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ビジネスネットワークの思想と哲学

人脈を価値にする「類推思考」はブルース・リーに学べ! 特別鼎談:入山章栄 × 島田由香 × 石川俊祐

ブルース・リーは映画『燃えよドラゴン』で「Don't think! Feel」と弟子に説いた。ビジネスの世界も最近ちょっと考えすぎなのかもしれない。経営学、人事、デザインコンサルティングの領域で活躍する3者が集結。(違う)と分かり合えない時代に(同じ)を見いだす「アナロジー(類推)」をテーマに、直感≒feel≒聴く力≒自分で発想する勇気の大切さを問う。

入山章栄、島田由香、石川俊祐という過去にBNLに登場してもらった三者をいま一度迎えて行う今回の鼎談のテーマは「アナロジー(類推)」である。

7月31日に開催したトークイベント「BNL Special Sessions 2017」に登壇した入山は、人脈を活かしてイノベーションを起こすには類推思考、すなわちアナロジーが重要であるとし、その理由を次のように説明した。

(1)経営学の研究により、イノベーションは既存の知と知の新しい組み合わせから生まれることがわかっている

(2)社内や業界内という狭い範囲では、もはや手付かずの新しい組み合わせは存在しない。だから組織外の多様な知に触れることのできるネットワークが重要になる

(3)だが、異なる業界に身を置き、文脈や背景を共有していない人同士というのは、それだけお互いのことを理解するのが難しく、本質的につながりにくいということでもある

(4)この「断絶」を乗り越えるのに類推思考、すなわちアナロジーが重要になる

今回の鼎談はこの話が入り口になっている。

入山は鼎談の導入として、シカゴ大学のロナルド・バート教授が提唱したネットワーク理論「ストラクチャル・ホール」(structural holes)の解説を行った。この図は、左右のネットワークの間を行き交う情報は、必ず中心にいる人物(ハブ)を介さなければならない状況を表している。

いまビジネスにおいて「アナロジー」が大事な理由

入山:前回のイベントは「ビジネスネットワークとイノベーション」がテーマでした。ソーシャルネットワーク理論は、海外ではものすごく研究されていて、なかでも特に有名なのが、イベントでも紹介した「ストラクチャル・ホール」という考え方です。

簡単におさらいすると、ストラクチャル・ホールにある人は、周りにネットワークの隙間があるので一見損をしているように見えますが、ネットワーク全体のハブとなる位置にいるので、実は最も多くの情報が集まるのです。この位置にいる人がいちばん給与が高く、出世もしやすく、またクリエイティブになるということが、統計解析により証明されています。

石川さんの勤めていらしたIDEOはまさにこの位置にあります。いろんな業界とつながったハブの位置にいるから、いろいろなアイデアが集まってくるのです。例えばおもちゃのデザインをする時にも、「いま俺がやってる自転車のデザインのストックが使えるよ」とか。そういうやりとりが常に行われている。それはまさにストラクチャル・ホールの位置にいるからなんです。

ただ最近では、話はそんなに簡単ではないこともわかってきています。別のグループ同士をつないで情報をトランスファーしようと思っても、「それはうちのやり方と違うから」などという理由で受け入れてくれないという問題があるのです。ではどうすればいいのか?

シカゴ大学のロナルド・バート教授は、「アナロジー」こそがトランスファーを可能にする能力である、という考え方を提示しています。向こうからきたアイデアは、一見するとこちらの状況とは違うように見えるけれど、一段抽象化すれば本質は同じでしょ、と。そうやって類推思考できることが、トランスファーするのに重要だと言うのです。

「IDEO」はシリコンバレーに本社を置くデザインコンサルティングファーム。石川は、東京のオフィスが立ち上がった2013年から参画し、今年の10月までデザイン・ディレクターとして数多くのプロジェクトをリードしてきた。

石川:確かにIDEOはまさにそういう存在でありコミュニティです。ただ面白いのは、IDEOの場合はそのハブの役割を担う人が、時間とともにネットワークの中を移動していくようなイメージなんです。例えばプロジェクトのリーダーを務めることになったとしても、最初はどんなアイデアが役に立つかなんてわからないから、複数の仮説を持ちながらインスピレーションを集めていく。あえて、ともすれば効率が悪いように見える拡散的なリサーチ手法をとることで、さまざまな点と点を紡いでいく、あるいは、その中を泳いで前へと進めていく。つまり、だんだんとストラクチャル・ホールの位置に近づいていくんですね。

入山:それは社内で探っていくんですか?

