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CAREER STORIES

「明後日からの逆算」で明日をつくる経営のススメ──アクセンチュア・中村健太郎

昨年ボストンコンサルティングからの異例ともいえる転職を果たした中村健太郎は、アクセンチュアで従来の戦略コンサルとは異なるアプローチに挑戦している。経営者に課題を聞いて「今日の延長」で明日をつくるのではなく、最新のテクノロジーを前提に「明後日からの逆算」で明日をつくるという方法だ。

戦略コンサルティングの仕事と言われて一般的に思い浮かべるのは、クライアント企業の課題を聞き出すことから始めて、それをいかに高度に解決するかということではないだろうか。しかし、アクセンチュアで戦略コンサルティング本部マネジング・ディレクターを務める中村健太郎は、あえて「今日の課題」を聞き出すことからは出発しないのだという。

中村はこれまで、フューチャー、ローランド・ベルガー、BCGと渡り歩き、10年以上、戦略コンサルティングの表舞台で活躍を続けてきた。いわば戦略コンサルティングを知り尽くした人物だ。

その中村が2016年4月から籍を置くアクセンチュアで、このビジネスの大前提と言っても良さそうなアプローチを否定するのはなぜか。そこには、この業界のど真ん中に身を置き続けた中村だからこそ感じるある苛立ちと、日本企業がグローバルで勝ち抜くための大胆な発想の転換があった。「今日の延長」で明日をつくるのではなく、「明後日からの逆算」で明日をつくるというアプローチだ。

変革を起こせない自分への苛立ち

──中村さんはなぜアクセンチュアへ?

ローランド・ベルガー、BCGで戦略コンサルティングをやっているうちに、私の中にある苛立ちが募っていきました。この10年間でグローバルのトップ企業の顔ぶれは大きく変わりました。時価総額を上から並べると、2007年時点では石油会社や銀行等のいわゆる伝統的な大企業でしたが、2017年にはアップル、アマゾン、フェイスブックなどのデジタル企業に取って代わられました。

ではその間、日本企業はどうだったかというと、まったく顔ぶれは変わっていないのです。一方競争環境は大きく変わり、日本企業はグローバル競争で勝ちきれず、デジタルディスラプターに対し、苦しい戦いを強いられている企業も多い。

私自身、クライアントの課題改善は高度にご支援できているという自負はありましたが、クライアント企業そのものを再定義する大きな変革は起こせずにおりました。

──なぜ変革を起こせなかったのでしょうか?

戦略コンサルをやりながら感じていたいちばん大きな悩みは、クライアント企業の課題意識を聞き、その課題を出発点として検討を深めるという仕事の仕方そのものにありました。経営者がもつ今日の戦いに勝ち抜くための課題は、傾聴に値します。一方で、グローバルではまったく新しい戦いをしかけるプレーヤーが勃興し、市場を席巻しています。今日の課題に加えて、新しい視点を加える必要があることを痛感しておりました。

──経営者の持つ課題意識には何が足りなかったのですか?

物理的な資産をたくさん持てば、そのぶんだけ利益が上がる、という論理はもはや通用しない。

簡単にいえば、これまでの日本企業というのは、物理的な資産をたくさん持てば、その分だけ利益が上がるという伝統的な考えに基づいた経営を行ってきました。しかし、時価総額が大手自動車メーカーと同規模の7兆円と言われるUberが持っている物理的な資産は、せいぜい2000億円程度です。既存の大手自動車メーカーの10%程度の資産規模で同程度の企業価値を創造しているのです。彼らが持っているのは物理的な資産ではなく、テクノロジーです。物理的な資産に比べて、早く手に入れられる技術にベンチャーキャピタル等の資金を大規模に投資し、圧倒的なスピードで事業を推進しています。

このようなビジネス環境の変化を考えると、変革を担う存在であるコンサルティングファームは、最新のテクノロジーを深く理解し、そこから新しい戦略なりビジネスプランを作れる存在でなければならないと考えるようになりました。

目指すのは、新しいフィールドでのぶっちぎりの勝利

──アクセンチュアは他のコンサルファームとどこが違うのですか?

アクセンチュアが他のコンサルファームと最も違うのは、テクノロジーのバリューチェーンの全てを持っていることです。新たなテクノロジーを自らつくり出し、実ビジネスでオペレーションをしています。「フォーチュン100」の企業のうち、94%がアクセンチュアのクライアントであり、大企業に導入されている多くのテクノロジーに関わっています。ですから、クライアント企業の今後の方向性を検討する際に、アクセンチュアであれば世界中のテクノロジーを集め、自ら活用した経験と合わせて机に並べ、テクノロジーの効用を前提とした未来を描く中で、新しいマーケットのルールを策定できるのです。

われわれが新しい事業をつくる際に前提とするのは、こうしたテクノロジーの効用がもたらす未来であり、経営者がもつ「今日の課題」は取り入れる部分と、あえて捨てる部分とに切り分けて、企業が取るべき方向性を導出しています。

前年対比5%アップとか、既存の市場で他社からシェアを奪うとかいった仕事は全てお断りしています

──どういうことでしょうか?

