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ビジネスネットワークの思想と哲学

時空を超える会議室:建築家・阿部仁史 × WOW田崎佑樹、企画展「Cloud of Thoughts」のコンセプトを語る

時間と空間に縛られず、多様な意見を共有できる場をどう建築的に作るか。UCLAで建築・都市デザイン学科長を10年間務めた建築家・阿部仁史と、気鋭のヴィジュアルデザインスタジオWOWがタッグを組み、オカムラのショールームで公開された展示の意図をひも解く。

人と人とが出会い、そこから新たなアイデアが生まれるのに、「場」はどのような影響を与えているのだろうか。お互いの考えに触れ、交換するのに、どのような場が理想であると言えるのか。

主にデジタルテクノロジーの進展によって、そうした理想は日々刻々と変わっているはずである。例えば、あらゆる会社で毎日必ず行われているであろう会議のあり方ひとつとってみても、今日では必ずしもオフラインで会う必要はなくなってきている。

しかし一方では、新たなアイデアが生まれるのには、いまなお物理的に場を共有することが不可欠であるとする向きもあるだろう。

オカムラ・ガーデンコートショールームで開催中の企画展「Cloud of Thoughts」は、新しい「会議の場、議論の場」の創出をテーマとしている。その企画主旨を見ると、以下のような問題提起がなされている。

新しい状況、それに関する多様な考えに対して常に開かれ、多様な意見・提案が渦巻いているような場をいかに生み出すか。強引に結論に誘導せず、いろいろなアイデアがクラウドのように集まり、多様な価値観を有する人々が相互に刺激し合うcrowdとして参加するような場をいかに生み出すか。いわば、多様なものを多様なままに実践して創造に結び付けていくような会議・議論の場を、どう建築的につくり出すか。人と人との出会い、新たなアイデアの創出に、「建築」は何をもたらしてくれるのか。

企画者である建築家の阿部仁史と、ビジュアルデザインを担当したWOWの田崎佑樹に話を聞いた。

人と人が出会う「会議室」を建築的に再考する

──今回の展示のテーマは新しい「会議の場、議論の場」の創出だそうですが、このテーマで展示を行うことになった経緯を教えてください。

阿部 オカムラさんからは今回の展示を依頼されるにあたり、「普段から考えているけれど、通常の業務では扱えないテーマについて挑戦してみてほしい」というリクエストがありました。ぼくら建築家にとって、空間を綺麗に見せるというのは自分の手の内にあることですけれど、今回はそこから少し離れて、なるべく遠くに行ってみようという動機付けが最初にありました。

その中でじゃあ何をするのかと考えた時に、ぼくにはもともと、建築の未来、いや、そもそも建築は未来に役に立つのだろうかということを、一度いろんな人と話してみたいという思いがあって。それで、国内外で活躍している有名な建築家やクリエーターはもちろん、広く一般の人ともそうしたテーマで対話できたらいいなと思ったのです。

考えてみれば、オカムラさんが普段作っているオフィスの会議室というのは、まさに日々、人と人とが出会い、新しいアイデアが生まれる場所です。今回はそうやってひとつの場所に来た人だけじゃなくて、例えば海外にいる建築家のような、時間や場所を共有していない人も含めて、大きな会話ができる場所を作れたら面白いな、と。

もちろん、時間も場所も共有していない人との対話っていうのは、このインターネットの時代においては、メールやらなんやらで、わりとやられていることではあります。今回はそこにあえて「場所」というものをくっつけて、時間や場所を共有していない人も、あたかもその「場所」に一緒にいるように感じながら、プレゼンスを感じながら意見を交換するということがしたかったんです。

それをやるにはおそらく、建築家が扱うような物理空間だけではダメで。情報空間とのハイブリッドにならないといけない。それはぼくには全然できないことなので、むかしから何度かお仕事をご一緒させていただいていたWOWさんに、その部分をお願いしたというわけです。

──具体的にはどんな作品なのでしょうか?

阿部 まず、建築の未来に関する3つの質問を、交流のある世界中のクリエーターにぶつけ、37人から回答をもらいました。来場者は壁で区切られた三角形の空間の中に入ることで、そうしたいろいろな人の考えに触れることができるようになっています。どのような形で触れることができるのかについては、映像を作った田崎さん、説明してください。

田崎 アイデアといかに出会うかというのがポイントだと思うんですけど、今回は、主に建築家からの回答を人型の言葉の塊として表現しました。ぼくらはこれを「エイリアス」と呼んでいるのですが、このエイリアスはだいたい人と同じ大きさをしていて、歩いたり、座ったり、パソコンをのぞきこんだりと、実際の会議室で人がやりそうな動きをするようプログラミングされています。

阿部 言葉でできている人間が実際に空間の中を動いているのを見た時には、すごく感動しましたよ。やっぱり社会を感じるんですよね。あの人とあの人が集まって、対話をしているんだなっていう。同じ文字情報だったとしても、本なんかで読むのとは違う体験だなって。

──それは人型だから?

