLでも繰り返し取材し、報じてきた通りだ。

経営学者の入山章栄はBNLのインタビューに、「弱いつながりをたくさん持っている人は、普通は手に入らない情報をたくさん入手できます。イノベーションは既存の知と知の組み合わせで起こるため、弱いつながりを多く持っている人の方が基本的にイノベーティブなんです」とそのメリットを語っている。

ビジネスにおいて本当に役立つのは〈強いつながり〉か〈弱いつながり〉か。そのようにしてどちらか一つを選ぶということではないにしても、それぞれのつながりをどのようにして自らのビジネスに活かしていけばいいのかというのは、ぼくらがいま向き合わなければならない重要な問いであるように感じる。

BNLとForbes JAPANはこうした問題意識の下に、3月16日に開催された「Sansan Innovation Project」において、共同セッションを実施した。

登壇者は、元ヤフー執行役員でCMO(チーフモバイルオフィサー)としてモバイル戦略をリードし、昨年LinkedInのカントリーマネージャーに就任した村上臣、国内1号社員としてFacebookの日本展開を率い、昨年Kickstarterのカントリーマネージャーに就任した児玉太郎、日本を担当する初のコミュニティマネージャーとして活躍するAdobeの武井史織、BNL編集長でEightのコンテンツ戦略をリードする丸山裕貴の4人。モデレーターはForbes JAPAN編集次長、九法崇雄が務めた。

「人のつながりで、仕事に変化を起こすには」と題して行われた当日の議論の模様をダイジェストでリポートする。

コミュニティには「背中を押す存在」が必要だ

2010年にフェイスブック日本支社の立ち上げを任された児玉太郎は、わずか4年間でサービスを飛躍的に成長させた。退職した翌年には、海外企業の日本進出担当であるカントリーマネジャーを支援する会社、アンカースターを設立。さらに昨年からはキックスターターのカントリーマネジャーに就任し、自ら舵を取っている。

これからは会社にとって、「コミュニティマネジャー」がさらに重要な役割を果たすようになる、と児玉は言う。どういうことだろうか。

「Kickstarterは、クリエイターたちが自分のやりたいことを実現するために、資金を調達したりコミュニティを作ったりするためのサービスです。昨年9月にその日本語版をローンチしたんですが、その中で感じるのは、やっぱり日本人は、自分が作っているものを途中で発表したりだとか、プロトタイプの段階で出して、みんなに文句を言われたりするのがすごく苦手のようで。完璧に仕上げて、誰にも文句を言われないものを出すということに命を懸ける文化なんですよね」

「でも実際は、途中でいろいろなことを言ってもらった方が、いいものができたりだとか、さらにはそこに『掛け算』が生まれたりということがある。そこに武井さんのようなコミュニティマネジャーとか、間に入って音頭を取ってくれる人がいると、より積極的に自分の考えていることを表に出すようになるのかもしれないな、と」

クリエイターそれぞれのクリエイティビティを引き出す役割の人物がいれば、コミュニティはより活性化するのではないか。児玉はKickstarterでの自身の経験を通じ、そうした思いを強くしているという。

自社の利益だけ追求しても、コミュニティは「強く」はならない

PhotoshopやAcrobatなどで有名なソフトウェアメーカー、アドビシステムズの武井史織は、日本を担当する初めてのコミュニティマネジャーとして、日本のクリエイターコミュニティの創出と活性に努めてきた。

その武井が最近になって力を入れているというのが、まさに児玉のいう「掛け算」に当たる活動だ。それも、クリエイター同士のコミュニティに閉じるのではなく、地域コミュニティや教育機関と掛け合わせることで、クリエイターのもつクリエイティビティを社会的な課題の解決につなげようとしている。

そうした「掛け算」をする際に武井が何より優先して取り組んでいるのが、異なる出自のメンバー間でビジョンを共有すること。それによって〈強いつながり〉は生まれ、大きなエネルギーの源になると武井は言う。

「企業のメリットだけを前に出してやっていこうとすると、オーナーシップを持って参加してくれる人の数は増えないと思うんですよ。だからまず考えるのは、ビジョンを共有できるかどうか。それができるとオーナーシップを持ってくれる人口が増え、その活動自体が〈強いつながり〉として機能してくると考えています」

とはいえ一方で、アドビはれっきとした企業体である。こうしたコミュニティ活動は、めぐりめぐって必ず自社の利益にもつながると考えている。

「アドビはツールを提供している会社。それを使ってくれる方々が本当に描きたいものを描ける環境がない限り、ツールの価値自体もついてこないと思っています。そうした方々が表現したいものを表現したいときに表現できるためには、社会全体が表現しやすい世界になっていなければならない。そこに業界をまたぐことの必要性があると考えて、掛け算のプロジェクトをたくさんしているんです」

