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CAREER STORIES

あなたの会社は「エンゲージメント」できていますか? 顧客接点をもつ全ての人へ。マルケト福田康隆が問う

いまだに認知や新規売上を上げるだけのマーケティングをしていませんか? マーケターに最適なAIソリューションを提供するマルケトの福田康隆は、本格的な変革が始まろうとしている今こそコンフォートゾーンを飛び出し、デジタルマーケティング領域への挑戦を薦める。

先日BNLで紹介したインスタグラムなどのSNSにハッシュタグ付きで共有した写真をプリントできるサービス「#SnSnap」がさまざまな大手企業に導入されているというのは、それが企業と顧客との長期的な接点、すなわち「エンゲージメント」をつくるのに有効だからだ。ビジネスの現場でこの「エンゲージメント」という言葉を聞く機会が日に日に増えている。

「顧客とのエンゲージメント」をテーマにした国内最大級のマーケティングイベント「THE MARKETING NATION SUMMIT 2017」が米国では今年4月に、日本では10月13日に開催された。

なぜいま「エンゲージメント」が重要なのか。こうした時代において、企業やそこで働く個人はどのようにあり方を改めるべきなのか。日本市場進出の実績が評価され、10月にマルケト日本法人の代表取締役社長から、アジア太平洋・日本地域担当プレジデントに昇格した福田康隆に訊いた。

顧客のライフサイクル全体に目を配ること

──日米で開催された「THE MARKETING NATION SUMMIT 2017」のテーマとして「エンゲージメントエコノミー」というキーワードを使われていましたが、エンゲージメント、そしてエンゲージメントエコノミーとはどういうことでしょうか?

エンゲージメントとは何かと言えば、それは顧客と長期的な関係を築くことです。これまでのマーケティングの役割は、認知を上げることや営業支援を行うイメージだったかと思います。しかし、SNSやスマホの台頭などテクノロジーの急速な進化により、顧客の購買行動は変わり、企業と顧客をつなぐマーケティングの責務と役割は益々拡大し、深化を遂げています。いまはそれに加えて、いかに顧客になってもらうかとか、実際に顧客になってもらった後にいかに顧客に近づき、顧客のことを深く理解し、その人に合った形でコミュニケーションを取ることで顧客生涯価値を最大化するかということが重要になってきています。

これまでのように一部だけを見るのではなく、顧客のライフサイクル全体に目を配ることの重要性が増し、顧客データの活用が進み、顧客一人ひとりにあったタイミングやチャネルで最適な顧客体験の提供がされ、1to1のコミュニケーションが図られます。そうした時代の訪れを指して、われわれはエンゲージメントエコノミーと呼んでいます。

──そういう時代が到来したのには、どんな背景があるのですか?

やはりテクノロジーの進化が大きいでしょう。ある製品を買うという意思決定の3分の2は、いまやオンラインで完結しているという統計結果があります。これまでであれば実店舗に来店したり、営業担当者と面談したりして情報収集していたところを、オンラインで済ませるようになってきているということです。そのため、オンラインでの顧客の行動を理解することは以前より大切になってきています。

カスタマーのライフサイクルには、「匿名→見込み客→顧客→ロイヤルカスタマー」という一連の流れがあります。これまでのデジタルマーケティングでも、こうした顧客の行動の一つひとつを捉えてはいたのですが、すべてバラバラのものとして扱われていました。例えば、Googleアナリティクスが扱うのはあくまでセッションであり、ある人がPCでアクセスしたのとモバイルでアクセスしたのとでは、別人として認識されていました。

デジタル情報の流通量が増え、ひとりの人間としての輪郭を浮かび上がらせることが可能になりました。

しかし、デジタルな情報の流通量が増えてきたことにより、いまやそれらすべてを統合して、ひとりの人間としての輪郭を浮かび上がらせることが可能になりました。この変化が非常に大きなポイントです。「Marketo」では、こうしたオンラインの行動に加えて、ダイレクトメールへの反応や営業マンとのやりとり、コールセンターへの問い合わせ内容などのオフラインの情報もすべて統合して扱います。その結果、顧客がどのチャネルからアクセスしたとしても、常に一貫したメッセージを伝えることが可能になったのです。

──「顧客のライフサイクル全体に目を配ること」が突然重要になったというより、テクノロジーの進展により、ようやくそれが可能になったということでしょうか?

