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CAREER STORIES

自動車メーカーのライバルはファストフード店に!? 間近に迫るIoTの大波をアクセンチュア・丹羽雅彦が解説

もはや「Internet of Things」は実体のないバズワードではない。あらゆるものがネットワークにつながると、価値そのもののやりとりとマネタイズとが従来のスキームからズレて、さまざまなプレーヤーが参入できるようになる。モバイルサービス部門を統括する丹羽雅彦が、来るIoTの衝撃を語る。

かつてはITの専門用語だった「IoT」という言葉は、いまでは一般にも通じるものとして市民権を得た印象だ。けれども、世界中で500億のデバイスがつながるとされるIoT時代の到来が、一人ひとりの仕事にどのような影響を与えるのかということについては、まだ具体的にイメージできていない人も多いのではないか。

アクセンチュアデジタルでモビリティ部門を統括する丹羽雅彦は、顧客企業の最前線に立ち、来るべきIoT時代におけるビジネスのあり方について、いち早く模索を続けてきた。

1990年代には、インターネットをどうにかしてビジネスに活かせないかというレベルで議論が繰り広げられた時代が確かにあったが、いまやインターネットを使わずしてビジネスをすることの方が難しい。それと同様のことがIoTに関しても起こるだろうと丹羽は予言する。つまりIoTは、それくらいビジネスにとって当たり前の大前提になっていくということだ。

では、実際にその時が訪れたとして、わたしたちがいま携わっているビジネスはどのように姿を変えているのだろうか。また、その時に向けてわたしたちはいま、何に取り組まなければならないのか。

「モノ売りからコト売りへの移行」「マスカスタマイゼーション」といったキーワードで語られる製造業の再定義はもちろん、それ以外のあらゆる業種をも巻き込んだ、IoTによる産業の再編とでもいうべき事態が、いままさに始まろうとしている。

「モノ売りからコト売り」は、実はIoTの話

──本格的なIoT時代の到来は、製造業にどのような影響をもたらしますか?

あらゆるものがネットワークにつながる未来が訪れた時に、もたらされる影響にはおそらく、ふたつの方向性があるかと思います。

ひとつは、IoTというものを使って、いかに新しいビジネスをつくり、顧客への提供価値を高めるかという方向性です。IoT時代にはあらゆるものがネットワークにつながっていますから、メーカーと顧客との接点もより緊密になってきます。お客さまがどういうことを考えて、どういう動きをするのかというのが、いまよりも見えるようになります。天気だとか市況だとか世の中の動きというものも、すべてデータとして可視化されます。顧客体験を向上するために、そういったものを使っていかに能動的なアクションを起こすか、というのがひとつめの方向性です。結果として企業の売上向上につながります。

もうひとつは、企業内でいかに生産効率を高め、コストを下げられるか、という方向性。こちらにもIoTは活用できると思います。

──ひとつめの「新しいビジネス」について、もう少し具体的に教えてください。

メーカーの人が「モノ売りからコト売りに移行したい」「これからはサービスビジネスをしたい」と言っているのを聞いたことがありませんか? あれこそがまさにIoTの目指すところです。

基本的に、商品ビジネスよりもサービスビジネスの方が安定的に収益を上げることができますから、サービスビジネスに移行したいという声は以前からありました。しかし、メーカーにとってそれはとても難しいことだったのです。なぜ難しかったのかといえば、以前は商品を売った瞬間にお客さまとの接点が切れてしまっていたから。確かに「お客さまカード」のようなものはあったけれど、実際にあれを出してくれるお客さまはほとんどいませんからね。

いかに売るかの勝負ではなく、売ってからいかに継続的にサービスを提供できるかの勝負になる

ところがモノがネットワークにつながったIoTの世界になると、お客さまとずっとつながり続けることができるようになります。これまでのようにいかに売るかの勝負ではなく、むしろ売ってからいかに継続的にサービスを提供できるかの勝負になるのです。

