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要約『どうしてあの人はクリエイティブなのか?』:創造性にまつわる11の迷信とその反証

ニュートンはりんごで「ひらめいた」わけではない。クリエイティビティの遺伝子など存在しない。本書で紹介されている11の迷信とその反証を読めば、きっと誰もが納得するだろう。創造性は与えられるものではなく、適切なプロセスから得られる結果である、と。

出会いがなければクリエイティブにはなれない──BNL編集部の選定理由

この本は「創造性に関する11の迷信」を取り上げ、それぞれ反証を試みている。まずは、すべての迷信と、著者による反証のステートメントを紹介しよう。

「クリエイティブ」にまつわる迷信
創造性は与えられるものではなく、適切なプロセスから得られる結果である。

「ひらめいた」の迷信
新しいアイデアは一瞬のひらめきではなく、努力から生まれる。

「生まれつきクリエイター」の迷信
創造性は特定のタイプの人に限定されるものではなく、組織の構造によって高められる。

「オリジナリティ」の迷信
新しい創造物は、既存のアイデアの組み合わせである。

「エキスパート」の迷信
画期的な解決策は専門知識だけでなく、思考の多様性から生まれる。

「インセンティブ」の迷信
単なる報酬ではなく、意欲的に取り組める環境を推奨することで創造性は向上する。

「孤高のクリエイター」の迷信
創造性には1人の天才ではなく、計画性を持ったチームワークが必要である。

「ブレーンストーミング」の迷信
ブレーンストーミングとはアイデアを多く出すことではなく、広範な戦略の一部である。

「団結」の迷信
同調ではなく、仕事を対象とした理性的な「衝突」が創造性を加速させる。

「制約」の迷信
制約があることは障害ではなく、ときにそれ自体が問題解決のための資源となり得る。

「ネズミ取り」の迷信
最高のアイデアを生み出すことはゴールではなく、成功へと向かう出発点だ。

この11の迷信の中でも、特にBNLとしては、「オリジナリティ」の迷信と「エキスパート」の迷信に注目したい。

電話はグラハム・ベルだけが発明したものではない。マウスもスティーブ・ジョブズが発明したものではない。彼らは多様な人と出会い、異なる知をかけ合わせて、その時、最も優れた製品を作っただけだ。新しい創造物は、既存のアイデアの組み合わせである。これが「オリジナリティ」の迷信である。

新しいアイデアを探る時、まずはその道の専門家に意見を求めることは多いが、実際にはエキスパートの意見よりも部外者の視点の方が、クリエイティブなアウトプットにつながりやすいことが知られている。画期的な解決策は専門知識だけでなく、思考の多様性から生まれる。これが「エキスパート」の迷信である。

アドビのアンケート調査によると、「自分のことをクリエイティブだと思う」と回答した人の割合が、40%を越えた欧米諸国に対して、日本は8%しかいなかった。つまり、日本人は「クリエイティブ」の迷信を信じる割合が多いようだ。創造性は与えられるものではなく、適切なプロセスから得られる結果である。もし今度、非常にクリエイティブな人と出会った時には、少し見方を変えてみよう。きっと、その人のビジネスネットワークに創造性を高める秘密があるはずだ。

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要約者レビュー

「天才的なアイデアは、一部の生まれつき創造的な人が、直感的にひらめくもの」、「高度な専門知識を持った人こそがクリエイティブな解決策を見いだせる」。まことしやかに語られている「創造性」についての数々の迷信。これらを科学的研究や革新的企業の事例研究によって一刀両断していくのが本書である。

筆者は、適切な条件がそろえば誰でもクリエイティブになり得ると主張する。では、どうすればイノベーションにつながる画期的なアイデアを生み出せるのか。この本では、11の迷信を鮮やかに覆しながら、創造性を発揮するために必要な考え方が解き明かされていく。例えば「人のアイデアを否定せず、一体感のある職場の方が創造的になれる」と聞くと、つい信じてしまいそうになる。ブレーンストーミングでも「ほかの人の意見を否定しない」というルールがある。しかし実際は、建設的な衝突や批判が起こらないと、革新的なアイデアに昇華させることは難しいという。意外性とスリルあふれる展開にひきこまれてしまい、目から鱗が落ちる瞬間をいくたびも味わえるのがこの本の特長だ。