その通りです。人間と人間の関係というのは本来、相手の様子を見ながら、それに合った情報をやり取りするようなものであるはずです。例えば、一度会話をしたことがある相手なら、次の機会にはその時の会話を前提にして始まる、というように。そういう当たり前のコミュニケーションというのは、人間同士であればできるのですが、問題は相手にする対象が100人、1000人、10000人と増えた時に同じことができるかどうかという点にあります。かつてはそれができなかったのですが、テクノロジーの恩恵で不可能ではない時代になりました。街の八百屋さんで行われていたようなコミュニケーションが、100人、1000人に対してもできる世界になったということです。

マーケターは「考える」仕事に専念せよ

Marketoのようなエンゲージメントプラットフォームを使うメリットは他にもあります。これまでであれば、ある人にメールを送るという単純な作業の裏側には、さまざまなシステムからデータを集め、それを配信ソフトに渡すという煩雑な作業がありましたが、そのような煩雑さはなくなります。もちろん自動化したからといって、そうした打ち手が常に正しいとは限りませんが、テクノロジーの時代のいい点は、仮説検証を高速で繰り返すことができることにあります。

いまであれば「大きな賭け」をする代わりに「小さな改善」のサイクルを素早く回すことで"正解"に近づくことができる。

これまでのマーケティングの世界では、「多分こうなるはずだ」という仮説は立てても、それを検証する方法がありませんでした。それゆえに、多額の予算と時間をかけて毎回「大きな賭け」をせざるを得なかったのです。しかし、いまであれば「大きな賭け」をする代わりに「小さな改善」のサイクルを素早く回すことで"正解"に近づくことができる。これもエンゲージメントプラットフォームを利用することの大きなメリットと言えるでしょう。

──そうやって自動化、効率化が進むと、マーケターの仕事はいずれなくなってしまわないのですか?

そんなことはまったくありません。ここ数年でマーケティングソリューションのサービスを提供する会社は急激に増えてきていて、2011年に150程度だったものが、17年には5000近いベンダーがいると言われています。まさにカオスマップと言える状況にあるのが、デジタルマーケティングの世界です。

そこにはMarketoのようなサービス以外にも、予算管理やデータベース、ソーシャルリスニング、広告配信、コンテンツ作成など、さまざまなジャンルがあります。ユーザー各企業は、いくつものサービスを組み合わせて、自社の状況やニーズに合わせて活用していくことが求められているのです。ここに、これからのマーケターの役割があると言えるでしょう。

──つまり、マーケターという仕事はなくならないけれども、求められるスキルや考え方は変わってくるということですか?

そう思います。これは、かつて企業のIT部門に起こった変革に近いのではないでしょうか。IT部門というのは、ひと昔前まではバックアップやリカバリなど、システムそのものを動かすことにかなりの時間が取られていた時代がありました。本来であれば、どういうシステムを構築して、それをどうやって価値に変えていくかを「考える」ことこそが重要なのに、そのことに時間が使えなかったのです。

これまでは肝心の「どういう顧客にどういうメッセージングをするのか」といったクリエイティブな仕事に使える時間が少なかった。

マーケティングにも同じことが言えるでしょう。これまではセミナーの管理や集計ごと、メール配信のリスト作りなどの管理作業に時間を取られて、肝心の「どういう顧客にどういうメッセージを伝え、コミュニケーションを図っていくのか」といったクリエイティブな仕事に使える時間が少なかった。これからはそういった仕事はツールに任せ、マーケターはイノベーティブな「考える」仕事に集中できるようになるということです。

マーケティングは顧客接点全体を統括していく役割に

──一方で、企業や組織のあり方はどのように変わる必要がありますか?