先ほども申し上げたように、経営者の課題意識が今日の事業環境に縛られている可能性があるからです。経営者の課題意識から組み立てる従来のやり方が「今日の延長」で明日をつくることだとすると、私たちが目指しているのは、最新のテクノロジーを前提に「明後日からの逆算」で明日をつくるというアプローチです。

だから前年対比5%アップとか、既存の市場で他社からシェアを奪うというテーマよりも、まったく新しいルール、新しいゲーム、新しいマーケットを作る仕事にフォーカスし、アクセンチュア自身もリスクをとり、経営者にとって本当の意味でのパートナーとしてぶっちぎりの勝利を目指しています。従来のコンサルティングとはそもそもの発想が違うのです。

「今日」との折り合いをいかにつけるのか

──今日の延長では明日に劇的な変化は起こせないというのはわかります。しかし明後日から逆算するとしても、どこかで企業がこれまで歩んできたこととの折り合いをつけなければならないと思うのですが?

なぜテスラという会社が魅力的に映るかといえば、それはイーロン・マスクが「火星に行きたいんだ」と本気で言うからであり、ピーター・ティールがツイッターに対して、「空飛ぶ車が欲しかったのに、手にしたのは140文字だ」と平気で言ってのける姿に、人々は心を動かされるのです。われわれが提携するシンギュラリティ大学が提示した「飛躍する企業の条件」には、これからの時代、「経営のアセットの5割は企業の外にある」と書かれています。そんな時代にあってなお企業が持つべき最も大切なものは、こうした強いアスピレーションと、それによって外を惹きつける力だと思います。

先ほど「経営者が持つ今日の課題の中で捨てる部分がある」と乱暴なことを言いましたが、経営者が持つ未来像、企業の存在意義については深く傾聴し、他方で、こうしたアスピレーションに比べれば、企業が持つアセットや過去のしがらみは、いったんゼロベースで考えることをしています。

「明後日からの逆算」であれば、大企業は活用可能なアセットを豊富に持っています

──既存のアセットは使えない?

いえ、もちろん既存のアセットを活用する余地がまったくないと言っているわけではありません。

例えば、自動車産業で今後カギを握るのは「顧客接点」です。既存メーカーにとってUberは大きな脅威に映りますが、とはいえUberの登録ドライバーは約200万人に過ぎません。これに対して世界トップクラスの自動車メーカーは年間1000万台の新車を販売しており、Uberの何倍の顧客と日々コミュニケーションを交わしています。例えば、こうした接点を生かし、販売時にインセンティブを提示して「ライドシェアのドライバーになりませんか?」と勧誘すれば、このうちの何割かは登録してくれるでしょう。2割が登録してくれれば、わずか1年でUberと同じだけのドライバーを抱えることになります。

これが、大企業がこれまでにビジネスを積み重ねる中で育てたアセットの力です。現状のビジネスを前提と考えるとしがらみとしてうつるアセットであっても、「明後日からの逆算」であれば、活用可能で魅力的なアセットを見出すことができ、それを最大限に活用することこそが、日本企業のこれからの勝ち筋ではないかと私は思っています。

明後日から明日を逆算できる人の条件とは

──中村さんが考える、明後日からの逆算ができる人の要件はどんなことですか?

私が尊敬するアラン・ケイの言葉に「未来を予測する最善の方法は、それを自ら創り出すことだ」とあります。アラン・ケイはコンピューターがまだミサイルの軌道計算をしていた時代に、コンピューターはパーソナルユースになるという未来を予言していました。

先日、アクセンチュアの本社があるアイルランドに新しいイノベーションセンターが設置されたので行ってきましたが、そこの研究者と話していて次々に語られる未来というのは、まさに「攻殻機動隊」が描いた世界そのものです。アラン・ケイや攻殻機動隊が描いたような未来の可能性を信じていたり、素直にかっこいいと思える人である必要があるでしょう。私は、そういう人と一緒に仕事がしたい。逆にいえば、そのような強いアスピレーションさえあれば、すべてのスキルは後天的に身につくものだと思います。相当きついですが、アクセンチュアにはそのための充実したトレーニングプログラムもあります。

──論理的に考えるのとは違う能力が求められるということですか?

まったく新しいアイデアというのは、従来のコンサルティングが得意としてきたロジカルシンキングでは出てきません。大いなる論理からの脱却が必要でしょう。人間は現状を正当化し、今日の延長で考える傾向があり、新しい未来を論理を超えて構想するのは、決して簡単なことではありません。ですから、アクセンチュアでは、普段から「テクノロジー人間」とたくさん話すことを意図的に行っております。

ロジカルシンキングでは新しいアイデアは出てきません。大いなる論理からの脱却が必要です

研究者やアーティストなど、テクノロジーを使ってひとつのことを突き詰めている人と話すと、自然と未来の可能性の話になります。こうした人と日常的にコミュニケーションをとることで、自らの発想の幅を広げることが重要かと思います。アクセンチュアではこうしたヒューリスティックな発想こそが、これからのコンサルティングには不可欠だと考えております。

コンサルタントとしてこれまでさまざまな人と会ってきましたが、左脳的に考えて人のアイデアを評価したり監査したりする人は、事業会社にもコンサルにも山ほどいるんです。なぜなら、自ら創造するよりもその方が簡単だから。しかし、本当に日本企業に変革を起こしたいと思ったら、アラン・ケイの言うように、コンサルタントだって自ら「未来を創り出す」必要があると思っています。それに何より、未来を予言する人はやっぱり面白い。だから私自身もそうありたいと思っているんですよ。