また、3Mやフェイスブック、ピクサーなど、創造性を発揮している企業の具体的な工夫が随所に紹介されているため、読んだそばから「自社に応用するための実践的なヒント」が得られるだろう。マーケティングや商品企画、宣伝などに携わる人だけでなく、クリエイティブな組織づくりにまい進する経営者やマネージャーにとっても必携の「創造性のバイブル」である。


本書の要点

── 要点1 ──
創造性に影響を与えるのは、分野に関するスキル、創造性に関連するプロセス、タスク・モチベーション、社会的環境の4つの要素であり、これらの条件がそろえば誰でもクリエイティブになれる可能性がある。

── 要点2 ──
イノベーションにつながるアイデアを生み出すには、準備、培養、ひらめき、評価、精錬の5つの段階からなる創造的プロセスを踏む必要があり、「ひらめき」はプロセスの一部に過ぎない。

── 要点3 ──
内因性の動機は、インセンティブのような外因性の動機よりも、クリエイティブな成果とのつながりがはるかに強いという傾向がある。


クリエイティブの迷信

Photo: "Four Friends" by Rajesh Pamnani (CC BY-NC-ND 2.0)

創造性に影響を及ぼす4つの要素

創造性は、謎めいたプロセスゆえに、古来は神の恵みによるものと考えられてきた。

しかし創造性は、適切なエコシステムを設計し、そこに適切な訓練を受けた幅広い視野をもつ人々を集めることで向上させられる。つまり適切な条件下では、誰でも優れたアイデアを生み出せるのだ。ハーバード・ビジネススクール教授の、テレサ・アマバイルによると、創造性は次の4つの要素の影響を受ける。

(1)分野に関するスキル

特定分野の知識や技術的スキル、才能を意味する。企業では、研修やジョブローテーションなどによって向上させることができる。

(2)創造性に関連するプロセス

ある問題に対処し、解決策を生むための方法である。共感性が高く、リスクを恐れない自立した人はこのプロセスが得意であるが、それ以外の人も学習によってこのスキルを身につけることは可能だ。

(3)タスク・モチベーション

ある課題を解決したいという欲求や達成感、情熱のこと。仕事やプログラムの設計次第で、個人のやる気を引き出すことができる。

(4)社会的環境

4つの中で唯一外的要因となる。取り巻く環境がそこで活動する人々の創造性を大きく左右するため、最重要な要素だと言える。

つまり、ある程度の専門知識を持った人が、創造性を奨励される環境で心からやる気になったとき、最高の創造性を発揮でき、イノベーションを起こすことができるというわけだ。クリエイティブであることには、さまざまな迷信が信じられているが、それでは間違った答えにたどりついてしまう。次項以降では、そうした迷信を明らかにし、クリエイティブになるための考え方を紹介する。


「ひらめいた」の迷信

Photo: "Apple" by Michał Jaszewski (CC BY-NC-ND 2.0)

「ひらめき」の前後には何があったか

私たちは創造的なアイデアを突然ひらめいたかのように語りがちで、ひらめきを得る前後の努力については注目しない。ところが、アイデアを思いつくのは単なる幸運ではない。

ニュートンが、頭の上にリンゴが落ちてきたことで万有引力の法則を発見したというエピソードは有名である。しかし、歴史的証拠によると、ニュートンは引力が天体の動きに与える影響について、この時点で既に研究していた。そして、リンゴが落ちてきたとたんにその疑問が解けたわけではなく、引力の法則を数式化して発表するまで、その後何年もかかっている。

