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人脈を活かすキーワードは「弱いつながり」と「メタ認知」──BNL Special Sessions 2017リポート

7月29日(土)、名刺アプリEightのインタビューメディア「BNL」の開設一周年を記念して、トークイベント「BNL Special Sessions 2017」が南青山で開催された。「ビジネスネットワークとイノベーション」をテーマに、特別ゲスト4名が語った内容をリポートする。

名刺アプリEightは、2017年8月よりビジネスネットワークを究めるインタビューメディア「BNL(Business Network Lab)」を運営している。開設1周年を記念して、さる7月29日にトークイベント「BNL Special Sessions 2017」を開催した。

過去にBNLでインタビューを行った4名、入山章栄(早稲田大学ビジネススクール)、濱松誠(One JAPAN)、島田由香(ユニリーバ・ジャパン)、川上全龍(妙心寺春光院)を特別ゲストに迎え、「ビジネスネットワークとイノベーション」をテーマに4つのトークセッションを行った。

聞き手は、BNLの最初の記事に登場したBusiness Insider Japan編集長の浜田敬子(当時は朝日新聞社 総合プロデュース室プロデューサー)と、BNL編集長の丸山裕貴が交互に務めた。今回はその模様をダイジェストでお届けする。

「学者なので断言するのはあまり健全ではないのですが」と前置きをしたうえで入山は、「つながりの重要性というのは、科学的にもうほぼわかってしまっているんです」と語った。

「弱いつながり」が有益な情報を生む

トップバッターを務めたのは早稲田大学ビジネススクール准教授の入山章栄。世界の経営学の"常識"を日本人にわかりやすく伝えてきた気鋭の経営学者は、そもそもこの時代になぜ、人のつながりが重要なのかを問い直すことから議論を始めた。

入山によれば、その理由はふたつある。

ひとつは、イノベーションは既存の知と知の新しい組み合わせから生まれることがわかっているが、社内や業界内という狭い範囲では、もはや手付かずの新しい組み合わせは存在しない。「だから組織外の多様な知に触れることのできるネットワークの重要性が増している」ということ。

もうひとつは、「ロート製薬による副業の解禁や、ヤフーの週休3日制導入など、感度の高い経営者は社外とのネットワークの重要性をもう十分に理解していて、新しい動きを見せている」。その結果、既存の会社の枠組みは曖昧になってきており、ネットワーク自体がひとつの単位になりつつあるということだ。

ソーシャルネットワークに関する世界最先端の研究をもとに展開されたトークは、多くの観客の興味を惹きつけた。

では、つながりを実際にイノベーションに昇華できるような"生きた"ものにするには、何がポイントになるのか。

ここで入山が紹介するのが、社会学者マーク・グラノベッターが提唱する「弱い紐帯の強さ(The Strength of Weak Ties)」理論だ。イノベーションにつながるような多様な情報を得るためには、親友同士のような強いつながりよりも、むしろただの知り合い程度の弱いつながりの方が有効だという。

直感的には強いネットワークの方が良さそうにも思えるが、「スカスカのネットワークの方が情報の流れがスムーズであり、なおかつ簡単につくれるぶん、遠くまで伸びる。だから多様な経験をもった人と効率よくつながり、そこから効率よく情報を得ることができる」と入山は解説する。

さらに入山によれば、「ストラクチュアル・ホール(Structural Holes)」というネットワーク理論により、「2つのネットワークのハブの位置にいる人が、最も給料が高く、出世もしやすい」こともわかっている。なぜなら、どちらのネットワークから発信された情報も、反対側のネットワークに到達するには、必ずこの人を経由することになるからだ。

ハブの位置に立つためには、自ら組織や部署の境界を超えて、さまざまなネットワークに首を突っ込むことが求められる。この「境界を超える人」のことを経営学の世界では「バウンダリー・スパナー(Boundary Spanner)」と呼ぶ。それは、ネットワークをつなぐ懸け橋ともいえる。入山はそれを「チャラ男」と表現し、「イノベーションを起こしたければチャラ男であれ」と説く。

経営学者から理論を学んだ後は、民間企業の実践者が登場。合併後のパナソニックにおいて、「One Panasonic」という横のつながりをつくった濱松誠。いま彼は、自社の枠を超えて「One JAPAN」という組織をつくり、大企業の間の溝をも埋めようとしている。

大企業病も「弱いつながり」で解決へ

入山が、まさにつながりの懸け橋となっている人物として推すのが、One JAPAN 共同発起人の濱松誠である。2016年9月に発足したOne JAPAN は、45社の若手有志約600人が参加し、企業の枠を超えた協働の可能性を探るプラットフォームであり、それ自体が「弱いつながり」であると言っていい。

弱いつながりはどのようにしてつくればいいのか。言い換えればOne JAPAN はなぜこれほど多くの人を巻き込み、大きなうねりを起こすことができたのか。濱松が語った発足の経緯に、そのヒントがある。

パナソニックの社員である濱松は、One JAPAN 以前に、One Panasonic という若手有志の会を立ち上げ、社内の交流を促す活動を続けていた。部署ごとの縦割りで、時代に即して機敏に動くことができないという、自社の状態に危機感を覚えての行動だった。

