出会った後、アイデアはどう生まれるか

社外の人と偶然の出会いが生まれる場へ──Yahoo! JAPAN「LODGE」と家具メーカーVitraの実証実験

オープンコラボレーションスペース「LODGE」は、家具メーカーVitraと組み、コミュニケーションの形態に応じて8種類のテーマを設定して家具を一新した。社外の人と交わる機会を増やして、事業アイデアの探索に挑む「ジッケン オフィス」プロジェクトの全容に迫る。

2016年11月、ヤフー株式会社は紀尾井町にある本社の17階に、1,330平方メートルの広大なオープンコラボレーションスペース「LODGE」をオープンした。

誰でも受付さえ済ませば、無料で利用できる。立地もよく、レストランやカフェも併設されているとあって大盛況で、日々200人を超える来訪者数を記録しているという。トークイベントの会場としても人気で、毎日のように開催されている。

実はこの場所で、2017年の9月19日から11月10日まで、「ジッケン オフィス」と銘打ち、とある実証実験が行われていた。スペースの半分をスイスのデザイン家具メーカー「Vitra」の家具に置き換えたのだ。 (LODGEのインテリアデザインを手がけたFLOOATの協力のもと、LODGEとVitraの共同主催という形の期間限定イベントとして実施された)

なぜこのような試みをしたのか? Yahoo! JAPANとVitraのコラボレーションはいかにして成立したのか? BNLは、このプロジェクトを企画した両社のリーダー、植田裕司(「LODGE」サービスマネージャー)と片居木亮(Vitra株式会社代表取締役)に話を聞いた。

──まずは植田さんから、あらためてLODGEのコンセプトと、今回の企画につながった当初の課題について教えてください。

植田:社内の人間だけで議論していても、なかなかいいアイデアは得られないものです。そこで社外から新しい気づきを得られるような「情報の交差点」を生み出したいと思って作りました。毎日盛況ではあるのですが、まだまだ「無料の作業スペース」という感覚で使っている人が多いのも事実です。その課題をVitraの片居木さんに共有して、ともにこの「ジッケン オフィス」を企画しました。

──家具を変えたことで、利用者に何か変化は見られましたか?

植田:予想以上に効果があったのは、この台形のテーブルですね。利用者は自由にテーブルを動かせて、用途に応じて組み合わせられるので、毎日のようにレイアウトが変わっています。

Map Table:ワークショップから公開討論まで、コミュニケーションを重視するさまざまなイベント形式に対応できるテーブル。ロンドンのRoyal College of Artでともに建築とインテリアデザインを学んだ、エドワード・バーバーとジェイ・オズガビーがデザイン。

──なぜ、このような家具を選んだのですか?

片居木:オフィスを作る時に大事なことは、今回で言えば運営側であるLODGEと、そこで働くユーザーのニーズや課題をまず深く理解することです。その上で結果が出せるよう空間ソリューションを提供していきます。ここはイベント会場としてもよく利用されていて、講義やグループワークなど、イベントの形式によってさまざまなレイアウトに対応する必要がありました。そのため、必要に応じて簡単に家具を動かせることはユーザーにとって空間の利便性を高めるだけでなく、日々の運営にとっても大事だと考え、会議形式だけでなく、不規則なレイアウトも自由に作ることができるようなキャスター付の台形のテーブルを導入してみました。ただ、家具だけでできることは限られるので、レイアウトはわりと早いうちにアイデアをかためて、他にどのような仕掛けをするべきか、という議論により多くの時間を使いました。

──例えばどのような議論をしたのですか?

片居木:両社のメンバーで集まってホワイトボードを使って、実際にLODGEではどういう状況でコミュニケーションが起きる可能性があるのか、と話し合いました。

植田:利用者間のコミュニケーションを活性化したい、という課題を分解していくと、さまざまな気づきが得られました。そこから、「Co-CREATE "GYM"」や、「CONNECT "TOWN HALL"」といったように、8種類のテーマを掲げて、それぞれの用途に最適な家具を配置しました。

1.Co-CREATE "MISSION ROOM":同じ目的に向かって、チームで作業を行うのに適したスペース/2.Co-CREATE "GYM":ジムで体を鍛えるように、アイデアを練り上げる多様なコミュニケーションをサポートし、鍛え抜かれたアイデアを創出させるスペース/3.CONNECT "TOWN HALL":稼動式のソファやテーブルにより、レクチャーホールのように大勢参加のセミナーや数人単位のワークショップなども行える多機能空間/4.CONNECT "COMPARTMENT":ワークスペースに空間を作り出すシステム家具により、集中してグループコミュニケーションやデスクワークが行えるスペース/5.CREATE "LAB":最新のVR設備を備え、アイデアを形にし、検証可能なクイックプロトタイピングが行えるスペース。/6.CONNECT "MARKET":市場のように情報や人が行き交う交差点としての機能を持つスペース/7.Co-CREATE "3 on 3":少人数のグループ同士で、集中し仕事を行うのに最適なスペース/8.Co-CREATE "RING":リングで戦うファイターのように、自分達の意見やアイデアをぶつけ合うブレインストーミングを行うのに最適なスペース

──LODGEには日々どんな人たちが集まっているのでしょうか。

植田:弊社は手広く事業をしているので、さまざまなお仕事をされている方が集まっています。あえてターゲット層も絞らずに、多様な人を迎え入れて、いろんな偶然の出会いが生まれる場所にしていきたいと思っています。

──「LODGEにいたら、いつも面白い人と出会える」と言われるようになって、社員が日ごろあまり関わりのないような人たちとの偶然な出会いが、どんどん生まれていくといいですね。

植田:無料で運営しているからこそ、今後はYahoo! JAPANの事業に貢献する方法を探っていきます。

──現段階で考えているアイデアを教えていただけますか?