なおかつIoTには、成果を測りやすいという点でもサービスビジネスに向いているところがあります。というのも、サービスビジネスというのは商品ビジネスとは違って、車や時計といったモノ自体に価値があるのではなく、それによってどんな成果が上がったかということに対価が支払われます。

ところが、この「成果を測る」というのがこれまでは非常に難しかったのです。例えば、あるプロジェクトで5億円の成果がでたといっても、それがその取り組みによる真水の効果なのか、それとも他に結構な費用をかけた施策の影響が大きいのかがわかりにくかった。

IoTの世界であれば、お客さまがその商品を何回使ったのかとか、それを使ってどんな新しいことを起こしたのかといったことがすべてリアルタイムでわかりますから、お客さまが何に価値を感じているのかという成果を測ることが容易になるのです。

いかにモノを売るかということだけ考えていた人たちが今後、よりサービス志向の考え方をしていく必要が出てくるというのは間違いないでしょうね。

マスカスタマイゼーションで、なおモノは売れる

──そこから逃れられるビジネスはもはやない、と言えそうですか?

いえ、そんなことはありません。嗜好品などの高い付加価値のあるモノについては、「製品を磨く」という世界が相変わらず残っていくと思います。わたしの場合であれば自然食が好きなので、そういうものに対しては相変わらずお金を使う、というように。

何が付加価値の高いモノなのかというのは受け取る人によってもちろん違うでしょう。ただ、実はここでも、IoTには使えるところがあるのです。

──と言いますと?

巷ではよく「モノが売れなくなってきた」と言われますが、そのことについて最近、わかってきたことがあります。

わたしはいま50歳なんですが、わたしたちの世代はモノを買うんですよ。そういう価値観で育ってきたから。でも17歳になるうちの娘の世代は買わないし、その中間にいる20代、30代もやっぱりモノは買わない。だから「サービス化していこう」という話になるのですが、彼ら彼女らがモノを買わないのは、単純にモノが気に入らないからではないか、と。

例えば最近、若い人の間でサバイバルゲームというのが流行っているらしいですが、あれをやっている人たちに聞くと、確かに「モノは買いません。まったく消費しません」と答える。でもその一方で、サバイバルゲーム用にはえらく高いモノを平気で買っている。それを使うとゲームに強くなるというような、カスタムメイドの商品を買っていたりするんですね。つまり、その人の嗜好にピタッと合った商品だったら、相変わらずちゃんと売れているんです。わたしたちの世代のように大量生産されたもので喜ぶ世代じゃないというだけなんです。

工業製品なのに、いかにカスタマイズできるか。キーワードはマスカスタマイゼーション。

これだけ価値観、嗜好が多様化してくると、モノを売るためには、その人のニーズにピタッと合ったモノが求められるのです。でも、1品1品を職人のように作っていてはビジネスにはなりません。工業製品ですが、いかに職人によるカスタマイズみたいなことができるかがポイントになります。そこで「マスカスタマイゼーション」がキーワードになってきます。

先ほど言ったように、IoTによってお客さまと常につながっていることで、そのニーズをいち早く知ることができます。一方で、それを受けて生産する工場側にもセンサーが張り巡らされていることで、生産ラインや在庫状況を目に見えて把握できます。そういう状態にあることで、お客さまからのニーズ情報がリアルタイムに工場に伝わって、その場で製造スケジュールを組み替えるなどして即座に対応するという、フレキシブルかつ一連の動きが可能になるわけです。

工場のIoTというと、冒頭に2つに分類したうちのコストダウンの文脈で、保守のタイミングを最適化するといった、いわゆる予知保全のような話がよくなされます。しかしそれだけではなくて、このようにマスカスタマイゼーションに対応することによって売り上げを伸ばすという生かし方も、一方にはあるように思います。

「移動産業」や「健康促進産業」が生まれる

IoT時代の面白いのは、あらゆるものがネットワークにつながると、価値そのもののやりとりとマネタイズとがズレるケースが増えるということです。

──どういうことでしょうか?