「顔と名前も一致しない人」との交流量をいかに増やすか

名刺でつながるEightは、友達としてつながるFacebookやクリエイターが集うAdobeのコミュニティと比べると接点が少ない、いわゆる〈弱いつながり〉の多いSNSである。名刺交換というものの性質上、なかには一度しか会ったことのない人や、顔と名前が一致しない人も含まれている。

しかし、そんな「顔と名前も一致していないような人」との交流からこそ、イノベーションにつながるような新たな知見が得られるはずだ。例えば、いまのビジネスの課題を何気なく吐露したら、それがまったく異なる分野で悪戦苦闘している誰かの解決のヒントになるかもしれない。あるいは、自分の興味関心を継続的に発信していたら、想像もしなかったところからその能力を活かせる新たな仕事の依頼が舞い込むかもしれない。Eightが考える〈弱いつながり〉のメリットとは、このようなもののことである。

一方で当然だが、「顔と名前も一致していないような人」と交流することのハードルは高い。「顔と名前も一致していないような人」との交流量をいかに増やすか。これがEightの取り組んでいる挑戦だ。

「もともとつながりが強い人たちとは、放っておいても交流量は増えるんです。私たちの課題は、名刺交換はしたけど顔も名前も覚えてないみたいな人と何を話したらいいのかっていうところなんですよ。そこは一つ挑戦で、まだ多分どこも答えを出せてないと思うんです。顔も覚えてない人に、自分はどんな情報を与えられるだろうか。その人からどういう情報をもらえるだろうか」(丸山)

最近になってEightが導入した「企業タグ」は、そうした試みの一つ。これを使えば、直接会ったことはなくても、その企業の誰かと名刺交換をしたことのあるすべての人に、その情報を届けることができる。

世界と日本をつなぐ「窓」が新たな機会をつくる

世界で5億6000万人のビジネスパーソンが利用するLinkedInは、こと日本においては(他でもない児玉が率いたFacebookがビジネスユースに力を入れる戦略をとったことにも押されて)長らく苦戦してきた。

昨年11月にカントリーマネジャーに就任した村上臣は、いま何を考えながら、国内戦略の巻き返しを図っているのだろうか。

「世界と日本をつなぐ窓になりたい」と村上は言う。

「いま、日本はわりと暗い雰囲気にあって、人口が減るとか言われている。じゃあどうするんだということでいうと、やっぱり海外から優秀な人を引き込むっていうのが大事だと思うんです。僕がなんでヤフーからリンクトインに転職したかっていうと、将来世界に対する『窓』、行き来する『窓』が必要だと思っていて、日本の人ももっと世界へ出ていくべきだし、その逆も然りだよね、というふうに考えたからなんですよ」

この日、初めて社外に公開したという統計資料。日本語を扱える人はこれだけ世界に広がっている。

村上が紹介したLinkedIn上のデータによれば、日本国外には約30万人の、ネイティブレベルで日本語を話せるビジネスパーソンが存在するという。彼らは世界のかなりの広範囲のエリアにいて、なおかつ職能・職種も幅広い。

彼らと日本とをつなぐことができれば、それだけで新たなビジネスの機会が生まれるだろうし、それが日本を覆う閉塞感を打破する起爆剤にもなりうる。LinkedInの世界的なネットワークを使えば、それが可能になると村上は言う。

自分は何ができる人間なのか、まずは可視化するところから

しかし、EightやLinkedInのようなサービスを利用するにせよ、コミュニティで第三者の後押しを受けるにしろ、「誰かとつながるためには前提条件がある」と4人は口をそろえる。

それは、自分は何者なのか、これまで何をしてきて、何ができるのか、いまは何をしている人物なのかというのを、すべて可視化することだ。

それなしには、誰かの紹介を受けることも、ダイレクトリクルーティングのメッセージが届くこともあり得ない。LinkedInがスキルをタグ化しているのも、Eightが肩書きを示すことを奨励しているのも、まさにそうした意図から来ていることだという。

日本企業は長らく、個人の名前が前に出ることを嫌ってきた。「それは日本が終身雇用が当たり前の社会で、企業が社員の人生を丸ごと面倒をみる代わりに、途中で引き抜かれるリスクを避けるためだった」と村上は指摘する。しかし、もはやそういう時代は終わったというのは、少なくない人がすでに共有した時代認識のように見える。

であれば、むしろ個人が前に出ることで組織の枠組みを超えた新たなつながりをつくり、そこから新たなビジネスチャンスを見つけるというのは、自然な選択ではないだろうか。武井が繰り返し言うように、「クリエイターのクレジットの入らない作品はありえないのと同じで、企業が個人を囲い込むのは本当にもったいない」。ビジネスでつながりの恩恵を受けるためには、まずはそこから改めなければならないということなのだろう。