石川:社内外の両方です。社外はネットワークを駆使したり、テーマや仮説を元に点となるヒントを持っていそうな人を探ります。社内に関しては、全社メールを活用します。IDEOでは全社メールが非常に活発なんです。とりあえず自分のやっているプロジェクトについてメールを投げると、世界に10あるオフィスから、関連する過去のプロジェクトやリサーチについての情報がわっと集まります。その情報によってひとつ上の視座に立てるので、それまでは気づかなかった、つながるべき新たな点が見えてくる。そうやってどんどん新しい視点を見つけていくという感じです。

入山:最初は関係ないように思えた点に共通点を見出してつなぐ。それはまさに私の言うアナロジーそのものですね。

「IDEOではハブの役割を担う人が移動する」というアイデアを表した図(右側のページ)。

「安心安全な場づくり」が情報を流通させる

石川:情報がわっと集まるというのは、とにかく助け合いの文化がIDEOにはあるからだと思います。「Make others successful」という行動指針があって、自分は直接関わっていなかったとしても、他の人のために時間を費やす文化がある。そうやってコミュニティ全体としての成長や成功を目指しているのが、IDEOの強みなんです。

島田:ユニリーバCEOのポール・ポールマンも、これからはいわゆるアウトスタンディングリーダーといわれる人たちがすごく必要で、それには4つの条件があると言っているのですが、そのひとつに「他者を成功に導く」というものを挙げています。

入山:経営学の言葉で「Prosocial Motivation」と言われるのも同じことですね。これが高い人はクリエイティビティが上がりやすいという研究成果もあります。この前、中国のHUAWEIにお邪魔したんですが、「中国のガチガチの会社」というイメージがあるHUAWEIでさえ、社内では徹底して「Sharing」と言っていて、いかに他者を助けることが大事であるかを強調していました。でも、この「利他」というのは頭ではいいことだとわかっていても、実践するのはとても難しいですよね。IDEOではどうやっているんですか?

IDEOの徹底したチーム運営の方法をヒントにして、「信頼」や「利他」といったキーワードを交えながら、3人はアナロジーにとって大切な要素を探っていく。

石川:IDEOではプロジェクトが始まってから終わるまでの3カ月間、一貫してチームで動くのですが、全員が自然とプロジェクトの成功のために動けるような仕組みを、キックオフ事前/中間/プロジェクト終了後の各フェーズに組み込んでいます。

例えば「キックオフ事前ミーティング」には、プロジェクト自体についての話はもちろんですが、同時にチームアグリーメント、つまり「自由になるための規則」を作るんです。例えば、性格や仕事の経験などが異なる人が当然のように交わるわけですが、このチーム内での会話はすべてプロジェクトをよくするための発言であるから、それをパーソナルに取らないようにしようとか、自分を良く見せようという行為はやめようとか。そして、忘れないようにその規則を壁に貼っておくのです。

島田:それはすごくいいかもしれない。ユニリーバでも「チームとして」というのはすごく大事にしています。個人としての成功ももちろん大事なのですが、チームとして成功するには、というところにものすごく時間をかけるんです。人事がファシリテーションをして、チームの中が本当にお互いに「trust(信頼)」できるようにするワークショップもありますが、目的とするところはまさに同じ感じですね。

信頼って何かといえば、全部言える関係。ここでは何を言っても受け入れてもらえるという安心感をつくることに力を入れています。こんなことを言ったら嫌われちゃうかもとか、こんな発言したらバカって思われるかもっていうのが私たちのどこかにあるから、それをなくそうということをやっています。