しかし、これはパナソニックに限った問題ではなく、多くの大企業が共通して抱える"大企業病"とも呼ぶべきものだ。「そのことに危機感を抱き、同じような活動をしているグループは、他にも少なからずいた」と濱松は言う。

濱松が他と違ったのは、そうした多くの活動が水面下で行われていたのに対して、SNSを通じて、自分たちの活動を積極的に発信していたことだ。そうした発信を続けた結果、他企業の若手から「一緒に活動をしよう」と声をかけられたり、相談を受けたりする機会が増え、活動の輪が広がっていったのだという。

「自分たちの活動が大きくなっていったのには、スマホとSNSの力が大きかった」と濱松は言う。だが、One JAPAN の活動がここまで多くの人を巻き込むことができた理由は、もちろんそれだけではない。

One JAPANはどのようにして立ち上がったのか。これまであまり明かされていなかったストーリーを語ってくれた。

共同発起人のひとりであるNTTグループの有志ネットワーク「O-DEN」(おでん)を運営する山本将裕と濱松とは、One JAPAN 立ち上げ以前に、経産省の次世代イノベーター育成プログラム「始動 Next Innovator」で、同じ時間を過ごしていた。濱松のセッション中に思わず割って入り、マイクを求めた入山は、ここにもうひとつの重要なポイントがあると指摘する。

「知識や情報はオンラインでも伝わりますが、人はそれだけでは動かない。SNS全盛のこの時代にあっても、リアルで会うことで初めて伝わる志や熱量が、人を動かすのにいかに重要かということです。One JAPAN はそのための場になっている。そのことに価値があるのです」

当日は、BNLで過去に取材した方を含めて、100名以上のEightユーザーが集った。

利他的である秘訣は自分を知ること

入山によると、ネットワーク上で最も得をするハブの位置で、やってはいけないことがひとつだけあるという。それは自分だけが得をするようにわがままにふるまうことだ。「そうしたふるまいを続けていては、いずれネットワークからはじかれてしまう」からだ。

むしろ利他的にふるまう"giver"のもとに人は集まる。多様なつながりを手にし、自分がハブの位置に立つというのは、あくまでそうした利他的なふるまいの結果でしかない。

濱松がつながりの"懸け橋"の代表格であるとするならば、その濱松が、愛を持って人と人とをつなぐ "giver"として紹介するのが、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス取締役人事総務本部長の島田由香である。

ユニリーバの島田とBusiness Insiderの浜田。意外にも知り合ってまだ1年しか経っていないというふたりは、まるで旧友のような親密さでセッションを進めた。

「この人とこの人がつながったら、こんな世界になるんじゃないか、ということをいつも考えている」と話す島田の行動は、決して自分の利益を追求したものではない。その姿勢はあくまで利他的。まさに入山の言う"giver"だ。だが、そうやって人と人とをつなぐには、エネルギーも時間もかかる。なぜ島田は利他的であり続けることができるのか。

島田が強調するのは、まず自分自身が満たされた状態でなければ、人を継続的に助けることなどできないということだ。

「つながりたい、承認されたい、貢献したいというのが人間の3大ニーズなんです。だから、誰かの助けになりたいという思いは誰にでもあるはず。にもかかわらず、なかなか利他的にふるまえないというのは、ひとえに自分自身が満たされていないからではないでしょうか。自分が満たされていない人は、一時的には利他的にふるまえたとしても、それが報われないと、いつしか見返りを求めてしまう」

自分自身が満たされるには、「自分らしくあるとはどういうことなのか、どういう状態にあれば快適なのか、そこから外れた時にはどのように整えればいいのかを知ることから始めなければならない」と島田は言う。彼女自身、4年前に「NLP(神経言語プログラミング)」をやるようになってからは、より自分のことを見つめるようになったという。

「自分自身を知ることができるようになってからは、一切の無理がなくなりました。自分がしたいことをしているだけなのに、そのことが結果として利他的なふるまいとして表れているんです。だからうまくいくし、長続きもする」。そのことを指して島田は、「すべてが自然に流れるようになった」と表現する。

人のために何かを行うのはとてもエネルギーがいること。まずは自分が満たされていることが大事だと話した。

ユニリーバでは昨年4月に、働く場所・時間を社員が自由に選べる新しい人事制度「WAA(Work from Anywhere and Anytime)」を導入した。そのリソースやノウハウは無償で社外に開放している。利益団体である企業が利他的にふるまうというのは、個人がそうすること以上に難しいようにも思えるが、「これもごく自然なこと」だと島田は言う。

「仕事は3大ニーズを満たすための手段なのだから、それぞれがそれぞれの持っているものを自分らしく発揮しさえすればいいという発想で始めたのが、WAAという制度です。その結果、売上も利益も伸びているし、社員の70%がポジティブに受け止めているという結果も出ている。こんなにいいことならば、みんなでやれば社会全体がよくなるはず。ただそれだけのことなんです」

