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BUSINESS INSIGHTS

「競争しない同僚」と発想豊かな仕事を──IDEO石川俊祐に学ぶ、クリエイティブなチームのつくり方

IDEOのようなクリエイティブな発想ができるチームは、いかにしてつくれるのか。IDEO Tokyoの石川俊祐によると、各人が自身の強みを「クラフト」として磨き「ゴール・オリエンテッド(目的志向)」で活動することによって、会社のクリエイティビティは高められるという。

なぜ多くの企業が「IDEO(アイディオ)」に相談するのか。きっとそこには、少数ながら各々がユニークなスキルを備えた精鋭のメンバーが揃っていて、自社内では思いつかないようなクリエイティブなアイデアを提案してくれる。そう期待しているからではないだろうか。

例えば、明治の案件では、当初『チョコレートの新しいパッケージを考えてほしい』と依頼されたが、『チョコレートの体験自体を変える方法を考えたら面白くありませんか』と提案し、新製品の方向性を決定づけた。それをきっかけに会社全体の風向きが変わり、社内にチョコレートを食する体験を考えるチームが立ち上がったという。

ではIDEOのようなクリエイティブな発想ができるチームをつくりたければ、いったいどうすればいいのだろうか? IDEO Tokyoのデザイン・ディレクター、石川俊祐によると、各々が自分の強みを「クラフト」として認識してそれを磨き、「ゴール・オリエンテッド(目的志向)」で活動することが大切だという。詳しく話を聞いてみよう。

IDEOは、シリコンバレーに本社を置くデザインコンサルティングファーム。IDEO Tokyo チームは、デザイン思考/人間中心デザインというアプローチで、日本独特の感性を尊重しながら、グローバルな視点を融合させ、日本の組織の創造する力を支えている。

競争しない同僚、オーケストラのようなチーム

──石川さんの仕事内容について聞かせてください。

IDEO Tokyoでデザイン・ディレクターを担っています。プロジェクトのコンテンツ、クリエイションの方向性に深く関わったり、他のメンバーのガイドやメンター役になったりすることで、IDEOのアウトプットのクオリティーを担保するのが仕事の半分くらいを占めます。

あとは新しい「ポイント・オブ・ビュー(視点)」をつくること、そしてクライアントからの相談に対して世の中に大きなインパクトを与えられるような提案をクライアントと共に生むことが残りの25%ずつになります。

──新しい「ポイント・オブ・ビュー(視点)」をつくるとは具体的に何をするのですか?

例えば、日本文化の「おもてなし」をAIやオートメーションに実用化できないか模索しています。今後、AIやオートメーションで効率化が進みますが、その結果、人から仕事が取り上げられる未来を描くのではなく、むしろ人間に寄り添い、人をより成長させるような関係性を築くにはどうすればいいかを考えます。例えば、ドラえもんはのび太に問題の解決のツールを与えるだけでなく、叱ったり一緒に泣いたりすることで、のび太の人間性や能力を高める手助けをしますよね。そういう日本発信、かつグローバルにも影響を与えうる新しい「ポイント・オブ・ビュー」を考え出すのがぼくの仕事です。

──IDEOではクライアントごとにチームを組んでいると思いますが、チームや同僚について、何か特別な考え方はあるのでしょうか。

IDEOでは得意な分野がひとつやふたつあって、その上で他の分野にも真摯な興味があり、協力をためらわない志向性の人を雇っています。それがチームとしてひとつになった時の伸び代になると考えているのです。

IDEOの同僚は、どちらかというと友だちや家族のような存在です。会社というよりコミュニティーですね。組織という堅苦しい言い方はしません。緩やかな関係性を保ち、それによって毎日オフィスに来ることが楽しみになる。そういう環境になっていて、同じ目的に向けて力を合わせています。思考、波長、方向性、能力みたいなものをオーケストラのように調和できる環境が望ましいと考えています。

──石川さんは日本の大企業とIDEO、ある意味対極で働かれた経験がありますが、両者のチームや同僚に目立った違いはありますか?

日本企業では同僚は競争相手、すなわちライバルのような存在でもありました。ある分野での飛び抜けた能力よりも、与えられた問いを効率よくこなす能力が求められることが多く、向いていない仕事もとりあえずやらされてしまう。競争相手がたくさんいるのでコラボレーションよりも、自分が何か成し遂げた証をどう残していくかが大切でした。一方で、IDEOでは個人よりチーム単位で動くのであまり気にしなくなりましたね。自分にないものをもっている人たちでチームが構成されているため、そこで比較や競争をやろうと思ってもできないのです。

パナソニックで工業デザインに携わり、英大手デザイン・イノベーション・コンサルティング会社PDDではCreative Leadや日本のアカウント代表を務めた。2013年に日本へ帰国。IDEO Tokyoは立ち上げの時から参画している。

強みの分解、可視化のすすめ

──石川さんのユニークなキャリアから、人生100年時代のビジネスパーソンに向けて、何かアドバイスをいただけますか?