石川:すごく大事ですよね。私はそれを「安全な砂場を作る」と言っています。同じようにプロジェクトの中間でも確認の時間をとって改善すべき点を洗い出します。そしてプロジェクトが終わったあとには、1時間半くらいかけて「debriefing(振り返り)」をやります。これがいちばん痛みを伴う行為なんです。チーム内の一人ひとりに対して、全員が「ものすごくよかったところ」とか「もうちょっと改善できるところ」について発言します。それをひと通りやって、最後に「ありがとう」って言って終わるのです。

入山:結構きついことを言われるんですか?

石川:言われますね。でも、これが溜まってくると、自分のパターンが見えてくるんですよね。いつも同じことを言われているなって。僕は決まって「人の話を聞いてない時が多い」って言われるんで、そこを気をつけているんです(笑)。

会話はすべて日本語だが、3人が持ち出すキーワードは英語が多い。自然とホワイトボードも英単語で埋まっていく。

どうやって信頼を作るか

島田:でも利他も信頼も、自分が満足できていないとダメなんです。それがないのに人助けしようとしても、自分が疲れてしまってスカスカになってしまう。人や組織を見ていていつも思うのは、人間には3つの根源的なニーズがあるということです。

3つのニーズというのは、「connection(つながりたい)」、「recognition(認められたい)」、そして「contribution(貢献したい)」です。信頼の構築には、自分の中でこの3つのニーズがどの程度満たされているかがとても大きく影響すると感じています。

石川:すごく面白いですね。僕自身いつも悩ましいと思うのは、2番目のrecognitionなんです。どうすれば人からの承認を必要としない人間になれるだろうかといつも考えていて。というのは、「承認してほしい」という働き方になると、だんだん自分の仕事でなくなっていくというか、承認されることが目的になってしまって、どこかややこしさが生じてきてしまう。一方で起業家やアーティストのような人たちの中には、何を言われようが自分はこれがいいと思うんだからこれをやるんだ、というような人もいるわけじゃないですか。これはどういう風に考えたらいいんですかね?

島田:その点で、ユニリーバでいちばん大切にしているのが「purpose(目的)」なんですよ。自分のやっていることがここにつながっている人だと、自分で自分のことを認めることができる。そうすると、他者からの承認がさほどいらなくなってくるんです。

入山:なるほど。石川さんが言うような孤高の起業家は、purposeが圧倒的に強いということですね。

島田:そうなんです。なおかつ、そういう強いpurposeを持っている人は、結果的に他の人を巻き込んでいくし、世の中をより良くすることにもつながっていくから、残りのニーズも満たされていくんですよね。

石川:確かに、ピュアな情熱って人をつなげますもんね。本当にpurposeをもってビジネスをやってる人と、そうじゃない人って見ればすぐにわかりますし、そこをどう越えられるのかが鍵だと思っています。

禅では、人間はみんな深いところではつながっていると発想する。このお坊さんから得た気づきも、何か〈違い〉の中に〈同じ〉を見る「アナロジー」の秘密を解く鍵になるかもしれない。

入山:先日、藤田一照さんという曹洞宗のお坊さんとお話しした時に、人間がいちばん難しいのは「自我」だと言っていたんですね。禅では、もともと人間はみんなつながっていると発想するそうです。でも、各々が自我という名のバリアを張っているため、〈表層〉だけを見ると離れて見えてしまいます。だから禅では、いかに自我を抑えて〈深層〉の関係性の中で物事を見れるかを大事にしています。この考えに照らせば、自我が強くなるとどんどん孤立して苦しくなるけれど、逆に他者とつながった中で考えられれば楽になりますよね。

島田:そうですよね。この自我というのも、自分を殺して相手を尊重することだと捉えてしまうと、recognitionが満たされなくなり、またself-satisfactionが下がってしまう。自我を抑えるというのと、我慢するとか自分を殺すっていうのは違うんです。どうもそこを勘違いしている人が多いように感じます。そのせいで、自分の意見を殺して他に合わせようとして苦しくなって、なおかつconnectしよう、contributeしようとするから、さらに疲れてしまうんですよね。

石川:この話、本当に面白いですよね。いつまででもできる。でも、そろそろ「アナロジー」の話につなぎ戻した方がいいのでは?(笑)

ここから、いよいよ今回のテーマ「アナロジー」の根幹に迫る。

あらためて「アナロジー」は何に役に立つのか?