大企業だからできないということはないはずだ、と島田は言う。「できない理由はごまんとある。でも、できる理由も探せばそれと同じかそれ以上に見つかるはずです。だったらそっちに目を向けようということ」。企業の枠を超えたその姿勢は濱松と共通しているように映る。

各セッションの間では、参加者同士で感想をシェアする時間が設けられ、会場は熱気に包まれた。

「メタ認知」がつながりを価値に変える

豪華なセッションのトリを務めたのは、妙心寺春光院副住職の川上全龍だ。川上はメガネ型ウェアラブルデバイス「JINS MEME」のアプリ「ZEN」の監修や、マインドフルネス・アプリ「MYALO」の開発など、禅僧という職業のイメージをはるかに超えて、さまざまな仕事を手がけている。しかしその多くは「周りから勧められたことを面白がって取り組んだにすぎず、あまり自分から考えて何かをすることはしないようにしている」のだという。

「人間の情報処理能力は126ビット/秒とものすごく限られているから、本当に鍵穴のような小さなところしか見ることができない。人間はみな、そういうバイアスをもって物事の白黒や善悪を判断しているんです。だからまずはそのことを自覚して、一度立ち止まって、自分のものの見方を疑ってみることが重要だと思うんです」

一歩引いて見るということ、すなわち「メタ認知」をするのに、入山のいう弱いつながりが役立つのだと川上は言う。「強いつながりというのは似たような考え方をする人の集まりだからバイアスを強化するけれど、価値観や考え方を共有していない、弱いつながりにある人からの視点は、一度立ち止まる隙間を与えてくれる」からだ。

川上が「自分から考えて行動しない」というのは、まさにこの弱いつながりの力によって、自分がとらわれているバイアスを外そうとしているからに他ならない。「自分から始めてしまうと、無理をしすぎたり、変にこだわりすぎて意固地になってしまったりする。逆に他人の方が自分のことを客観的に見てくれているから、うまくいくということがあるような気がするんですよね」と川上は言う。

「この人とこれがやりたい!」って考えて人と会うと、どうしてもバイアスがかかってしまう。それより「おれこんなことやりたんだけど〜」って曖昧に広く伝えておくと、誰かが面白い人を紹介してくれて楽しいことができるという。

今回のイベントで頻繁に登場したキーワードのひとつに、この「メタ認知」という言葉がある。いま、メタ認知が重要だというのには、さまざまな理由があるようだ。

たとえば、世界中からトップエリートがこぞって川上のもとを訪れ、座禅を組むというのも、そのことによっていったん落ち着き、メタ認知しやすい状況をつくっているのだという。彼らは、そうやって自分のもっているバイアスを外すことが、イノベーションにつながるような新たな視座をもたらしてくれると考えているのだ。

予防医学研究者石川善樹(写真中央)も登壇。電車の中で発見したメタ認知について語り、会場を沸かせた。

さらに、入山によれば、経営学の最新の研究でも、メタ認知の重要性がわかっているという。イノベーションにつながるような新しい組み合わせを生むためには、なるべく価値観の違う2人がつながった方がいいはずである。だが、価値観が違うということは、それだけお互いのことを理解するのが難しく、つながりにくいということでもある。この「断絶」を乗り越えるのに、メタ認知が役に立つと入山は言う。

「断絶を乗り越えるのに必要になるのが類推思考です。一見したところでは違う問題のように見えるけれど、そこでいかに視座をあげて、本質的な共通点を見つけられるか。それができれば、つながりにくい2人をつなぎ、価値を生み出すことができるはずです」

全セッションのダイジェスト映像。懇親会の前には、参加者全員でEightを立ち上げて、昨年公開したプロモーション動画で描いた「オンライン名刺交換」機能を活用した。

今回のセッションで語られたことは、その多くが、BNLが過去に行ったインタビューでも触れられていることである。

だが、たとえそれがまったく新しい知識ではなかったとしても、4人の話を通して聞くことで、ビジネスネットワークとイノベーションの関係について、より立体的に見えてきたところがあるはずだ。

これもまた、既存の知と知が新しく組み合わさることで生まれた、新たな価値であると表現することもできるだろう。今回会場を訪れていた人からすると、まさにイノベーションの本質を垣間見た一日だったと言えるのかもしれない。

当日のアンケート結果(抜粋)

「イベントでの出会いが新しいビジネスにつながった」という嬉しいお知らせが、すでに数件ほど届いている。
「ネットワーク」や「人脈」といった言葉に対してネガティブな印象を抱く人もいるようだが、全てのセッションを通して回答者は全員ポジティブなイメージになっていた。
上から順に、手元にある紙の名刺を全部Eightに取り込もうと思った/「オンライン名刺交換」機能をもっと使おうと思った/もっとEightの「プロフィール」を充実しておこうと思った/「メッセージ」をもっと活用しようと思った/「フィード」をもっと日ごろから見に行って、投稿もしてみようと思った/まだ自分はEightのSNS機能まではうまく活用できる気がしない/他のSNSとうまく使い分けしようと思った/もう取り込んでます