植田:アプリの開発部長を担当していた時、僕はタイムラインに動画を表示できるようにしたいと考えたのですが、動画の開発に長けたアプリエンジニアが少なかったんです。社外でも誰に相談したらいいかわかりませんでした。そういった課題を各事業部から引き上げて、例えばLODGEで勉強会を開催してコミュニティを集められたら、Yahoo! JAPANの事業にも貢献できる道がもっと広がっていくのではないかと考えています。

──社内の課題を解決できそうな人を、LODGEの利用者の中から探すということですね。

植田:そうです。解決する課題は現場の開発メンバーが抱えているものかもしれないし、その成長を願っている上長かもしれない。さらに大きな事業を考えている人かもしれないけれど、まずは、現場の御用聞きから始めたいと思っています。

──社外のアイデアとYahoo! JAPANの事業をつなぐ、まさに「情報の交差点」ですね。

植田:自社にこもっていたら、自分たちの脳でしか判断できません。そもそも課題の発見すら難しいかもしれない。社外の人たちと接することで、「こういったところに課題があるのか。これってまだ他の会社は攻めていないところだな」と気づかせるのがLODGEの役目だと考えています。

──Vitraとしては、LODGEのどのようなところに共感できたのでしょうか。

片居木:まず両社のビジネスは大きく異なります。ヤフーはITでサービスを素早く広範囲に提供し、新しいことにも挑戦しやすい会社だと思います。Vitraは創業80年の家具メーカーで、家具の製品開発はもっとアナログで長い時間を要するものなのです。私たちの日々の仕事の9割はデザイナーやクライアントとオフィスや居住空間を作ったり、家具のデザインや、もっと詳細な家具の素材や色の話をすることで、家具メーカーとして創業以来ずっと変わらない仕事を続けています。

ただ、時代とともに必要な空間や家具は変わっていきます。特に変革期にあるオフィスのビジネスという観点からは、日々お客さんに会って家具を販売しているだけでは限界があります。将来の変化に対応したり、成長の起爆剤になるような新しい試みが必要です。そこで残りの1割くらいのリソースを「余白」として残しているんです。「ジッケン オフィス」も、その余白の中でやっています。

私は社内では9割の仕事も余白の1割も、現在と未来への投資と考え、会社の2本の柱として互いを尊重しましょうと言っています。ある程度、独立性は保ちながらも、社内ではどこか影響を与え合うような関係性です。そういう意味においては、Yahoo! JAPANとLODGEの関係性とも近いのかなと思います。

──というと?

片居木:LODGEは、将来への投資として、比較的自由に運営されている印象があります。空間の作り方においても、ヤフーの企業規模だと、全てのオフィス空間をいきなり変えるわけにはいきませんが、自由度の高いLODGEのようなスペースを外にも開いてあげれば、そこに有益な人や情報が流れてきて、影響を与えられるという考え方が、弊社の「余白」の経営に近いところを感じています。

──Vitraは、1割の「余白」で何か新しいことに挑戦したかった。LODGEも、Yahoo! JAPANの中では「余白」のような存在だった。お互いに「余白」があったからこそ、このコラボは実現できたのかもしれませんね。

片居木:そうですね。おそらくYahoo! JAPANの事業部に弊社の企画をいきなり持っていくのは厳しいと思うんです。LODGEだからこそ、この企画を実現できたのかなと思います。

植田:僕らもLODGEは実験の場だと思っています。ここでうまくいけば全執務フロアに反映できるかもしれない。そうしたらVitraさんの家具の販売にもつながります。

片居木:「ジッケン オフィス」を公開した時にある人から、「何でVitraさんがこんなことをやってるの?」と聞かれました。家具を作って販売するというVitraの9割の仕事の方しか知らない方にとっては、なかなか理解されにくいんですよね。

──どうお答えしたんですか?

片居木:「いままで公開していなかっただけで、いつも社内でやっていることなんです」と答えました。Vitraが革新的な家具を開発するには、ユーザーの課題の理解と、それを解決するアイデアや技術的なチャレンジが必要です。それには数え切れないほどの実験的な試みが必要ですが、いままで実験室の中でデザイナーと限られたメンバーが行っていたことを、今回初めて、そのプロセスを外部と一緒にやっただけなんですよ。

そうは言ってもコミュニケーションばかりでは疲れてしまう。ひとりで息抜きできる空間も必要だ。