入山:ではあらためて「アナロジー」がなぜ大事なのかを整理してみましょう。世界の経営学では、3つくらいの視点で語られているというのが私の理解です。

1つ目は、戦略的に物事を考えたり意思決定をしたりする時に、他の業界を見て、それを高いレベルで類推して、本質のメカニズムを見抜くことで自分たちに当てはめること。

2つ目は、これは野中郁次郎先生の「知識創造性理論」で言われたり、まさにIDEOがやっていたりすることですが、抽象化することで「これはうちの製品にも使える」というアイデアを見つけてクリエイティビティにつなげることです。

3つ目は、他人に何かを説明する時にアナロジーを使うというもの。海外の経営学では話す時のメタファーの重要性がよく研究されています。私はこれを「イメージ型の言葉」と呼んでいるのですが、同じことを表現するのでも、例えば「頑張れ」と言うより「汗をかけ」、「本質にある」と言うよりも「根っこにある」と言った方がいいというようなことがあり、優れた経営者は実際にそうやって言葉を置き換えるということをしているのです。

島田:よくわかります。言語学で「クリーンランゲージ」と言われるものとすごく近いですね。物事にはまず「概念」というレベルがあり、次に「感情」というレベル、そして「メタファー」のレベルがある。例えば自分が怒っていることを表現するのに、「怒っている」というのは概念のレベル、「カチンときた」というのは感情、「カレーがグツグツ煮えたぎるみたい」というのはメタファーのレベルです。概念、感情、メタファーの順番に進むにつれて本質に近づいていくと言われます。

コーチングする相手がメタファーを使って話している時は、その人の中にある本質的なものが出ている証です。逆に頭で考えて説明している時は、概念の言葉が多くなります。だからコーチングをする際には、相手がどんな表現を使っているかをよく見るんです。

入山:野中先生の「知識創造理論」でもそれに通じることが書かれています。人がコミュニケートして知識を創造する時には順番があるそうなんです。まず普通の概念では伝わらない暗黙知同士のコミュニケーションがあり、そこから一度、暗黙知を形式化するのです。実際のビジネスというのは言葉を合わせることなので、一旦マニュアルのようにして形式知にする必要があります。それを行動に移した後に、もう一度暗黙知に戻してやるのですが、その過程できっとアナロジーが重要になるんです。思うに、日本では概念の話はよくするんですが、感情やメタファーといった暗黙知の部分が足りていない気がします。

島田:概念とメタファーを行ったり来たりすることが大事だということですよね。入山先生が先ほど自我の話を紹介してくれましたけど、あの表層と深層というのは、意識と無意識と表現できるとも思うんです。その人が自分で自分だと思っているのは意識下の自分だけれども、実はその下に無意識の自分も広がっています。アイデアを生む「直感」や「ひらめき」と言っているものは、無意識からのサインなんじゃないかと。先ほどの話に照らせば、それは他の人ともつながっている。

石川:われわれが使っている「Insight」という言葉も、まさにそのことを指しています。1996年に日本に最初のIDEO Japanを立ち上げたのは深澤直人さんですが、彼がデザインで使っている言葉は2つしかない。それは「意識の中心を探す」と「行為に相即する」。これはどちらももともと仏語なんですね。

