BNL Arts

作家と出会い、アートを買ってみることから始めよう──3331 Arts Chiyoda統括ディレクター・中村政人

新セクション「BNL Arts」の初回に登場するのは、3331 Arts Chiyodaの中村政人だ。彼はいま、3月7日から5日間に渡って開催する「3331 ART FAIR」の準備を進めている。作品の売り買いだけではなく、地域やアーティストとの関係性を大切にするアートフェアには、美術館やギャラリーにはない魅力があると語り、一度買うつもりで参加してみてほしいと誘う。

東京・神田。秋葉原の喧噪と上野の山のにぎわいの中間地点に、「3331 Arts Chiyoda(以下、3331)」はある。閉校になった公立中学校を丸ごと改装し、再生させたアートセンターだ。2010年6月のオープンからまもなく8年目を迎える。

廃校を利用した文化施設というだけならそれほどめずらしくない。3331が突出しているのは、プログラムの多さと多彩さだ。展覧会やイベント、ワークショップ、講演会など、硬軟織り交ぜた企画を年間800から1000本も実施する。

3331のもうひとつの特徴は、施設の真ん中に大きなホワイトキューブを持っていることだ。かつての学校の雰囲気を生かし、親しみやすさを演出しながらも、アートに立脚したスペースだということを堂々と主張する。

3331の統括ディレクターを務めるのはアーティストの中村政人。中村は90年代の終わり、マクドナルドの「M」のネオンサインをかたどった大型作品を制作し、「彫刻」としてホワイトキューブに展示した。街の中で見慣れているものをアートの文脈に引き入れることによって、社会の側を照射する。その視点は「アートによる地域振興」が盛んに唱えられる現在を先取りする。

中村は3331を「アート、産業、コミュニティーを横断するクリエイティブハブ」と位置づける。その多層的なあり方がぎゅっと凝縮され、参加・体験できるイベントが、3月7日から開催される「3331 ART FAIR 2018」だ。社会とアートが出合う場を作り続けてきた中村に、ユニークなアートフェアの狙いを聞いた。

2018年3月7日(水)~11日(日)の5日間で開催。第7回目となる今回は、従来取り組んできた展覧会型フェアとギャラリー出展型フェアを同時に行い、施設全体をダイナミックに活用して展開する。

「アートプロジェクト」としての文化施設

──東京をはじめ各地でアートフェアが開かれるようになってきましたが、「3331 ART FAIR」の特徴はどこにありますか。

7回目の開催となる今年は、1Fのメインギャラリーだけで65人のアーティストと、体育館には22軒のギャラリーや団体が出展します。期間中は、メインギャラリー、体育館、教室エリア、屋上など全館がフェア一色になります。エントランスのウッドデッキにどんと大きな作品を置いたりしてね。

今回、東京藝術大学や秋田公立美術大学、東北芸術工科大学など、大学が「出展ギャラリー」として参加します。これは初めての試みです。プロデビューする前のフレッシュな若手アーティストの作品を見ることができる。

一般的には多くの人が、アートを発表する場所はギャラリーと美術館だけだと思っていますよね。「3331 ART FAIR」はそれらとは少し異なる、オルタナティブなアートフェアを作っていきたいと思っているんです。

──なぜそのようなアートフェアを作りたいと思ったのでしょう。

それを説明するには3331という場所のことからお話ししたほうがいいかもしれません。

3331の母体となっているのはcommand Nというアーティストグループです。アーティスト主導で文化施設を継続的にマネジメントし、さまざまなプロジェクトを行っているというのはなかなかまれなことなんです。その"変わり種"のようなアーティストたちを中心にして、幾重にも輪が広がっています。

距離で考えてみましょうか。いちばん近いのは歩いてくる人たちですよね。ここはもともと公立の中学校だったんですが、子どもを通わせていたり、自分も卒業生だったりして、この場所に愛着を持っている地元コミュニティーの人たちです。次が周辺の企業で働く人たち。秋葉原の電気街や、千代田区のまちづくりに関わる人たちも含みます。次は、電車に乗ってくる人。「面白そうな展覧会があるから行ってみよう」とかね。さらに、新幹線でくる人。例えば僕は秋田の生まれですが、ここで観光物産をPRするイベントをしたいと言う人たちもいて、すでに年間プログラムに組み込まれています。もっと遠くだと、飛行機に乗ってくる人。3331ではレジデンス・アーティストを受け入れていて、1年のうち数カ月間ここに滞在して制作する作家がいます。