わかりやすいのが自動車の例です。自動車をネットワーク対応にして、自動運転でドライバーが安全に運転できるようになったとしましょう。この場合、自動車メーカーとしてはドライバーに対して価値を提供しているのですが、マネタイズは保険会社からするということがありえますね。IoT時代にはこのようにして、収益化は第三者からするというケースが増えてくると思います。言い方を変えるなら、エコシステム化により、さまざまなプレーヤーが新たに参入する余地が生まれるということです。

いまの自動車の例で言えば、本当に自動運転技術によって安全に運転できるようになったとすると、もはや自動車を所有するという概念がなくなって、必要な時にだけタクシーのように呼び出せるものになるかもしれません。そうなれば、車自体はタダで乗れる代わりに、移動中に出る食事やコーヒーにお金を払う、というビジネスになる可能性もある。そこまで行けば、ライバルは既存の自動車メーカーというよりファストフード店の方が近いと言えるかもしれない。

サービスの提供側から受け手側へ、主語が変わっていく

このような変化が十分に進めば、従来の自動車産業とか小売とか医療とかいう分け方ではくくれなくなって、「移動産業」とか「健康促進産業」とか、そういう新しい概念で再編成されることになります。こうして言葉を並べてみるとわかるように、これまではサービスの提供者の側が主語だったのが、次第にサービスの受け手側が主語になっていくというのが時代の流れのように感じます。

──すでにそうした事例が出始めていますか?

福岡銀行さんとの取り組みは、その一例です。

金融は英語でFinanceと言いますが、頭についているFinは「最後」という意味です。いろいろなエクスペリエンスをした後、最後に行うのが決済だからFinanceというんです。わたしたちが福岡銀行さんと取り組んだのは、そのように最後で待つだけではなくて、もっと前線に打って出てお客さまに主体的にエクスペリエンスを提供していこうということです。

具体的には、福岡銀行さんの口座を持っている方に対してモバイルアプリでサービスを提供しているのですが、そこには旅行だとか教育だとか、いろいろな産業の方がパートナーとして入り、エコシステムを作っています。貯金をするのにもただなんとなく100万円貯金するのではなく、結婚資金にいくら、旅行にいくらと、目的をもって貯金してもらう。そのうえでちょうどいいタイミングで旅行の提案をするなど、お客さまが豊かな生活楽しむために福岡銀行ができることを考え、日々の生活にまで踏み込んでサービス提供しています。

毎日の生活の中に銀行が入り込むという意味で、わたしたちは「エブリデイ・バンク」と呼んでいるのですが、これはもう決済産業ではなくて、日常・非日常の生活体験をサポートする産業ですよね。これはモバイルアプリを使った例ですが、IoTに関しても同じことが言えるということです。

──そういう時代に、アクセンチュアだから提供できる価値はありますか?

わたしたちの強みは、コンサルタント、ディレクター、デザイナー、アーキテクト、エンジニアという、サービスを形にするために必要なすべての職種を自前で抱えていることです。だからこそ、お客さまのもつ大小さまざまなアイデアをサービスとして世に出すまでの、全行程をサポートできます。

より具体的に言うならば、ここアクセンチュア・デジタル・ハブ(取材をした場所)では、お客さまと一緒にサービスデザインのワークショップを行っているのですが、それができるのはサービス設計ができるようなディレクターと、UXをデザインできるデザイナー、それに各業界の問題を熟知しているコンサルタントが揃っているからです。

そのあとに続く実証実験のフェーズでは、すぐにプロトタイプを作れるエンジニアと、ビジネス・システム両面でスケーラビリティのあるアーキテクチャを考えられるアーキテクトがいることが必要になります。まだまだ人員は足りていませんが、そのすべてが揃っているのは、われわれの大きな強みだと言えるでしょう。

──来るべきIoT時代を見据えると、そこで働く人には、どんな素養が求められますか?