阿部 おそらく。この展示のタイトルは「Cloud of Thoughts」ですが、最初は仮想空間のcloudと、群衆という意味のcrowdをかけた言葉遊び程度のつもりだったんです。だけど、ああいう風に実際にできてくると、なんだか本当に群衆がいるように感じるんですよね。そして、そうやってプレゼンスが感じられると、やっぱり言葉がちょっと違う入り方をしてくるというか。

田崎 そうですね。このように人間の形をしたアイデアの塊と出会うと、本当に人間と対面しているような体験として受け止められるというのは、今回やってみて気付いた、ぼくにとっても新しい発見でしたね。

システムに入力された回答が読める状態で表示されたかと思えば、やがてその文章は人形に変形して画面の中で動き出す。

ひとつの空間の中で時間と場所がズレる体験を

田崎 ここでエイリアスが表現しているのは、建築の「未来」に関するアイデアなわけですが、同時にスクリーンのバックグラウンドには、「過去」に来場した人の記録映像が流れるようになっています。もちろん、実際に「現在」そこにいる自分というのもいるので、この空間には過去・現在・未来が同居していることになります。

なおかつ、スクリーンの反対側は一面、鏡張りになっているので、実と虚の空間もまた、入り混じっている。だから、過去・現在・未来という時間軸と、実と虚というのが、あの三角形の空間の中にグッと詰まっているというか、融け合っているんですよね。

阿部 そうそう。理想としては、あの空間の中で時間とか場所がズレちゃっている感じにしたいんだよね。以前にここに来た人だったり、ここに来ていないけど海外にいて回答してくれた人だったり。そういう人たちは本来、違う位相にいるんだけど、その関係がルーズになって、あの中でごちゃごちゃになっているっていう。

──その狙いはどこにあるんですか?

阿部 実際に自分のいる空間と、鏡の中の空間と、それをカメラで撮って映し出した空間と、さらにエイリアスが動き回る空間とが融け合うことで、時間とか場所っていうものを区切っている壁が曖昧になるじゃないですか。

WOWさんがエイリアスの微妙なパースや角度を調整することで、そこにいない人も現実に近いプレゼンスをつくり出そうとしてくれているのと同時に、建築家であるぼくは環境として、デジタルでできているプレゼンスと、実際にそこにいる人のプレゼンスとの差が、なるべく甘くなるようにしていったんです。そうすることで、両者がすごく近いレベルで感じられるんじゃないかって。

──そうやって、そこにいない人をも、プレゼンスを感じさせるような形で巻き込むことは、いまの時代に即してアップデートされた新しい会議の形だと?

阿部 まあこれはコンセプトなので、このまま実用性があるかと言えばそうではないでしょうが。でも、新たな考えを生み出すためのコミュニケーションの場という意味では、これもひとつの会議室と言えるんじゃないかな。あの部屋の中にいて、映るものをぼーっとでも見ていたら、やっぱり何か考えが生まれる気はしますから。

田崎 来場者の方がそこから何かしらのインスピレーションを受けて、自分なりに考えた意見をiPadに書き込んでもらえたら、それがまたデータベースに書き込まれて、新たなエイリアスとして現れるようにもなっています。だからそうやって自分の考えを残していけば、今度は次に来た人が、その加わったぶん、もしかしたらまた違うことを考えるかもしれない。

阿部 この空間に現れるエイリアスは、初期状態でも37人×3問で、111種類あるんです。なおかつそこに来場者の分も加わっていく。単純に考えても、ひとつのテーマについてこれだけ多くの意見に包括的に触れられること自体、他にはないんじゃないでしょうか。しかも、どのエイリアスがどの順番で現れるかは毎回違うので、人によって違う体験にもなっているんです。

さらに、そこではいろいろな人の考えに触れられるというだけじゃなくて、「わたし」自身が4つに分かれることにもなるんですよね。実際にそこにいる自分と、エイリアスと、それぞれが鏡に映っているものの4つです。そうすると、自分という存在の序列さえも曖昧になってくる。曖昧だからこそ、そこに他の人の意見が現れた時に、そのまま受け入れられるところもあると思うんです。......って言ったらちょっと理屈っぽすぎるかな?

いずれにしても、この体験は、デバイスを使わないといけないVRとも違うし、異なる位相が互いに重なりあっているという意味ではARとも違う。人の考えとの、新しい出会い方の提示にはなっているんじゃないかという気がしています。

オカムラのショールームで、8月10日(木)まで公開中。詳細はこちら

人をひとつの場所に留める建築を超えて

──あらためてお聞きしますが、いま建築の未来について語り合う必要があるというのは、例えばテクノロジーの進展によってオフィスに行かずとも仕事ができるようになったとか、そういう社会環境の変化を受けて、このままではダメだという危機意識があるということですか?