このように非常に多様な層の人たちに利用してもらえる「クリエイティブハブ」として、3331は機能しています。

エントランスには学校の椅子が置かれていて、どこか懐かしい空気に包まれる。

ただ、そのように機能し始めるまではやはり壁がありました。町会の人たちはみんな神田っ子、江戸っ子です。「アートはわからん」「難しい」という偏見=壁がある。「まちに開かれたアートセンターにします」と言ったところで、「全然開いてねえじゃねえか」と言われる。そこで僕らはまちに出ていくことを考えました。

例えば、アーティストの日比野克彦さんが主宰する「明後日朝顔(あさってあさがお)プロジェクト」。もともとは日比野さんが2003年に新潟県十日町市莇平(あざみひら)集落の人たちと始めたプロジェクトなんですが、いまでは29の地域に広がっていて、3331がある"千代田"もそのひとつです。日比野さんと地元の小学校のこどもたちや町会の人たちが共同で、全国から集まってくるあさがおの種を植え、育てます。全国大会もあって、毎年どこかに集まるんです。莇平や、富山県の氷見にも行きました。

「これはアートです」なんていちいち誰も言いません。日比野さんも「あさがおを育てる、明後日朝顔プロジェクトです」と言っているだけ。でも回数を重ねるたびに地域にゆるやかなつながりが生まれ、地域間の交流が生まれ、顔が見える者同士の信頼が生まれていく。そういう関係が生まれることが大事であり、まさしくここがアートとして社会的に機能させるポイントなんです。

つまり、アートが社会的に機能することにより、社会関係資本が獲得されていく。この地に生まれ、この地に暮らすことで身につく文化を大事にしよう。モノの売り買いだけではなく、関係を大事にしよう。3331はそこを狙って作っているんです。

2016年に制作されたプロモーションビデオ。明後日朝顔プロジェクトの日比野克彦さんも登場している。

作家たちから、時代のコードを読み取る

アートフェアも、社会関係資本を構築するという考え方がベースにあります。現代アートというと一般に、名画がオークションで高値で取り引きされるというイメージがあると思いますが、投機の対象になり、値段を上げることが目的になったらもはやマンションを買うのと同じです。誰がどう介在しているのかもわからない。顔が見えないから信頼関係もない。そうではなく、この作家はこういう考えで制作していて、作品はこういうふうにできていますよということをちゃんと届ける。それをお金という価値に変える。経済活動に人間の思いや関係性というものを組み入れることにチャレンジしたいんです。

──どんなアーティストが出展していますか。

やはり若くてフレッシュな作家が多いですね。もちろんキャリアのある人もいます。例えば都築響一さんは、編集者としてのキャリアが非常にある方ですが、アーティストとして出展してくれます。作品も販売します。

──1997年刊行の『TOKYO STYLE』は、写真集としても、その時代の若者の日常を伝えるものとしても、新鮮でかっこよくて、驚きました。メールマガジン「ROADSIDERS' weekly」もすごく面白いですよね。

あれだけのコンテンツを作れるアーティストはなかなかいないですよ。自分の目で見て、自分で書いて、自分で伝えている。私は彼は「アーティスト」だと思っているので、アーティストとして出展してくださいと依頼しました。

また、全国6地域およびニューヨーク在住のアートの専門家に作家推薦者になっていただいて、それぞれの地域からいいと思う作家を推薦してもらいました。ローカルの作家の中には、いい作品を作るんだけどギャラリーが扱ってくれないのでアートフェアに出せないという人もいるんですね。なぜ扱ってくれないかというと、「売りにくい」から。

──以前に3331 ART FAIRにきたときは、ものすごく大きいとか、造形に懲りまくっていて保管に困りそうだとか、そういう作品がありました。

もちろんそういう作品ばかりではないですよ。手頃なサイズで、家に飾ったらキレイだろうなという作品もあります。ただ、僕も作家なのでわかるんですが、作家はいろいろ作りたいんです。作りたいんですが、売れにくいものばかり作ってしまう。むしろ「買えるものなら買ってみろ」という思いで作っていることもある。作家の心理は複雑なんです(笑)。

作家の、作ることへ向かうエネルギーはどこからくるのか。誰のために、何を考えているのかということは、非常に大事です。それはやはり、時代を表す証言でもあるからです。ゴッホでもピカソでもウォーホールでも、作品の内容をよく見れば、やはりその時代の考え方を反映している。ということは、いまの作家たちのメッセージを受け止めるということは自分たちの時代を受け止めるということでもある。若手であろうが無名であろうが、そういう目で作品を見れば、芸術的価値の中に潜む時代のコードを読み取ることができるんです。