これはどの職種についても言えることですが、大事なのは経験やスキルよりも、新しい技術だったり世界だったりを面白がって、そこに躊躇なく飛び込めることだと思いますね。ここまでいろいろと偉そうなことを語ってきましたが、実際にはうまくいかないことも多いですし、やってみなければわからないことの多い世界でもあります。そういうことも含めて楽しめるかどうかというのが、いちばん大事なことなのではないかと感じています。

IoTは大量消費のオルタナティブになりうるか

──ここまでお話いただいたような世界が実際に訪れるのは、何年後くらいとイメージされていますか?

わたし自身、本当は5年後くらいと思っていたのですが、コンピューター将棋のBonanzaや、GoogleのAlpha碁の最近の急速な進化をみて、もう1、2年後にはくるのではないかという気がしてきました。これはBonanzaの開発者の方が語っていたことですが、人間は「前年度比何パーセント」といった1次関数的な変化は理解できるけれども、指数関数的な変化は理解できないのです。IoTも、データ量が指数関数的に伸びていますし、ユーザーやセンサーの数は倍々で増えているので、大抵の人にとっては「気づいたらなっていた」という感じで、IoT時代に突入していくのだと思います。だからこそ、いまやらずしていつ、というところがありますよね。

──一人ひとりのビジネスパーソンがそれまでにできることがあるとすれば、それはどういったことでしょうか?

ビジネスパーソンというのは結局、自分の付加価値はなんなのかということに悩むのだと思うのですが、それを理解するのにわかりやすい助けとして、わたしたちはIoTの世界を5層から成るものとして定義しています。いちばん下の層から順に、データを生み出すセンサーの世界、データとデータをつなぐネットワークの世界、データを分析するアナリティクスの世界、それを使ってアプリケーションを提供するヴァーティカルの世界、そしてこれら全体を統括するインテグレーションの世界です。

大事なのは、自分はこのうちのどこに位置するプレーヤーで、どんな付加価値を提供するのかという視点をもつことではないでしょうか。よく「プラットフォームをつくれ」という人がいるけれど、実際にはみんながみんなプラットフォーマーになるのは不可能だし、なる必要もありません。フェイスブックは場を提供するプラットフォーマーだけれど、中の投稿はフェイスブックによるものではなく、総体として価値を生んでいるわけです。

同じように、「Amazon Echo」もIoT時代のひとつのプラットフォームと考えることができますが、それを使って新しいビジネスをつくるヴァーティカルのプレーヤーがいてもいいし、もしかしたらそうやって生まれたビジネスとビジネスをつないで、インテグレートする係も必要かもしれません。いまやすべてを自分一人でやろうとしてもできない時代なわけですから、エコシステムと言う以上、自分は何係なのかを把握することからすべては始まるのではないでしょうか。

──ありがとうございます。最後に、ビジネスということを超えて、IoT時代の社会や人々の価値観がどのようになっていくのか、あるいはどうなっていったらいいかということについて、お考えがあれば教えてください。

こうやってわたしがIoTの世界についていろいろと考える背景には、単にビジネスとしてだけではない思いもあります。

日々働いていて、やっぱり社会がもたなくなってきているというのをすごく感じるんですよね。地球が45億年かけてつくってきた資源を、この100年足らずで一気に使ってしまっていいのかと、子供世代、孫世代のことを考えると、ものすごく不安に駆られることがあります。

生きる上ではある程度の無駄って、確かに必要だと思うのですが、世の中には無駄に無駄なこともありますよね。ネットワークにしても、端と端をダイレクトにつなげばいい話を、途中でたくさんのものが介在するから、モノが無駄に溢れたり、さまざまな人の思惑が入り込んで価格が高騰したりする。そうではないかたちで、サステイナブルに世の中がつながっていくためにはどうすればいいのかというのを、真面目に考えています。

IoTが進化することで端と端がダイレクトにつながって、例えば地産地消のような形で距離の無駄がなくなるとか、さっきも言ったように、お客さまのニーズをいち早く把握して、必要なぶんだけ必要とされるものを生産するとか、そういう無駄を減らしていく効果って、きっとあると思うんですよ。少なくとも日用品とか消費材みたいなものに関してはどんどんそうなって欲しいですし、そのことに貢献できたらいいなと思って、日々この仕事に取り組んでいます。