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BUSINESS INSIGHTS

鈴木おさむの小説『名刺ゲーム』がドラマ化──「いつの時代も売れるやつは出会いを求め、努力を惜しまない」

遅咲きのテレビ局員を主人公に、業界の裏側を描いたエンタメ小説『名刺ゲーム』がドラマ化され、12月2日(土)からWOWOWで放送される。BNLは鈴木おさむの単独インタビューを敢行。長年、多くの芸能人やテレビ局員と接してきた彼が語る、頭角を現す人物の特長とは。

鈴木おさむはテレビを知り尽くしている。テレビが全身全霊でみんなを楽しませようとしていることも、その明るさの陰で人知れず涙していることも。

放送作家としてデビューしたのは19歳の時だ。1990年代初頭、都内の大学に通う学生だった。以来、テレビバラエティー黄金時代と歩調を合わせるように数々の人気番組を手がけてきた。

一方で鈴木は、小説やドラマ・映画の脚本を執筆する「作家」としての顔も持つ。初めてテレビドラマの脚本を手がけたのは30歳の時。以来、「物語を生み出す」ことを大切にしてきた。

そんな彼が、自らが知り尽くすテレビの世界を舞台に書き上げた小説が『名刺ゲーム』(2014年)だ。テレビ番組の制作には大勢のスタッフが関わる。放送作家は担当する番組の企画会議に参加するが、1日のうちに8〜10の会議をこなすこともざらだ。番組ごとにスタッフが違うから、1日に100人以上に会うことも珍しくない。無数の名刺が交換される。中には二度と顧みられることのない名刺もあるだろう──。「名刺」をモチーフにしたストーリーというアイデアは、そんな日々の中で着想したものだ。テレビ局のプロデューサーが主人公のサスペンスだが、名刺の向こうに隠された人間ドラマには、働く人間なら誰もがぐっとくること請け合いだ。

この小説を原作とした「連続ドラマW 名刺ゲーム」は、12月2日(土)からWOWOWで放送される。「名刺」という共通するテーマのご縁で、BNLの単独インタビューが実現。さらに、抽選でEightユーザー限定5名様に、鈴木おさむサイン入り原作本をプレゼント! (詳細は文末にて)

「連続ドラマW 名刺ゲーム」予告編/堤真一(神田達也役)、岡田将生(謎の男X役)、鈴木おさむ(原作者)/12月2日(土)スタート/毎週土曜よる10:00(全4話)/第1話無料放送 作品HP:http://www.wowow.co.jp/dramaw/meishi/

名刺交換の瞬間にすでにパワーバランスが発生している

──「名刺」をモチーフにして作品を書こうと思ったきっかけを教えてください。

昔、ある人に「名刺を置いていかれる」という経験をしたことがあるんです。僕も含めた若手の放送作家が何人かいたんですが、その人が立ち去ったあと、机の上に僕たちの名刺が残されていた。「悔しいけど、こういうことはあるから」とチーフ作家に言われたことを、いまも覚えています。

それ以降、「名刺だけでもインパクトを与えたい」と思ってふざけた名刺を作ったりしていたんですが、仕事を続けるうちに自分のほうがたくさんの名刺をもらう立場になってきた。実は、僕、人の名前を覚えるのが苦手なんです。それでも全員の名前を覚えようと努力していたんですが、とにかく日々たくさんの人と会うから、追いつかない。いかに相手の名前を呼ばずにその場を切り抜けるか、なんてことを考えていました。

そんな時にバラエティーの企画として「名刺ゲーム」を思いついたんです。解答者がいて、その人の上司や取引先の人など過去に名刺交換をした人に実際に来てもらい、名刺の正しい持ち主を当ててくださいというクイズを出したら、きっとほとんどの人がわからないだろうなって。

──確かにわからないかもしれないと思います。わからなかったら相当気まずいだろうとも。

人と人とが初めて会って名刺を交換する時、そのバランスはイコールではないと思うんです。例えば、社会的にものすごく偉い人や、自分が会いたくてたまらなかった人に会うことができたとしますよね。その時に自分はもう、ものすごく気持ちを込めて名刺を渡すわけですが、もらう側からしたらそんなの知ったことじゃない。そこにおいてすでにパワーバランスがあって、勝ち負けが発生している。それが面白いと思うんです。