デザイナーは他者の作品を参照して作ることもあるが、アーティストの場合はそういうわけにはいかないという。

アートにとっての「新しさ」とは

──「アートに時代が反映される」という意味をもう少し教えていただけますか。

現代アートの世界でいちばん難しいことは「新しさ」です。僕らは新しいものに飛びつきます。「新しいとは何か」ということを絶えず考えている。

デザインは引用することができますが、アートは少しでも誰かに似ていれば「似てますね」と評価されて終わりです。しかもアートの新しさには複数のレイヤーがあります。つまり、目の前に見えているものだけでなく、その背後にある思想まで見る。表面的には新しそうに見えても、背後にある考え方をひもといていくと、たいてい、歴史上すでにある考え方との類似点が発見される。だからこそ、真に新しい作品が生まれると世界的にその価値が認められるわけです。

──単にみかけが新しいだけではいけない、と。

そのあり方ですよね。作品の生まれ方と言ってもいいかもしれません。例えば僕は、この3331そのものを自分の作品だと思っています。事業として作品を作る人なんて、ほとんどいないでしょう? でも僕はそういう思いで作っています。

ビジネスの世界では、例えば事業を興す人たちは、新しい流通経路、新しいサービス、新しい価値観を生もうとしてしのぎを削り合っていますよね。でもどんなものにも流れはあって、誰々さんが開発したものが、別のチームによって商品化されて、権利はこの企業が持っていて、それが別の企業に譲渡されて......という流れの中でひとつの事業体系が生まれてくる。もう少し視野を広げると「世界の中の日本」という産業的背景も描かれていく。

アートも同じなんです。ただアートの場合はインターナショナルなステージとローカルなステージの差異が定まりきってきない。ヨーロッパを源流とする現代アートは日本から見れば憧れる対象でしたが、そういう時代は終わりつつあります。「ヨーロッパから見ると僕たちはこう見えるよね」というプレゼンの仕方ではなくて、自分たちから「こういう作家がいる、これだけの面白い作品がある」とアピールしていかなければならない。僕にとってはそれがこの3331というプロジェクトなんです。

買うつもりで作品を眺めることで、美術館で鑑賞する時とはまた違った体験ができるという。

買うつもりで作品を見てみよう

──3331 Arts Chiyodaという大きなアートプロジェクトの断面のひとつが「3331 ART FAIR」というわけなんですね。

そうです。3331 Arts Chiyodaの名称を「Arts」と複数形にしているのは、食やファッション、音楽、さまざまなデジタルコンテンツ、すべてアートになりうる、アートの一ジャンルとしてお客様を迎え入れます、ということです。ですから3331 ART FAIRも、もしもアートに対して敷居の高さや壁を感じているのであれば、食のイベントやカフェ、マーケットを目当てにきていただいても全然構わないんです。どら焼きで有名な上野の名店「うさぎや」さんも今回出店してくださいます。

「もう少しアートの世界に踏み込んでみようかな」という人は、気に入った作品があれば買うつもりで作品を眺めてみてください。そうすると、「この作家はどういう人なのかな」と気になりませんか? どういう背景があり、何を考えてこの作品を作ったのか。そう思ったら、会場にはアーティストやギャラリーの人がいますので遠慮なく聞いてください。同時代の作家を買うことの醍醐味は、作家と会話ができるということです。作家はそれを望んでいますからね。ひとつ買えば、作家とパトロンとしてそのあとも関係が続いていくでしょう。特に同世代だと、その作家の創作活動と自分のビジネスキャリアが同じような成長曲線を描くことすら起きる。1点買って部屋に飾った途端にはまってしまって、熱心なコレクターになったという人を何人も知っています。

家に自分で買った作品を飾っていますか?

──飾ってないですね。

では記念すべきファーストピースと出合うチャンスですね(笑)。僕はビジネスパーソンにこそ、文化芸術のリテラシーや感度を高めてほしいと思っています。そのためには見るだけでなく買ってみるといいというのは、やはり身銭を切って経験するということは、自分の感性そのものが問われることだから。「この作品を買った自分はイケてるんだろうか」というように。それはとてもワクワクすることだと思いませんか?

ぜひ、あなたのファーストピースを探しにきてください!

BNL限定企画 3331 ART FAIR 2018「プライズセレクター」募集

3331 ART FAIRでは、「プライズセレクター」としてフェアに参加することもできる。購入した作品に「コレクター・プライズ」が授与され、会期中に会場内で発表される。もし購入には至らなくとも、応援したいアーティストには「コレクター・ドネーション」を贈ることも可能だ。プライズ・セレクターは、一般公開前の15:00 - 18:00に特別に入場できる「ファーストチョイス」の参加権が得られる。ちなみにBNL編集長の丸山と筆者も、初日にファーストピースを求めて参加する予定だ。
プライズセレクターとは: http://artfair.3331.jp/selector
お申し込みはこちら。(申込期限は2月28日18時まで)