人間には「意識の中心」というものが共通してあって、それを発掘して、いかにデザインやものづくりに生かすか、ということをやっていらっしゃるんです。「行為に相即する」というのは、箒と掃除機の違いをイメージしてもらうとわかりやすいと思います。お坊さんは箒で掃除をしますが、あれはお箸などと一緒で、手の延長なんですね。だから無意識下、ほとんどトランス状態で扱うことができるんです。これは箒にはできても掃除機にはできない。でも、本質的に道具というものは無意識下で苦もなく使えるものであるべきなので、たとえ掃除機であっても、行為に相即して、意識の中心につながってデザインされたものでなければならないということです。

ビジネスにおける「アナロジー」の重要性は証明できたとしても、それを学ぶ方法はまだ説明できていない。もしかしたら科学とは少し離れたところから、それこそ類推する必要があるのかもしれない。

どうすれば「アナロジー」を身につけられるか

入山:じゃあどうすれば「アナロジー」を身につけられるのかという話ですが、欧米の認知科学ではまだ説明できていないんです。認知心理学の研究者はいろいろとアナロジーの重要性を指摘していますが、実際どうすればいいかは何も書いていません。

アントレプレナーシップにおいていちばん重要なのは事業機会を発見することです。ただこのことに関しては、経営学者の間でも論争があります。事業機会と自分とは離れたところにあり、それが技術的なショックで浮かび上がった時に、それを分析してアイデンティフィケーションするものだというのが、「Opportunity Discovery」の考え方。一方でそうではなく、事業環境の中に自ら飛び込み、最初は事業機会などわからないままに試行錯誤を続けていると事業化ができていた、そのことに後から気づくというのが「Opportunity Creation」の考え方です。

これはどちらが正しいということではないのですが、日本にいま足りないのはCreationの方だと感じます。Discoveryの方は論理ですから、経営学の理論などで一応説明できるんです。でも先ほども言ったように、Creationの方はどうすればいいかを説明することができないんですよね。僕のやっているビジネススクールでも、理論は教えられても、直感なんて教えられない。だから内心ヤバイなと思っているんです(笑)。

島田:そういう意味でひとつできることがあるとすれば、「マインドフルネス」ですよね。マインドフルネスというのはまさに無意識の自分のところへ行きやすくするツールです。最近マインドフルネスということが盛んに言われ始めているというのは、みんながそれに気付き始めているということなんでしょう。すごい時代の変化なのだなと感じます。

同様に、NLP(神経言語プログラミング)コーチングでは「キャリブレーション」というものを重視します。キャリブレーションというのは、漢字で表すなら「聴」ということです。「聴」というのは読んで字のごとく、耳と目と心を使って「聴く」ということです。「聞く」ではない。だから相手が発する言葉だけではなくて、体は前向きになっているのかどうか、足が震えているのかどうか、そうしたことを全部見て、心も通わせるんです。言い換えればこれは観察です。表情、目の輝き、呼吸のペースまで見てやる。それをもっとみんなができるようになるとすごいことになるだろうと思います。

石川:IDEOでも観察は大切にしています。ディスカッションする時って実は内容自体はそんなに大したものではないんです。それよりも会話をすること自体が大事。その時に相手の視線や表情などを観察して、本当はどう思っているのかを主観的に読み解くんです。

今回選んだ会場は、Yahoo!JAPANのコワーキングスペース「LODGE」。当日は、スイスのデザイン家具メーカーVitraとのコラボレーションにより、もっと交流の生まれやすい場所にすることを目指した「ジッケンオフィス」という特別なインテリアの中で行われた。

Don't think! Feel (考えるな! 感じろ)

入山:そういう力って教えられるものなんですか?