天才的なアイデアは、突然のひらめきのように語られることが多いが、発案者たちはその前後にたいへんな努力を重ねているのだ。

「ひらめき」は創造的プロセスの一部

心理学者のチクセントミハイが、クリエイターの思考プロセスを研究した結果、彼らのほとんどが、準備、培養、ひらめき、評価、精錬の5つの段階からなる創造的プロセスを踏んでいることが判明した。ここでの「培養」とは、目下のプロジェクトからしばらく離れる段階を指し、準備段階で培った知識が消化され、アイデアが無意識にまとまっていくことをいう。数日から数年の培養期間を経てやっと、ひらめきの段階に達するのだ。

また、あるタスクを継続的に行うよりも、途中で中断して関連のないタスクを行った方が、そもそものタスクのアイデアを多く生み出せることが判明した。これを裏付けるのは「選択的忘却」説である。すなわち、同じ課題にずっと取り組んでいると、堂々めぐりになりかねないが、課題とは別のものに意識を完全に集中させると、古い思考経路の記憶を薄れさせ、新たな可能性をより柔軟に考えられるようになるという。

天才的なひらめきは、創造的プロセスの一部にすぎない。準備をしなくては思考の材料を十分に集められないし、培養期間をおかなければうまくいかない方法に固執し、ひらめきを得られない。ひらめいた後も、それを実現させるためにアイデアを評価、精錬する必要があるのだ。


「オリジナリティ」の迷信

Photo: "Batman on the Apple II" by Matthew Pearce (CC BY 2.0)

創造は既存のアイデアの組み合わせ

ユニークなアイデアや発明は、発案者の完全なオリジナルだと私たちは考えがちだ。しかし、アイデアはもっと複雑な経路で生まれ、複数人が関わっている場合も多々ある。それどころか、ほかの人々のアイデアが創造的なひらめきを後押してくれる。

新しい創造物は既存のアイデアの組み合わせであるという概念は、発明はもちろん、文学や美術、映画、宣伝コピーなどあらゆる分野で見られることだ。これを実証づけたのは心理学者サーノフ・メドニックが提唱した「連想思考」である。問題の必須要素からより多くのことを連想できる人ほど、クリエイティブな解決策にたどり着きやすいという。

東北大学の竹内光率いる研究チームは、脳の物理的な反応の観察結果から、この説を裏付けている。創造性の高い人々は、低い人々よりも、「異なる事実や記憶をつなげる」という役割をつかさどる、脳の白質が多かったのだ。彼らの脳はアイデアをつなぎ合わせるのに適した脳を持っており、訓練を積むことでこの脳の組織を成長させられることが判明した。

アイデアを独り占めする代償

イノベーションの源は古いアイデアである。パソコンのОS(オペレーティングシステム)の発明においては、ビル・ゲイツのウィンドウズも、スティーブ・ジョブズのマッキントッシュも、ゼロックスのGUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェイス)の試作品であり、世界初のパーソナルコンピューター「アルト」の影響を受けている。

にもかかわらず、多くの企業は、自分たちのアイデアを外の人が使えないように、特許や企業秘密、知的財産法などの手段に頼っている。これはアイデアの可能な組み合わせの数を減らし、ひいてはイノベーションの可能性も減らすという大きな代償を支払うことになる。

人々は、自分と接点のあるアイデアや素材しか借りることができない。環境や影響に対して柔軟になれば、自分の専門性の周辺分野である「隣接可能領域」を広げ、創造的なひらめきを得やすくなる。これは組織内にもあてはまる。アイデアが共有されていれば、個々の社員やチームが、アイデアをより自由に組み合わせ、革新的な功績を残せるようになるにちがいない。


インセンティブの迷信

Photo: "Chantenay carrots" by Claire Knights (CC BY 2.0)

2種類の動機

大半の企業が「仕事をたくさんさせるには、金銭的見返りが効果的」という「インセンティブの迷信」にとらわれている。インセンティブによる管理手法は、仕事が反復的で効率性を追求する工業労働の時代には通用していた。しかし、クリエイティブな仕事においては、この手法は効き目がない。