これまでは同じ顧客に対して、広報、宣伝、マーケティング、営業、カスタマーサポートなど、異なる部署が接していたけれど、これからは変えていくべき。

これまでは広報、宣伝、マーケティング、営業、カスタマーサポートなど、縦割りで組織が構成されていることが多かったように思います。でも考えてみれば、それぞれの部署が接するのは同じひとりの顧客です。簡単に言えば、最初に申し上げた「匿名→見込み役→顧客→ロイヤルカスタマー」というライフサイクルの、どの段階で接するかの違いでしかなかったのです。このように分断されたままでは、エンゲージメントエコノミーの時代に最も大切な「ライフサイクル全体で捉える」ということが失われてしまうことになります。顧客のことを第一に考えるのであれば、フェーズによってインターフェースが変わるという、こうした状況は変えていくべきではないでしょうか。

こうした問題に対して、グローバルの各企業はどのような解決策を講じているのか、マルケトでは以前、イギリスとフランスとドイツでリサーチを行いました。そこで最も多かった回答は、「マーケティング部門は今後、顧客接点全体の統括をしていく役割に変わっていくだろう」というものでした。

──そう考えると、これまではマーケターではない職種だった人が、今後はマーケティング部門で活躍するということもありえますか?

そう思います。企業を見ていて感じるのは、組織のあり方のみならず、求められるマインドセットも変わってきているということです。この点においても、IT部門でかつて起きた変革と非常に似ていると感じます。かつてのITの開発というのはいわゆるウオーターフォール型で、最初に要件定義があり、その通りに実行していくという仕事の進め方でした。

マーケティングの世界もまた、ある程度じっくりと時間をかけて議論し、大きな予算を投入し、当たるかどうかわからない「大きな賭け」をするのが"常識"だったというのは、先ほどもお話しした通りです。しかし、これからは小さな実験からスタートし、結果を見て改善する、そのサイクルをどんどん高速で回すことが求められます。これはまさにIT開発におけるアジャイルそのものと言えますよね?

仕事の進め方やマインドセットをこのように大きく変える必要があるという意味では、必ずしもマーケティングだけをやっていた人が活躍するとは限らないでしょう。

──現状、企業の中でそうした組織、意識の改革はどの程度進んでいるのでしょうか?

本格的な変革はこれからというのが正直なところではないでしょうか。もちろんその重要性に気付いている企業はたくさんあります。少なくない企業がデジタルマーケティング部門やカスタマーエクスペリエンスの専任部隊をつくっているのは、その表れでしょう。けれども、どういう人材、どういうテクノロジー、どういう仕事の進め方がいいかというのは、まさにいま各社が模索している部分です。だからこそ、企業としても個人としても大きな可能性がありますし、デジタルマーケティング領域で働くことの大きな魅力のひとつだと個人的には感じています。

変化の大きさを楽しめる人にこそ向いている

──福田さん自身のことも聞きたいのですが、マルケト日本法人の代表になるまでにどんなキャリアを歩んできたのでしょうか?

私はマーケティングというより、ずっとIT分野を歩んできました。新卒でオラクルに入り、ERPのエンジニアとしてキャリアをスタートしました。その後、アメリカに転勤になって在米日系企業の営業サポートに。2004年にセールスフォースのアメリカ本社に転職し、CRMの販売などを担当した後、14年に株式会社マルケトの代表に就任しました。

──なぜマルケトに?

テクノロジー業界にいて感じていたのは、10年に1度くらいの頻度で業界全体を揺るがす大きな変化が起こるということです。これはまだ私が社会人になる前の話ですが、メインフレームからクライアントサーバへという移行がありましたし、インターネットの登場もそうです。そのことによって、あらゆるものが激変することを経験しました。世の中にはさまざまな業界がありますが、10年単位でここまでドラスティックに変わる業界は他にないでしょう。そうした環境を私はすごく面白いと感じていました。こうした観点から見て、ここ数年で最も面白いと思えたのが、このデジタルマーケティングの世界でした。先ほども紹介したように、この業界はいまカオスマップと言える状況にあり、それだけ変化の可能性があるということですから。

──ゼロからの立ち上げという点については、どう感じていたのですか?