自分の得意とするスキルのようなものを、分かりやすくもっておくといいと思います。そしてプレイヤーであることを止めないことですね。「自分の得意分野が何か他の分野でも活用できるんじゃないか?」という問いかけを40代のうちから考えておいてもいいと思います。

──いまお話されていた「スキルのようなもの」について、もう少し詳しく聞かせてください。

IDEOでは「クラフト」と呼んでいます。例えば、仕事を獲得するために提案書をつくるクラフト、それをプレゼンして人に伝えるクラフト、オフィスの訪問者に応対するクラフト、これらはすべて人に属するスキルですが、IDEOではクラフトという呼び方をしています。

ビジネスパーソンの方々は、自分の強みをもっと分解して把握するといいと思います。テレビの設計を30年間続けていたから「わたしのクラフトはテレビの設計しかない」というわけではないのです。デザイナーの場合は就職するときにポートフォリオを作ります。それを持ち歩いて「自分はこういう強みがあって...」というのを分かりやすくビジュアルで相手に説明します。そのように自分のクラフトを一度可視化してみるといいと思います。マスターになるまで、クラフトはいつまでも磨き続けるものです。1回合格すればおしまいの資格とは異なります。

IDEOでは3ヶ月に1回「この3ヶ月間、どういう新しいクラフトにトライしたか?」「それをどう向上させたか?」をお互いにレビューして承認しあい、シェアしています。それによって本人が気づかなかったこと、頑張ったことを自覚させることができるのです。

クラフトは自分で学び実践を繰り返してマスターになるまで追究しつつ、それを継承もできます。やりながら人から人へと伝えて行く、そして得意なクラフトをもつ人たちのコミュニティーを会社の内外で繋いであげれば、より一層切磋琢磨できる環境がつくれます。

──いまのお話は、クリエイティブ業界以外のビジネスパーソンでも実践できることなのでしょうか?

IDEO創業者のデイヴィッド・ケリーは、「Creative Confidence」という言葉を使って、クリエイティビティは限られた人だけではなく、基本的に誰もがもっているものだと話します。自信をもって間違えを恐れず踏み出してみることが大切です。

さまざまなクラフトをもつ人々が交流すればうまくいくと感覚的には感じているのに、いまだに会社は優秀な社員ひとりに多くの負担を強いて無理しているように思えます。とはいえ、クライアント企業の方々のお話を伺っていると、ここ10年くらいで状況はドラスティックに変わりつつあるようです。社内に新しいプラットフォームやイノベーション・チームを創設するといった取り組みも増えています。どこかでこの新しいやり方での大きな成功体験が生まれるといいですね。日本では変わる時は一気に変わりますから。

いま多くの企業は、過去の成功体験が足かせとなり、変化を起こしにくくなっている。ただ、さまざまなクライアント企業と接するなかで、変化の兆しは見えつつあるという。

つながるコツは「ゴール・オリエンテッド(目的志向)」

──ところで、石川さんのクラフトといえばデザインになるのですか?

ぼくの場合は「インサイトを具現化・可視化すること」ですね。自分の目で見て掴んだインサイトを、プロダクト、サービス、または新規事業へ落とし込むこと。そして、それを実際に絵や立体に描き起こしてタンジブルな形で提供することです。描けることは便利なんです。ミーティングで議論になると対立しやすいけれど、絵だと「ちょっとここをこうすると」のように建設的な会話が生まれやすいですから。それから、正しい問いを見つけることや、目的やゴールを明確化することもぼくのクラフトですね。

──石川さんは自分のクラフトの領域と近い人と付き合うことが多いですか? それとも違う人たちと付き合うことが多いですか?

いろいろですね。近い人たちが多いかもしれないですが、自分にない、自分の得意でないクラフトをもった人たちとお互いに尊重しあっていきたいと考えています。

──違うクラフトの人たちともつながるコツは?

「ゴール・オリエンテッド(目的志向)」でしょうか。金融系出身でいまはベンチャーでファッションをやっている友人がいるんですが、彼はアフリカに雇用を生み出すという目的をもって仕事に取り組んでいます。バックグラウンドは全然違いますが、世の中にインパクトを与えて自分のクリエイティブな力を活かそうとしている点で気が合いますね。共感できる目的意識をもっている。地方創生でも、食の安全でも、分野が違えどそういう目的志向の人たちには共感できます。

目的をもってぶれずに進むというのは大切です。例えば、製品には企業の目的意識が明確に表れます。ノートパソコンのメーカーを見ても、性能が高くて安いのに、ビジョンや目的をもたないために共感されないことはよくあります。目的や意志が製品を通じて表れて来ないからワクワクされないんです。

そういえば来日しているティム・ブラウン(IDEO最高経営責任者)が面白いことを言っていました。「サンドウィッチをイメージしてみてください。上のパンが目的、下のパンがケイパビリティ(具体的な形にできるかどうか)、具材がコンテンツ。上のパンがなければサンドウィッチは崩れてしまって食べにくいでしょう」。最近は具材をつくることしか考えない人や企業が多い気がします。きちんとしたサンドイッチにしないと、やはり世界で食されるような共有のデザインにはなりえないかもしれない。

目的に共感してそこに投資する人が現れてくるようになれば、日本でも非常に良いサイクルが生まれると思います。お金をもっている人たちが「その事業で人間性にどんなインパクトを与えられるのか?」とか「その事業で日本がどう良くなるのか? 世界にどう影響を与えられるのか?」と積極的に聞くようになるといいですよね。

例えば、アップルは「人間性を進化させる」というビジョンをもっていて、そこから全て下りてきて世の中でいちばん進んだソフトやプロダクトを細部にまでこだわって実現しています。でも普通はどこかで崩れるんです。「まぁここはいいか」と手を抜いたり。そこまでいくとなかなか勝てる企業は出てこないでしょうね。目的志向をもって、とことんこだわる日本企業を育てるようなことをお手伝いしていきたいです。