クリエイティブな仕事の場合、明確なマニュアルがなく、自ら問題の解決や創造性が求められ、仕事自体にやる気を出させる要素が含まれていることが多い。クリエイティブな仕事における動機には内因性と外因性の2種類に分けられる。内因性の動機は、心の中からわき起こる動機であり、これがあれば自然に仕事に夢中になっていく。逆に、外因性の動機は、ボーナスや良い成績を取るためというものである。動機と創造性の研究によると、内因性の動機は外因性の動機よりも、クリエイティブな成果とのつながりがはるかに強いという傾向が見られた。

たとえば、芸術家が制作を楽しむために作った作品と比べて、依頼を受けて作った作品の方がはるかに低い評価を受けたという実験結果もある。これは、報酬(インセンティブ)が伴うことにより、内因性の動機が否定され、作品の質に悪影響を及ぼしたと考えられる。つまり、一定の条件下では、インセンティブがクリエイティブな仕事に必要な動機を阻害してしまうこともあるのだ。ただし、タスクの質の高さを評価する手段としてのインセンティブにするなど、タスク達成の内因性の理由と外因性の動機を一致させれば、内因性の動機を損なわずに済む。

内因性の動機を感じる工夫

興味のある仕事に取り組ませて、内因性の動機を感じられる工夫を導入している企業も現われている。例えば、3Mでは技術スタッフが就業時間の15%まで自分で選んだプロジェクトに従事できるようにしている。またツイッター社では、1週間自分の業務の範囲外で好きなプロジェクトを行うことのできる「ハック・ウィーク」を定期的に設けている。こうした会社は、クリエイターに内因性の動機を感じるプロジェクトを自主的にさせた方が有益だと信じており、実際の成果もあがっている。


「団結」の迷信

Photo: "Pixar" by Lucius Kwok (CC BY-SA 2.0)

衝突が日常茶飯のピクサー

「クリエイティブなチームは仲間の和を尊び、批判はしない。」そんな迷信を信じてチームの団結ばかりに注力すると、チームの創造性は損なわれてしまう。メンバーが、仲間はずれを恐れて、ユニークな視点の提示に尻込みするようになるからだ。

実際、最高にクリエイティブなチームや企業は、あえて衝突を引き起こすようにしている。

CG技術を駆使して大ヒット映画を連発しているピクサーを例に挙げよう。本社は、共同作業を生みやすくする工夫が施された社屋を持ち、世界一楽しそうな職場と言われている。

しかし、アニメーターにとって、衝突と議論は毎朝の恒例行事だ。1日4回のミーティングで作品をフレームごとに評価し、批判が飛び交い、改善の議論を深めていく。ピクサーはメンバー間の軋轢を重要視しており、生産的な軋轢を発生させるために、あえて不満分子のチームを結成することもあるほどだ。

建設的な衝突が創造性を引き出す

研究結果からも、異なる角度から議論、衝突、評価、対立した方が、はるかに創造的な結果を得やすいことがわかっている。「批判をするとアイデアが出にくくなる」という、オズボーンのブレーンストーミングの考えによって強化された意見は覆されたのだ。論争の間に、アイデアはより深く調査・熟考され、他のアイデアとの融合により、更に強化される。それでこそ、アイデアを最後まで突き詰めることができるのだ。

ただし、ここで機能する「衝突」は、「人を対象とした感情的なもの」ではなく、「仕事を対象とした理知的なもの」である。こうした理知的な衝突にとどめるために、ピクサーでは「プラシング」という独自の手法を使っている。異を唱えるときに、どうすれば良くなるかというプラスアルファの提案も述べるのだ。

同調ではなく建設的な衝突がクリエイティブなプロセスを加速させ、創造性を引き出すことを心に留めてほしい。


一読のすすめ

本書を読み終えると、イノベーションに必要な創造性を得るためには、天才的なクリエイターを発掘したり、特殊な環境を用意したりする必要はなく、意外にも「ささやかな工夫」を重ねればいいことに気付くだろう。要約では取り上げられなかった「生まれつきクリエイターの迷信」や、「エキスパートの迷信」「孤高のクリエイターの迷信」、「ブレーンストーミングの迷信」などもぜひ本書を読んで、固定観念を払拭してほしい。科学的に証明された知見が、創造性を発揮する組織・チーム作りに一役買ってくれるはずだ。

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