すでに動いている会社に入るよりも、最初から携わってカルチャーの根幹をつくれるのは、転職する上で大きな動機になりました。カルチャーというのは、すなわちそこで働く人であると思っています。そういう意味では、最初期にどういう人を採用するかというのが非常に重要でした。

世の中に優秀な人はたくさんいても、大きく分けると2パターンに集約できると思っています。

これまでさまざまな環境で働いてきた経験から、世の中に優秀な人はたくさんいても、大きく分けると2パターンに集約できると思っています。「人に任せるより自分がやった方が早いと考えるタイプ」と「この人と一緒に仕事がしたいと思わせるタイプ」です。私は、どんなに優秀だったとしても前者のタイプは採用しないことを貫いてきました。こういう人は自分の手が足りない時には非常に頼りになりますがスケールしないのです。逆に「この人と一緒に仕事がしたい」と思わせる人がいると雪だるま式に組織は大きくなります。両者の能力が同じ程度であっても数年後には5倍10倍の差になるのです。

コンフォートゾーンを飛び出すことの意味

──「この人と一緒に仕事がしたいと思わせるタイプ」をどう見極めるのですか?

やはり「謙虚さ」が最も重要ではないかと感じます。よく「残念な人」という表現が使われることがありますが、私は「能力のない人」という意味でこの言葉を使いません。真に「残念」な人は、「口では謙遜しつつも自分の能力を過信する人」ではないかと思っています。

──福田さん自身も謙虚であり続けることを意識してきたのですか?

20代の頃というのは、いま思うと反省ばかりです。能力を過信し、年齢が上の人に対しても「俺がやった方ができるのに、なぜ任せない?」という態度をとっていたと思います。エンジニアをやっていた頃は営業を理解できず、不満を持っていました。その後、自分で営業をやってみたことで、営業の人がいかにエンジニアからは見えない仕事をたくさんしていたかということに気付きました。

思うに、エンジニアと営業、日本とアメリカなど、キャリアの中で違う視点の仕事を繰り返したことで、それまでは見えなかったものが見えるようになり、そのことが謙虚さにつながった気がします。英語などは典型ですが、TOEICで高得点を取れたと言って自信をつけても、いざ海外で生活しようと思ったらまったく通用しない。それでも海外生活にだいぶ慣れてきたと思ったら、今度は仕事で使うのにはまた新たな壁があった。できればできるほどに難しさがわかってくるというのは、仕事も同じであるような気がします。その過程が大事なのではないでしょうか。

──逆に言えば、謙虚さを持ち続けられない人は安全な場所を飛び出してチャレンジしていないということになる?

私はもともと社長になりたいなんて思っていなかったし、5、6年前まではマネジメント側に回ることさえ嫌だと思うタイプでした。

そこまで世の中を一刀両断にはできないですが、コンフォートゾーンを出るというのはすごく大事なことだろうとは思います。私はもともと社長になりたいなんて思っていなかったし、5、6年前まではマネジメント側に回ることさえ嫌だと思うタイプでした。その私が迷いながらもマルケトの代表を引き受けたのは、ヴァージン・グループの創設者で会長を務めるリチャード・ブランソンの「You don't learn to walk by following rules. You learn by doing, and by falling over(ルールに従っても歩く方法は学べない。実践して、転ぶことで学ぶのだ)」という言葉に後押しされてのことでした。

外へ出て、壁にぶつかり、謙虚さを覚え、それを埋めるために成長する。「The journey is the reward(旅そのものが報酬である)」という言葉があります。ゴールよりも過程。これまでの経験を経て感じた、この気づきを大切にしていきたいですね。

──変化が大きいというデジタルマーケティングの世界は、壁にぶつかることも多そうですね。

まだ誰もトライしていない、正しいことが分からない領域にはリスクがあります。金融の世界で「リスク」と言ったら、それは上下どちらにも振れる要素が大きいという意味。この業界は、まさにその意味でリスクがあります。安定した市場であれば、企業の成長も個人のキャリアもある程度イメージできるでしょう。けれどもデジタルマーケティングの世界は、3年後にとんでもない失敗があるかもしれないし、とてつもない成功が待っているかもしれない。そういうことを面白いと思える人であれば、年齢は関係なく、とても向いている業界だし、向いている会社だと思いますよ。