島田:私は教えられると思っています。でも、それには前提として、教える側の人がどこまでそれを体現できているかという問題がありますよね。さきほどの藤田一照さんのようなお坊さんは、やはりその域に達しているのだろうと思います。私はまだまだですが、それでもNLPをやるようになって4年、自分の中にあるものをすごくクレンジング(洗い流すこと)してきたように感じます。自分の中にこんなわだかまりがあったのかとか、こんな見方をしていたのかとショックを受けることもあったし、何回大泣きしたかわからないくらい。

だから、教えられると言っても勘違いしてはいけないのは、これはテクニックではなくて、あり方の話なんですよ。私がよくいうのは、人間というのはhuman beingであって、doingではないと。「be」、つまり「ここにいる」とか「ここにある」。その「be」を感じていますか? ということなんです。やることがいっぱいありすぎちゃってついつい意識が外に向いちゃうけれども、それを自分に向けた時にどういうあり方をしているのか。だからまたマインドフルネスとかにつながってくるんです。ストラクチャル・ホールにいる人というのは、この「あり方」がわかっているんでしょうね。

入山:僕はこういう仕事をしているくらいだから当然、海外の経営学は嫌いではないんですけど、どうしてもdoing系の発想になるんですよね。だからアナロジーが大事だというのはわかるけれども、そこで小手先のテクニックに走りがちなんです。藤田さんがよく言うのは、アメリカ人にマインドフルネスを伝えようとすると、「頑張ったけどできません!どうすればいいですか?」というdoing志向だと。その時点で絶対にできないと藤田さんは笑います。マインドフルネスはそうじゃない。「やろう!」と思ったら絶対にできないんですよね。

島田:だからもう、thinkじゃなくてfeel、ありのままを感じるということなんですよね。

入山:この前、ネットワーク科学研究者の佐山弘樹さんという方と鼎談したんですが、その時に言われたのが、世界的にいま問題なのが、ありのままに受け入れるという発想がないということだと。小学校に入った瞬間「国語・算数・理科・社会」と世界を分けて考えてしまっている。その時点でダメなんだと。分けないでありのままを受け止めようとすれば、実は全部つながっているのにと言うんです。

島田:その通りですよね。その点で言えば、北欧やオランダの教育からは日本が取り入れるべき要素がたくさんあると思います。あっちの学校なり幼稚園へ行くと、みんなやりたいことをやる。「私は今日はこれをやる」と決めたら、それでいい。日本の現状の教育のように、できる・できないになると、二元論になってしまう。そうではなくて、ありのままでいい。好きなことをして、自分がもともと持っている力を出せるというところを勝手に見つけていくのが本来のあり方なのだと思います。

入山:それはアナロジーにもつながりますよね。われわれはどうしても分けてしまうからダメ。さっきから言っているように、もともとつながっていると思えば......。

石川:そういう意味では、デザインやアートの教育も変えていきたいですね。これがクリエイティブで、こっちはクリエイティブじゃない、みたいな変なものを植え付けるのだけはやめてほしい。クリエイティブとは絵が描ける描けないではありません。新しい価値を人間生活を中心に発想する力です。もちろん、最終的には美しさを判断できる目利きと共に創り上げることは不可欠ですが、本来は発想する力のことです。そして、クリエイティビティは本来、誰にだってあるものなんで。

どうも、大人になると知識量〈think〉を重要視する傾向があって、それに反比例して、自分で発想する勇気〈feel〉が減る図式にあるように思います。もちろん、すでにやり方のわかっている仕事については知識は大いに役に立つんですけど、ゼロから立ち上げて新しいものを作るとなると、感じる力を使わないといけないんですよね。

ビジネスの世界では客観的な意見ばかり求められますが、insightは主観(同時に未来でもあり得るし、根底では客観同士が繋がった点)なので、ビジネスクリエイションは自分の中にあるはずなんです。その点、子供はもともと感じるままに生きているから、その状態をどう潰さずに伸ばしていくかという教育を考えるべきですね。

島田:まとめると、〈think〉は〈think)で大事だけれど、そっちに頼りすぎるあまりに〈feel〉をなくすなということですね。

石川:そうそう、いまこそブルース・リーの映画をみんな観た方がいいってことですよ。「Don't think! Feel」って言っていた人なんで、結構ビジネスにも通じるところあると思いますよ。

3人の会話はほとんど途切れることなく、予定の90分を超えた。途中、余談で話した「前世」や「記号」といったテーマで、また改めて話しましょうと言って、この日はお開きとなった。