もちろん、もらった名刺を置いて帰ってしまうのは仕事のできない人だと思いますよ。人の心を傷つけるし、そもそも注意力も緊張感も足りない。だけど仕事である以上、自分はそんなつもりがなくても、相手を傷つけたり、怒らせたりすることはあると思うんです。

例えば、僕は8年間欠かさず毎日ブログを書いているんですが、たまにインターネット上でエゴサーチをするんですね。そうすると誰かはわからないけどおそらく僕とどこかで仕事をした人が、別の人に、僕の悪口を言っているのを目にしたりするんです。「あいつ、適当に何か書いて、しゃべるだけだよ」みたいな。

──それは、誤解とすれ違いがあるような気がします。

でも、その人がそう感じたのは事実だろうし、僕にいい思いを抱いていないのは本当だろうとも思う。それって仕方のないことで。

ある人が「あいつはいいよな、楽して」と思うのも、思われた人が「俺だってリスクをとっているんだ」と思うのも、どちらも正義で、どちらも間違っていない。間違っていないんだけど、そこに憎悪や恨みがどうしたって生じるんだなということを感じるんです。

「名刺ゲーム」のアイデアはバラエティー番組の企画としては実現しなかったが、のちに「The Name」という舞台作品を経て、『名刺ゲーム』という小説になった。

──放送作家としてさまざまな人たちと仕事をしてきたことが、小説や脚本の執筆にも活かされていますか。

もちろんです。専業の小説家や脚本家がいる中で、やはり「放送作家にしか作れないもの」というこだわりはあります。

「放送作家」も「作家」ですが「放送」とついているせいでいかがわしいと思われるみたいで。その名前が嫌で捨てて行く人もいるんですが、僕はそのインチキくささが面白くて。

執筆は裏切らないです。なぜならひとりでやるから。誰かが演じてくれたり、演出してくれたりするわけではない。たったひとりで物語を書き上げるのは一番しんどいことだと思うんですが、一番しんどいと思う部分を自分でやっていないと、「インチキくさい」ではなく「インチキ」になってしまう気がするから。その分、シビアですよ。批判も賞賛もすべて作家自身に跳ね返ってきますから。

鈴木は、放送作家として数々のテレビ番組の企画・構成を手がけながら、小説や、映画や舞台の脚本など自ら執筆することを大事にしている。

人生の舵は、思い切って切らないと変わらない

──鈴木さんは、どんな人だったら「この人に会いたい」「会ってよかった」と思いますか。

最近は若くてやる気のある人に会いたいですね。実際、今年は新しい出会いがたくさんあったんです。特に、YouTube向けのプロダクションであるUUUMとの出会いが大きかったですね。テレビの人たちにはYouTubeを下に見る人がいますが、HIKAKINに限らずいろんな若い人たちが自分で考えた企画の動画をバンバンアップしていて、これは本当にすごいことになっているなと思った。それで僕のほうからアプローチしていたら、UUUMの人と会うことになって。

最近月1回ペースで夜ごはんを食べに行くんですが、そこに必ずひとりはYouTuberを連れてきてくれるんですよ。テレビのタレントさんとYouTuberって、近くて遠いじゃないですか。すごく面白いなと思いますよね。

──テレビと感覚は違いますか。

いや、変わらないです。そして、やはりすごく努力をしています、みんな。売れているやつは寝てないし、やる気のある人は時間を惜しんでコンテンツ動画を編集しているし。「ああ、変わってないな」と思いました。若くても頭角を現す人はどの分野でも似ていると思います。

やはり自分で行動しないと新しい出会いは作れない。出会いばかりを求めていくのがいいかどうかもありますが、少なくとも、何かを作るために新しい環境が必要だと思ったら、自分で動かなければいけないというのは間違いない。

僕は学生時代に放送作家の仕事を始めて、コンスタントに収入があるようになったら大学をやめようと思っていました。細かい仕事もたくさんやって2年ぐらいで新卒の給料以上稼げるようになったので、退学届を出しに行ったんです。教務課の受付みたいなところに行くんですが、何枚か書類を提出して、ポンとはんこを押されて、「お疲れ様でした」と言われて、終わり。その時に僕は、びっくりしたんです。高校までだったら生徒が退学しようとしたら留めるじゃないですか。ああ、大学はビジネスなんだなって。