阿部 そうです。建築っていうのは元々は場所のことであって、しかも、社会の規範なり成り立ちなりをコントロールするような役割を担っていました。例えば古代ギリシャにはアゴラというものがあって、それがあることで、人々が議論するようになった。あるいは、「この場所に行くとなんだか息苦しい」と感じるのは、そこを訪れる多様な人たちに対して、空間の方が一様に「ここではこうしなさい」と振る舞いを規定する装置として働いているからでしょう。

でも、そこにさまざまな他のテクノロジーが入って来たことにより、例えば必ずしも会社に来なくても仕事ができるようになった。この時点で、会社というものを体現する体としての建築は意味をなさなくなるわけで、建築の重要性がひとつ減ったわけですよね。

いまでは建築に代わって、そうしたテクノロジーが社会を規定することが、どんどん増えてきているように思います。例えば校舎というものは、これまでであれば「学校らしく」ありさえすればよかったけれど、Airbnbのようなサービスが出てきて、同じ建物だけどそれこそ3時間ごとに使い方が変わるということになると、そうした「らしさ」にも可動性が求められることになりますよね。

そういうことを果たして建築は担保できるのか。「この場である」ことを外された時、建築はどうやって「らしさ」を提供できるのかというのは、大きな課題であるように思うんです。

Q1. 建築はあなたの未来にとって重要ですか?/Q2. 今日の"建築"をあなたはどう説明しますか?/Q3. テクノロジーは建築を変えるとあなたは思いますか? 来場者は展示の内部で他者の回答をみながら、自分の回答を入力していく。

──それを3つの質問という形で問いかけたのが、今回の展示というわけですね。

阿部 はい。実際に回答してくれた方の中にも、建築はもう何千年も前から固定した環境を扱うということをやってきたのだから、その領域を保持して、他とコラボすることはあっても建築そのものを再定義することはなく、これまでやってきたことを突き詰めれば良いという人もいる。一方ではそうではなく、いろいろな可能性があるのではないかと考える人たちもいます。

──おふたりは後者の立場ということですよね。

阿部 そうですね。これからの建築は、物理的空間だけをやっているのではダメで、建築の職能を再定義しなければ立ち行かなくなっていると思うんです。だから学生にも普段から、「みんなは建築の図面を引くだけの職人になるのではなくて、建築という空間を扱う知の枠組みを扱わなければならない」と言っています。

これまでの建築が人をひとつの場所に留めておこうとするものだったとすると、人がいろいろと動くようになって、それとは逆の方向の力が働いている。その中でもそういう人たちが場所を共有することができないか、というのが今回の試みでもあります。ある程度は成功していると思いつつ、まだ先があるような気もしているんですが。

展示の内部では巨大スクリーンが来場者を待ち受ける。事前に集められた37名の回答に、これまでの来場者の回答も加わり、その場の記録映像とともに投影されている。

場の固有性を外すことで新たな固有性が生まれる

──デジタルな力でつながるメリットがある一方で、物理的な場所があるからこそ生まれる固有性も、やはり大事だとお考えなのでしょうか。

阿部 もちろんそれもあると思いますよ。むかしから建築がやってきたように、その場所で取れた材料を使ってやることにこだわっている人はいます。実際に今回のアンケートで、未来においてもそれは変わらないと答えている人もいます。

──これは場、あるいは建築に限った話ではないと思うのですが、多くの人が場所や空間を超えてつながっていったときに、どんどん均質化していって、そこの場所や人の固有性が失われてしまう、ということはないですか?

阿部 全てがつながることにより、それまで固有性と言っていた概念は確かに失われることがあるかもしれません。でも一方では、新しい固有性が生まれるのではないかとも思っているんですよ。

どこにでも行けるようになり、どこでもフラットに情報が手に入ることによって、場所が均質になってしまったという考え方は確かにあるし、それはそうなんだけれども。そのことによって逆にその場に行くことで得られる体験の重要さは増していることもあるでしょう。あるいは、つながっていくことによって生まれる何か、いままでとは違うレベルでの固有な何かというのもある気がしていて。結果、体験としてはさらに多様になっていく。これはわたし自身がそう思いたいことでもあるかもしれないけれど。

ここでやっていることも、場の固有性を外すような試みなんです。ここに物理的にいるあなたと、ここにいない人を等価に扱い、その区分を曖昧にするようなことをしているわけだから。だけどそのことによって、それまで出会えなかった人の考えとも出会い、それまでとはちょっと違う意味での固有性をつくろうとしているんだと思うんです。

田崎 ぼくはいまサンフランシスコでも活動し始めているのですが、この前、「ポケモンGO」を作ったナイアンティックに遊びにいってきたんです。その時に聞いたのは、ポケモンGOの前にリリースしていた「Ingress」でプレイヤーがみんな外へ出たっていうのが、ものすごく新鮮な体験だったそうなんです。それで「外で体を動かすのっていいよね!」とみんな言うようになったそうです。揺り戻しって必ずあるんですよね。

建築にしても同じで、テックとかデジタルとかってものに危機感を覚えているけれど、そこにも揺り戻しはあって、以前のように揺らがない固有のものを作るという方もやっぱりいらっしゃるでしょうし。まあそういういろいろな人の考えというのが、まさにこの展覧会にはあるわけで。だからまずは体感してみてほしいなって思いますね。

取材を終えたのは公開1時間前。このあと来場者が訪れる予定の時刻ギリギリまで、WOWのスタッフがシステムの最終調整を行っていた。