その時に気づいたのは、「世の中、誰も自分に興味がないんだ」ということです。それはそうですよね。今思えば当たり前なんですが、その時の僕はそう思った。手続きを終えて、キャンパスを歩いて校門から出ていくまでのストロークをすごく覚えています。でも、誰も俺のことなんて興味はないけれど、その中でもこの仕事を2年やって、30万稼げるくらいにはなって、新しい仲間もいる。何もないところから自分で手に入れた世界だと思ったら、自分に自信が持てたんです。

そういう気持ちになったのは、その時と、結婚した時ですね。

鈴木は2002年、30歳の時、お笑いトリオ・森三中の大島美幸さんと交際0日で結婚。新婚生活を赤裸々に綴ったエッセイ『ブスの瞳に恋してる』はベストセラーになり、テレビドラマにもなった。2014年から美幸さんは妊活のため芸人活動を休業。2015年に第一子が誕生した時、鈴木は「父勉」として1年間放送作家業を休業した。

僕は「交際0日」で結婚したんですが、自分の人生の舵は意図的に、思い切って切らないと変わらないとすごく思っています。

奥さんが強い意志を持って妊活をすると決め、芸人を休業すると決めた時も、自分もそれに応えなければいけないと思った。それで子どもが生まれた後、放送作家業を休みました。放送作家って毎日会議出ることが仕事のようなもの。休んだことによってなくなった仕事も少なくありません。でもやはり、43歳でそういう決断をしたことであらためてテレビと向き合うこともできたし、育休を経験したことで「僕の話を聞きたい」と講演に呼んでいただくようになったりもした。勇気をもって何かを捨てた時に、そこからまた芽が出て、枝が伸びていく。そういうことは意識しています。「なんとなく捨てる」ではダメなんです。意思を持って捨てないと。

人付き合いでも、日本人は友だちや仲間が変わることを嫌うでしょう? だけど僕は、変わっていいと思うんですよ。毎日つるまなくたって友だちでなくなるわけじゃない。ただ、いまの自分にとって誰と一緒にいるのが心地いいのか。そこが変わることを怖がらないことは、けっこう大事なんじゃないかなと思います。

変わる時に、手を抜いてはダメ。新しい才能と積極的に出会い、何事も人任せにしないことがポイントだという。

自分でやる、若くてやる気あるやつとやる

──いまテレビ業界は変革期だと言われています。そういう時だからこそ新しい出会いを求めるということはありますか。

それは僕の場合、UUUMの人たちとの出会いもそうですが、もう数年前から他ジャンルの人たちとの出会いがあるんです。ありがたいことに。

その時のポイントは、ゼロからイチを発想する部分は必ず自分でやることです。人に振ったりはしない。だからしんどいですよ。だけどテレビじゃないところでオファーをいただいた時こそ、思い切りやってみたいと思う。

そういった新しいこと、自分のやりたいことを実現する段になったら、一緒にテレビを作ってきた人を誘うのが一番簡単なんですが、そうじゃなくて、若くてやる気のある人とやりたいんです。

以前に一度堀江(貴文)さんのサロンにお邪魔したことがあるんですが、やはりそこに集まる人たちはすごくやる気がある。そして堀江さんも彼らがぶつけてくるアイデアにちゃんと添削してマメに返してあげている。それはものすごくパワーのいることです。僕はサロンを運営することにはまったく関心がなかったんですが、勘違いしていたと思いました。あれは、「能力と出合う場所」を作ることだったんだと。若い人たちが集まるようなサロンをやっている放送作家はいませんから、ちょっとやってみたいなと思っています。

最近、自分が30代に手がけた番組を見て育ってきた20代がいることに気づいたんですよね。それに、若くてやる気のあるやつらとやったほうがどう考えたって面白いでしょう? そこからチャンスにつながればいい。自分は放送作家としてある程度知名度がある。名前があるからこそ貶(けな)されることもありますが、逆に利用することもできる。

──名前なり、「名刺」なりを。

そうです。どう利用するかだと思うんです。お互いがハッピーになるようなやり方で。やるとなったら、気合い入れてやりますよ。